1.鎮魂の飛空艇
あれから数年後…
全世界の人口およそ7割を失った100日の闇を乗り越え
それぞれの国は順調に復興を果たして行った
7割の人の命が失われたと言っても
食料の生産がそれほど少なくなった訳ではなく
むしろ食料が行き渡る事になって飢える者が居なくなった
加えて貴族達が子供の出産に給付金という形で高価な魔石を配り始めた事で
女達は何人も子供を産み私財を蓄えて行く
復興の名の下…又少し歪んだ世界が作られ始めて居た…
『ユートピア』
盗賊は娘4人と子供達を連れて港町に有る小さなあばら家へ戻って来ていた
勿論情報屋も家族の一員になって居る…内縁の関係だ
娘達4人は誰の子か分からない子を何人も産み、あばら家はまるで託児所の様に騒がしい
ワーイ ワーイ キャッキャ
盗賊「ちぃ…今日も商船入って来ねぇ」
情報屋「また港見てるの?」
盗賊「そろそろ食い物ん無くなるぞ?…商船入って来ねぇと商売にならん」
情報屋「あなたの船を動かしたら?」
盗賊「そうしたい所だが最近は海賊船がうろついてるらしくてな…俺の船は漁船じゃ無ぇから狙われ易いんだ」
情報屋「お金は沢山あるのに困ったわね」
盗賊「金じゃ腹膨れんしな…動物狩りにでも行くしか無ぇか…って…お?船がこっちに向かってるな」
情報屋「え!?本当?久しぶりね」
盗賊「俺の望遠鏡何処行った?」
情報屋「あなたもう忘れたの?木の上で覗いてたじゃない…」
盗賊「おおぅそうだった…よっと」ピョン
情報屋「見える?」
盗賊「ありゃセントラルの軍船だな…お前の仕事が来たぜ?」
情報屋「着替えて来る!」
盗賊「おい!!娘達も連れてけ…町に兵隊が降りてくんぞ」
情報屋「分かってる…」
盗賊「俺は港に降りて軍船の規模確かめて来る…なんでも良いから情報入手してこいな」
この家族は裕福とは言えない
何故なら港町での稼ぎは少ない上に成長盛りの子供達は食べ物をどんどん消費して行く
それでもこの数年は幸せな生活が続いた…
『軍船』
盗賊は軍船の船底にこびり付いた貝を削ぎ落す水夫に成りすまして軍船に近寄った
見張りの兵隊に小銭を貰い作業を始める…
ゴシゴシ ゴシゴシ
盗賊(こりゃかなり食い物乗ってそうだ…)
盗賊(あそこが荷室か…よし…夜に荷を海へ落としに来よう)
盗賊(ん?やけに兵隊が多いな…しかも大砲完備だ)
盗賊(どっかと戦うつもりなのか?)
盗賊(海賊狩りにしちゃ船が遅すぎんな…)
盗賊(しかしこんだけ兵隊多いと荷室も警備厳しいかもな…ちぃ)
盗賊(ちぃと様子見た方が安全か)
貝を削ぎ落しながら乗って居た船兵と港町の衛兵との会話を盗み聞きする
衛兵「2日の停泊か…兵隊はどのくらい町へ出る?」
船兵「50人ほど交代しながら休憩させます」
衛兵「今港町は食料難でな…あまり良い食事は期待出来ん」
船兵「酒と女が居れば問題ないですよ」
衛兵「ふん!町の中心街はあっちだ…羽目を外さない様に頼む…忙しくなるんでな」
船兵「わかってますよ」
衛兵「ちなみに武器の携帯は禁止だ…治安員に魔術師が居る事を忘れるな」
船兵「はいはい問題は起こさない様に言い聞かせておきます」
衛兵「下船許可!!」
船兵「よーし!!許可が出たぁ!!1班は24時間の自由時間とする!!2班は待機!!」
うおぉぉぉぉぉぉ
兵隊達はラフな軽装で続々と船を降り始めた
軍船での立ち寄り先で船を降りるのは兵隊達にとって何よりの楽しみなのだ
その分普段使わない金を惜しみなく使う
盗賊の娘達4人にして見ればカモだ…そして何人も子供が生まれた原因だった
衛兵「ったくセントラルの奴らは女女女女…下品な奴らばかりだ」ブツブツ
元々港町を守るために駐留している衛兵達は面白くない
