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54.キッカケはある日突然に起こるもので


 いつぞやの二人が訪問にやって来た時は最初こそ絆のことを気にかけていたヒメコだが、特に支障がないと判断した後はほのぼのとした鑑賞モードに耽っていた。

 しかし、いざヒナタと呼ばれる男と対峙してみて、ぼろぼろと露呈し始めたその頼りの無さに何とも言えぬ悲しみが押し寄せる。

 勿論これは単に失望しているだけで一滴の涙も出やしないが、不甲斐なさも度が過ぎれば悲しくもなるというものである。


「ほれ、そろそろ起きてくださいな」


 いつまでもうつ伏せで寝そべっているヒナタへ溜め息混じりに声をかけると、ヒメコは大層めんどくさそうな顔でクイッと扇子を上に向けた。するとヒナタの身体が逆再生されたかのように起き上がり、元の姿勢に戻された。


「ん……僕は何をして…………あッ!」


 ゆっくりと目を開けたヒナタが目の前のヒメコを見るなりまた大声を上げそうになる。

 しかし、今度は先にヒメコが釘を刺した。


「おぬし、ちと黙るがよい。落ち着いて話しも出来ぬ」


 抑制も込めて、昂るヒナタへ少し威圧的な視線を向けるヒメコ。

 すると我に返ったヒナタは徐々に冷静さを取り戻し、その様子を見たヒメコもようやく一息吐いた。


「すまない、少しばかり……いや、かなり動揺していたようだ」


「そのようですな」


「あ、あはは……」


 まるで自分の醜態に追い打ちをかけるようなヒメコの即答っぷりに、笑ってごまかす事しか出来ないヒナタ。

 しかしこれで『はい終了』という訳にもいかないヒナタは、いたたまれない気持ちをなんとか拭い去ると、話しを再開した。


「それで、改めて訊かせてもらいたいんだが、君はいったい何者なんだ?」


「ですから、わたくし、ヒメコと申しま――」


「――いや違う違う違うッ」


 ヒナタが力いっぱい両手を振りヒメコの言葉を遮る。

 ヒメコは頭に『?』を浮かべながら怪訝そうに首を傾げた。


「それは聞いた。ちゃんと確認がとれた。だから知っている。ボクが訊いているのは、名前じゃなくて素性だよ」


「素性ぉ? そんなの訊いて、いったいどうしようというのですか?」


「どうもしない。ただ君があまりに得体の知れない力を秘めているから警戒しているんだ。だからその……あからさまにめんどくさそうな顔をするのは、出来ればやめていただけると助かるんだけど……」


 そう言いながらヒナタが苦笑する。いきなり素性を詮索されて不快に思う気持ちは分かるのだが、それでも今みたく露骨に顔に出されると多少は傷付いてしまうというものである。


「そう申されましても、この場合は()()()()()()()()()()()だと思うのですが……しかし、ほーぅ、警戒とな? あれだけ騒いでおったくせに、警戒とな?」


 口元を袖で隠したヒメコが、途端に揚げ足を取るようなニヤけた目つきに変わる。


「あ、いやッ、さっきのは…………自分でもどうかしていたと反省しているよ」


 嫌なところを突かれたヒナタが、我ながら恥ずかしい姿を見せてしまった事を後悔する。普段であれば間違ってもあんな醜態を人に見せたりはしない。

 ヒメコはムッホッホなんて笑いながら「冗談なのじゃ」とお殿様のような口調で詫びを入れると、普段のケロッとした表情に戻った。


「まったく、ほんに知りたがりの男であるな。そもそもそんなことをしても何の意味もないというのに」


「いや、まあ、君がそう言うなら……本当に警戒なんて無意味なんだろうな。でも、君が僕にとって友好的な存在なのか、それとも敵意ある存在なのか、それだけでも明確に出来れば僕の心労も幾分マシになってくれそうな気がするんだ。情けない話しだけどね」


 そう言って自嘲気味に笑うヒナタ。

 既に自分の力でこの場をどうにか出来る手段などないとヒナタは薄々勘づいていた。

 それは、実際にヒメコと名乗る者と対峙してみて、人間如きでどうこうできる存在ではないと直感で理解したからだ。

 人の力次第では対処可能な悪霊とは違う、理屈や常識の通用しない絶対的な存在なのだと。


(これなら僕の護符を打ち破った事も簡単に頷けてしまうな)



