2話 粗暴な女性冒険者×3名
さっき閉めたドアを再び開け、彼女らを中へと通す。
パーテーションで区切られた通路は、右へ行けばカウンター。
左へ行けば応接スペースへ行けるようにしてある。
ここは外からの日光が入ってくる唯一の場所で、テーブルや椅子の他に観葉植物が飾ってある。
今朝水をやったばかりの観葉植物は、大きな白い鉢の中で瑞々しい葉をつけている。
――いや、今朝あげたっけ。でも葉は萎れてないし。
まぁいいか。不満があれば、自分から水を飲みに行くだろう。
「どうぞお座りください」
「ん」
「チッ」
「……」
「お茶でもご用意しましょうか?」
「いいから。エドはどこだ。ここに隠れてんのか」
「まずは順を追って説明します。エド様は――」
彼女らに回りくどい説明をしても無駄のようだ。
直接的に、エドが追放されたがっている旨を伝える。
「なんだって!?」
「そ、そんなエド君が……」
大小の2人は少なからずショッキングだったのか、驚いたような顔をしている。
しかしリーダーのカレンは、涼しい顔で流している。
「事前にお調べした限りですと……前衛タンクであるマギ様。アタッカーのカレン様。探知や罠解除を専門としたレイカ様で役割分担されていますよね」
「そうだ」
「エド様は……筋力も体力も足りないという理由で、後方で荷物番。戦闘には参加させて貰えず、報酬も最低限だけだと……」
「活躍できねーんだ。しょうがねーだろ!」
「リーダーの幼馴染って言うから、置いといてあげてるのに……エド君め」
「幼馴染、ですか」
初耳の情報だ。
しかし旧知の仲であるなら、それは足抜けもし難いだろう。
「エド様はそんな待遇に限界を感じ……同じようなレベルの人たちのパーティーへ加入したいと申してます」
「……エドと話をさせろ」
ほら来た。
こういった話を出すと、必ず依頼者と直接話をさせろと言ってくるのだ。
しかし実際にあるのは話し合いではない。
恐喝や恫喝、暴行まで発展する、実に分かりやすい行動を取るパーティーが多い。
彼を探して暴れ回った彼女らの素行を見る限り、直接的な接触は厳禁だ。
「それは、出来かねます」
「……おいお前。アタイらが大人しく話を聞いてやりゃ、ちょっと調子に乗ってるんじゃないのか?」
「リーダー。どうやらコイツ、痛い目に合わないと分からないらしいぜ」
「やりすぎるなよ」
短気すぎる。こりゃエドも相当やられてたんだろうな。
しかしどうしたものか。ここで暴れられては、事務所の中が散らかってしまう。
だから外のカフェで話し合いしたかったのに……責任はすべて彼女らに吹っ掛けたかった。
「えーっと、もう少し平和的にいきましょうよ」
「すまねぇな。アタイらは、これが1番平和に片付くんでな!」
大女が立ち上がり、そのハンマーを机に振り下ろす。
粉砕する木製テーブル――散らばる破片は、周囲のクロス壁や鉢植えまで巻き添えにして傷物に――あっ、やばい。
「こうなりたくなけりゃ、さっさとエドを出しな」
『――誰だぁ。ユーちゃんのお家を傷つけたのはぁ?』
「……なんだ?」
彼女らがキョロキョロと周囲を確認する。
その間にも、鉢植えから――頭に葉っぱを付けた少女が、土の中からノッソリと顔を出した。
さらに、その土から這い出てきた3本のツルが、触手のように彼女らへと巻き付いた。
「ぐえッ!?」
「な、なんだコイツ……」
「樹の精霊か! なんてもん飼ってやがるんだ!」
「人が気持ち良く寝てたらさぁ……殺してやるぞ、人間め」
この子も沸点低すぎだぁ。
「ぐええ……く、首が」
「ちょっ、そんなとこまさぐらないで……」
「クソが!」
「ねぇ、ユーちゃん。あとでお手入れしてあげるから、お姉さんたちを離してあげて?」
ギロっと私の方を睨む。
うぅ。この子、機嫌悪いと魔獣ですら絞め殺しちゃうんもんなぁ――
「……コイツら。なんか変な魔力を感じる」
「うん?」
ビリビリっと。
大小の2人の下半身のズボンが引き裂かれた。
宙に釣り上げられながら、パンツ一丁は――ここが往来でなくて良かったね、としか言えない。
「て、てめぇなんてことを!」
「ほら。ここに変なのある」
ユーちゃんが新たに出した触手が指し示す場所――腹の下。つまり下腹部。
そこには、魔力印が刻まれていた。
例えば、この印を腕に刻めば、腕力があがる。
足に刻めば、ジャンプ力などがあがる。
