小話 ナギニとノクス
リヒトがアズランと一緒に寝るようになってから、ノクスは彼のそばについて回るのをやめた。――というより、アズランに強制的に排除されている。
リヒトも特別な感情があるらしく、アズランの独占を止めようとはしない。
ノクスが生まれて初めて「自分の居場所」だと思えた場所は、あっけなくノクスのものではなくなってしまった。
小さな姿のまま、ノクスはハッチの陰からブリッジを眺めていた。
その丸い背中が、どこかひどく寂しげに見える。
それに気づいたナギニは、深いため息をひとつ吐いた。
ナギニにとってノクスは、ほとんど仇敵だ。
勝手に体内に棲みつき、彼を暴走させ、尊い命を奪わせた――その中には、大切な幼馴染もいる。
それでも。
あの背中を見せられてしまったら、話は別だ。
ナギニは決意を固め、ブリッジへ歩き出した。
引き返そうと思えばいつでも引き返せる。
「やめておけ」と心は叫んでいるのに、足だけは止まらなかった。
「おい」
声をかけると、ノクスが振り返った。
きょとん、とした顔には、ナギニへの敵意も警戒もない。
――子どもだ。
ナギニは、ひどく馬鹿らしくなった。
力を持て余して、寂しくて、暴走しただけのガキじゃないか。
「眠れないのか?」
隣にしゃがんで視線を合わせると、ノクスはぽつりとつぶやいた。
「リヒト、いつになったら俺と一緒に寝てくれるかな?」
(あの様子じゃ、当分ないな…)
ナギニは内心で肩をすくめた。
「じゃあ…お前、しばらく俺と一緒にいるか?」
「……いいのか?」
ノクスは目を丸くした。
その言葉の意味を飲み込むのに、少し時間がかかったようだ。
ナギニは小さな黒髪をぽんと撫で、短く答えた。
「いいよ」
その日を境に、ノクスはぴったりとナギニの後ろをついて回るようになった。
ただし、ナギニは影に入ることだけは断固拒否したため、アスリオン内では――
『完全に背後霊じゃん』
と、ちょっとした話題になった。
そして数日後、リヒトが呑気に笑顔で言った。
「お前ら、めっちゃ仲良くなったなぁ!」
その瞬間、
ナギニの胸にはほんのり殺意が芽生えた。




