小話1 女心ってわからない
リヒトは自室の浮かぶ孤高の宇宙生物を見上げた。
青い髪の青年は暇そうにクルクルと宙を舞っている。
「なあ、アズ。黒ってどんなヤツ?」
「俺たちはお互いを語らない。」
「前、緑と白のこと教えてくれただろ」
「…星獣についてはな。」
アズランは譲る気がないようだった。
「じゃあ、黒の星獣は?」
「アイツは星獣を持ってない」
「だーっ!もう!」
情報もなく、正体もつかめない相手と向き合わなければならない。
どうすればいいのか。白の記憶を辿っても、黒の情報は皆無だ。
赤は会った途端、喧嘩を吹っかけてくる。
せめて黄とコンタクトが取れたらなぁ、とリヒトはひとりごちる。
黄の力を受け取る気にはなれなかった。
理由は分からない。
ただ、自分はそれを受け取ってはいけない──そう直感していた。
まるでアリが巣を広げるとき、水脈を避けるように。
そこを侵してはならないと思ったのだ。
「なんでだろ」
リヒトは声に出す。
「何が?」
ソファからひょっこり顔を出したユノが答えた。
ユノはあれからすっかり安定していた。
リヒトの庇護から出た彼女は、本来の奔放さを取り戻している。
「いや、こっちのこと…」
「ふうん?私さ、白の不適合者の部屋に移ろうかな」
「え?なんで?」
「最近、みんなこの部屋に居ないから。それならあっちの部屋の方が楽しいし」
「ユノがそうしたいなら、俺は止めないよ」
「リヒトってさ、モテないよね」
「は?その話、今関係ある?」
思ってもいないことを言われ、大変心外だった。
「優しいだけの男に女はキョーミをそそられないのよ」
「べつに、好きな子に好かれれば、それでいいし…」
精一杯の強がりをリヒト言った。
「その子がモテない男がタイプだといいね」
なんてひどい言い方だ。
今日に限って、ユノは悪態をついてくる。
リヒトは逆にユノが心配になってきた。
「ユノ、どうかした?」
「っ…!そうやって、気もないくせに心配して!」
ユノはリヒトの腕をぐいと引く。
彼は懐に入れた者にはとことん優しい。
然したる抵抗もせず、ユノのしたいままにさせてしまう──
のが、悪かったと今では思う。今更だけど。
ちゅっ
「諦めてなんか、あげないんだからっ!」
そう吐き捨て、ユノは荷物を抱えて隣の部屋に行ってしまう。
「あーあ…中途半端なことするから」
リヒトは頬を押さえ、びくりとした。
「カイハっ!居たの!?」
ベッドからカイハが起き上がる。その隣に柚葉も眠っている。
アズランが空中で腹を抱えて笑っている。
リヒトは納得ができないまま、少しだけ先を見据えた。
——黒と直面する日が、もうすぐやって来るのだ。