他国の男達に女を奪われて居るのだから…
『夜』
町は活気で溢れていた…そこら中で飲めや歌えや…
普段売春をする事の無い女達もセントラルの高給取りとの関係を持ちたいのか町を出歩く
女達にしてみればセントラルの兵隊は憧れなのだ
そんな様子を横目に盗賊は行きつけの酒場に出向いた
ワイワイ ガヤガヤ
マスター「いらっしゃいませ…あぁ盗賊さんですね」
盗賊「おぉぉ今日は繁盛してんな?」
マスター「立ち飲みになってしまいますが…良かったですか?」
盗賊「一杯だけな…ほいコレ」ジャラ
マスター「いつものエール酒で良いですね?」
盗賊「おう…なんか面白い話聞けて無ぇか?」
マスター「面白いかどうかわかりませんがセントラルの方で大きな爆発事故があったそうですわ」
盗賊「ほう?面白そうじゃ無ぇか」
マスター「どうも城の真下にあった下水という所で事故があったとか」
盗賊「ほ~ん…そりゃまた変わった場所の事故だな」
マスター「ここからがオカルトネタですがね?爆発事故の現場で大量の死体が発見されて大騒ぎになったと聞きました」
盗賊「そりゃすげぇな」---カタコンベか---
マスター「セントラルの船兵に聞くともっと詳しく話してくれるかもしれませんよ?」
盗賊「おう…ちっと耳立てて置くわ」グビ
盗賊はエール酒を口に運びながら聞き耳を立てる
その姿はモテない男が詰まら無さそうにしている様に見える
ネーちゃん今日はどこで寝るの
おっぱいでパフパフ頼むぅ
おい逃げんなよぉ良いじゃ無ぇか
酒もってこい酒ぇぇ
俺は白狼の盗賊団知ってんだぜ?
お前知らねぇの?
ど派手な盗賊団なんだぞ?ホラこれが人相書きだ
白狼の盗賊団の噂を耳にして盗賊は腹の傷が痛んだ…ズキン
盗賊「……」---こいつ等いつの話をしているのか---
盗賊「……」---アホらしくて聞く気失せたわ---
マスター「いやぁぁみんな酒が回って来ましたねぇ」
盗賊「金を取りそびれない様にな?俺はそろそろ帰るわ…又な」ノシ
マスター「またのお越しをお待ちしております」
盗賊はそこら中で体を売る女が居る事を知って居た
そして生まれて来る子供達の殆どが孤児院に捨てられて行く事もだ…
一人酒場で酒を飲むのが急に虚しくなって店を出る
盗賊「はぁぁぁ…俺何してんだろうな…帰ってもっかい飲むかぁ!」
『墓』
女盗賊が眠るこの場所は夜になっても月明かりで海が薄っすら見える
海から吹き上げて来る風は生ぬるいがここで酔い潰れても気持ちよく寝られる
盗賊はいつもここで海を眺めながら酒を飲んで居た
盗賊「ぁぁぁ…まっずい酒だな」グビ
美味い酒は兵隊達に飲まれて残って居たのは余りの酒の混ぜ合わせ物だけだった
情報屋「やっぱりここに居たんだ…家に居なくて心配した」
盗賊「おぅ戻ったか…娘たちは?」
情報屋「久しぶりのお客さんで娘達も楽しんでるわ」
盗賊「そうか…そりゃ良かった…で…何か良い情報聞けたか?」
情報屋「セントラルで爆発事故」
盗賊「あぁ…そりゃ俺も聞いた…カタコンベだろ?」
情報屋「そう…他にもあってね?白狼の盗賊団」
盗賊「んん?そりゃ昔の話じゃ無ぇのか?」
情報屋「最近あちこちで目撃されているらしいわ…気になるでしょ?」
盗賊「マジか…そら嬉しい知らせだな」
情報屋「爆発事故が合った日も2人組の姿を見た人が居るのよ」
盗賊「ほう?…なんか俺の事みたいで嬉しくなるな…ただ見られるのはプロのやる事じゃ無ぇ」
情報屋「あなた…良いの?やらせておいて…」
盗賊「んんん…まぁ気にはなるが…会いに来ねえって事は関わって欲しくないんだろ」
情報屋「女海賊はまだ戦ってる…なんか放って置けないな」
