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おじさん道  作者: 西山春登


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30/30

禊と時そば

おじさん道。


これはただ存在するだけで嫌われる存在のおじさん。 そのおじさんをいかに少しでも嫌われないように生きるのかを問う道。 剣道、柔道、茶道に華道。武士道、騎士道。 それぞれの道はあれど、この令和の世に心密かに新たな道を切り開く!


これぞ、『おじさん道』!



「鈴本さん、この人だれ? 着物着てる」


朝礼で発表された急な「落語慰問」。

そのポスターを見ながら実習生のエコさんが、首をかしげている。


鈴本さん「あー、この人はジャパニーズ・トラディショナル・コメディアン。落語家さんだよ」


エコさん「なんで急に来るの?」


そこに、リネン交換の大量のシーツを抱えた飯塚さんが通りかかり、吐き捨てるように言った。


飯塚さん「『みそぎ』だよ、ミソギ」


エコさん「ミソギ……?」


飯塚さん「よくあるだろ。芸能人が不祥事起こして、活動休止中に『介護施設でボランティアしてました』ってアピールするやつ。

あいつも半年前に不倫がバレて自粛中だからな」


鈴本さん「あー……やっぱりそうですか」


飯塚さん「ったく、介護施設はお前らの『罰ゲーム』の場所じゃないっての」


エコさん「罰ゲーム……?」


飯塚さん「そうだよ。罪滅ぼしの「ごめんなさいのパフォーマンス」の舞台にされるこっちは、たまったもんじゃないよ。ほら、仕事戻るよ!」


エコさんはキョトンとした表情で飯塚さんを見送っていた。

「ごめんなさいの・・・パフォーマンス・・?」




その1週間後……


「ほうほう、実に素早い手つきだ。勉強になるねぇ」


マネージャー「はい、師匠」


師匠「『食』とは命の営み……その瞬間、その瞬間が大事!まさに高座と同じだよ」

(腕組みをして、介助中の鈴本さんの手元をジロジロ見ている)


鈴本さん「はぁ・・そうですかね・・(お願いだから、通路を塞がないでほしいなぁ……)」


師匠「このご飯のやるの、私にもやらせてくれないかな」


利用者さん「ごちそうさまーお薬くださーい」


「はぁーい、今行きますねぇ。」

師匠の方を向き直り鈴本さんが答える。

「いや、これは介護士しかできなくて……」


師匠「えっ?できないの?ご飯食べさせてるだけでしょ?」


「いえ、あの…食事介助は誤嚥って言ってむせたり咳き込んだりするリスクがあるので、職員しかできない決まりでして……」とすかさず飯塚さんが助け舟を出してくれた。


マネージャー「(ちっ・・)なら、ご飯あげてる『フリ』だけでもいいんだけど。」


飯塚さん「その『やってるフリ』の写真が外に出たら、『この施設は専門資格のない部外者に食事介助をさせているのか』って、それはそれで『お互い』に誤解を招くので。」


マネージャー「なら、一緒にご飯を食べてるところの写真撮らせてくださいよ。」


師匠「いいな!ちょうど私もお腹がすいてたんだよ。同じ釜の飯を喰うみたいな感じ出るね。絆も深まりそうだ!」


鈴本さん「えっ……?!一緒に・・?」


飯塚さん「いや、あの……基本的に職員はお客さんと一緒には食べないので、師匠の分の食事は用意してないですよ……?そうゆうスケジュールもなかったですし・・」


マネージャー「ちっ……使えねぇな。じゃあ師匠、隣に座って談笑してる感じで撮りましょう。それならいいですよね?」


師匠「・・・なら、仕方ないか。隣に座って楽しくって感じで撮るか。」


飯塚さん「……えぇ、写真だけなら(早く終わらせてくれ)」


鈴本さん(なんなんだろ……これ。。。)


利用者さん「お薬まだかなぁ・・・」

鈴本さん「ごめんなさぁい・・」(はぁ……今日は1日これか)


