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黎明の適合者 -Colors of Dawn-  作者: 雨野 天
第一部 第三章

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10/30

10.統制と暴力

ソレイユの施設は、いまアスリオン内で最も安全な場所に見えた。

瞬は自らの下に秩序を築き、適合率の高い者が低い者を管理する構造で陣を固めていた。

見張りは交代制、出入りは厳格に管理され、ほころびのない軍隊のように動いている。

瞬の性格がそのまま組織化されたかのような統制だった。


だが、突如──短い爆音が幾度も鳴り、空間の一角が閃光を上げて爆ぜた。

空からの襲撃。想定外の方向からの攻撃だった。


顔を上げた瞬、空が裂けた。空を裂いて飛んでくる影が複数、そしてその中で赤い髪の体躯の良い男がひときわ目立った。

見た瞬間に悟る。既知の超越者がまた一人──ロッソだ。


「適合率30以下は居住区へ避難。40以上は俺についてこい。それ以外は要救助者の救護に当たれ!」


瞬の声が通る。訓練で磨かれた号令は、炎の戦場でもよく響いた。

黄の適合者たちは一瞬で秩序を取り戻し、指示通りに動き出す。もともと命令に慣れた者たちだ。的確な指示があれば、有事に強い。


だが、赤は空を舞う。空を飛ぶだけで地上の自分たちが不利になる。瞬は咄嗟に策を巡らせる。

彼は冷徹に部下を走らせ、誘い込みの態をとる。逃げて見せながら、ある地点へ誘導するのだ──屋上庭園を抜けた先、球体構造の白の巣へ。


炎を纏った石礫が舞い、戦場が焼け焦げていく。

「くっ…!」仲間を庇いながら走る者、指示通りに動く者。白の巣の入口で、獅子川理美が異変を察して外に飛び出した。長い髪が炎に炙られて落ちる。


「ここを戦場にする。逃げるなら今のうちに逃げろ」

瞬が短く説明すると、リミは戸惑いもせず、命令を飛ばした。


「サネナリ、皆を連れて避難して!」


サネナリと呼ばれた青年が戸惑いながらも動く。彼は白のNo.2だ。

「リミ、お前はどうする?」サネナリが短く確認する。

「私は戦う。炎相手は相性最悪だけど」とリミは言いながら笑う。

苛立ちを、わざと棘のある言葉に変えた


白の巣の混乱は最小限に留まっていた。黄の戦闘員たちは入口で秩序を維持し、中の避難を助ける。訓練の賜物だ。だが空の赤たちは依然として優勢に見える。


リミが指を鳴らす。白い氷が床を走る。炎の石礫がぶつかり、音もなく凍りついた。


「力が使えるのか…!?」瞬が驚く。

「逆に、あんたは何か使えないの?」


リミが瞬に悪態をつく。

巣が戦場にされている苛立ちを、遠慮なくぶつける。


「わからない。何も教えられてない!」


瞬は答える。彼は統率に重点を置き、力の行使は想定していなかった。身体能力が上がる程度だと思っていたのだ。失敗した、と血がにじむほどに拳を握り締め、歯を食いしばる。


「これだから優等生くんは!教えられてなきゃ、考えなさいよっ!」


リミの言葉が胸に刺さる。

炎の塊の一つが瞬の目前へ迫る。

しまった──その瞬間、横から強い力で吹き飛ばされる。


「あぶねっ」水の壁が炎を叩き割った。リヒトだ。


「リヒト、遅いよ!」

「わり…その代わり、ちゃっちゃと片づける」


彼はリミに謝り、すぐに動く。

水の流れは圧倒的だった。川のようにうねり、赤の適合者群を一気に押し流す。

リミの氷も連携し、流される者を次々と拘束していく。氷の輪が赤たちの足を絡め取り、熱を奪って関節を固める。


ほとんど戦闘不能になった(ロッソ)の適合者を見下ろし

空から、ロッソの声が冷たく響く。


「つまらん。お前ら、各自退却しろ」


彼は適合者を救わず、ただ場を翻してどこかへ飛び去っていった。


リヒトは氷を解除しながら言う。


「お前ら、ああいう奴の言いなりになるなよ」


その言葉には呆れが混じる。

顔見知りなのだろうか、彼の口調は軽かった。


瞬は自分の前にいる者たちを見据える。柔道部、レスリング、ボクシング──体格のある連中が集まっている。やはり色ごとの特色は明瞭だ。

青は理性、緑は癒し、赤は情熱、白は制御。黄は……瞬自身、まだ言語化できていない。


「言いなりになっているわけではないが、どうにも暴力的な衝動が抑えられない者がいる。そういう時は適合者に相手をさせるに限る」


――と、ある者が苦笑混じりに言う。


「め、めーわく…」


リヒトはがっくり肩を落とす。彼らなりの秩序があるのだ。

リヒトは静かに答える。


「なら、せめて次からは俺を狙え。」

(ロッソ)が制御出来れば、俺たちだって苦労はしない…」


「お前、いつから使えた?」

瞬がリヒトに小さな声で問いかける。


「え?」


赤の適合者と笑い合っていたリヒトがきょとんと瞬を振り返る。


「水の力だ…」

「いつからだろ?こいつらの喧嘩を止めた時だったかな?」


やはり、リヒトも教えてもらったわけではないのか。

瞬は「そうか」と言い残し、白の巣を出て行く。


「ちょっと!片付けくらい手伝いなさいよ!」


リミが文句を言うが、彼は振り返らなかった。


「なんなのよ!アイツ!」

「ごめん、色々考えることがあるみたい。俺が手伝うよ」


「甘いんじゃないの!?」とリミはぷんぷんしながら、

白の仲間たちにまだそこら中に残っている炎と石礫を片付けさせる。


ロッソの炎が消えたあと、白い氷だけが静かに残った。

空気はまだ熱を帯びているのに、彼女の周囲だけが冷たく静止していた。


その中心に立つ少女の瞳には、確かな決意が宿っていた。


リミ・シシカワ(日本名:獅子川理美)――日本出身、能力:白。


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