第1話 出会い
ガバッ
夢…よね?でも、この感じは…?
「遥〜、いつまで寝てるの?」
「今起きたぁ。」
遥は制服に着替えると階段を駆け下りた。
「朝ご飯できてるわよ。お母さんは仕事に行っちゃうから後片付けはお願いね。」
「うん。いってらっしゃい。」
私の母は、朝早くから遅くまで仕事をしている。なぜなら父がいないのだ。
旅に出たのだと母は言うけれど、実際は出て行ったのだと知っている。
ふと時計に目をやると8時を指していた。
「いっけない!遅刻しちゃうっ!」
私は急いで家を出て猛ダッシュした。
教室にギリギリセーフで入ると親友の渚が話しかけてきた。
「おはよ、遥。今日、朝一で学年集会があるんだって。」
「え〜!1限目が始まる前に渚に数学の宿題移させてもらいたかったのにぃ。」
「遥ってばまた忘れたの?」
「ごめん。朝やるつもりだったんだけど寝坊しちゃって…。お願い!」
「じゃぁ、ジュース1本奢ってね。」
「もちろん!ありがと。」
「椎名ぁ、お前週番だぞ。手伝えっ。」
後方から日誌を片手に叫ぶ男子が一名。遥と週番らしい。
「うそっ!?じゃ渚、また後でね。」
渚と別れて男子に駆け寄る。
「日誌は取ってきたから。配布物の確認頼むな。」
わかった、と返事すると各クラス宛の配布物が入れられているトレーの確認に行く事にした。
小走りに廊下の角を曲がろうとしたとき、突然現われた人物とぶつかった。
ドンッッと派手にぶつかり遥は尻餅をつくはめになった。
「すみません…。」
「…いや。」
ぶつかった相手の男は、少しよれた帽子にTシャツにジーパン。
私服…??
思わず上から下まで観察してしまった。
すると腕から血が。
「あ、あのこの怪我っ。」
見ると男の腕が擦り剥けて血が出ていた。
「あぁ大丈夫。」
「でも…。じゃぁ何もしないのもあれなんでこのハンカチ使って下さい。」
遥は自分のハンカチを男の腕に巻くと、男の首下で何かが反射して光った。
「眩しいっ。」
「あ、ごめん。鍵が。」
「鍵…?」
「そう。とても大切なものの鍵なんだ。」
「大切な?」
「うん。」
「何の?…あ、待って!明日教えて。もう集会の時間だから。いい?」
「いいよ。」
「あなた転校生?何組?」
「違う、君に会いたかったんだ。」
え?
一瞬目線を逸らすと男は消えていた。
誰だったんだろう。
この時、男は“変なヒト”という印象のみを残して消えた。