バッド・デイ
アフリカ北東部に位置するジブチ共和国内の某ホテル。
「――いえいえ、こちらこそ。では、今後ともオルガ商会を御贔屓に宜しくお願いします。では、失礼します」
アイリ・オルガは、黒いスーツジャケットとタイトスカートに身を包み、商談を纏めていた。ホテルの一室と言えど、アイリは仕事をする上ではこの服装なのだ。そして、相手から電話が切れるのを確認し、受話器を戻した。
「シシシシッ。無事、シャルとノアの武器納品が終わりました。と言うわけで、今日の仕事はこれで終わり」
天に拳を付き上げ喜びを前面に出すアイリとは対照的に、隊員はどこか気乗りしないようであった。そんな様子を知ってか、遠くを見渡すように眉辺りに手を添え、隊員の顔を見て回った。
「どうした、どうした? いつもなら、馬鹿みたいに騒いで、酒でも飲みに行く癖に。ねえ、リタ?」
アイリは、部屋の隅でナイフを磨いていたリタへと話を振る。突然の問い掛けに、動揺するようにリタ・イルムガルトは答える。
「え、ええ。そうですね、アイリ」
「変なの」
アイリは仕事の終始、やたらと機嫌が良かった。そのことを一日中行動を共にしていた皆が分からないはずなど無かった。皆が気乗りしない原因は、まさにそれであった。
「なあ、ヤン。アイリがやたらとご機嫌な日って確か……」
小声で、フレイ・ヴェルマールは楊菲一へと聞く。
「そうですね。アイリさんがやたらとご機嫌な日は――」
煙草を吸いながら、二人の元に隊の古参であるカルロ・ジャン・バティスタがやって来て染み染みと言う。
「こりゃ、最悪な日になるな」
「違いない」
そう言い、三人は呆れる様に小さく笑っていた。先程からリタが入念にナイフを磨き終え、銃の整備に移ったのが何よりの証拠だ。カルロは、近くのイスに腰掛け、皆が敢えて聞かなかったことを陽気に聞く。カルロが皆より老巧であることに加え、イタリア人の独特な気質も陽気に聞ける一因なのだろう。
「で、やけに機嫌が良いのはどういう理由なんだ、お嬢?」
「わーお、カルロ。どうして分かったの?」
「何が、わーおだ。顔に書いてあるぜ」
シシシシッとアイリは屈託の無い笑顔を見せる。
「ちょっと、良い買い物をしたからね。もうそろそろ届いてもいい頃なんだけど――」
すると、電話が鳴る音が聞こえて来る。待ってましたと言わんばかりにその電話へと飛びつくが、その電話を受けるやアイリの表情は忽ち曇って行き、終いには受話器を乱暴に戻していた。
その場にいた隊員は、やっぱりなと言った様子でこれと言って驚く素振りを見せることもなく、恐らく出動することになることを想定して、各々準備に取り掛かっていた。
「ふっざけんじゃないわよッ! 海賊如きが私の荷物を奪おうなんて百年早いわ。その身に思い知らせてやる。総員、直ちに準備。目標は、アデン湾に出没した海賊。誰を敵に回しているのか教えに行くわよ」




