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黎明の適合者 -Colors of Dawn-  作者: 雨野 天
第二部 第一章 

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26.断罪の遺伝子(ジーン・リヴェンジ)

――宇宙に浮かぶ巨艦アスリオン

その光の群れを、軌道上の展望デッキから見下ろす影があった。


男は拳を握りしめ、震えていた。

その瞳は、今にも誰かを撃ち抜きそうなほど鋭く、冷たい怒りを湛えている。



――あの愚かな“異星交配実験”で、アスリオンは滅ぶはずだった。

そう仕組んだのは、この男自身だ。


だが結果は違った。

 アスリオンは生き残り、しかも政府が容易に手を出せない独立艦隊へと変貌した。


「アスリート風情が……俺の世界を壊すな」


低く呟いたその声は、氷のように冷たい。

彼は胸につけていた徽章を掴み、引きちぎった。

鈍い音を立てて床に落ちたそれには、こう刻まれていた。


――政府研究船リヴァイアサン総司令官。


かつて誇りと呼べた肩書き。

だが今は、忌まわしい過去の象徴でしかなかった。


バッジが転がる音が静寂の艦橋に響く。

その音が消えるのを待つように、男――**戸ヶ崎光一郎(トガサキ・コウイチロウ)**は目を閉じた。


「必ず……終わらせてやる。あの“光”ごと、すべてを」


 青い瞳に、狂気が灯る。


***


同じ頃、アスリオンの治療室が慌ただしくなっていた。

ワン・マオリン博士が意識を取り戻したとの報告が入り、艦内の空気がざわつく。

治療室の前で、カイハが手をかざして立ち止まった。

「いい? まだ全快じゃないわ。尋問は十五分。それ以上はダメ。」


「全員で押しかけても仕方ないわよね。私たち(ブランカ)はリヒトに一任するわ」

リミはそう言ってサネナリを連れて、治療室を後にする。

(ロッソ)のレオンもリヒトの肩を叩き、それに続く。


「ナギはどうする?」


少しでも人数を減らしたいカイハは鋭い視線を向けた。


「俺は隅っこでいいから、聞きたい」

彼は控えめに、しかし参加の意思をしっかりと告げた。

カイハは瞬、リヒト、ナギを見つめ、ゆっくりと治療室の扉を開ける。


中は治療室らしく、二重扉になっていた。

一つの扉が閉まると、殺菌用の消毒液が噴霧される。

その後、二つ目の扉が開いた。


カーテンの向こうに、ベッドがいくつか並んでいる。

その一つに人影が揺らめいた。


「マオリン、開けるわよ」

カイハが声を掛けると、「いいヨ」とマオリンの小さな声が聞こえた。

カーテンを開けると、少しやつれた様子のマオリンがベッドに腰を下ろしていた。

腕にはまだ包帯が巻かれ、酸素チューブが口元に添えられている。

だがその瞳だけは、相変わらずの輝きを宿していた。


「何が聞きたいカ?なんでも答えるヨ」

マオリンは落ち着いた様子で彼らを見渡した。


「話が早くて助かる。辛いだろうが、15分だけ我慢してもらいたい。」


瞬が前に進み出て、ベッドの隣の丸椅子に腰かける。


「まず、お前たちの指揮官は誰だ?指揮していた者、煽った者、出資者が居るだろう」

「コウイチロウ・トガサキ」


一瞬、場にしんと沈黙が落ちる。


「アスリオンの創設者の孫……?」

リヒトの声がかすれた。まるで喉の奥に冷たい金属を流し込まれたような感覚だった。

カイハはすぐに端末を開き、照合を始めた。


教育機関アスリオン――かつては地球で最も権威あるアスリート養成機関。

その創設者、戸ヶ崎廉二郎の孫が、いまやアスリオンの敵として名を上げる。


「そんな馬鹿な……」

「そのアスリオン創始者の孫、指揮官も出資者も彼ネ。アスリオンの提供ももちろん彼の案ヨ」


リヒトが息をのむ。

ナギニも目を見開いた。


「そんな……。自分の祖父の築いた場所を、壊すために?」

「そうヨ。壊すために、使ったノ」


 マオリンの声は静かだった。

 その口調の端に、どこか諦めのような響きがあった。


 瞬は額に手を当て、数秒だけ沈黙した後、低く呟いた。


「……黒幕は一人、ということか。ならば叩くのも早い」


 彼の瞳が、決意に変わる。

 マオリンはそんな彼を見て、ふっと笑った。


「アスリオンの指揮官、やっぱり怖いネ」




かつて地球には《アスリオン》という教育機関が存在した――。

創設者・戸ヶ崎廉二郎は、幼少期からの徹底的な身体教育によって、世界最高峰の選手を育て上げることを目指していた。


少年だった光一郎は、ただ一度だけ祖父に褒められたことがあった。

それは、“努力”ではなく、“血”を褒められた日だった。


孫の光一郎は幼い頃から遺伝子レベルで身体能力を改良され、あらゆる競技を叩き込まれた。だが結果は、すべて不合格。

初等部、中等部、高等部――どの試験にも落ち続けた。

父と祖父は失望し、彼を“不要な素材”として切り捨てた。その瞬間、光一郎の中で何かが壊れた。


雌伏の十一年。


彼は沈黙の中で動いた。遺伝子研究に携わり、政府の裏ルートを通じて《リヴァイアサン》の司令官となり、密かにアスリオンの計画に潜り込む。


そして――復讐の舞台が整った。


「俺を拒んだ世界を、俺の手で壊す」


彼の計画は完璧だった。

アスリオンを宇宙へと移行させ、その内部を異星生命体の実験場と化す。

先行居住を始めた、高等部の1年~3年の約1500人を実験体として差し出した。

父の理想を嘲笑い、祖父の夢を穢すために。


だが、邪魔が入った。


その名は――リヒト。


ドイツ語で “光”を意味する名を持つ少年。

光一郎の憎悪は、その瞬間、形を得た。


「殺してやる……」

「殺してやる、ころしてやる、コロシテヤル――!」


金属を打つような音が艦内に響き、光一郎の叫びが虚空に散った。

その瞳はもう、狂気そのものだった。



《青の欠片アズラン》を囮にしてリヒトをリヴァイアサンへ誘ったのも、

他でもない。戸ヶ崎光一郎――その人だった。


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