第一章:崩壊の夜
雨が降り続ける街。
かつての栄光は跡形もなく、廃墟と錆だけが残っていた。
この世界に、希望は存在しない。
正義も善意も、誰かを救う力も、すべて意味を失った。
そんな街で、一人の少年が生き延びていた。
名前はレイ。かつて文明の片鱗を知る家系の生き残り。
だが、彼の心は孤独に蝕まれ、明日への期待も、救いも、何も残っていなかった。
これは、救いのない物語。
希望を求めても、虚しく散るだけの世界。
この街に残るのは、雨と錆と、終わりのない孤独だけだった。
雨が、街をゆっくりと溶かしていた。
舗装の割れた道路に黒い水が広がり、街灯の明かりを歪めながら流れていく。その揺らぎの中に、自分の影が伸びたり縮んだりするたび、レイは胸の奥がざわつくのを抑えられなかった。
この街はもう死にかけている。
そう思うたび、呼吸が少しだけ浅くなる。
どこからか聞こえてくるのは、壊れた機械の軋むような音。
風に運ばれるのは鉄の匂いと、濁った湿気。
人影はない。夜道に残されたのは、雨とレイだけ。
それなのに――背後に、何かがまとわりつく気配だけが確かにある。
靴底が水を踏むたび、ちゃぷ、と濁った音がした。
一歩進むごとに、その音が街の静けさを破り、何かを呼び寄せてしまいそうで、レイは歯を食いしばりながら歩みを続けた。
逃げているわけではない。
だが、立ち止まることもできなかった。
――この街では、止まる者から消えていく。
噂なのか、警告なのか、確かめた者はいない。
ただ、日々誰かが姿を消し、翌朝にはその人がいた場所の空気だけがわずかに冷えている。それだけが事実だった。
「……はぁ」
吐き出した息は、雨に呑まれて消えた。
行くあてがあるわけでもない。
ただ“あの気配”から距離を取るために足を動かしているだけだ。
だが――。
ピタ、と。
背後で水を踏む小さな音がした。
レイの心臓が、ひとつ大きく脈打つ。
音は、すぐに消えた。
風のせいかもしれない。
水滴が落ちただけかもしれない。
それでも、首筋を冷たい指でなぞられるような不快さが残る。
「……来る」
雨音を吸い込むように、街が静まった。
風も止み、壊れた機械の軋みさえ消え、世界がレイの呼吸だけになった。
逃げろと言われても、どこに逃げればいいのか分からない。
この街のどこにも安息はなく、どこも等しく崩れかけているのだから。
レイは、にじむ街灯の下で足を止め、深く息を吸った。
何も見えない。
何も聞こえない。
それでも、確かに“何か”が近づいている。
雨はただ静かに降り続き、レイの肩に、髪に、服に、じわりと重さを刻んでいく。
その冷たい感覚だけが――
自分がまだ生きている証のようだった。