 ――しかし、だからこそ気になる。



 そんな絶対的な存在が、いったいどのような意図で自分如きに話を持ちかけてきたのだろうかと。



「むぅ〜む、おぬしも中々に奇怪(きっかい)な道のりを歩んでおるようで、なんというか……苦労しておるのだな」


「えっ?」


 予想とは大きく外れたヒメコの言葉を聞いて、思わず声が出る。

 まさか先程投げかけた自分の言葉に対し、ただ答えてくれるのではなく労いの言葉を投げ返してくれるとは思いもしなかった。


「あ……あはは、ありがとう。まるで今まで歩んできた僕の人生を覗かれたのかと思ったよ」


「んまあ覗くも何も見たら分かりますからね」


「…………はぃ?」


 今、サラっととんでもないことを口走ったヒメコの言葉にヒナタの思考が停止する。

 ヒメコは『んむ?』と、固まってしまったヒナタの事を逆に不思議そうな目で見返していた。


「あのぉ、……どしたのですか?」


 少し心配になったヒメコがパチパチと(まばた)きしながら尋ねると、突然――


「アッハッハッハッハッ! いやぁ~これはッ、敵わないなぁ〜」


 あまりの可笑しさに自然と笑みが零れたヒナタ。

 片手を腰に添え、笑いながらお手上げといった具合に首を横に振るその姿は、抱えているものを全て吹っ切ったような印象を見る者に与えた。


 そして実際、ヒナタは吹っ切れていた。



(もはや全てを見透かされていたとしても、なんら不思議ではないな)



 ヒメコの言う通り、自分が如何に無意味な事を考えさせられていたかを痛感させられたヒナタは、なんだかスッと心が軽くなった気がした。

 いや、むしろ開き直ったというべきだろう。

 何にしろ、いちいち気難しく考える必要性がなくなったのだ。


 ――絶対的な存在。

 ――或いは神と呼ぶべき存在。


 警戒や疑念を通り越して、もはや笑うしかなかった。


「ふふふ」


 するとヒメコも、まるでイタズラを企てている子どものように微笑みながら、じっとヒナタを見つめていた。


「今は何が見えているのかな?」


 肩の力が抜けたヒナタも特に嫌な気はせず、好奇心を込めて純粋に尋ねてみた。


「いやいや別に、ようやくそれらしい顔つきになったと思いまして」


「ん? そうかな? でもまあ、確かに心身ともに軽くなった気がするよ。とても清々しい気分だ」


「うむうむ、それは何よりですな」


 何故かしてやったりといった表情のヒメコが鷹揚に頷くと、「さて」と場の空気を一区切りするように話し始めた。



「改めて、おぬしをここに呼んだ理由なのですが、実は頼みたいことがあるのですよ」


「僕に頼みたい事?」


「はいそうです」


 ヒメコにハッキリと言われたヒナタがしばし考え込む。

 しかし見当はまるでつかない。


「僕が出来る事であれば全然構わないけど、いったい何だろうか?」


「はい。というのも、わたくしの弟分であるあやつの手助けをして欲しいのです」


「弟分?」


 それを聞いたヒナタの脳裏に、一人の人物が浮かび上がる。


「もしかしてそれは……絆君のことだろうか?」


「はいな」


 すぐさまコクンと頷くヒメコ。

 そこでヒナタが、ふと疑問に思う。


「弟分ということは、本当の弟ではないという解釈で良いのかな?」


「んまあ、別にそこんところはどう思っていただいても構わないですよ。家族であることに違いはないので」


「家族……。それなら、もしかして君達の母親――」


「――おぉ~っとストップなのです」


 ヒナタが母親と言った瞬間、ヒメコがビシッと手で制した。


「おぬし、悪いことは言わん、母様(ははさま)にだけは関わらぬ方が良い。必ず後悔します。絶対します」


「あ……ああ。……覚えておくよ」


 ヒメコのただならぬ様子に気圧されたヒナタが言われるがままに頷く。

 理由は分からないが、それ以外に道は用意されていないように感じたのだ。


「君にそこまで言わせるなんて……いったい君達のお母さんは何者なんだい?」


「なんとも恐ろしい人です。ただの一般人なのに、機嫌を損ねてしまうとわたくしの事など片手であしらうようなとんでもない化け物です。大魔王です。因みに、もしこの会話が母様の耳に入ってしまった日には、わたくしは見るも無惨な姿となって野に晒される事となるでしょうな」


