ディマンド・グラッティテュード
その晩。
ホテルに一度戻ったアイリ達一向は、テーブルの上に携帯電話を置き、同じ部屋の中で各々の時間を寛いでいた。
と言うのも、アイリにはチャールズが電話を掛けて来る自信があった。トイレでの一連のやりとりからチャールズがどう言った人物なのかの大凡を長年の経験から読んでいた。こういった温厚な人物は、最低でも折り返しの電話を必ずすると。
「そろそろかね」
「分かるの?」
ニナは、首を傾げ問い掛ける。
「そりゃ、勿論。いくよ、3、2、1、0」
ニナは、携帯電話が鳴るものだと思い、テーブルの上へと視線をやる。しかし、当然と言うべきかアイリの思い通りに携帯電話が鳴るはずも無かった。
「あちゃ、外れたか」
アイリは、シシシシッと笑みを見せる。その笑みに、ニナはからかわれただけだと知り、ムッとした表情を見せた。
「でも、アイリが電話が来ると言っているのは強ち嘘じゃないと思いますよ」
リタは、ニナへそう言葉を投げ掛けた。
「どうして?」
「それは――」
リタが言い掛けた言葉をシャルルは、リタよりも少しばかし早く、まるで奪い取るかのように言う。
「それは、アイリだからよ」
「お、良いこと言った」
「ちょっと、それ私が言おうとしてたことですよ」
三人がそんなやりとりをしていると、それに割って入るかのように無機質な着信音が部屋の中へと響き渡った。
「来たわね」
すると、さっきまでふざけ合っていた様子から一転し、仕事をする眼に変わっていた。この切り替えの早さが一流の武器商人たるものなのかとニナは呆気に取られていた。
アイリはその電話を取り、唇の前に人差し指を立て、騒ぎ立てる者などいなかったが、静かにしろと合図した。
「はーい、チャールズさん。必ずお電話頂けると思っていましたよ」
アイリはワザとらしく明るく振る舞う。
「必ずか、心外だね。私がそんな悪人に見えたかい?」
「いいえ、むしろその逆。市民からの指示は中々なものだそうですね」
「なるほど、私の身辺調査はもう済んでいると。それもそうか。あなた達は、私を狙って来たのだろう?」
「そう言うこと」
その言葉を聞き、チャールズは一つ溜め息を付く。
「なら分かるだろう。私は、悪事には向かない。だから、君が言うように中途半端な地位から抜け出せない。だが、それでも汚らしい手を使ってでも上を目指そうなんて気はさらさらない。あんた達が何を目的に私に接触を謀って来たのかは知らないが、他所を当たってくれ」
一瞬、互いの時が止まり、そして――再び動き出す。
「シシシシッ」
「何が可笑しい」
「確かに、先程お会いした時に私達が扱っている商品は武器だと言いました。しかし、一言でも私の口から武器を売りたいとそう言いましたでしょうか?」
「何を言っている? 武器商人が武器の他、何を売ると言うんだ」
「恩、です」
「恩? 私に恩を売ると言うのか?」
「正確には、この国に恩を売りますが、その恩を受け取るのが結果的にチャールズさんになるので、そう解釈して頂いて構いませんよ」
アイリはワザと回り諄く、自分の口から聞かせようととしていた。この会話において自分が先手を取っており、チャールズが後手にいることを心理的に伝える為に。
「この国に恩を売るだと? まさか――」
「そう、私達がしようとしていることは――この国の遺恨を取り除くきっかけを作ること」
「馬鹿な。そんなことを昨日今日この国に訪れた様な一介の商人に出来るはずが無い。下手をすれば、より深いものになる」
チャールズは、激しく反対するが、それは当然のことだった。一歩間違えれば、ここ数年の間積み上げてきた和平への動向が全て無に返す危険の方が大きいのだ。
「当然、その可能性はある。けれど、成功したとしたらチャールズさんあなたは未来永劫語り継がれることになるでしょう」
「……余程の自信があるようだな」
「イエース。序でに、私達はこの国の武器を減らすことも可能であーる」
「本当にそんなことが、可能なのか?」
「では、これからその全貌を明かしましょう」
疑心暗鬼なチャールズにそう言うと、アイリは不敵な笑みを浮かべたのだった。




