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47.毒舌乱舞


 赤マジックで『立ち入り禁止』と書かれた貼り紙付きの屋上扉のドアノブを捻ると、キィィと音を立てドアが開く。

 すんなりと開放されたドアの向こう側に目をやると、すぐに自分達を呼び出した張本人の姿が見えた。フェンスに指をかけ、来訪者の顔を見るや否や不機嫌全開の表情に変わる。


「来たわね」


 そう呟くとそそくさとこっちに歩いてくるナノ。


「おい、なんでわざわざこんなとこに――」


「――待ってキズナ。佐久間くん、とりあえずドア閉めて」


「ん? ああ」


 無愛想な声でナノに指示された義輝が言われた通りに屋上のドアを閉める。するといきなりオレの手を掴んで屋上の中心まで歩かされた。


「待て待てナノ、意味分かんねえぞッ」


「念の為よ、ドアの近くだとくだらない盗み聞きをされるかもしれないからね。貴方もこっち来て」


 最後の一言だけあからさまに冷たい言い方をしたナノが、ドアの前でポカンとしている義輝を顎で促す。そして義輝はさっき食堂で会った時とはまるで雰囲気の違うナノの言動に一瞬思考が麻痺していたようだが、いきなりウンウン頷くとどこか清々しい顔つきで歩み寄った。


「なにヘラヘラしてんの?」


「いやぁ、そういえばこの感じが本当の柊木さんだったなぁ〜と思っ――」


「――昨日」


 と、義輝が言い終わる前に強めに口を挟むナノ。


「忠告したわよ? 知った風な口を利くなって。とりあえず不愉快だから手短に要件だけ伝えるわ」


 さっきから横暴極まりない態度で義輝に接しているのを見て、さすがにカチンときた。


「オマエなあッ、こっちはオマエに呼ばれたからわざわざ二人で来てやったんだぞッ!? どんな神経でそんな偉そうなこと言ってんだよッ!」


「聞いてキズナ、先にケンカを売ってきたのはこの男なの」



「なにィ!?」

「はいぃいいいイイッ!?Σ」



 それを聞いて驚愕に目を見開いたのは義輝。オマエはよりにもよって、敵対してはいけない校内ランキング最強クラスのナノに何をしやがったんだ?


「ちょちょちょ待てって柊木さんッ! 俺何かしたかッ!? いやマジで今日この瞬間まで柊木さんと話しすらしなかったぞッ!?」


「義輝、悪いことは言わん、謝っておくんだ」


「うおぉいキズナくぅん!? 今日ずっと俺と一緒に居たよなぁッ!? ぁーいや、ずっとではないか。いや待て待て待てッ、だとしても俺はッ――」


「――ごちゃごちゃ五月蝿いのよ。朝っぱらから人のモノに手を出すクズ男が」


「おいどんだけ口悪ぃんだよ柊木さんッ!? キズナ、これが柊木さんの本性か!?」


「ぁー」


「ちょっとキズナッ!!」


「……ノーコメントで」


 すまん義輝、ナノの事に関してオレから言える事は何もない。どうか分かってくれ。


「なんだよそれッ。大体なぁ、俺は柊木さんの私物なんて一つも触れてねえよ!! てか今まで触れたこともねえよ!!」


「アンタ思いっきりキズナに抱きついてた分際でよくそんなシラを切れるわねッ!? 二度と校内を歩けなくしてやろうかッ!?」


「いやオレのことかよッ!Σ」

「いやキズナのことかよッ!Σ」



 ――ビュオオオオ!!!!



