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7.人を見かけで判別不能


「まあ、実際どうするかはキミの自由だし、僕も強制してる訳じゃない。ただ僕は、キミの力になれるかもしれないと思って、声をかけさせてもらっただけだよ」


 そう言うと、ヒナタと名乗る男はコーヒーカップをテーブルに置いた。どうやら今ので飲み終えたようだ。


「あの、どうしてそこまでしてくれるんですか? 会ったばかりの自分に……」


 面識もないのにいきなり声をかけてきて、しかも話の内容は彼が言っていた通り突拍子もない話で、ちょうど事故に遭遇した自分が、ただ懐柔しやすい対象だっただけだと考える瞬間も勿論あった。

 でも話しを聞いていく内に、そういう悪徳じみた人ではないのではないかと、薄っすら感じ始めていた。

 今回のことも『自分から声をかけたことだからお礼は必要ない』と言ってくれている。

 

「どうして……か。まあ強いて言うなら、視える体質を持って生まれたから……かな? 視えて生まれたのなら、それを活かして人助けすることも可能なんじゃないかと、単純にそう思っただけだよ。キミを見つけたのも偶然さ」


「そうですか……」


 本心から言ってそうであり、ここまでの全てが人を騙す手口なのかもしれない。

 結局のところ、何も答えを出すことが出来なかった。


「別に今すぐ決断する必要はないさ。キミが僕の力を借りたいと思ったら、連絡してくれたらいいよ。これが――僕の連絡先」


 気を遣ってくれているのか、結論を出せない自分に優しく声をかけてくれると、一枚の名刺をテーブルに差し出した。


岬ヶ丘(みさきがおか)神社…………神職?」


「ああ、分かりやすく言うと神主かな」


「ぃいっ!? 神主さんなんですか!?」


 まさかの正体に目を見開くと、その顔が面白かったのか、ヒナタさんは声に出して笑った。


「僭越ながらね。何かおかしかったかい?」


「あっ、いえ! まだ全然若い方ですし、服装も全くイメージと違うなぁと思って」


「ぁ~確かに」


 そう言って納得したように自身の姿を見るヒナタさん。


「んまあ別に年中正装を着てるわけじゃないよ。それに最近は若い人でも神職に就くことが多くなってるみたいだからね、あまり珍しくもないさ」


「すみません、そういうことに関しては、あまり知識がないので」


 そこでふと思い出す。


「でも、さっきは霊媒師って言ってましたよね?」


「そうだね、今は霊媒師としてキミと話しているかな」


「……は?」


 ごく自然な流れで返事をされ意味が分からず首を傾げると、ヒナタさんが軽く手を横に振った。


「そこまで深く考え込まなくてもいいよ。ただ個人的に仕事を両立させたいだけだから」


「はあ……」


 釈然としないまま話しが終わると、ヒナタさんが伝票を持って立ち上がった。


「とりあえず、何かあったら連絡してくれたらいい。ただ、善は急げという言葉は覚えておいて」


「はい、わかり……ました」


「…………」


 突然ヒナタさんが何かを観察するように眉を顰めてこちらを見る。


「あの、どうかしました?」


「……いや、なんだろ。キミから……何かもう一つ小さな気配を感じるような……」


「ぇえ!? まだ何かあるんですか!?」


 そう言って、また反射的に自分の後ろを見てしまうが、やはり何もない。


「…………いや、たぶん思い過ごしだろう。変なこと言って悪かったね」


「いえ、大丈夫……ですけど」


「お詫びという訳ではないけど、コーヒー代は僕が出すよ」


「いやいや、自分で払いますよ!」


「ハハッ、まあ誘ったのは僕の方だからね、いいよこれくらい」


「は……はあ」


「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。あまり本業をサボってると、また怒られそうだからね」


 おいあんたサボってたのかよ――なんて勿論言えない。顔には出てたかもしれないが。


「機会があれば、また会おう。じゃあ、お先に失礼するね」


 そう言って笑顔で会釈すると、ヒナタさんは店の外へと出ていった。




「……ハァァァ~」


 一人になると、ドッと疲れが押し寄せてきた。まるで異様な世界へ迷い込んだようだった。


 ――――変な人だった。


 もう一度名刺を見る。

 そこには神社の名前と職位、電話番号、名前は《鈴神ヒナタ》と書かれていた。


「視える人には視える……か」


 こういう神職に就く人っていうのは、皆視える体質の持ち主なのだろうか。


「……ホントに何か居るのか?」


 この店に入って何度後ろを振り向いたか憶えていないが、確認しないと落ち着かないので一応振り向く。

 やはり何も居なかった。


「……さっぱり分からん」


 とりあえず、店を出る前に完全に冷め切ったコーヒーを飲み干そうとして――


「あっ、……買い物」


 街に来た本来の目的を忘れていることに気づいたのだった――――




 





 ◆◇◆◇◆◇



 店を出てから、鈴神ヒナタは先程出会った青年の事を考えていた。

 今まで数々の人ならざるものを見てきたが、あれほどの殺気を感じたのは初めてだった。

 もはや浄霊の余地などないだろう。

 しかし妙だった。

 通常、そういう類のものは、取り憑いた者の生活に著しい《悪影響》を及ぼす。

 最悪の場合、宿主の自我を乗っ取るケースもある。

 だが観察や質問をした限り、取り憑かれている彼自身は何の影響も受けていないようだった。


「不思議というか、不気味というか」


 本来なら他人の人生におこがましく踏み入る事はしないが、一応()()()()()()()()()

 今後どうするかはその人次第だ。


 ヒナタは気持ちを切り替えると、遅刻確定の仕事へ向かった――――




今はまだ必要性がないので作中に書いてませんが、今後必要性が出てきたタイミングで舞台となっている地名など細かく表記していこうと思います。

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