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38.ちょっとした本音


 不自然な形に配置されていた教室内の机を元の位置――恐らく合っている――に戻した後、延々と二人から質問攻めをされるように帰りながら先程発覚した新事実を思い返していた。


「まさか義輝に電話してから一瞬しか時間が経っていなかったとはな」


 あの後教室で時計を見た時は本当に驚いた。まさかあれほどの体験をしたというのに全く時間が経過していなかったのだ。今しがたようやく帰ってくれた義輝にも教室から出る前に確認をとったのだが『お前から電話がかかってきた瞬間にダッシュで向かった』とのことだった。


「何言ってんのよ、私なんて幽体離脱したのよ? 自分でもまだ信じられないわ」


 隣で歩いているナノが未だ興奮冷めやらぬ様子で自分の身体を見回す。きっとオレなんかには想像も出来ないような未知の感覚を味わったんだろう。


「なんかお互い不思議な体験したな」


「そんな簡単に片付けていい問題なのかしら……。大体、幽体離脱に関しては完全にユイのせいだからね、まったく……聞こえてるんでしょー?」


 そう言って気怠げにオレの後ろへ呼びかけるナノ。さっき教室で義輝とナノに詰め寄られた時に守護霊であるみんなのことを話したので、そこに居るという認識は二人とも持ってくれている。ただしオレと同じで守護霊のみんなを視ることは出来ないが。

 まあ話したといっても、名前と自分の傍で見守ってくれていることくらいしか知らなかったので、逆にナノの方から三人の容姿を聞かされた時は本当に驚いた。ちなみにユイとは元の身体に戻る際に、共通意識みたいな空間の中ですれ違ったらしい。


「なんかオマエ、オレよりナチュラルに話しかけてくれてるけど、もしかしていい感じに仲良くなってくれたのか?」


「そんなワケないでしょッ!! あっ……」


 いきなり大声を出したナノが思わずといった顔で口元を押さえる。そして辺りをキョロキョロと見渡した後、ホッとしたように息を吐いた。


「危なかったぁ。……なんか、この人達の事になるとどうにも気が緩みがちになるわね。ホント調子狂うわ」


「オマエが誰かに翻弄されるとかメチャクチャ珍しいな。そもそも本性隠さずに話してるし」


「初対面があんな状況だったんだから仕方ないじゃないのッ。大体、幽体離脱した状態で他人と接するなんてシミュレーションしてるわけないでしょ? お陰で10年の努力が無駄に終わったわ」


 そう言っていじけたような仕草で鼻息を荒げるナノ。なんか今日のコイツ、素直な反応が多いな。


「それにさ、外に出る時はいつもキズナの後ろについて来てるんでしょ?」


「そうだな、むしろ今日で確信持てた」


「だったらとっくに普段の私のことなんてバレてるわよ。ったく、霊の存在なんて気付けるワケないじゃない」


「ああ、そういえば昨日だったかドヤ顔で問題ないみたいなこと言ってたな」


 ふと、昨日渡り廊下で自信たっぷりに豪語していたナノの姿を思い出して、皮肉めいた言い方になってしまう。


「ちょっとキズナったら、私をイジめて楽しむだなんてゾクゾクしちゃ……いやダメね、三人に見られてると思うとイマイチ興が乗らないわ」


 活き活きとした表情になったかとおもえば急に萎れた花のように陰鬱さを表に出すナノ。忙しいヤツだ。


「まあ、その方がオレは楽でいいけど」


「もぉ、ホントそっけないんだからぁ〜」


「そういうオマエも、義輝にはちょっと冷たすぎだと思うぞ?」


「ぁー……あれは本当に油断してた」


 心から失敗を悔やんでいるような声を出したナノが、額に手を当てながら項垂れる。


「目に見えない存在なら納得出来る。いや許せないけど、まだ()()()()と割り切れる。でも普通の人に――それもクラスメイトに知られたっていうのがもう……ハァ…………やっちゃったなぁ……」


「そんなに落ち込むほどのことなのか?」


「当たり前じゃないッ。せっかくキズナだけが知ってる秘密だったのに……」


 勢いよく顔を上げたかと思えば、またすぐいじけてしまうナノ。


「いや、オマエさ、いつもオレだけオレだけとか言ってるけど、もしかしてお互いの母親の事忘れてやしませんか?」


「ぁーあの二人はいいの、関わるだけ時間の無駄だから」


 まるで煙たいものでも扱うようにヒラヒラと手を振って話を一蹴するナノだが、あながち間違いでもないってのが実情である。


 ――あの二人が揃うと色々とメンドクサイのだ。


 だから露骨に嫌がっているナノの気持ちも分からないでもなかった。


 そうこうしている間にお互いの家に着いたが、別れ際に重要なことを思い出す。


「そうだナノ、例の約束の件、頼んだからな」


「約束……ああ、佐久間くんとの関係?」


 悪気を感じさせないケロっとした顔で悪意満載の言い回しをしやがるナノに一瞬イラッとしたが、なんとか気持ちを抑えて答える。


「……まあ、それだ」


「うーん……でも私が出した条件守ってもらってないしな〜」


「はぁ!?」


 顎に人差し指を添えて惚けるように首を傾げるナノに、思わず詰め寄る。流石に今の発言は容認出来なかった。


「オマエに言われた通り一緒に調査しただろうがッ。さすがにそれは引くぞッ?」


「確かに一緒に校内を歩いたかもしれないけど、私すぐに気を失ったんだよ? だから全然満足してない」


 これに関してはナノの中でも思うところがあるのか、いっさい譲る気がないと()が言ってきている。


「おまッ、そりゃ確かにそうかもしれねえけど、そんな事言い出したらオマエの言う満足感なんていくらでも不正が利くじゃねえかッ!」


「やだなぁ、そんないじわるするワケないじゃないの。てゆーか…………凄いね、キズナの周りから一気に嫌な空気が溢れたの分かっちゃった。これってもしかしてユイ達と関わった影響なのかな」


