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45.聞かぬは一生の恥とそれなりのリスクもありまして


 午前一限目。

 絆が授業に集中している一方で、とある生徒を直視しながら考え事をしていた楓は雅と唯に声をかけた。


「ねえ、二人とも」


「んー?」


「なぁに〜?」


 後ろから絆の首元に抱きついて眉を寄せながらノートを覗いている頭の中ちんぷんかんぷんな雅と、机の横にしゃがみ込んで興味深そうにノートと黒板を見返す唯が揃って楓の方を向く。


「少し考えたのだけれど、そこに居る佐久間という男……意外と悪くないんじゃないかしら?」



「…………え"……?」

「…………え"……?」



 真面目な顔でとんでもない事をカミングアウトした楓に、明らかに否定的な声を上げた雅と唯がパキッと固まる。なんならあまり人様には向けられないような乙女らしからぬ表情にピシッとヒビまで入っている。


「ちょ、ちょっとカエデ……本気で言ってるの?」


 最初に反応した雅がブンブンと身体に(まと)わりついた固まりを振り払ってから、努めて冷静に真偽を問う。


「ええ、割と本気よ」


「ヒョオオオオオオーー!?」


 変わらず真剣な表情を見せる楓に、雅はあまりの衝撃で目と口を大きく縦に開いたままガクガクと震えていた。


「ねえカエデッ、急にどうしたのよッ!?」


 遅れて我に返った唯が、これは只事ではないといった様子で楓の肩を掴む。


「なにが?」


「なにがじゃないわよッ!! まさかこの人のこと好きになっちゃったの!?」


「馬鹿なこと言わないで唯、反吐が出るわ」


「ヘドッ!?Σ」


 一切感情の揺らぎなく吐き捨てるように放った楓の言葉を聞いた唯は驚きから一転、『なぁ~んだ、いつものカエデじゃん♪』なんて一安心した様子で、掻きもしない額の汗を手の甲で拭っていた。

 

「馬鹿なこと言い始めたのはアンタなのよカエデ!? いったい何でそんな話しが出てくるのよ!?」


 どうにも楓の意図が分からない雅が、詳細を促すように問い詰める。


「よく考えてみて二人とも。その男は今、間違いなく私達に興味を示している。いえ、心酔しているといっても過言ではないわ」


「それはまあ、確かにそんな感じだったけど……」


 言われて唯がチラリと義輝を見る。

 彼は教科書を持ちながら、うつらうつら眠気と闘っていた。

 ちなみに先程教室に入ってすぐ義輝に声をかけられた三人だったが、決して向かい合うことのないようスススッと身体を横にずらしていた。


「それが何だっていうのよ? 言っとくけど、こんな奴とじゃれ合うつもりはないわよッ? あんなッ…………あんなッ……ダーリンと抱き合うような男となんてッ……!」


 先程の出来事を思い出した雅が徐々に怒りを露わにする。しかしその表情は、どこかほんのり紅潮しているようにも見える。


「あら雅、なんだか顔が赤いわよ?」


「なっ!? そんなワケないでしょッ!?」


「まさかッ……この人のこと好きに――」


「――なるかボケェーーッ!!!!」


 すぐさま鬼の形相で叫んだ雅が全力で唯のこめかみをグリグリする。ちょっとからかっただけの唯は涙目になりながら「ごごごめん許ひぃ〜!!」とワタワタしていた。


「ああ、そういう事」


 そこで、顎に手を添えて雅の事を見ていた楓が何かに思い当たったような仕草で口を開いた。


「ちょっとカエデ! 何が『そういう事』なのよ!?」


 どこか嫌な予感を覚えた雅が勢いよく楓の方へ振り向く。ちなみに雅の魔の手から解放された唯は、こめかみを押さえながらウーンウーンと悶えていた。


「フフッ、なんでもないわ、雅。程々に……ね」


「いや待ってワケ分かんないわよカエデッ!? あとアンタのその笑顔メチャクチャ不安になるからホントやめてッ!!」


 心の中を洗いざらい覗かれているような楓の意味深な表情に、雅の顔色が困惑と焦りに染まる。そしてそんな雅の戸惑う姿を見た楓は『まだ本人に自覚なし』と密かに心に留めておいた。


