第28話 エコさん
おじさん道。
これはただ存在するだけで嫌われる存在のおじさん。
そのおじさんをいかに少しでも嫌われないように生きるのかを問う道。
剣道、柔道、茶道に華道。武士道、騎士道。
それぞれの道はあれど、この令和の世に心密かに新たな道を切り開く!
これぞ、『おじさん道』
「あっ……来月のシフト出てたんだ。……あれ? エコ? プラセ……ティオ……? 誰だろ?」
シフト表に見慣れない名前を見つけ、私は思わず首をかしげた。
鈴本さん「飯塚さん。このエコさんて……」
飯塚さん「ああ、来月ちょっと研修に入るインドネシアからの実習生の男の子だよ。
環境に優しそうな名前だよね。
上の階に配属になるけど、その前にちょっとうちでやってから。みたいな感じかな」
鈴本さん「そうなんですね~」
(エコさんか~。たしかに地球に優しそう。
きっとインドネシアの大自然を愛する純朴な青年なんだろうな~。
インドネシアについて知らないから勝手な想像だけど。
そうだ! デンジロボの胸にも「エコ」って書いてあったな……
いやいや! あれは電子戦隊の「D」だから! ってよくネタにされてるあれね。)
そんな昭和戦隊ヒーローのネタを脳内で転がしつつ、数日が経ったある日のこと。
スタッフルームに入ると、飯塚さんが一人の青年を連れていた。
飯塚さん「こちらは実習生のエコさんです。鈴本さん、仲良くしてね」
エコさん「エコと言います。インドネシア人です。よろしくお願いします」
はにかんだ笑顔が印象的だ。
鈴本「あっ、鈴本です。よろしくお願いします~」
エコ「私の名前、エコは第一子って意味です」
鈴本「へぇ~! そういう意味があるんだ。日本語お上手ですね!」
どうやら「エコロジー」のエコではないらしい。それにしても礼儀正しい青年だ。
その日の遅番終わり。 疲れ切った体を引きずりながらロッカールームの扉を開けると、
同じくちょっと疲れた顔をした先客がいた。
「オツカレサマデス。鈴本さん」
エコさんが元気に声をかけてくれる。
鈴本さん「 エコさん、お疲れ様です! 初日どうだった?」
エコさん「はい、疲れました」
鈴本さん「だよね~疲れますよね~」
他愛もない会話をしながら着替えていると、エコさんが不意に聞いてきた。
エコさん「鈴本さん、どこ住んでますか?」
鈴本さん「私は厚別区に住んでます」
エコさん「遠い?」
鈴本さん「車で30分くらいかな」
エコさん「・・・『区』ってなんですか?」
鈴本さん「えっ……えぇーっと……なんだろ。。。あっ! エリアネーム?」(英語苦手なのに……)
エコさん「あと、北海道。名前ムズカシイ。札幌市、帯広市、平取町。わかります。日高、胆振、空知。。。これなにですか?」
鈴本さん「えっ……なんだろ……なんだ………これもエリアネーム・・? えー、改めて言われるとわかんないな。。英語以上に難しいぞ。。てか、なんで平取?!」
道民でも即答できない地名のことを聞かれるとは。
しどろもどろになりながら聞き返すと、意外な答えが返ってきた。
エコさん「前の仕事で平取町の農家で仕事。働いてました。
トマト作って、JAにジュースにしてもらう」
鈴本さん「へぇ~、農家で働いてたんだ。平取ってトマト有名なんだ」
エコさん「はい、トマトジュース。『ニシパの恋人』」
鈴本さん「ゴールデンカムイで出てきたニシパだ! 有名なんだ!」
エコさん「平取のボス言ってた。ニシパ、意味は英語のミスター。あと……お金持ち」
鈴本「お金持ちって意味もあるんだ!くわしいね! 胆振とかの事はまた今度ね……お疲れ様でーす」
(いやー、なんとか話逸らせたけど。。結構鋭い質問してくる人だったな……)
(てか、そうそう。「胆振・・空知・・何?」っと。)
エコさんに出された鋭い宿題をスマホで調べる。
「あっ、振興局っていうのね!なんか聞いたことあるかも!」
(北海道は広いので、本州で言う「県」にあたる感じで地域が分けられてるのか
・・・これ、わかりやすくエコさんに伝えられるか・・・おれ?)
複雑な思いを馳せつつ、帰路につく。
そんなこんなで研修も終わり、エコさんは予定通り上の階へ異動していった。
それから数カ月が経った頃。
またもロッカールームで紙を見つめる彼と鉢合わせた。
鈴本さん「あー、エコさん。久しぶり~。遅番なんだね。」
エコさん「はい、鈴本さん、オツカレサマデス。」
エコさん「これ、どういう意味ですか? 私、漢字ヨメナイ」
ん……? マンションのチラシ?
エコさん「これ…2560円?」
鈴本さん「ううん、2560万円だから、このあとにゼロが4つ付くよ。万円はゼロ4つ。てか、なんでこんなマンションのチラシ持ってんの?」
エコさん「新聞にハサマッテタ。高いなぁァ。。。日本人はみんな買う?」
鈴本さん「いや……みんな買うわけじゃないな。うちも賃貸だし。。」
エコさん「マンション買う。借りる。日本ならどっちが安い?」
鈴本さん「えっ…………買うの? 借りるの?」
( …………買うの? …………借りるの?
…日本人でも、ましてやお金のプロであるファイナンシャルプランナーでも意見が二分するような永遠のテーマを、イオンのくたびれたボクサーパンツ一丁のおれに聞くなよ。。。)
彼の眼差しは、トマトの話をしていた時以上に真剣で、まっすぐだった。
(エコさん、君を誤解していたよ。君はエコロジーではなく、エコノミーだったんだね。。。)
鈴本さん「それは難しい質問過ぎて、おれにも答えられないよ」
彼の肩に手を置き、おれはそそくさとズボンを履いてロッカールームを去った。
おじさん道 今日の学び
「重い質問を投げるなら、TPO(時と・場所と・おパンツ)にも配慮を。」
最後までお読みいただきありがとうございます。
おじさん道 第28話「エコさん」でした。
時空のゆがみがありますが、これを投稿してるのは実は大晦日でして。
一応、トイレとお風呂の掃除は終わらせつつ、「やばい、1月分のストックが足りてない!」と焦りながらギリギリで執筆している……そんな状態です(笑)。
最初の頃はストック結構あったはずなのに・・・
来年もがんばって書いていきます!
更新は【毎週金曜日の23時】です。
今後とも「おじさん道」をよろしくお願いします。
皆さま、よいお年を!