「マジかよ!?」


 言われて後ろを振り向いてみるが、やはりというか、みんなの気配は全く感じなかった。


「へぇ〜、なんかゾワゾワってくるわね。さっき雅に睨まれた時の感覚に近いかも」


「ミヤビに睨まれたって……オマエみんなに変なことしてないだろうな?」


「してないわよッ! あーもぉまたそうやって三人の味方になるのホンットに悔しい!!」


 途端にナノが激しく訴えかけるように足をドンドンする。そんなに強く地面を踏んで絶対自分の足が痛いと思うぞ?


「あのなぁ、今日のオマエの態度見てたら誰彼構わずちょっかい出しててメチャクチャ疑わしいんだよッ」


「私のことをちゃんと見てたっていうのは高評価よキズナ! これからもどんどん見続けて、()()()をッ!!」


「いや受け取り方天才かッ!?Σ」


 コイツと会話してると本当に疲れが溜まる。もう本気で言ってるのかおちょくってるのか全然分からん。


「まあとりあえず今日はこれで帰るけどさ、私が居ないからって手を出すと許さないからね?」


「手を出す以前にそもそも視えないって言ってんだろうが。何の心配してんだオマエは」


「キズナに言ったんじゃないよ。警告したのは後ろの三人」


 よく見ると、確かにナノの視線が若干オレから外れていた。


「幸いアンタ達もキズナに触れることは出来ないみたいだけど、夜中にちょっとでもキズナの悲鳴が聞こえたらすぐに飛んで行くから覚悟してて」


「乙女かオレはッ!! とにかく明日改めて例の件について話すからな、今日はもう早く家に入れ。また明日な、おつかれ」


「ひっど! ちょっと強引すぎない!? 私は本気で心配してるのに……」


「オレはオマエの将来が心配だわ。ほら、もう話しは終わり、じゃあな」


「もぉ、分かったわよ。また明日ね、キズナ」


「ああ」


 そう言って門の前で別れると、ほとんど同時にそれぞれの玄関の戸を開けた。

 最後までこちらを気にしている様子のナノだったが、敢えて気づいていないフリをした。



「はぁ〜、ホント疲れる」


 鍵をかけ、いつものように人気(ひとけ)のないリビングの明かりをつけて、鞄をソファの端に立て掛けるとそのままソファに倒れ込む。

 しかし――


「待った、寝てる場合じゃねえッ」


 大切なことを思い出してすぐ飛び起きる。

 あれから義輝やらナノに邪魔をされて、ちゃんとしたお礼を言わないまま有耶無耶になっていた。


「みんな、今日は色々あったけど……ホントにありがとう。お陰でナノを助けることが出来て、本当に良かった。まあさっきのアイツにはさすがにイラっとしたけど、それでも家族みたいなもんだから、ホント……感謝してるよ」


 相変わらず三人の気配は感じないが、もうそこに居ることは自分の中で確立しているので、宙に視線を向けながらお礼を言う。当然ながら返事は返ってこないが、気にせずに話しを続ける。


「でも目を覚ましたナノが、ミヤビや……もしかしたらカエデとユイにも迷惑かけたみたいで、なんて言うか…………ごめん」


 実際どのようなやり取りがあったかは知らないが、そもそもさっきのナノだって全然褒められた態度ではなかったから、それも兼ねて頭を下げる。


「結果的にナノと義輝にみんなの事を話すことになったけど、アイツらも別に悪いヤツってわけじゃないんだ。だから……これはオレのワガママかもしれないけど、少しだけでもアイツらの事を認めてくれたら……やっぱ嬉しいかな」


 不思議と嘘偽りのない思いが自然と言葉になって出てきたが、突如猛烈に恥ずかしさが全身を駆け巡ると、その場にいたたまれなくなってきた。


「いや何言ってんだオレは……。ごめん、やっぱ今のナシ! 忘れてくれ! なんでアイツらの事なんか気にかけてんだよ」


 らしくないにも程がある。

 オレは気を紛らわすように立ち上がると、みんなに部屋へ戻ると伝えリビングから逃げた――





※名乃が教室の中央で倒れていたことについて


これは教室の戸の前で気を失った後、教室内に居た女の霊によってズルズルと中央まで引きずり込まれたのが原因です。がっつり干渉されてます。簡単に説明してますけど、普通に怖いですね。


で、この霊なんですけど、楓と雅も薄々気づいていましたが実は《生霊》です。それも現世から隔離された空間を生み出せるほど強力な生霊です。思考こそ単調だったものの、その空間に恨みの対象となる人間を誘い込める相当ヤバい奴でした。


この隔離された空間の名称や詳細はいずれ本編で明かされる予定ですが、とりあえず今は……


『招かれざる者が出入りするのは容易じゃない』

『時間の流れが現世に当てはまらない』


この二つだけ把握していただければオーケーです。


結果的に雅が扉を蹴破った事で一時的に空間を繋げられたから良かったものの、あのまま放置していたら、いったい名乃はどうなっていたんでしょうねー。


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