「うおっ、なんだこの風はッ!?」


「チッ、どいつもこいつもメンドくさいわねッ……!」


 突然吹き荒れた暴風に顔を庇う義輝と、ただ一点――オレの真後ろを強烈な敵意で睨みつけるナノ。この風も恐らくみんなからの何かしらのアクションなのかもしれない。


「アンタ達の話は後でしてやるから、ちょっと黙ってなさいッ!」


 怒りの眼差しでオレの後ろにきっぱりと言い放ったナノが、再び義輝の方をキッと睨む。よく見るとナノの身体が小刻みに震えていた。


「おいナノ落ち着け」


「私は落ち着いてるわッ」


「嘘つけ、身体震えてんだろうが」


「ソイツらがとんでもない殺気向けてきてるから抵抗してるのよ! ったく、どんだけ嫉妬してるのよクソッ。でも負けないわよ、絶対にッ……!」


 ぎゅっと握り拳を作り必死に重圧を押し返そうとするナノだが、そんな姿を見せられてはオレも止めずにはいられなかった。


「ユイ、ミヤビ、カエデ、もし今ナノに何かしているなら、すぐにやめてくれないか? お願いだ」


 するとナノの身体から瞬く間に緊張の色が薄れた。


 自由になったナノが少し驚いた表情でこっちを振り向く。


「アンタ達って、ホント単純なのね」


「オマエなぁ……」


 気が楽になった途端、すぐみんなにふっかけやがる生意気な幼なじみ。なんでコイツはいつもこんな態度なんだろうな。


「みんな、お願い聞いてくれてありがとな。毎回コイツの態度悪くてホントごめん」


「いちいちそんな事言わなくてもいいから!」


 なんてナノと言い合っていると――


「すげぇ! やっぱりすげぇ! 夢みたいだ!」


 勝手に興奮し始めた義輝が目をキラキラ輝かせながらピョンピョン飛び跳ねていた。子供かオマエは。


「なあ柊木さんッ、皆様から送られる感覚ってどんな感じなんだ!? やっぱゾクゾクって感じなのか!? くそぉ、俺もその感覚を味わってみてぇ!! 皆様ッ、どうか俺にも――」



「――黙れ義輝」

「――黙れ変態」



 偶然にも重なった有無を言わせぬ一撃に赤ウサギ野郎がピタッと止まる。


 そして哀しそうに「辛辣なんだよなぁ〜」と俯き嘆いていた。


「とりあえず、貴方はキズナと過剰なスキンシップを取らないで。いくら男同士でもそれは許さない」


「いやマジでオマエはオレの何なんだ? 何を勝手に決めてるのかな?」


「じゃあキズナは佐久間くんにスキンシップ取られても良いって言うの?」


「良いわけねえだろ」


「おいそれは何か傷ついたぞキズナ!」


「オマエは話しをややこしくすんなッ!!」


 何故にコイツはわざわざ勘違いされそうな事を言うんだろうか。


「でもまあ、俺だって柊木さんの気持ちは分かるつもりだから、いくら不可抗力とはいえ今回は俺が悪かったよ。ごめんな」


 普通に考えれば『自分だって被害者の一人だ』とすぐに反論しようものなのに、素直に頭を下げる義輝を見てちょっと意外に思う。


(まさかコイツがこんな紳士的な対応を取れるとはな)


 これに関してはナノも同じ事を感じたのか、毒気を抜かれたような表情で一つ溜め息を吐くと「もういいわよ」とだけ言ってこの一件を水に流したようだった。


「というわけでナノ、これで話しは終わりなんだろ? なんでオマエが屋上の使用許可持ってんのか分かんねえけど、とりあえず用が済んだんならもうオレ達行くから。最後ちゃんと鍵閉めとけよ?」


「そうね、佐久間くんはもう行っていいわ」


「……は?」


 おい待て、義輝()()行っていいだと?


「いや、キズナがまだなら別にここで待とうって思うんだけど」


「佐久間くん、私とキズナの()()()()で話しがしたいの」


「…………あぁ……!」


 すると義輝が何かを察したのか、ポンと手を叩くとオレに向かって親指を立てた。


「安心してくれキズナ、邪魔者はすぐに消える!」


「はい?」


「じゃあまた後でな、がんばれよ!」


 それだけ言うと、オレの返事を待たずに何故か満足したような笑顔でウンウン頷きながら校舎の中へと戻っていった。





「あと十分ちょい……か」


 ナノはナノで、険しい顔つきでスマホを見ながらブツブツと呟いている。


「おい、オレだけ残していったい何の用なんだ? 話しがあるなら早くしてくれ」


 するとナノが「まあ別にいっか」と何かを決断したように顔を上げ、オレの方へとツカツカ歩いてきた。


「って、おい待てナノッ、近い近い!」


 お互いの制服が重なるくらい近づいてきたナノの両肩を反射的に掴んで距離を保とうとしたが、ナノがクルっと身体を反転させるとオレの胸元に背中を預けてきやがった。


「おまッ、なにしてッ――」


「――私の身体、しっかり支えててねキズナ♪」


「はあ!?」


 訳も分からず両肩を掴んだまま訊き返すと、ナノがゆっくりと深呼吸をする。


 そして、力強い眼差しでこう言った。






「ちょっとアイツらに会ってくる」



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