盗賊「俺達はな…平和欲しさに勇者を魔王に売っちまった立場なんだ…伝説に託けてな」
情報屋「……」
盗賊「関わらせて下さいなんて言えると思うか?」
情報屋「でもそれしか方法が無かったのだから…」
盗賊「俺はなぁ…本当に人間はクソみたいな生き物だと思ったわ…」
平和な時は自分勝手に生きててよ…困った時は神頼みで何もしやしねぇ
勇者を奉って…なんだかんだした挙句に…最後はやっぱり勇者頼みだ
たった一人で魔王に立ち向かってんのによ…もう忘れていやがる
エルフやドラゴンが人間を嫌がるのも今なら理解できる
女海賊に撃たれて気が付いた…俺らに何か言う資格なんて無ぇってな
情報屋「その傷跡の事ね…」
盗賊の腹には拳大の大きな傷跡がある
デリンジャーで撃たれた痕だ…未だ完全に治癒していない
盗賊「そうだ…この傷が痛むたびに思い出す…これは俺の戒めだ」
情報屋「戒め…か…」
情報屋にも思い当たる節は有った
勇者が魔王を退けた後にどうなるのか?彼女も考えた事が無い訳では無い…
薄々分かって居たのに見て見ぬ振りをしたのは同罪だったのだから…
『翌朝_東の入り江』
早朝に盗賊は情報屋と一緒に港町から少し離れた入り江に来ていた
ザブーン ザブーン
盗賊「おぉ…有った有った」
情報屋「樽が流れ着いているの?」
盗賊「ヌハハこれはな…昨日の夜に例の軍船から海に落とした物だ…ここに流れ着くのよ」
情報屋「へぇ…いっぱい盗んだのね?フフフ」
盗賊「馬車まで運ぶのを手伝え…よっこら」
情報屋「重いわね…」
盗賊「多分加工した小麦だ…こんだけありゃ1年は食える」
情報屋「大丈夫?そんなに盗んで…」
盗賊「軍船ん中はまだたんまり荷が積んである…バレやし無ぇよ」
情報屋「ねぇ東側の海…あそこにも船があるわ」
盗賊「おぉ本当だな…あそこは普通の航路じゃ無ぇ…漁船にしちゃでかいな」
情報屋「船の上に気球も見える」
盗賊「やっぱ海でなんかやるっぽいな…気球が居るって事は海賊狩りかもしれん」
情報屋「もっと向こうにも…見える?」
盗賊「船団組んでんだな…まぁシン・リーンの船団だろ…よそ見して無ぇで早い所樽運ぶぞ!」
情報屋「ん…あ…ごめん」
盗賊と情報屋は内縁の関係にある
情報屋は女盗賊が眠るこの地で一緒に家族として過ごす事で
彼女から許しを得ていると感じていた…だから彼女の代わりに盗賊を支える立場になった
それで満足だったし…なにより温かい家族に囲まれて充実した毎日を送れていた
こうして盗賊と一緒に泥棒の片棒を担う事も良くある事だ…
『数日後』
盗賊は何をするでもなく只あばら家で遊び回る子供達を眺めていた
子供達が何をしても良い自由な空間…斧で木を切っても良い…いたずらでも何でも自由…
それは盗賊の教育法だ…
情報屋「盗賊!!聞いて聞いて!!」
情報屋が慌てて走って来た
盗賊「んん?どしたぁ」
情報屋「商船が入港してる!!」
盗賊「うぉ!!マジか!!やっと来たかぁぁ…グダグダしてる場合じゃ無えな」
情報屋「準備して!早く行かないと良い物買われてしまう」
盗賊「分かってらい!!娘達も呼んで来い!!買い物だ!!」
情報屋「娘達ぃぃ!!商船きたわよー!!」
娘達「え!?マジ!!ムキーーーーーー」
情報屋「お金忘れないで!!」
シン・リーンの玄関口にあたる港町は商船の荷がほぼすべて降ろされる
すべて買われてしまうだけ需要があるのだ
それらの物資は陸路でシン・リーンへ行くまでの間に値が上がり絶対に損する事は無い
我先にと客が押し寄せるから急いで買い付けする必要が有った
『街道』
商船から荷が運ばれて露店商が店を広げる前から人でごった返す
ワイワイ ガヤガヤ
