小話 裏切者の決意
「イチゴ、本当のことを言ってくれ。」
静かな取調室に、瞬の声が落ちた。
机の上の照明が二人を照らし、光と影の境界をくっきりと分けている。
その背後には、腕を組んだロウ。
その目は、まるで獣のように光っていた。
一歩でもイチゴが妙な動きを見せれば、即座に撃つ――そんな圧があった。
だが、イチゴはふっと口の端を上げた。
おどけるように肩をすくめる。
「……なぁに、その顔。取り調べっちゅうより、お通夜やん?」
「っ! 何がおかしいんだよっ!!」
ロウの声が弾けた。
瞬の眉がわずかに動く。
イチゴは笑みを引っ込めず、静かに言った。
「裏切ったんとちゃうよ。」
その一言で、室内の空気が変わった。
瞬の目が見開かれる。
気づいたのだ――“何か”に。
彼は勘のいい男だ。
そして、その優しさが、誰よりも重い鎖になる。
(……かわいそうになぁ。)
イチゴは思う。
この先、瞬は何度もこういう場面に出くわすのだ。
味方が敵になる。
信じてた奴が嘘をつく。
そのたびに、心のどこかを削り取られていく。
「……これ以上は、黙秘させてもらうで。」
そう言って、イチゴは目を閉じた。
言葉を交わせば、情が移る。
瞬の顔に、痛みの色が浮かぶ。
ロウは怒りを隠そうともせず、拳を握り締めていた。
(怒鳴るなや、ロウ。そんな顔されたら、ちょっと嬉しくなってまうやろ。)
拘束具がカチリと鳴った。
イチゴは鎖の擦れる音を聞きながら、ゆっくり笑う。
「……ま、友達ごっこも、悪ぅなかったわ。」
その笑みは、どこまでも軽く、
どこまでも遠かった。
照明の下、彼だけが妙に穏やかだった。
取調室の温度が一度下がったように感じたのは、誰のせいでもなかった。




