第3話 転校生
侍女からの突拍子のない真剣な言葉に、一同沈黙していた。
そんな中、少女はきつく口を結び深呼吸をし侍女と向き合った。
-----「国を捨てます。」
この言葉で全ての後ろ盾・地位・権利を失うことになっても、国・両親を裏切ることになってもこの心だけは私のものだ。
そう信じて私は国を捨てる。
-----「では、今すぐに支度をし夜が明ける前までにこの国を立ち去ってくださいませ。ここは私にお任せ下さい。さぁ、姫様。」
-----「露樹…。ごめんなさい。いつも私をかばってくれて…。」
-----「姫様に仕えられましたこと誇りに思います。どうかご無事に。」
-----「ありがとう。」
少女はすばやく身支度を済ませ、もう一人の従者である青年を連れて去ることにした。
これから何があろうとも後悔しないと覚悟を決めて・・・
3度目ともなれば慣れるものであり、この夢物語を楽しむことにした遥は目覚めが良かった。
例えただの夢物語でも、自分自身が主人公の少女に感情移入するせいで結構リアル感までも味わえるのだ。
昨日騒がれていた転校生は、遥と廊下で衝突した相手だった。
私服と制服とで多少印象が違ったが、話してみると彼だった。
さすがに怪我をさせた上に、君に会いたかったなどと歯の浮くようなことを言った人物を忘れたりはしていなかった。
「あなた名前は?」
呼ぶにも名前を知らないことに気づいた遥は彼に尋ねた。
「夕緋・T・クラウディー。」
「ハーフなのね。夕緋って名前も綺麗。私は椎名遥。はるかって書いてゆうって読むの。ねぇ、昨日変なこと言ってたよね?私に会いたかったってのも変だけど、鍵なんて首から下げたりして。」
「これは大切なものの鍵だから。失くさないようにしてるんだ。」
「大切なものって?」
遥は好奇心で尋ねた。
「内緒。」
彼は小さく笑うとそれきり会話も途絶えた。
「大切なものねぇ…。」
内緒、と言われるとよけい気になって仕方がない。
毎晩見るようになった夢物語でも大切なものって言ってたよね。
何なんだろう。
この疑問はこの日の夢で知ることになるとは、このときの遥はまだ知らなかった。
そして初めて知るだろう・・・・・