表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いのない小説  作者: Fall44


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8章:核心

 廊下の先、灰色に塗られた補正区画の中心に、扉があった。

 金属製で厚く、何も書かれていない。

 光も音も吸い込むように消えて、ただ存在するだけの扉。

 レイは手を伸ばすと、冷たい金属の感触が指先に伝わった。


 胸が痛む。

 息が浅い。

 それでも、知りたい。

 この街の真実、そして自分の存在を。


 扉を押し開けると、空間が一変した。

 天井も壁もなく、霧のような白い闇が広がるだけだった。

 足元に何もなく、宙に浮かぶような感覚。

 風も音も、時間の感覚も失われた。


 視界の中に、かすかに人影が浮かぶ。

 だが、姿ははっきりせず、輪郭も色も、ただ光の揺らぎとして存在するだけだった。


 「……誰だ……」


 声にならない声が、頭の奥に直接響く。

 視線を向けると、影はゆっくりと近づく。

 しかし、近づいても距離感は変わらず、形も定まらない。


 理解しようとするたび、レイの記憶がざわついた。

 街で消えた人々、補正区画、認知の欠落――

 それらが一度に押し寄せ、頭の中で霧のように溶けていく。


 影は、言葉を発しなかった。

 ただ存在して、すべてを示すように漂っていた。

 理解すればするほど、希望は消え、胸の奥が凍りつく。


 そして、突然、レイの目の前に膨大な情報の断片が現れた。

 街の記録、消えた住民の名前、補正区画のログ、

 すべてが視覚的に脳内に押し込まれる。

 痛みと混乱で、頭が割れそうだった。


 「やめ……やめろ……!」


 声を上げても、世界は応答しない。

 全ての情報が、理不尽に、そして確実に、レイの意識に侵入してくる。


 その時、影がゆらりと形を変えた。

 白い霧の中で、人間の姿を模した輪郭が一瞬だけ見えた。

 レイは確信した。


 ――この街の“意図”の主体だ。


 主体は、無言でレイを見下ろしているようで、同時に全方位に存在しているようでもあった。

 理解した瞬間、胸の奥で何かが崩れる感覚が走った。


 ――俺は、この街に組み込まれていたのか。


 記憶、認知、存在そのもの――

 街は全てを掌握し、必要な分だけ残し、不要と判断すれば消していく。

 希望も、安息も、すべて操作される。


 レイの視界が白く閃く。

 影は形を失い、空間全体がゆらぎ、レイは宙に浮かぶ感覚に囚われた。

 身体の輪郭さえ、脳が認識できない。


 声が聞こえる。

 優しく、悲しく、残酷に。


「……すべてを知った者は、最後に消える……」


 その言葉が、空間全体に染み渡る。

 理解するほどに、希望は奪われ、存在は溶けていく。


 レイはそれでも立ち続けた。

 恐怖と絶望の中、手を伸ばす。

 全てを知る覚悟と、消える覚悟を胸に抱きながら。


 しかし、知ることは、救いではない。

 得られるのは、ただ残酷な真実だけ。


 胸の奥で、存在の粒子が溶けていく感覚。

 霧のような白い空間に、レイの意識が静かに溶けていく。


 街の核心――

 それは、知る者すらも溶かす、絶望そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