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41.始まり始まり 〜 つむぎ合い 〜


 真っ暗闇にスポットライトが一つ照らされる。


 そこには、至極色(しごくいろ)をベースに彩られた振袖を着こなす幼女が一人、固く瞳を閉じたまま思わず見惚れてしまう程の美しい所作で正座していた。繊細な花の装飾が施された金色の(かんざし)は幼女の艶のある黒髪ロングヘア―にとてもよく似合っており、振袖と相まって古風で高貴な令嬢を容易に連想させられる。手前には折りたたまれた金の扇子が寸分のズレもなく丁重に置かれていた。

 程なくして、幼女の瞳がゆっくりと開かれると、研ぎ澄まされた眼差しで()()()を見()った。


「どうも皆さま、初めまして。若しくは改めまして。わたくし、ヒメコと申しますよ」


 年相応の声色だが、その口調は幼い子供からは想像も出来ないほどの落ち着きと気品さに溢れている。


「実はわたくし、まだまだ一人前とは言えぬ愚弟が一人おるのですが、そやつがどうにも『好き』という感情に翻弄されておるようで、昨日から(ろく)に睡眠も取らず思い悩んでいるようなのです。まったく、そんな気持ちでいったいどのようにあの()達と接してゆくつもりなのか、姉の身としては何ともモヤモヤする思いで仕方ないのでありますよ。ほんに恋というものは、一筋縄ではいかぬ代物(しろもの)であるな」


 言いながら思いつめたように頭を横に振るヒメコ。


「まあ、それもこれも全て、あやつにとって良い人生経験となろうて。今はまだ、事の成り行きをじっくり見守るとしようかのぉ」


 そうしてヒメコが大人びた微笑ましい様子で一つ溜め息を吐くと、今一度引き締めた顔つきに戻った。


「さて、もうじきあやつが出かける頃合い故、わたくしもそろそろ〆の言葉と致しましょうぞ」


 心なしかドヤ顔になったヒメコが手前に置いてある金の扇子をスッと手に取ると、ゆっくりと掲げるように手を伸ばし、すかさず決めポーズよろしくビシッとこちらに突き付けた。

 そして――



「そんなわけで、トリトリ、始まり始――」








 ――ピーンポーーン








「…………」







 突然鳴り響いた家のチャイムに、ヒメコがこちらに扇子を突き付けたまま固まる。

 その表情はドヤ顔ながらも、一筋の汗が流れ落ちていた。



「…………ふむ」



 何食わぬ顔で扇子を持った手を一度引くと、もう一度、今度は勢いよくズバッと手を掲げてビシィっと扇子をこちらに突き出した。

 ――そして



「そんなわけで、トリトリ、始ま――」







 ――ピンポンピンポーーンピンポーーン








「…………」





 今度は連打された家のチャイムに、無情にもヒメコの決め台詞はかき消された。

 その表情はドヤ顔ながらも、ピクピクと眉が動いていた。



「…………あの小娘め……」



 そう呟いたヒメコが一気に脱力したように扇子を持った手をだらりとさせた。


「まったく、人がせっかく気合を入れておーぷにんぐの挨拶をしようとしたというのに、まったく」


 そんな気品のかけらもない愚痴をブツブツと言いながら立ち上がると、凝り固まった肩をぐるんと一回転させて――



「そんなわけで、トリトリ、始まり始まりですよ~」


 邪魔されたことにムッとしているのか、ちょっとばかし()()()()()()で言い放った――






はい、そんな訳で始まりました新たなエピソード。

もはやヒメコが先陣を切るのが当たり前になっているようです。


カッコつけたのにやりなおしって、気まずいよね!

次回から本編です。

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