24.そのチャレンジ精神に敬意を
学校での一日を終え、絆と共にようやく家に帰ってきた守護霊の三人はそれぞれリラックスした雰囲気でリビングに入った。
「ふぃ〜帰ってきたぁ〜!」
「やっとこれで誰にも邪魔されずダーリンと過ごせるわ!」
「毎日学校に通って勉学に勤しむ姿、ご主人様は本当に努力なさっているわね」
「一緒に学校生活送れたらアタシ達もきっと楽しいんだろうな〜」
「楽しんで……いるのかしら?」
少し眉を寄せた楓がリビングに入るなりうつ伏せでソファーに寝そべる絆を観察する。
誰がどう見ても今の絆の姿に気力というものは感じられなかった。
「まあ、ちょっと精神的に参っちゃってるけどね」
「あの女よ! あの女が全て悪いの! 何よ夫婦って! 調子に乗るのも大概にしなさいよ!」
「柊木さん、絆くんとの接し方がホント上手いのよねー」
「羨ましい……」
「ダメよカエデ! あんなの羨ましくも何ともないの! お願い負けを認めないで!」
一人感情の昂る雅が虚無の瞳で虚空の一点を見つめる楓に呼びかける。
そんなつい最近見たような光景を目の当たりにした唯は『このやり取り今後も続くのかな』と少々嫌気がさしていた。
「何とかダーリンとの関係でアドバンテージを取らないと!!」
「そうは言っても、結局今朝話した問題にぶち当たっちゃうのよね〜」
唯の言う通り、どれだけアドバンテージを取ろうとしたところで気づいてもらえなければ意味がないのが実状である。
「もどかしいわね」
「あっ、そういえばミヤビさぁ〜、今日すごく現世に干渉できてなかった?」
「ん? そうだっけ?」
「確かに、ご主人様もあの女も雅の干渉に何度か反応していたわね」
「う〜ん、自分では意識して干渉しようとしてる訳じゃないから全然分かんないの。なんかコントロールの仕方が分からなくて」
「痒いところに手が届いてないって感じね」
「……もしかして、ご主人様に認識してもらえた事によって、私達と現世との繋がりに何らかの変化が生じているのかしら?」
「もしそうだとしたら最高に嬉しいんだけど、そんなご都合主義ってある?」
「試しに今、絆くんに触れてみたら?」
「今日も何度もダーリンに触れようとしたんだけど……」
そう言ってうつ伏せになっている絆の背中を触れようとした雅だが、直前で思い留まるとチラリと唯を見た。
「アンタからダーリンに触れていいだなんて言われるの、何か引っかかるわね。ひょっとして変なこと考えてない?」
すると疑いの眼差しを向けられた唯のボルテージが一気に上昇した。
「なんにも考えてないわよバカちんッ。アタシ達の中ならアンタくらいしか触れる可能性がないから仕方なく提案してあげてるの! イヤなら全然しなくていいわ!」
「誰もイヤだなんて言ってないでしょ!? なに急に怒ってるのよ。それに誰がバカちんで――」
「――早くなさい雅。ごちゃごちゃ五月蝿いわよ」
「あ、ハイ」
有無を言わせぬ楓の視線に大人しく従う雅。
一度深呼吸を挟み、祈る思いで絆の背中にそっと触れた――まさにその時、絆が身体を起こした。
「ダ……ダーリン! ホントにッ!?」
念願の瞬間に雅の顔がぱぁーっと明るくなった。
唯と楓もまさか展開に目を見開く。
しかし、絆は三人に呼びかける事もなくそのままリビングを出ていってしまった――
「ダメかぁ〜」
「駄目ね」
絆の反応に一瞬驚きを露わにした唯と楓が、腕を組みながら交互に口にする。
「……ねえ、今って触れ合うことが出来る流れなんじゃなかったの?」
祈り虚しく取り残された雅が、ぽそりと呟く。
「えっ? そう言われても……」
「この『もしかして!?』な展開、絶対に奇跡が起こると思ったのにッ」
悔しさに下唇を噛みながら天を仰ぐ雅。
そんな今しがた傷ついたばかり少女に、楓がしれっと声をかけた。
「残念ね、雅」
「……アンタ、ちょっと嬉しがってない?」
「まさか、ご主人様に伝える手段を得られなくてとても残念に思っているわ」
「そういうことはニヤニヤしながら言うものじゃないのよ」
「まあ伝える手段がミヤビだけっていうのもなんか癪だものね」
「ちょッ、この件に関してはお互い歪み合ってる場合じゃないでしょ!?」
「確かにその通りよ。その通りなんだけれど、なんていうか……そう、ムカつくの」
「ド直球ね!!」
「協力は惜しまないけど、抜け駆けも許せないの」
「ワガママなだけじゃないッ」
「もどかしいわね」
「だからそれはアンタ達がワガママじゃなくなれば済む話しなのッ」
「とりあえず今は絆くんのメンタルが心配だわ」
「そうね、かなりショックを引きずってるみたいだったから」
「ねえ都合の悪い部分だけ無視しないでくれる!?」
「あ~あ、アタシも現世に干渉してみたいな~」
「私達が出来たのだから、唯もきっと干渉できるようになるわよ」
「だと嬉しいな♪」
「ねえちょっとッ、ワタシを無視しないでよ! ねえったらーッ!!」
――――
――
『本当』と『ホント』の表記の違いについて
何となく伝わっていると勝手に解釈していますが、『本当』は『ホント』に比べてかなり重みが違います。
別に『ホント』が軽い気持ちという訳ではないですが、例えば日頃『ホント』表記で会話してるキャラが『本当』と言っていたら、その瞬間は割とガチで真剣な気持ちで話しています。
ただ、これがまた難しい事に、例えば『ホント』の後に続く言葉がカタカナ言葉の場合、ちょっと読みにくいという問題が発生してしまうので、その時は『ホント』ではなく『ほんと』、場合によっては『本当』と表記するかもしれません。