その2
なんとか、おれは無事に自宅の車庫に車を止める事が出来た。
おれは車を降り、玄関に向かった。
新築の自宅の玄関先も、会社の駐車場と同じように真っ暗だった。
それで、玄関先の階段でまたしてもおれはしたたか転んだ。
駐車場ですりむいた所を、また打った・・・。
おれは真っ暗な夜空を見上げて、思わず呟いた。
「誰か、おれがいるところをずうっと“満月”で照らしてくれ!」
もちろん冗談で言ったのだが、誰かにまた聞かれたような気がした・・・。
でも、そんな事はすぐに忘れた。
翌日の土曜日から三連休だった。そして、三日とも天気が悪く、外にこれといった用事もなかったので毎日パソコンに向かってブログに記事を書いて過ごした。
七月ニ十一日火曜日、つまり“皆既日食”の前日、朝七時半、おれは出勤のため家を久しぶりに出た。
突然、あたりが夜のように真っ暗になった。
おれは思わず空を見上げた。
太陽が月(?)で隠されていた。
“皆既日食”?!
「“皆既日食”だ」と、隣の住人も生垣の向こうで言った。
「そんなはずはないわ!“皆既日食”は明日で、それに始まるのは九時半過ぎのはずよ!
それにこの辺は“皆既日食”にはならないわ!
変よ!」彼の妻が冷静かつ知的に言った。
彼女の言うとおりだ。何か変だ!
おれの女房も異常に気がついて、家を飛び出して来た。
何か変だが何時までも家にいる訳にもいかなかったので、おれは会社に向けて車を出した。
空には相変わらず“皆既日食”の太陽があった。
道は金曜の夜、水田にもう少しでダイブし損ねた場所に来た。
そして、おれは気づいた。
“皆既日食”はおれの周囲、半径一キロ程度で起きているだけで、おれの車の移動に伴って“皆既日食”も移動しているのだ!
でも、そんな馬鹿な!おれが、何をしたと言うのだ?おれに何が出来るというのだ?
何かの間違いだ!
しかし、“皆既日食”がおれの移動と共に動くというのは間違いではなかった!
おれが会社の建物に入ると、“皆既日食”は終わった。
この“皆既日食”現象はおれが家を出たとたん始まり、おれの移動と共に移動し、おれが建物の中に入った途端終わった。
この一日早い“皆既日食”現象は、おれが原因なのか!?