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2nd Memory

―コード認証をお願いします。

 仄暗く、どことなく埃っぽい空間。天井をコンクリートによって覆われたこの場には、一切の光が遮断される。時折バチバチと点滅する電灯が、この空間を照らす唯一の明かりとなっていた。

 そんな地下空間――どこかの施設の地下駐車場にて、二人の学生が立っている。彼らは関係者用エレベーター前に備え付けられた、電子パネルの操作を行っていた。

「霧島莉弓」

―霧島莉弓、認証。

 このエレベーターは関係者以外の人間に使わせないため、音声によるコード認証を実施している。最初に登録したコードをその当人が言う事によりロックが解除されるというもので、これによって登録していない者はこの扉を通過する事すら叶わない。

「黒井シュウ

 そしてこの二人の学生――莉弓と秋もまた、このエレベーターを使用できる関係者だった。 

―……該当コードがありません。もう一度お願いします。

「あぁ? チッ、あの野郎……黒井アキ

―黒井アキ、認証。

 ガコン、という音と共に扉のロックが解除される。

「ここのロック。私たち二人分のコードが必要な仕組みを変えた方が、効率良いと思うんだけど……」

 莉弓と秋は、必ず二人でこの場を訪れるように命じられている。それ故にかどうかは知らないが、二人がコード認証を行わなければロックは解除されないのだ。どちらか一方だけではダメという仕組みは、どう考えても効率的ではない。無駄に手間のかかる解除方法に、莉弓は毎回面倒に感じてしまっている。

 そんな莉弓の言葉に、秋は辟易したように溜息を吐く。

「俺はそれ以前に、コードをさっさと変えて欲しいんだが……」

「あはは……ずっとアキのままだね」

「どうせあの野郎の趣味だろうけどな……くそ」

 そうして二人は、地下空間よりも明るいエレベーターの中へと足を踏み出すのだった。





 しばらく地下へと降りる重力を感じていると、エレベーターの扉が開かれた。上階とは比べ物にならないほどに明るいその空間は、白で埋め尽くされていた。奥へと続く廊下や両側に等間隔で配置された扉すらも白く、シミ一つない。それほど強烈な光を放っていないはずなのに、眩しく思ってしまうのも仕方のない事だろう。

 そしてそこにいたのは、二人にとって見慣れた男。

「やぁ、莉弓にアキ。そろそろ時間じゃないかと思ってたよ」

 大仰に両手を横に広げて笑うその男は、やや大きめの白衣を身にまとっていた。背に広がる空間よりもやや灰色に変色したそれは、何故か無性にその男に合っているように思える。若干汚れている眼鏡やぼさぼさの髪型と相まって、汚らしい印象も与えてしまう。

シュウだって言ってんだろうが、ダメ科学者」

「こんにちは、財禅ざいぜん先生」

 彼の名は財禅宋一ざいぜんそういち。莉弓と秋の研究担当に当たっている科学者の一人で、この地下空間――ネクスト研究機関の責任者である。

「ダメ科学者とは酷いね、君たちの担当は私なんだ。そう邪険に扱わないでくれよ、アキ

 大抵のネクストには、専属の研究者が配属される。そうすることでより専門的な検査・研究を各々の方法で行う事が出来、より多角的にネクストの解明を実施できるのだ。そして彼ら――秋と莉弓の担当が、財禅宋一その人と言うわけだ。

 秋の名前を未だに間違えているのは、彼自身の性分にあるのだろうか。秋の盛大に吐かれた溜息が、それを物語っていた。

「さて、それじゃあそろそろ始めようか。ひとまずはいつも通り・・・・・の検査だ」

「いつも通り、ね……」

「そうあからさまに退屈そうな顔をしないでくれないかい? こちらとしても、他に効率の良い方法が見つからなくて八方塞がりなんだ。早くに改善できるように善処するから、今は我慢してくれ」

 辟易したような秋の表情に、財禅は苦笑する。

 ネクストが生まれてから幾年か経つが、彼らに有効な検査がどのようなものなのかは解明されていない。全くの未知と言う事もあり、何についてどのように調べればいいのか分からないという研究者がほとんどだ。そして何らかの数値が算出されたとしても、それが何を意味するのかを理解するまでに途方もない時間を要してしまう。財禅の言うように、世の研究者たちは現在、八方塞がりな状況なのだ。