「そ、そんなにかいッ!?」


「はい、()()()()なのです。なので、どうかこのことはくれぐれもご内密にお願いします」


「わ、分かったよ。肝に銘じておく」


 いかんせんヒメコの表情に変化が見られないのでイマイチ危機感が伝わって来ないが、彼女の言うことは素直に従っておくのが最善だとヒナタは直感的に思った。


「そうだ、ついでに一つ訊いておきたいんだけれど、一応……彼もただの人間だよね?」


「ほぁ?」


 ヒナタがそう尋ねると、素っ頓狂な声を出したヒメコが突然大笑いし始めた。


「ぶわっはっはっはっはっ!! ムアッハッハッハッハッ!! にょっほっほっバッハッハッハッハッ!!」



 その独特の笑いは、恐るべき長さだった――



 涙を流し、足をジタバタさせ、腹を抱えながら金色の扇子でバシバシと床を叩いている始末である。


「……えーと、変なことを訊いてしまったかな?」


 呆気にとられているヒナタが困惑しながら尋ねる。

 今のヒメコはどう見ても、絶対的な存在とは無縁のただの無邪気な子供としか思えなかった。


「もっはっはっ!! あいや失礼! いやしかしッ、あの愚弟がッ、人ではなくて何だと言うのかボッハッハッハッ!! ピィーッ!!」


 何がそんなにツボだったのか、再び盛大に笑いだしたヒメコの様子に開いた口が塞がらないヒナタ。




 しばらくして、(ようや)くヒメコの呼吸が整い始めた。




「ハァーおもしろかった。いやいや、おぬし、中々やりますな。わたくしをここまで追い詰めるとは」


「いや、僕は何もしてないけど」


「ご謙遜ッ! 侮り難し奴めェ〜」


 そう言って何故か神妙な顔で身構えているヒメコに謎の愛嬌を感じたヒナタは、子供相手に話すような柔らかい口調で改めて尋ねてみた。


「それで、具体的に僕は何をしたらいいのかな?」


「おぬし、態度が急変しよったな」


「……すまない」


 訂正、すぐに態度を改め直した。


「ふむ、具体的にと言っても、それはもう言葉の通り、あやつが困り果てた時に手を差し伸べてくれたらそれで十分なのです」


「それなら、わざわざ頼まれなくてもそうするつもりだよ。僕も彼とは良い関係を築ければと思っているからね」


「それに関しては疑っておらぬ。しかしな、果たして重大な選択を強いられた時、おぬしはそれでもあやつの言葉に耳を貸すかのぅ」


「それは……」


 そこでヒナタが思い浮かべる。



 究極の選択――例えば人の命に関わるような極限の状況が差し迫った時、それでも自分は彼を救う決断をするのだろうか……と。



「お、おぉーぅ。おぬし、メチャクチャ思い悩んでおるな……」


 そのあまりに必死めいたヒナタの形相に、思わずヒメコが後ずさりしそうになる。


「心配しなくとも、そんな酷な事まで頼みませぬ。最終的に決めるのはおぬし自身、好きに決めてくださいな」


「あ……ああ。そう言ってもらえると、こちらとしても本当に助かるよ。何しろ全く予想がつかないからね」


「ふふふ、素直なことは良いことですぞ。代わりと言っては何ですが、おぬしも何か困った事があればいつでもわたくしに声をかけて下さいな」


「えっ、君にかいッ!?」


「はいな。んまぁ暇であれば助太刀いたしましょうぞ、フッフッフ」


 表情に謎の翳りが生まれ、何やら危険極まりない笑みを浮かべるヒメコ。


「それは……心強いよ。……ありがとう」


 言い知れぬ不安にかられたヒナタが引きつった笑顔で答える。心強いのは確かなのだが、間違っても安易に助けを求めてはいけないと強く心に刻みつけた。


「でも君が彼の傍にいるのなら、わざわざ僕ではなく君が助けてあげれば良いのでは?」


「なにを言うッ。甘やかしてはあやつの為にならん!」


 腕を組み、厳格な面持ちで首を振るヒメコ。残念ながら威厳はない。


「しかし、確か君は……彼の保護者と言っていたよね?」


「うむッ。わたくしが居なければ、あやつなどまだまだヒヨっ子である」


 今度はドヤ顔でウンウンと頷くヒメコ。


「なら、やはり君が助けてあげるべきでは?」


「なにを言うッ。甘やかしてはあやつの為にならん!」


 と、先程と全く同じ動きで否定するヒメコ。やはり威厳は感じられない。


