その4
おれは、その日は一日中会社内にいる事にした。
会社に入った途端、“皆既日食”が終わった事を知っているあの若い女子社員が、おれの事を窺っている視線を感じていた。
もし、おれが会社を出た途端、また“皆既日食”になったら彼女はもう黙っていないだろう!
その後がどうなるかは、おれには見当はつかないし想像もしたくない・・・。
そんな訳で、その日七月二十一日はおれは一日中内勤を通す事にした。
課長が“得意先回りはどうした?”と聞いたが(おれが会社の建物に入ってから二・三時間、謎の“皆既日食”状態はなくなり、皆はいつのまにか安心し、テレビは消されいつも通りの社内になっていた)、おれは“相手から今日は都合が悪いと電話があった”とか、何とか適当に言い訳をして誤魔化した。
課長は怪訝そうにおれを見つめたが、普段、まじめ(別段、営業成績が良い訳でもないが、まじめに仕事をしているので仕事先からはそれなりの評価をされている(と、おれ自身は思っている))なので、おれの適当な話を詮索せずに信じてくれた。
しかし、おれはあの女子社員の視線を感じ続けていた。
お昼のニュースでも、当然、D県R市と隣のJ市の一部で見られた“皆既日食”がトップ・ニュースになった。
そして、その中で気象庁の責任者が言っていたアメリカのNDRADから驚くべき発表があった。
NDR(テレビ画面でそれが“北アメリカ航空宇宙防衛司令部”の略であることが分かった)の報道官が言った。
「我々は常に宇宙監視ネットワークで、常に地球上空の耐用年数を過ぎ機能を停止したまたはされた、あるいは事故・故障により制御不能となった人工衛星から、衛星などの打上げに使われたロケット本体や、その一部の部品、多段ロケットの切り離しなどによって生じた破片、デブリ同士の衝突で生まれた微細デブリ、更には宇宙飛行士が落とした「手袋・工具・部品」などの状況を監視している。(「ウィキペディア」記載内容を改編)
ところが、日本時間七月十七日午後十一時頃、これらのいわゆる“宇宙ゴミ”が突然幾つかに集まり始めて、七月十八日午前零時頃には幾つもの円盤が造り出されたのを観測した。
我々は現在、日本上空×××キロ上空を周回する軌道上に、直径××キロの××個の円盤を確認している。
このため、日本上空には常に複数の円盤がある。
それらの円盤は造り出されたものの何の動きもなかったが、日本時間で今日の午前七時半頃、突然作動し始め、その影を日本のD県R市と隣のJ市の一部に落とし始めた・・・。
これらの円盤が誰によって、どのような方法で造りだされたかは不明である。
また、その目的も不明である。
我々が発表できることは以上である。
よって、これ以上答えられる事はなく、質問は一切受け付けない!」
おれは、その日は残業するほどの内勤業務もなかったが、太陽が空にある間は帰宅する訳にはいかない・・・。
それでは、無理して一日中内勤業務をした意味がなくなる・・・。
幸いな事に、おれを疑っている女子社員は午後五時半、勤務時間が過ぎるとあっという間に消えた。
それでも、おれは慎重をきして、太陽が完全の没して暗くなる七時半過ぎになって帰る事にした。
空に太陽が無ければ、もう“皆既日食”になる訳がなく、問題が発生する事はないと思ったのだ。
その日は珍しく七時四十五分には、我社(決して大きくない)の最後になった。
さらに、おれは慎重を期して八時過ぎに会社を出た。