1.始まり始まり
真っ暗闇にスポットライトが一つ照らされる。
そこには、至極色をベースに彩られた振袖を着こなす幼女が一人、後ろ姿で正座していた。
よく見ると、無防備に背中をさらけ出しながら食事を堪能するハムスターのようにもそもそと動いている。
「あんむっ……パリッ……バリボリバリ、ぉお~ぅ、やはり母様は、分かっていらっしゃいますな。ズズズ…………ハァ~、至福キタコレ……んあ?」
何者かの気配を感じたのか、綺麗な所作で湯呑を持つ幼女がちらりとこちらを振り向くと、おぉっとと間の抜けた声を漏らし居住まいを正すよう向き直った。
健康的で瑞々しい肌に、切り揃えられた艶のある黒髪ロングヘアー。
後ろ髪には繊細な花の装飾を施された金色の簪が挿され、振袖と相まって古風で高貴な令嬢を際立たせている。
声は年相応に若く、目もぱちくりとして愛嬌のある顔立ちをしているが、その視線は妙に大人びた雰囲気を漂わせ、より一層の気品さを感じさせられる。
だが、そんな見目麗しい容姿とは裏腹に、幼女の言動の一つ一つが、なんというか……ババ臭かった。
「あぁ、これはこれはお見苦しいところを。どうもみなさま、初めまして。わたくし、ヒメコと申しますよ。いやぁ~わたくし最近、おせんべぇにハマっておりまして、熱いお茶と一緒にいただくとこれがまた格別に美味くてですな。まさに、至高の一時と言っても過言ではないと思っている訳でして……ぁぁすみません、わたくしの話しは一先ず置いといて、こほん」
誰がどう見てもわざとらしい咳を一つ挟む幼女。
「実は、わたくしめの弟分が何やらおかしな境遇に立たされておりまして、姉の身としては、それはもう行く末が心配で仕方ないのでありますよ。まったく、いつの世も、なんと複雑怪奇なものよ……………『恋』とはな」
どこか達観しきった眼差しで宙を見つめると、幼女は再び湯呑を手に取った。
「ズズズ…………ハァ~、はてさて、あやつらは今頃、どこで何をしておるのかのぉ」
そう言って大好物であろうおせんべぇとやらに手を伸ばすが、あっ……と再度間の抜けた声を出すと、何を思ったのか掴んだおせんべぇを決めポーズよろしくビシッとこちらに突き付け……
「そんなわけで、トリトリ、始まり始まりです」
何の恥じらいもなく、ドヤ顔で言い放った――――
という訳で、始まりました、トリトリ。
まずはこの作品を見つけていただいたこと、誠に感謝いたします。
稚拙な文章で『むっ……』と感じる部分もあるかと思いますが、そのモヤモヤした気持ちをグッと堪えていただき何卒よろしく長いですね、すみません。
さて、次回から本編です。
気長にお付き合いしていただけると幸いです。