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エピローグ:救いのない小説
街は静かに雨を降らせ続けていた。
どこにも人影はなく、灰色の舗道と建物だけが存在を主張している。
かつてレイが歩いた通りも、補正区画も、消えた記憶の余白で覆われたままだ。
だが、微かに揺れる霧の中に、わずかな点が見える。
それはかつてのレイの意識の残滓であり、同時に「零(0)」の気配でもあった。
理解することも触れることもできない存在が、街の中で静かに漂っている。
雨粒がガラスに当たる音。
唯一の“声”のように響く。
街は変わらず呼吸を続け、
消えた存在の痕跡を吸収する。
零とレイの残滓は交わることなく、しかし確かに共鳴している。
理解を超えたところで、存在は吸収され、意味は消える。
希望も救いも、全ては霧の中に溶け、残るのは静かな絶望と微かな余韻だけ。
――レイも、零も。
その差異すら、街の意図の前では意味を持たない。
そして最後に、街の奥で微かに、白い点が揺れた。
かつてのレイと零の存在が、空白の中で重なり合うように――。
これが、救いのない小説の終わりである。




