トレード・ショー
国際防衛装備展会場。
国際防衛装備展とは、2年に1度、ロンドンで開催される。イギリス政府の後援で、今年は50ヶ国から1500近い企業や団体が参加している。会場に並ばれるのは、当然その名の通りに扱っている商品も最新鋭兵器だ。
例えば、より多くの人間を的確に殺す事の出来る兵器や、UAVと呼ばれる無人航空機など、より多く、より的確に、より迅速に――言わば戦争の効率化とでも言うべきなのかもしれない。
「に、しても。こうも、知った顔ばっかだと新鮮味薄れるわ。まあ、前回から、2年しか経ってないからこんなもんか。どう、ニナ。初めての国防展は?」
「武器がいっぱい」
「まあ、そう言うところだからね」
アイリは色々と顔見せをして周ると言い、ニナを連れて来ていた。アイリとニナ以外は、会場前で一旦別行動を取ることにしていた。あまり会場内を大勢でぞろぞろと歩き回りたくない――と言うこともあるが、部下を大勢連れて歩く商人ほど、小物に見られてしまうと言うこともある。
ある程度名の知れているアイリからすれば、そんなことなど関係ないのだが、今更そのスタンスを崩すつもりなど毛頭なく、むしろ丸腰の私を打てるものなら打ってみろ、と言わずも溢れるその気迫に、周囲の商人に一目置かれていた。
ただ、それは何もアイリだけではなく、他とは違う腕の立つ商人たちもそうであった。優秀な部下を一人傍に置いておくだけで、良いのだ。言わば、その部下がその商人の右腕と何ら変わりないと言うことだからだ。
「さあ、これからちょっとだけニナにも仕事をして貰うからね」
「仕事?」
「そう。と言っても、ただの挨拶回りだから、お辞儀するだけで構わんよ」
ニナとそんなやりとりをしていると、アイリの目に飛び込んで来たのは、中国の武器商人林叡凱と、トルコの武器商人ハサド・ハザンだった。
「はーい。リン、ハサド」
「これは、誰かと思えば、ミス・アイリではありませんか」
リンと握手を交わし、続いてハサドとも握手を交わす。
「どうも、ミス……いや、マダム・アイリでしたかな?」
ハサドは言い掛けたところでそう言い直した。
「いえいえ、この子はうちの新入りです。以後お見知りおきを」
ニナは、小さくお辞儀をし挨拶と言う仕事を全うした。
「この組み合わせと言うことは、防空ミサイルシステムのことですかな?」
「いやはや、さすがミス・アイリ」
「正直、うちと中国とだけなら前向きに検討できた話だったんだけど、アメリカがこの話に絡んできたおかげで、中国との関係協定にもヒビを入れられかねないような状況ってわけだ」
知っている者は多くはいないかもしれないが、トルコと中国の間には、貿易体制および戦略的提携の強化に向け、通貨スワップ協定が締結された。一環として、中国人民銀行とトルコ中央銀行は、互いの通貨を融通し合い、貿易関係を強化すると言うのが目的である。
「と言うことは、北大西洋条約機構――か」
「まさに、その通り」
北大西洋条約機構とは、北大西洋条約に基づき、アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ、ヨーロッパ諸国によって結成された軍事同盟のことである。英語圏では、NATOと呼ばれている。
「それに加えて、防空ミサイルシステムを導入することで軍事機密情報が漏れる可能性を示唆されまして、もう少ししたらメディアでも発表されるでしょうけどね」
リンは、ハハハと力なく笑っていた。
「おっと、では我々はこれで失礼させて貰うよ」
「では」
そう言い残し、どこか他所他所しく、どこか慌ただしく、まるで何かから逃げ去るかのように場を後にして行った。カツン、カツンと響く革靴の音が近くなり、こちらに向かっているのを感じ始めた頃――ニナは、懐に忍ばせていた銃に静かに手を掛けていた。