「えーと……うん、分かった。僕なんかで良ければ、彼の力になるよ」


 このまま堂々巡りになる予感がしたヒナタは、とりあえず了承しておくことにした。


「まこと、感謝いたしまする」


 そしてヒメコが綺麗な所作で深々と頭を下げた。



「さて、話しも纏まったところで、そろそろ元の場所へ戻そうかのぅ」


 凝り固まった身体を伸ばすように両手を上げると、ヒメコはコキコキと首を鳴らした。


「ああ、お願いするよ。だけど、結局ここは何処なんだい? 虚ろの世界じゃないのは確かなんだろうけど」


 初めてここに来た時と同じように周囲を見渡すヒナタ。スポットライトが当てられているヒメコの居る場所以外、全て暗闇で何も視認することが出来ず、そもそもこの空間が広いのか狭いのか、それすら感じとることが出来なかった。


「虚ろの世界? なんじゃそれは? ここは……そうですな、わたくしのヒミツ基地とでも言っておこうかの」


「ヒミツ基地? いったいそれはどんな秘密が?」


「黙るがよい、女のヒミツである、この阿呆(あほう)め」


「……すまない」


 それは自分の倫理観の無さなのか、はたまた理不尽な叱責なのか、とにかく謝っておくのが最善だと即座にヒナタは判断した。


「おぉっと最後に」


 何かを思い出したように扇子で掌をポンと叩くヒメコ。


「わたくしと顔を合わせた事、くれぐれも(みな)には話さないでくださいな。特に、あやつと娘達には厳禁ですぞぉー」


 そう言って不敵な笑みを浮かべながら口元に人差し指を当てるヒメコだが、それを聞いたヒナタはある引っ掛かりを覚えた。


「娘達? もしかして彼女達も……君の存在を知らないのか?」


「ふふふ、わたくしのす〜ぱ〜隠密行動を甘くみないでくださいな」


「いや待ってくれッ、それならもう一つ訊きたい事があるッ!」


 ドヤ顔で偉そうにふんぞり返る幼女の(さま)を鮮やかにスルーしたヒナタが、緊迫した様子で身を乗り出す。今までのヒメコとのやり取りとは明らかに違う雰囲気を、額の汗が物語っていた。


「彼女達は、いったい何なんだ? 彼は自分の守護霊だと言っているが、アレはそういう類の者じゃない。アレは……明らかに人に危害を及ぼす者達だ」


「ふむふむ、それで?」


「なぜそんな者達が彼に取り憑いている事を君は野放しにしているんだッ? もし万が一にも彼の身に何かあったら、いったいどうするつもりなんだッ?」


「ほぅ、あの()らがあのぺ〜ぺ〜に何かするのか? ぁ〜そういえば誤って殴られたり物をぶつけられたりしておったような……」


「既に実害が出ているじゃないか!」


 まさかの実態に思わず声を荒げてしまうヒナタ。

 だがヒメコは相変わらずのほほんとした様子で話しを続けた。


「それで、あやつはおぬしに何て言っておった? 助けてと言ったかの? はたまた迷惑していると言っておったかの?」


「……いや、本当に理解し難いが、彼は彼女達を受け入れていた」


「ならそれで良いではありませんか。あの()らもまだまだ危なっかしいところはありますが、それでもあやつのことを大切に想っておるし、尊重もしておる。前にも言うたが、人の恋路を他者が邪魔するのは野暮というものですぞ?」


「彼女達は人じゃない、霊だぞッ?」


「ぉぉーぅ、人ならざるモノには恋すら許されぬというのか、なかなかに痛烈な言葉よ」


「そういう話じゃない。人と霊は本来、住む世界が全く異なる相容れぬ存在だ。むやみやたらに干渉していいはずがない」


「はずがない……か。啖呵を切った割にはちと曖昧な答えであるな」


「もちろん、僕だって決して万能ではないからね。憶測で物事を断定するような考えは持っていないつもりだ」


「ほほぉーう!」


 それを聞いたヒメコが興味津々といった具合に好奇な目を向ける。


「しかし今日、彼女達の声を聞いて戦慄したよ。正直、あまりにも強大で危険すぎる。君とは違い、彼女達の存在は総じて()()()()しかしないんだ。はっきり言って、とても人ひとりが抱え込めるような存在じゃない。いつ彼の身に何か起きても不思議じゃないくらいだ。そしてそんな状況下にいる彼を、やはり僕は見過ごす事なんて出来ない」