飯塚さん「すいません。スケジュールでは介護現場のお手伝いってあるんで、ちょっと食器洗いとかしていただけると助かるんですが…」


マネージャー「師匠、もう少し話しかけてる感じで!いいですよ。交流されてる感じです!」


飯塚さん「あのぉ…」


師匠「あー、すまない!そろそろ高座の準備をしないと!申し訳ないね!すまないすまない!」


鈴本さん(うわぉ………)


そう言って、師匠たちは悪びれもせず、散々写真だけ撮ってズカズカと去っていった。


「なんなんだよ・・・」飯塚さんのイライラはそろそろピークに達しそうだ。



そんな中始まった慰問落語会。 本来の時間より1時間押し。利用者の皆さんはお風呂の時間もズレ込み、少し疲れが見えている。


師匠「いつ、むー、なな、やー……大将、今なんどきだい?」


飯塚さん「(小声で)……ほんとなら風呂の時間だっつーの。」


鈴本さん「(ブッ……! 飯塚さん、静かに……!)」


師匠「……十四、十五、十六、ほれぴったり。」


飯塚さん「(小声)全然ぴったりじゃねぇよ。こっちはがっつり時間押してんだよ。」


鈴本さん「(……だめだ、この『時そば』、別の意味に聞こえる……)」




「いやいや、今日はいいお客さんだったねぇ。おかげで話も弾んでしまったよ。施設慰問もなかなかいいもんだな」満足げにまたズカズカと控室に戻る師匠の後をマネージャーがついていく。


「はい、師匠。素晴らしい話でした。」


師匠「高座も終わったし、お世話になった一階に挨拶でもして帰るかな。」


マネージャー「はい、師匠」


師匠「いやーどうも。今日はお世話になりましたな。」


せわしなく歩く飯塚さん「あっ、どうも。お疲れ様です。」


師匠「そろそろ私はお暇させていただきますね。いやー介護現場の壮絶さ!勉強になりました。」


鈴本さん「えっ…あっ…はい。よかったです。(残業して入浴介助中なのに、何こんな悠長に話してんのー!)


飯塚さん「斎藤さん、お風呂終わりましたよー水分取りましょうね。鈴本さん、お願い!」

そそくさと次の入浴介助へ向かう


鈴本さん「はい。バトンタッチ!斎藤さん、ジュースここ置いときますね。」とテーブルに促す。


師匠「これから私も介護現場の楽しさや壮絶さを「エスエヌエス」なんかで発信していこうと切実に感じました。皆さんのご活躍お祈りしていますね。」


鈴本さん「斎藤さんっ!ジュースお部屋に持ってかないでー!ここで飲んでほしいなぁー。」


師匠「では、そろそろ失礼します。ありがとうございました」


鈴本さん「斎藤さん!お布団の上にコップは倒れちゃうからー。テレビの部屋で飲もうか~」


マネジャー「師匠、ではそろそろ。」


師匠「ありがとうございました!」


鈴本さん「あっ…はぁ〜い。」


嵐のような時間は過ぎ、師匠たちは風のように去っていった。その日の帰りのロッカールーム。


エコさん「鈴本さん、さっきの着物の人。なんであの人食べてる『フリ』してました?」


鈴本さん「あー、演技だよ。一人で何人も演じたり、食べてる『フリ』して見せたりするパフォーマンス。それが落語なんだよ。」

(『フリ』……?そっか。慰問や反省もあの人にとって『全部フリ』だったのかも。

その全ての元凶が『フリん』だなんてね。。。)



おじさん道 今日の学び

「人生という高座において、『反省しているフリ』は一番スベるかも。」

最後までお読みいただきありがとうございます。

おじさん道 第30話「みそぎと時そば」でした。


介護現場では、時折こういう「嵐」のようなイベントが起きたり、

「このタイミングで?!」と予期せぬ出来事が起きてばっかりで、

排便コントロール失敗とかはお互いほんとパニックです。。。


更新は【毎週金曜日の23時】です。

今後とも「おじさん道」をよろしくお願いします。

過去の作品も読んでいただけるとうれしいです。

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