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アイリッシュ・シチュー

 翌日。


 アイリは、カルロとフレイとノアを残し北アイルランドへと渡っていた。


「これからどうするんです?」

「そうだね。とりあえず、上から七、八番目くらいの権力者に会いに行こうか」


 リタの問いにアイリはそう答えた。


「なんでまたそんな権力があるか無いか微妙なところに? 私の権力で一番上と話させてあげても良いのよ?」

「いやいや、むしろそれが駄目。ある事実を知っておきながら、一番上の権力者の耳に届くまでのその時間が重要になるのだよ」

「ふーん。さっぱり分からないわね」

「それが作戦ってものよ」


 アイリとシャルルは、互いに笑い合っていた。


「ヤン、調べさせておいたものは?」

「はい、もちろん。チャールズ・クーウェル議員、年齢58歳、男性。行きつけのランチに予約を取っています。もちろん、そのランチへの予約も既に終えています」

「うむ、上出来だ。ヤンは、引き続き動向を追う。いいわね?」

「了解しましたが、皆さんはどうするんですか?」

「私達は、これから買い物に行くぞ」


 アイリは、高々と拳を突き上げる。


「買い物……ですか?」


 リタは、ぽかんと口を開けていた。


「これからランチに行くための服を買いに行くのよ」

「この格好じゃ駄目なの?」


 ニナは、聞く。


「そうよ、仮にも議員が行く店だから、あまり小汚い格好も出来ないのだよ。だけど、高すぎても駄目。だから、そこそこの使い捨てるような服を買いに行くの」

「御飯食べに行くためだけの服が必要なの?」

「そうよ、大人は見栄っ張りだからね」


 そう言い、ニナの頭をポンポンと摩った。


「と言っても、ランチの時間までのんびり選べるほど時間が在る訳じゃないからそのつもりで。では、皆の衆、行くぞ」


 一時間後。


 買い物から戻り、ホテルでランチを食べに行く用の服装へと衣を変える。アイリは、美しい白のドレスを。ニナは、ピンクの可愛らしいドレスを。リタは、落ち着きのある黒のドレスを。シャルルは、情熱的な紅のドレスを。各々の個性が服に現れている様であった。


 こうして、着替えを済ませ、チャールズ・クーウェル議員の行き着けるランチへと向かった。周囲からすればその姿は、中流階級の婦人たちのランチへ赴く姿そのものであった。


 店へ着くと、そこは如何にも高そうといった印象では無く、少し背伸びしたランチと言った印象を受けた。しかし、それでも普通の人がランチに掛ける金額と比べれば高いものがあった。


「いらっしゃいませ。ご予約はされていますでしょうか?」

「キャサリン・アシュフォードで予約してあると思うんだけど」

「少々お待ちください……ありました。では、御席の方へ案内させて頂きます」


 中へと歩を進めるとクーウェル議員はそこにいた。まだ着いたばかりのようで、食事が届けられていなかった。隣にいるのは恐らく、秘書だろう。つまり、この店へは二人で来店していると言うことだ。ヤンが予約したのは、視野に入れることの出来る席だったようで、これなら安心して様子を伺うことが出来た。


「取り敢えずは、ランチを堪能しましょう。ヤンが言うには、ここのアイリッシュ・シチューは最高らしいわよ。まあ、ヤンが直接食べたわけじゃないんだけどね」

「私もアイリと同じものを」

「じゃあ、私もそれにしようかな」

「じゃあ、私も」


 そう言い、結局皆同じものを四つテーブルに並べることになった。


「うん、確かに美味しいわね」


 美味しいと言いながら食べるアイリ達を他所に、見事に人参だけを綺麗に避けて食べるニナが目に入って来た。


「ニナ、好き嫌いしちゃ駄目よ。人参も食べないと、大きくなれないわよ」

「やだ」


 アイリは、フォークに人参を差しニナの口の近くまで持って行き、食べるよう促すが食べる気配が微塵も無く、アイリの手を振り払った拍子にそのフォークは、飛んで行く。チャールズ・クーウェル議員の服の上まで。


「すいません、すいません――うちの子が。こら、ニナ謝りなさい」


 アイリは、ニナの頭を無理矢理押さえつけるようにして謝らせた。


「いえいえ、私なら大丈夫です。服が少しばかりお腹を空かせていたのでしょう。ケイトリン、私はトイレで服を濯いでくるよ」


 クーウェル議員は、秘書のケイトリンにそう言い席を離れて行った。


「本当にすいませんでした」

「いえいえ、チャールズさんもああ言っているので大丈夫ですよ」


 アイリは、秘書のケイトリンにも謝罪をした。


「ニナもほらこんなに汚しちゃって私達も行くわよ」

「大丈夫ですか、キャシー? 私も行きますよ? じゃあ、鞄を持ってきてちょうだい」

「分かりました」


 そう言い、席を立ち、アイリとニナとリタは、男子トイレへと向かったのだった。



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