16.喪失
炎の匂いが、まだ空気に残っていた。
リヒトは腕の中のアズランの身体を見下ろしながら、静かに言った。
「ロッソ、アズも焼いて。外の奴らに利用されたくないんだ…」
青が赤の炎で焼かれる。
もう誰も言葉を発しなかった。
今回の戦闘で失われた命が、無言の墓標となった。
青の力が抜けたアズランの体は簡単に灰になった。
彼の星獣がコトコトと彼の周りをまわる。
星獣たちは、灰の周りをただ静かに回っていた。
まるで主の帰りをまだ信じているかのように。
光の尾がいくつも、冷たい空気に溶けていった。
緑が近づいて、リヒトに言った。
「青はまた生まれる。世界がその役割を必要としている限り」
「それは俺の知ってるアズじゃないよ…でも、ありがとう。」
リヒトは最後まで墓標の前に立っていた。
一人になると、星は寒々しく瞬いた。
「リヒト…」
「瞬」
リヒトは瞬から目を逸らす。
あの時、自分の覚悟の揺らぎを悟られたことが恥ずかしかった。
自分が躊躇ったせいで助からなかった命も少なくない。
「迷っているなら、なぜ俺に言わなかった?」
「だって、瞬、忙しいじゃん。」
「お前の愚痴くらい聞く時間はある」
「じゃあさ、今から言う弱音も聞く時間ある?」
「ある」
リヒトはその場でうずくまる。
「俺のせいだ。柚葉が死んだのもアズが消えたのも、今日死んだやつらも…」
「ばぁか」
どしん、と背中に瞬の重みがのしかかる。
「お前のせいな訳あるか」
「でも俺がもっと…!」
「それなら、今日の掃討作戦を決めた俺の責任だ。」
リヒトが驚いて振り向く。
「なんだ?軍隊なら普通のことだ。すべての指揮の責任は上が取る」
「お前…いつのまにそんな覚悟して」
リヒトは前を向いて頭を抱えた。
「ごめん、俺。お前に重責を…」
「俺は全部を救う気なんてない。届く範囲だけで精一杯だ。」
「お前は違うだろ。それでいい。」
ぽつりと瞬がつぶやいた。
「ごめん、明日には普通に戻るから…」
今日失くした分だけ泣かせて、というのは声にならなかった。
リヒトは頭を抱えたまま、何も言えなかった。
星の光が滲んで見えた。
そこへ毛布を抱えたリミがやってきた。
「アンタたち、またイチャコラして。ホモなの?」
「うるさい。何しに来た?」
「私たちのリーダーを慰めに来たのよ」
そう言うとリミはリヒトの上に毛布を落とす。
「わぷっ!」
「どうせ今日はずっとここに居るんでしょ。付き合うわ」
「あ、あんたは帰ってもいいのよ」
リミは瞬を見てにやりと笑った。
「誰が帰るか」
瞬は毛布を被ったリヒトの背にまた圧し掛かる。
リミもリヒトの隣を陣取って彼にくっついた。
二人分の重さを感じ、リヒトは毛布の中で涙を流した。