「それで本題に戻るのだけれど、そこに居る佐久間という男が私達の事に心酔しているのなら、それを利用しない手はないと思ったの」


「利用って、具体的にどうするのよ?」


 まだ少し顔を歪めた唯がこめかみを押さえながら尋ねる。


「当然、私達やご主人様にとって有益になるようそれとなく仕向けるの。ここ数日の彼の言動を見る限り、まず間違いなく協力的な姿勢を見せてくると思うわ」


「ん〜アタシ達の味方になってくれるんなら、ちょっとくらいは歓迎してあげなくもない事もないけどぉ〜…………どうやって伝えるの?」


 腕を組み本当に渋々といった様子で了承する唯が、いつもの根本的な問題点をぼやく。


「アナタよ、唯」


「ぃい!?」


 まるで当たり前のような空気で告げる楓に、唯が目を見開く。


「アナタが柊木名乃と入れ替わっている間に伝えるの」


「そそ、そんな簡単に言うけど、柊木さんがいつ何処で入れ替わってくれるのかも分かんないし、そもそもその時にこの男が居なかったら結局伝えられないよッ!?」


「そうね。だから……」


 そう言うと、楓がほんの少し敵意を向けるような視線を名乃の背中に送った。

 真面目に授業を聞いていた名乃は、突如後ろから突き刺さった――まるで心臓を掴まれるような悍ましい気配に一瞬全身が硬直したが、その狂気に飲み込まれないようより強烈な敵意を全身に纏い、周りのクラスメイトに怪しまれないようゆっくりと振り向いた。守護霊である三人の姿を明確に視ることの出来ない名乃だが、偶然にも楓と視線が重なる。


「その辺りの事を、今夜柊木名乃に話してみようと思うの。ちょうど向こうも私達に話しがあるみたいですし、ウフフ」


 自分の敵意に怯まないどころか対抗心をぶつけてくる名乃の怒り(オモイ)を真摯に受け止める楓が、楽しそうに微笑む。本音を言えば、自分の視線に気づいてくれたことに少しばかり嬉しさを感じていた。


「そんな簡単に上手くいくかしら?」


 話しを聞いていた雅が露骨に溜め息を吐きながら名乃に目をやる。


 ――昨日といい今朝といい、この柊木名乃という女は自分達に対してあまりにも敵対心を剥き出しにし過ぎている。


 裏を返せばそれだけ絆のことが好きということなのだろうけど、雅にはそんな柊木名乃が恋敵である自分達に協力的な姿勢を見せるとは到底思えなかった。


「別にケンカ腰になる訳ではないわよ? あくまで穏便に、そして円滑に話しを進めていく事が出来れば、それで良いと思っているわ」


「ふーん、なんだか随分とあの女に譲歩してるように見えるけど……?」


「当然よ、ご主人様がそれを望んでいるんですもの。だから柊木名乃とそこの佐久間という男に対しては、出来れば良好な関係を築けたらと私は思っているわ」


「いや、さっきまで利用するだとか言ってたような……」


「その男が私達と話しをしてみたいと懇願しているのよ? なら私達のお願いだって聞いて然るべきだと思うの。それが親しき仲というものなのではないかしら?」


「……まあ、確かにそうとも言えるわね」


「つまりウィンウィンな関係ってやつだね、納得」


「うぃん……うぃん……? ……そう、うぃんうぃんよ、唯」


 一瞬きょとんとした楓だったが、直後キリッとした顔つきに戻るとあたかもその通りだと言わんばかりに鷹揚に頷いた。

 楓が全然意味を理解していないことなどすぐに気付いた唯だったが、その迫真の瞳を向けられてしまっては最早何も突っ込めなかった。


「ともかく、柊木名乃との入れ替わりの際はくれぐれもお願いするわね、唯」


「そこは何とかがんばってみるけど、みんなもちゃんとアタシのことサポートしてよね?」


「ええ、分かっているわ」


「あの女が何かしようものならワタシが全力で止めてあげるから、そこは心配しないで」


 楓と雅が了承の意を見せると、三人は今夜訪れるであろう決戦へ向けて、改めて団結を強固なものにするのだった――――




絆が授業を受けている間、守護霊の彼女達は普段なにをしているのかという疑問ですが――


雅は後ろから絆に抱きついてよく分からないノートや教科書を覗いてるのがほとんどです。特に理解しようとしている訳ではなく、単に絆に抱きつく口実が欲しいだけですね。


唯は割と興味深く授業を聞いていますが、あまりに退屈な授業は教師の説明を子守唄にして教室内をふわふわ漂っています。


楓は絆の後ろで慎ましく待機しており、教室内や外に異変がないか常に警戒しています。


今回こそ騒がしかったものの、基本的には三人とも授業中は静かにするというマナーを尊重しているようで、自分達の声が周りに届かないとはいえ一応黙っています。

因みに雅は最初こそうるさかったですが、唯に説明されて理解しました。えらいぞ。


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