ステイト・パイレーツ
パリ発ロンドン行き旅客機内。
「さすがに、こうも乗り換えが多いと疲れるね、ニナ」
「ううん、初めてだから楽しい」
ニナは首を横に振り、そう言った。
「そう? なら良いけど」
アイリたちは、ジブチからアディスアベバ、ナイロビ、パリと乗り継ぎ、ロンドンへ向かう飛行機内にいた。隣に座るのは、いつもならリタなのだが、隣に座っていたのはニナだった。
「イギリスへは、何をしに行くの?」
ニナは、無邪気に聞く。
「イギリスで、最新鋭兵器展示会が行われるのだよ。そこで、最新兵器の視察を、ね。情報は武器だから、知っていて損はすることないしね。あと、他のバイヤーとの交流もね。まあ、どちらかと言えば、最新鋭兵器展示会よりも後者の方が持つ役割が大きいんだけど」
「どうして?」
「ニナには、難しくて分からないかもしれないけど、あくまで最新鋭兵器展示会と言うのは名目であって、言ってみればお茶会をする為のテーブルでしかないの。その席に座るのは、私たちなのだけど――って、やっぱりまだ分からないよね」
アイリは、シシシシッと笑いながら、リクライニングシートを下げる。突然下がって来たシートに、思い切り膝をぶつけ痛がる後部座席のフレイへ構うことなく。
まさか、椅子が下がるなんてことを予想もしていなかったニナは、手当たり次第にボタンを押し、リクライニングさせることに成功し小さく笑みを溢す一方、フレイの隣に座っていたヤンも肩身の狭い思いをすることとなった。
「と言っても、海賊に襲われるまですっかり忘れてたんだけどね」
「海賊?」
「イギリスは、海賊国家とも呼ばれる国だからね」
16世紀から17世紀の王室は、借金財政であった。そこで、エリザベス女王は三つの資金獲得方法を考えた。一つ目は、海賊に盗ませた略奪品を転売すること。二つ目は、黒人奴隷の密輸すること。三つ目は、東インド会社と言った貿易会社の設立と海外貿易であった。中でも、一つ目の海賊行為が最大の資金源となっている。
その当時、海賊を犯罪者としてではなく、英雄として扱われ、海賊行為そのものを正当化すると言う国家戦略をイギリスは取ってきたのである。中には、功績として叙勲を受ける者や、爵位を与えられる者もいた。それら故に、海賊国家と呼ばれるようになったのだ。
「悪い国……なの?」
「どうだろうね。そう言われると、良いとか悪いとかあまり考えたこと無かったなあ。その変わり、大人になると良い悪いじゃなくて、自分にとって都合が良いか悪いかで考えるようになるからね」
ニナが小さく首を傾げている様子を見て、分かっていないなと察したアイリは、シシシシッと笑みを浮かべた。ニナに理解が出来る程根の浅い話では無いからだ。
「そうだね、一番簡単にニナの質問を確かめる方法を教えよう」
アイリがニナにそう言うと、それに割って入るかのように機内アナウンスサインのポーンと言う効果音が鳴り、間も無く着陸態勢に入る旨のアナウンスが聞こえて来た。
そして、アイリはニナのリクライニングシートを戻すボタンを悪戯に押し、頭が思わずガクンとなるのを見て、それが可愛らしくもあり、可笑しくあり、小さく笑みを溢しながら自分のシートも戻し、言う。
「それは、自分の目で見ることよ」
「自分の目で?」
「そう。百聞は一見にしかずって言うでしょ。価値観を決めるのは、他人じゃなくて、自分なのだよ。だから、自分にとって良い国か、悪い国か――自分の目で見て、聞いて、感じて、最終的にそれを判断するのは自分自身と言うことだよ」
少しばかし、小難しそうな顔をするニナに、アイリは髪の毛をくしゃくしゃと両手で掻き上げ、子供にも伝わるような簡単な言葉をと頭の中を駆け巡り、閃いたところで手を止めた。
「つまり、ニナにとってイギリスが楽しいかどうか――と言うことだ」
そう言い、くしゃくしゃな頭で、シシシシッと笑みを見せた。ニナにとって一番分かり易い説明だったのか、深く頷いた。そして、再び鳴る機内アナウンスは、ロンドンに到着の合図だった。