 下手に新しい事をしてもいいものなのか分からず、同じような検査・研究を行うしかない現状に、秋だけでなく莉弓もまた退屈していた。

「ではすまないが、早速始めよう。検査室へ行こう」

「あぁ」

「はい」

 それでも、今はそれしか方法がない。退屈だけれど、協力する以上我慢するしかない。

 眩いほどに真っ白な廊下を、二人は財禅の後ろについて歩き出す。その表情はやはりと言うか、優れてはいなかった。





 時刻は夕方。いつも通りの検査や軽めの実験を終えて施設を後にすると、すでに日は傾き、西の地へ沈もうとしているところだった。オレンジ色に染められた空を、数羽のカラスが飛行する。

 そんな夕暮れの空の下、秋と莉弓は二人並んで帰路についていた。彼らは幼馴染と言う事もあり、家も近所に位置している。それ故に、こういった検査の後は二人一緒に帰るようにしているのだ。

「秋は、さ……」

「ん?」


「今、楽しい?」


 莉弓の唐突な問いに、秋の表情が陰る。

「もしそれが、今の生活っていう意味なら……Noだな」

「どうして?」

「……つまらないから、今の生活は」

 それは紛れもなく、秋の本心だった。何の変化も無い検査の毎日、だらだらと経過していく時間、あっても満足に行使できない能力。そして能力持ち(ネクスト)であるというのに、これと言った刺激の無い日々。そのすべてに苛立ち、そんな状態の毎日を過ごしている自分を滑稽に思う。

「そっか」

「莉弓は?」

「私も……同じ、かな」

 莉弓もまた秋と同じく、そう感じていた。

 特異な能力があるとは言っても、所詮は周囲の環境に左右されてしまう。今の世の中は、彼らのような『ネクスト』に優しくない。研究に関しても、能力のことしか念頭においておらず、能力を持つ人間は蔑ろになっている。財禅の行うそれはまだマシな方だろうが、それでも退屈さは拭えない。

 もう少し時が過ぎれば、少しくらいは改善されるのだろうか。彼らのようなネクストは、そんな淡い期待を持ったまま、つまらない今の生活を過ごすしかないのだろうか。


 悶々とした葛藤を胸に抱いたまま、今日と言う日は過ぎていく。

 そしてまた、つまらない明日へ。


お久しぶりになってしまいました、検体番号10032です。

前話から二週間ほど経過してしまいました、申し訳ありません。リアルでの忙しさと相まって少々遅れてしまいました。


今回の話までで事実上、主人公&ヒロイン(ついでに研究者)に関しての説明的な部分をお送りしました。詳細を下に記載しておきます。興味のある方は後ほどご覧ください。


次話から、若干の急展開となってしまうかもしれません。元々のプロットでそうなっていますので変更する可能性も多少ありますが、そうなった場合は温かい目で見守って下さると助かります。


引き続き、感想・ご意見は随時お待ちしておりますので、お時間などございましたらよろしくお願いします。

それではまた、次の話で。




氏名:黒井くろい しゅう

年齢:17歳

身長:173cm

体重:58kg

髪:黒色短め

能力:???

備考:周囲の人間からは下の名前をよく「あき」と間違えられる。本人はその呼び方が嫌い(女の子っぽいため)で、そう呼ばれると不機嫌になる。莉弓とは幼馴染み。



氏名:霧島きりしま 莉弓りく

年齢:17歳

身長:163cm

体重:●●kg

髪:明るい茶色の長髪で、首の後ろ辺りで纏めている

能力:???

備考:秋の幼馴染み。秋と同じく研究所にてネクストの検査・研究に協力している。



名前:財禅ざいぜん 宋一そういち

年齢:不明

身長:183cm

体重:54kg

髪:ボサボサ頭

能力:無し

備考:秋、莉弓の研究を担当しているネクスト研究機関の最高責任者。見た目の不潔さとは裏腹に、かなり優秀な研究者だとかそうでないとか……?

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