「うむうむ、そうですな、警戒心を持つことは大事ですな。いやいやしかし、やはりおぬしが適任で間違いなさそうである」


「は? ……え?」


 唐突に話しを切られ、一人満足気に頷くヒメコを見てヒナタの頭にポンポンとはてなマークが飛び出る。


「さて、そんなおぬしに一つ言っておきまする」


 するとヒメコがビシッと扇子をヒナタに突きつけた。



「話しが長い! ゴチャゴチャ言わんと温かく見守っておれ! なんじゃ人と霊は相容れぬ存在って! 誰がそんなこと言うた!? そんなものただの個人の見解ではないか! 愛なるものをナメるな堅物め! ゴチャゴチャ言わんと温かく見守っておれ! だいたい何かあったらわたくしがどうにかすると先日も言うたであろうに! どれだけボケておるのだ貴様は! まったくゴチャゴチャゴチャゴチャ! あと話しが長い! しかしあやつを心配してくれておるのは、あい分かった!」



 マシンガンのように次から次へと――途中同じ事も言っていたが――言葉が(はじ)き出され、ヒナタの顔面にズババババとクリティカルヒットする。

 しばし静寂が訪れた後、圧倒されっぱなしだったヒナタが半ば放心状態のままゆっくりと言葉を紡いだ。


「……全然一つじゃないじゃないか」


「うるさい()()()()の間違いじゃ」


 顔色一つ変えずに自分の間違いを肯定する無敵状態のヒメコに対し、ヒナタはこれ以上何も言い返す言葉が出てこなかった。


 そこでヒメコを纏う空気感が一変する。



「何度も言うが、あやつらに関しては何も心配せずとも良い。あの三人は、わたくしがあやつの傍に居ることを許した娘達である。おぬしがあやつらの事をどう視えているのか知らんが、至って普通の、ただ一心不乱に恋をしている乙女達なだけであるから、どうか安心して見守っていてくださいな。おぬしの危惧する思いは十分わたくしに届いておりまする」



 今まで感じる事のなかった、まるで幼子(おさなご)をあやす母親のような優しさを向けられたヒナタは、子供にしか見えない目の前の女性がどういった存在だったかを思い出す。


「……そうだったね。君がいるなら、僕なんかが口を挟む必要なんてなかったな」


「なんか……など、それこそ謙遜。おぬしがしっかりとあやつに気を配ってくれているからこそ、わたくしも気を許せるというものですよ」


「それは……光栄に思ってもいいのかな?」


「ふふふ、好きに受け取ってくださいな♪」


 そうして、しばし和やかなムードに(ひた)る二人。


 やがてヒナタが全てを納得したように一つ頷くと、ヒメコの目をきちっと見ながら思いを伝えた。


「分かった。僕がどれほど役に立てるかは分からないけど、今後可能な限り絆君のサポートをさせてもらうよ。それから君の言った通り、僕が君と出会ったこと、話したこと、あと君が絆君達と同じ家に住んでいるということは、守護霊の彼女達を含め誰にも言わない。これで問題ないだろうか?」


「うむん、あと母様(ははさま)には絶対内緒でな。くれぐれも、よろしくお願い致しますぞ」


 そうしてキリッとした顔で短い親指を立てているヒメコの姿に、ヒナタは再び子供相手の口調になりそうになった。



「それで、ここからどうすれば出られるんだろう?」


 一通り話し終えたヒナタが、そろそろ元の世界へ戻る意思をヒメコに伝える。


「ほいほい、それなら後ろに」


 するとヒメコが手に持っている扇子でヒナタの背後をチョンチョンと指した。


「えっ、後ろ?」


 そしてヒナタが言われた通り後ろを振り向くと――















「……は?」
















 そこは、元居た彼の家の廊下だった。













「えっ? これはどういう――」


 言いながらヒメコの方へ振り返ると、もうそこに彼女の姿はなく、ただ当たり前のように廊下の景色が広がっているだけだった。床の感触も気づかぬ内に廊下のそれに戻っている。






「…………まったく、君はいつもイキナリすぎなんですよ」






 全てが理解不能すぎて最早(もはや)肩を(すく)めることしか出来ないヒナタは、既に姿の見えなくなったヒメコに苦笑いで答えた。




「貴女との約束、しっかりと守らせていただきます…………ヒメコさん」




 ヒナタは気分一新な思いで誓いを立てると、二人と()()の待つリビングへと戻っていった――





え~今回の枠ですが、おそらく過去一長い枠だったと思います。

読みづらくて本当に申し訳ありません。


理由ですが、…………はい、途中で切れる場面がなかったからです。

前回の時に《反省はしない》と言いましたが、やはり思うところはあります。


…………


…………


許してくれぇ!!!!


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