第2話 夢
結婚式を免れ、一時的な婚約式を披露した後の夜。
城の中は寝静まっていた。
ただ一部屋を除いては…
-----「姫様、ご自分がなさったこと分かってらっしゃいますか?両国にとって今回の騒ぎは、あってはならなかったことなのですよ。」
-----「わかっているわ。それでも、結婚するわけには…。」
姫と呼ばれた少女が少し歳をとった侍女に小言を言われている最中、突然ドアが開かれた。
-----「姫様!!お急ぎの伝言があります!今、わが国より使者が参りまして…姫様の待っておられる殿方が、……お亡くなりになられたそうです。」
-----「っ…う……そ…でしょ。」
-----「それは本当なのですか?」
顔面蒼白になってしまった少女に代わり侍女が再度確かめる。
-----「…はい。」
-----「だって…、だってまだ預かったままだわ!!あの御方が大切になさっていたもの、返してないもの。必ず返してもらいに来るって約束したものっ!!」
目からは涙が溢れ、必死で握る手を震わせながら少女は声を張り上げる。
信じたくないのだと全身で抗議していた。
-----「姫様。これで決心なされましょう。婚姻の式が進められます。あの御方のことはお忘れ下さい!」
-----「露樹っ。お願いよ。私は誰とも結婚しません。誰とも式を挙げるつもりはありません。
私はあの御方だけを…何年、何百年、何千年であろうと再び会えるまで待ち続けます。」
-----「姫様!!我侭が過ぎますよ!この式は姫様の一存で変えられる事ではございません。一国としての問題なのです。」
-----「どうしても願いが聞き入れてもらえないのなら、私は自害します。」
-----「姫様!?…そこまでする必要があるのですか?あの御方とはそれほどまでに親しい関係だとは思えません。ただの約束なのでしたら…。」
-----「いいえ。私は本当に心から好いていました。たとえあの御方が旅の剣士だとしても、たった一夜を共にした日、確かに私達の心は繋がったわ。あの御方は何よりも大切だというものを私に預けたの。…返さなくては。どんなに時が過ぎようとも、この世でなくとも。」
侍女の目に見えた少女は今までに見た我侭な姫などではなく、しっかりと自分の意思を貫く覚悟の出来た一国の姫に相応しい少女へと成長していた。そのきっかけに剣士との恋があるとしても。
侍女は深い溜め息をつくと真剣な眼差しで少女と相対した。
-----「国を捨てる覚悟はありますか。」
ここで、夢は終わった。
けれど遥の頬には涙の後が残っていた。
夢を見ながら泣いたの…?半ば信じられない気持ちだった。
しかも、昨夜見た夢の続きのようだったのが一番不思議に思った。
そう簡単に続きが見られるわけがない。誰でもそう思うだろう。
しかし夢の事を深く考えても仕方がない、と切り替え遥は登校した。
教室に入ると窓際の席に女子が群がっていた。
親友の渚に何あれ、と指さすと「転校生よ。」と呆れた様子で答えた。
「転校生!?それにしてもすごい人気なのね。」
「もぉ朝っぱら黄色い声が絶えないのよ。聞いてるだけで疲れたわ。」
「確かに。こんな時期に転校生なんて珍しい。あ!渚〜宿題見せて!!」
「またぁ?今度は昼ご飯ねっ。」
「うん。」
どこまでも心の広い親友に感謝しつつ遥は必死で写し始めた。
転校生からの視線に気づくことなく…。