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黎明の適合者 -Colors of Dawn-  作者: 雨野 天
第二部 第一章 

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31.黒の果て

白い実験室。

戸ヶ崎光一郎は、巨大な装置の前で狂気じみた笑いを浮かべていた。


(ノクス)……これこそ、神の力だ」


水槽のような装置の中心には、拘束されたナギニが横たわっている。

全身から黒い霧が吸い上げられ、光一郎の制御端末へと流れ込む。


「お前たちが抑えきれなかった“闇”を、私は手に入れる。

 新しい宇宙を作るのは、この俺だ!」


だが、装置が稼働を始めた瞬間、想定外のことが起こった。

黒の力が暴走し、空間が歪み、施設全体が重力に引きずり込まれていく。


「……成功だ。神は――俺を選んだ……!この暴走こそ“創世の胎動”だ……!」


その時、光一郎の首にトスと何かが刺さる。

彼の手が首の違和感を掴むと、それは小さな注射器のような形をしていた。

撃った犯人を見ようとしたが、彼の意識はそのまま暗転した。


「ホンマ、面倒なお人やなぁ…制御出来てへんのに、何が成功やねん」


イチゴは暗い部屋でひとりごちた。

光一郎の両足を引っ張って、冷凍カプセルに乱暴に乗せる。

彼の身体能力なら、優しく運ぶことも出来るのに、敢えてそれをしない。

ピピっと胸元の通信機が鳴る。


「はい。 今から戸ヶ崎はんを移送します。仰せの通り五体満足ですよって」


光一郎の乗った冷凍カプセルは母星から遠くの宇宙に発射され、

ゆっくりと黒い闇の中に飲まれていった。


イチゴはナギニの入った装置を見上げる。

ナギニの目が微かに開いた気がした。


「あのアホ、緊急停止ボタンまで壊しよって。ナギ、お前には悪いけど、僕にはどうにもでけへんわ」


操作盤を撫でるように見て、イチゴは笑った。

そのまま振り返らず、自らが乗ってきた小型艦に乗り込んだ。


小さな小型艦が宇宙に飛び立ったすぐ後に、施設の各所で爆破が起こる。しかし、稼働し始めた装置を止めることはかなわず、地上に“新たなブラックホール”が出現する。


***



アスリオンに非常警報が鳴り響いた。

「地上の時空に大規模な歪みを確認!重力波、臨界を超えます!」


瞬が指令室のスクリーンを見て息を呑む。

表示された座標は――旧アスリオンの跡地。


「……リヒト、お前……!」


瞬は指令台に身を乗り出す。解析班からの速報が次々と送られてくる。


「地上に重力崩壊の波が波及します!このままではアスリオンにも直撃!」


一瞬、全員が凍りつく。

だが真っ先に叫んだのは、瞬だった。


「アスリオン全艦に告ぐ――ただちに母星軌道を離脱する!総員、配置につけ!」


警報がさらに赤く点滅し、母艦は揺れ始めた。


***



それはまだ小指の爪より小さい、しかし深淵の種だった。

しかし、それの出現と共に、地表は崩れ、施設の残骸は空へと吸い上げられていた。

黒い歪みが空を裂き、あらゆるものを呑み込んでいく。


リヒトが降下した瞬間、重力が反転する。

足元が空へと引っ張られ、瓦礫が宙を舞う。


「ナギ!!どこだ!」


彼は黒い種の中心部……装置の核に繋がれていた

リヒトは黒い影を広げ、歪みの中へ突っ込む。

影が形を変え、空間の裂け目を縫うように進む。

青と黒の光が、まるで対のように交差した。




装置の中、ナギニがいた。

目を閉じ、力は奪われ、身体はほとんど透けかけている。

生きているのか死んでいるのか分からない。


リヒトが駆け寄り、震える声で呼びかけた。

「ナギ!……ナギ、聞こえるか!」


反応はなかった。

ただ、彼の胸の奥で、黒い気配が微かに動いた。


――ノクスだ。


「リヒト……遅かったな。」

「ノクス!ナギ、ナギは!!」

「まだかろうじて…生きている」


リヒトはホッと祈るように両手を合わせる。


