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レクイエスカット・イン・パーチェ


 懸命なチャールズの訴えは住民の武装を解除させ、次第に人々の心を動かした。しかし、正確に言えばアイリがサクラとして仕込んでいた人間に初めに武装解除に動くよう仕向け、周囲の人間が動き出しやすいように謀っていた。

 そして、チャールズの慈善活動はその後も献身的に続けられ、各地域で講演会や演説を積極的に開き、武装解除や和平を訴えかけていった。当然、その講演会や演説の中にもサクラを忍び込ませ、初めに動く様仕向けていた。

 一人の人間が動かなければ動くことの出来ない人間は多い。逆を言えば、誰か一人でも動いたなら、それに釣られて動く可能性があるのだ。それも、自分の意思表示とは真逆であっても。

 チャールズの努力の甲斐もあってか、サクラに貸出した武器を除き、北アイルランド内での不法所持された武器10パーセント程を無償で回収を引き受けた。

 僅か、10パーセントとは言え、和平へ向けたプロセスとしては十分過ぎる収穫であった。回収した武器は第三者の立会いの元破棄された――と言う体裁が取られ、アイリへ全て引き渡された。

 それは、どこか皮肉めいていていたのかもしれない。

 ここまでが、チャールズに話した作戦の全てだ。しかし、それが作戦の全てでは無かった。

 騒動から一週間後の金曜日。


「本当に良いのか、お嬢?」

「ええ、構わないわ。それとも、怖気付いた?」


 アイリは、カルロと二人でとあるビルの屋上へと来ていた。


「馬鹿言うな。こっちは、歳の数より多く人を殺してきてんだ。与えられた仕事である以上、それはきっちり熟す。俺が言いたいのは、そう言うことじゃなくて――」

「大丈夫よ、大丈夫……」


 真摯な表情のアイリに、カルロはそうかいと一言だけ呟き、狙撃の準備を始めた。アイリの計画した作戦の最後――チャールズには告げなかった最後の作戦とは、チャールズ・クーウェルの暗殺だ。


 人を殺すのに、銃弾は一発あればことは足りた。


 音に反応した鳩が一斉に飛び立ち、視界を覆う様に奪った後、そこには射殺されたチャールズが倒れていた。アイリのいる所からは、そこがどれだけの騒ぎになっているのか聞こえては来ない。

 しかし、集まる人々を見ればどれだけの騒動になっているのか、それを理解出来た。


「善人は早死するなんて言うが、ただ悪人が長生きなだけなんだろうな」

「全くその通りね。いつだって、馬鹿を見るのは正直者よ」


 人だかりの出来る市街から空へと視線を移し、どこか物憂い気な表情を浮かべていた。


 そして、翌週。

 チャールズの追悼式が行われた。その際、プロテスタント系とカトリック系のどちらで追悼式を開くのか議論になることが予想された。そこで、どちらの宗派でも訪れることが出来るよう宗教の対立を象徴するアイリ達によって破壊された平和の壁を隔てて行われた。

 この追悼式は、世界中で話題になることとなる。

 それは、これまで激しい抗争を繰り広げて来たと言う歴史や、平和に向けて活動をしてきたチャールズの死。そして、最も世界的に注目を集めたのはイギリス国女王の弔問であった。

 女王陛下の訪問は、IRAの元指導者で元北アイルランド副首相と和解の握手を交わした時以来で、実にそれは数年ぶりの訪問であった。

 崩壊した平和の壁を前に女王が言い放った、これが真の平和の壁とならんことを――という、その言葉が世界中で新聞や雑誌、ニュースの見出しとなり、アイリがヤンに撮影させた写真と共に報道されたのだった。


 アイリが描いた計画の全貌とは、幼い子供が宗教対立の被害に遭わせ、それを憐れむ大人達を地元での指示の高いチャールズを利用し説得させ、隠し持つ武器を回収。

 そして、より一層支持の高まったチャールズを暗殺し、それを和平に反対する組織によるものだと思わせることで、大切な人間を失った、和平を確固たるものにする――そう言った思いを人々の心に残し、その様子を世界へと発信すること、それこそが目的だった。

 唯一、アイリの計算を超えた出来事と言えば、イギリス国女王が北アイルランドの一介の下院議員のために、弔問へと訪れたことであった。結果的に、その誤算が国民だけでなく、世界中の心を動かしアイリの作戦をより強固たるものへと変えていた。


「結局、利口を見るのが嘘吐者なのよね」


 アイリは、少し離れた所から追悼の様子を見ながら、呟くようにそう言った。


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