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その5(最終回)

 長い一日がようやく過ぎ、夜八時になった。

 夜八時、当然の事ながらあたりは真っ暗になっていた。もう、“皆既日食”はあり得ない。

 おれは安心して外へ出た・・・。


 突然、あたりが真昼のように明るくなった。

 おれは思わず空を見上げた。


 そこには“満月”があった・・・。

 月は、今、地球の裏側の空にあるはずで、この空にあるはずがない・・・。

 おれは大慌てで車に掛け込み(“満月”のおかげで足元が明るく、金曜の夜ように車止めにつまずく事はなかった)、発進させた。


 道には止まっている車で溢れていた。皆、運転を忘れ、空を見上げているのだ。

 おれはそんな事は構わず、止まっている車の間をすり抜け自宅に向かった・・・。


 あたりを見回すと、朝の“皆既日食”の時と同じように“満月”の明かりは、おれの車の移動と共に移動しているのが分かった。どういう仕組かは分からないが、“満月”はおれの車から半径一キロの範囲だけを照らしている・・・。


 ようやくおれは全てを思い出した。

 おれは金曜の日中太陽を見上げ、「誰か、おれがいるところをずうっと“皆既日食”にしてくれ!」

と呟いた。

 そしてその夜には、「誰か、おれがいるところをずうっと“満月”で照らしてくれ!」と呟いた。

 そして、その時、誰かに聞かれたような気がした事を思い出した・・・。

 

 それは、恐らく人類とはかけ離れた科学文明を持った異星人だ。

 その異星人は、このおれを哀れに思い(?)地球上空に漂う宇宙ゴミで沢山の円盤を造り、日中は“皆既日食”、夜は“満月”をおれの周りに造り出したのだ。

 円盤は十八日の午前零時には日本上空にあったが、三連休中おれは一歩も外に出なかった。それで三連休は異常が起きなかっただけなのだ・・・。


 その異星人には悪気はないのだろうが、これではおれは昼も夜も外に出る事ができない。

 日本上空の円盤は、おれにとって“小さな親切、大きなお世話宇宙ゴミ円盤”だ。


 おれは水田の中を真っすぐに伸びた道路に車を止め、車を降り、“満月”に向かって叫んだ。

「おれが悪かった、もうこれからはどんな暑くても文句を言わない。どんなに暗くても、文句を言わない。

 だから、あのクソ忌々しい円盤を全部消してくれ!」


 五秒後、誰かがボソボソ言っているのが聞こえ(それは明らかに地球上の言葉ではなかった)“満月”は消え、辺りは真っ暗になった。


 翌朝、六時になるかならない時間におれは幾つものマスコミのインタビューの申し込みの電話を受けた。

 おれが水田のど真ん中で叫んだ途端“満月”が消えた事を複数の他人に見られ、車の番号をマスコミに電話されたのだ。

 また、“皆既日食”はおれが家を出た途端起き、車の移動と共に移動し、会社に入った途端終わった事を、あの女子社員が親切にも調べ、確認しマスコミに電話したのだ。

 二つの具体的情報が、いずれもおれに繋がったのだ。

 マスコミがおれにインタビューを申し込んできたのも当然だ。

 しかし、おれは“知らない!”を押し通した。


 結局、七月二十二日には本来の“皆既日食”しか起きなかった。


 おれはこれからどんなに暑くても、暗くても文句を言わないと改めて誓った・・・。


 それから、NDRによると地球上の円盤は(異星人はよほどおもしろくなかったのだろう)粉々に破壊され、地球上空は今まで以上に宇宙ゴミであふれていて今後の宇宙開発にも支障が出そうだという・・・。

 これは、おれの責任だろうか?


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