「ごめん、遅くなって…」

「お前……ずっと、ナギを守ってくれてたのか?」

「お前が守れと言ったろう。それに…あいつは、(おれ)の適合者だ。」


リヒトは微笑んだ。

「ありがとな、ノクス。」


黒い光がふっと揺らぎ、ノクスの気配が少しだけ穏やかになった。


リヒトがナギニの腕を掴む。

その瞬間、装置全体が爆発的に膨張した。


「リヒト!空間が崩壊する!」

「分かってる――ノクス、ナギを頼む!!」


(ブランカ)の氷柱で無理やり二人を脱出させる。

力の供給源を失っても、始まった力の暴走は止まらない。

ブラックホールの小さな種は、見る間に黒い太陽のように肥大していく。

周りを飲み込み始めるのもあと少しだ。



(まずい…力が思ったより強い)


ぞく、と背筋が凍る。

これを止められなかったら、ナギは、ノクスは、どうなる。

それだけじゃない。

地上にいる両親たちは――母艦(アスリオン)は――

すべてが一瞬で消し飛ぶ。ナギも、地上も、アスリオンも――全部まとめて。


リヒトは力を放出する。

(ブランカ)(ロッソ)――共に黒に飲み込まれてしまう

(ヴェルディア)――少しだけ黒が動いた

(アズラン)――黒が嫌がるように青を避ける


緑と青を最大出力でブラックホールにぶつける。

腕の皮膚がビリビリと裂け、血が滲んだ。

明らかにキャパオーバーだった。それでもリヒトは力を放出し続けた。


ブラックホールの肥大化が少しだけ弱まったように見えた。


フッと息を吐く。

すると途端に、小さかった太陽がぐん、と質量を増す。


(やばい!!)


一回り小さくなったその黒い太陽はリヒトの力をはじき返した。

すると、縛りが解けた黒い太陽が、周りを巻き込み先ほどとは比べ物にならない速度で肥大化していく。


(そんな…!)


絶望がよぎる。

「やっと…やっと、助けたんだ……!」


喉が千切れそうなほど叫び、涙が重力に逆らって宙に散った。

リヒトは無意識に青の欠片を握りしめていた。


「……頼む。誰でもいい、力を貸してくれ」


その瞬間、掌が青い光で満ちた。


その時、リヒトのポケットに入っていた青の欠片が淡く光った。

長い間、眠っていたはずの色、**(アズラン)**が反応を始める。


『……まだ終わっていない。宇宙は闇の鎮静を求めている。』


声が、リヒトの中に響いた。

懐かしい、どこか母のような声音。


リヒトは立ち上がる。彼の気配を感じて、涙が零れた。

「アズ……!!」


宙に浮いた涙が青く光る欠片に吸い込まれる。

青い光は静かに旋回し、星の誕生のように収束した。

その中心で――小さなアズランが目を開けた。


「一緒に行くか?リヒト。」

「……ああ。最後まで、やり遂げる。」

問いかけられたリヒトは涙を浮かべながら、笑って答えた。


二人は、黒い太陽の周りをクルクルと回遊する。

(アズラン)の鎮静の力がその周りに軌跡を描く。

光より早く回ると、やがて黒い太陽が、青い光に包まれる。


青い光は少しずつ収束して、黒い太陽を包み込んだ。

小さくなる度、黒の力が抵抗する。

青の光から這い出した黒いモヤにアズランが丁寧に青の力を吹き込む。


――まるで神様が宇宙を造っているみたいだ。

リヒトはアズランを見ながらそう思った。


中心のブラックホールが青と黒の螺旋となり、ゆっくりと閉じていった。

歪みが消え、空が戻る。

静寂が訪れた。




空が赤い。

夕暮れの太陽ががれきを照らしていた。空には鳥が何事もなかったかのように飛んでいた。


風が吹いて、リヒトの髪を撫でた。

生きている――皆、生きている。


「リヒトっ!!」


後ろから、ナギニが駆け寄ってきた。

ノクスも微笑んでいる。そして、リヒトの隣に、プカプカと浮かぶアズラン。――もう青年ではなくなってしまったけれど、この幼子は確かに(アズラン)だった。



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