高額の依頼料がかかるが、専門ウィッチに頼めば自由に刻印することができる便利なタトゥーだ。
目的よって刻む理由が違うのだが――これはどう見ても。
「避妊の刻印ね」
「げっ」
「ひぇ」
2人が青ざめる。
カレンはというと――さっきまでの余裕はどこへやら。
ワナワナと震えている。
「お前ら、まさか……」
「ユーちゃん。あっちの人もお願い」
「へーい」
「おいこらっ! なにしやがる!」
軽い返事と共に、ユーちゃんはカレンのズボン――というか、ほぼ水着な鎧を取り払った。
彼女の下腹部には……なにもなかった。
「……もしかしてマギ様にレイカ様……エド様と寝られました?」
「ぎくっ」
「……うぅ」
もうその顔を見れば認めたも同然。
「やっぱりか! どういうことだお前ら!!」
獣のように吠えるカレン。
下半身丸出しで無ければカッコがついたんだろうけど。
「いやその……だって我慢できなかったし」
「あのカワイイ笑顔を前にねぇ……嫌がらなかったし……」
エドはカレンと幼馴染であった。
これをカレンへ報告していれば、逆に追放されていたのは彼女ら2人だろう。
そうなれば、戦力に劣る自分は、カレンの負担になってしまう。
エドは、自分が抜けることで、この事態を隠し通そうとしたのか――
まぁ、バレちゃったんだけど。
「ア、アタシがどれだ我慢してったか……将来、一人前の冒険者になったらプロポーズしてくれるって言って……ぐすっ」
さっきまでの荒々しい態度はどこへやら。
今度はまるで少女のように泣き始めた――いや、泣きたくもなるよ。
「て、てめぇらなんか仲間でもなんでもねぇ! 追放してやる!」
「お待ちください」
このままでは、エドはもちろんカレンも幸せになれない。
そう思うと――自然に、声が出ていた。
「エド様が、何故自ら身を引こうとしたのか、分からないのですか」
「ひっく……なんでだ」
「明るみになれば、カレン様はきっと他2人を追放します。だけど、パーティーの絆を壊したくないエド様は……あえて自らを追放させようとしたのです」
「……でも、知っちゃったんだ。コイツらは、エドの純潔を汚しやがって……」
「エド様は、他のパーティーでイチから出直したいと言ってました。つまり冒険者として強くなり、いずれはカレン様をお迎えに行くつもりなのです」
たぶん。
知らんけど。
「たしかに元のように仲間として振舞うには、少々気まずいのもたしかです」
「どうしろってんだ」
「……これを持って行ってください」
ユーちゃんに頼んでカレンを降ろして貰う。
私は、エドの部屋の合鍵を彼女に手渡した。
「今のカレン様なら、きっと冷静にお話合いができると思います」
「アンタ……」
正直、今回はお金返金しないとなぁ。
追放代行なのに、直接話し合いとか1番ダメなやつである。
でもまぁ――この2人に必要なのは、もっとお互いを知る環境だ。
「なので、これもお持ちください」
さらに小さな紙製の箱を手渡す。
『001ミリ』と書いてある、アレである。
「これは?」
「エド様のゴチョゴチョにして――です」
「お、おう……いってくる」
耳まで真っ赤にしたカレンは、裏口から出て行った。
残り2人も降ろして貰い、予備のブランケットを貸し出す。
「アナタたちも。いくらエド様がカワイイからって、いたいけな少年を押し倒すとは何事ですか」
「いやぁ……でも言い訳も聞いてくれよ」
「アタシらも最初はそんなつもりじゃなかったんだけど……一緒に居ると、どうにも抑えきれなくて……」
「男っ気の無い稼業でも無いんだし、同じパーティーにいるからってそんな言い訳が――」
ふと、脳裏に掠める違和感。
しきりに帽子を気にしていたエド。
リーダーの幼馴染であることを知っていた彼女らが、自制できなくなるほどの性欲を湧かせた原因。
――専門のウィッチでもなければ、刻印は不可能。
しかも依頼には多額のお金が必要。
風俗嬢みたいな商売目的ならともかく、ただの冒険者が刻印するには贅沢な印だ。
これも現代日本における、年齢指定同人誌を読み漁っていた経験のおかげか。
頭の中で、1つの仮説が組みあがっていく。
「ねぇ、誰に刻印されたの?」
その質問に、大小の女性2人は顔を見合わせた。
「誰って……」
「エド君にだけど」
その瞬間。
私の仮説は的中したと同時に――
嫌な予感として、胸中に現れた。
「すぐにホテルへ行かないと!」