盗賊「好きなもん買え!!珍しい食い物も出来るだけ沢山買え!!有り金全部使えぇ!!」
娘達「うおぉぉぉぉぉぉ!!」ドドドド
娘達は怒涛の勢いで買い物に走る
情報屋「キ・カイからの商船ね…食べ物は期待出来ないかなー」
盗賊「あっちでは何が売れるんだろうな?」
情報屋「売りの心配をしてるの?まずは買いでしょう?」
盗賊「ヌハハそらそうだが一応な?」
情報屋「こっちの特産なら何でも売れるんじゃない?」
盗賊「くっそ!酒買い占めとけば良かった…ホップ酒にハチミツ酒…エール酒も特産だ」
??「それも良いけど塩だよ」
盗賊「塩かぁ…塩なら家にあるが勿体無ぇな」
??「どれくらいあるのかな?」
盗賊「どれくらい…ておい!!お前商人じゃ無ぇか!!おおおおおお!!背伸びたなお前」
怪しまれる事無く勝手に会話に参加して来たのは南の大陸に渡って居た筈の商人だった
体が小さく女の様に華奢だがもう子供ではない雰囲気は出ている
商人「ハハハ久しぶりだね」
盗賊「元気してたか!!おい情報屋!!懐かしい奴が来たぞ」
情報屋「あら?お久しぶり…元気してた?」
商人「そっちも元気そうだね」
盗賊「あぁ毎日ヒマでよぅ…で何しに来たんだ?商売か?」
商人「まぁ…そんな所かな」
盗賊「後で家に寄ってけ…バーベキューするぞ!!」
商人「初めからそのつもりさ」
盗賊「買い物どころじゃ無くなったなこりゃ」
商人「ゆっくり買い物してて良いさ…僕は先に母さんの墓に行って来るよ」
盗賊「おぉそうだな…ゆっくり話してってくれ」
情報屋「ほら?ボヤボヤしてると売り切れてしまうわ?」
盗賊「おう!分かった分かった…ちゃちゃと仕入れして帰るぞ!」
『ユートピア』
盗賊は動物狩りで集めていた毛皮や角を売り捌き大金を手に入れていた
しかし買い付けは手遅れだった様で代わりにバーベキュー用の肉を仕入れて来た
その肉で家族恒例のバーベキューが始まる
ジュージュー
商人「やっぱりここはのどかで良いねぇ」モグモグ
盗賊「見て見ろ…子供達も大きくなった」
商人「そうだね…普段何をして働いて居るのかな?」
盗賊「色々だな…そろそろ自立して貰いたいんだが娘達4人がそもそも自立しないもんだからよ…」
商人「ハハハ…でも又人数が増えたねぇ」
盗賊「こっちは食わして行くのに大変なんだ」
商人「20人ぐらいになるかい?」
盗賊「ポンポン生みやがって…」
商人「良いじゃ無いか…それにしてもこんなに沢山の肉で贅沢して良かったのかな?」
盗賊「今日くらいは良いだろ…その言い方だとキ・カイも食料不足か?」
商人「魚は有るんだけどね…肉が無い」
盗賊「こっちは森に近いのもあってな?なんとか肉は手に入るんだ」
商人「なるほどね」
盗賊「さて…急にこっちに来るからには遊びに来た訳じゃないんだろ?どうした?助けてほしいのか?」
商人「ハハハそんなに急がなくても良いけどね」モグ
盗賊「俺ぁヒマなんだ…ズバリ言えよ」
商人「そうかい?じゃぁズバリ…キ・カイに引っ越しさ」
盗賊「ほぅ…その心は?」
商人「僕の影武者になって欲しいんだ…どうやら僕を狙ってる人が居る様でね」
盗賊「お前何か悪い事やってるんじゃないだろうな?」
商人「只の商人だよ…ちょっとだけ情報屋の真似してるだけなんだけどね」
情報屋「私の真似?」
商人「情報を売ってるだけさ」
情報屋「ふぅん…扱う情報によっては悪い事になるわね」
盗賊「影武者が欲しいってのは只事じゃないと思うがな」
商人「顔が割れると商売しにくくなるんだ」
盗賊「それは分かるが影武者なんぞ金で雇えば良いだろ」
商人「もう何人も雇ったさ…でも信用出来なくてね」
盗賊「それだけじゃ行く気になれんなぁ」
商人「じゃぁもう一つ情報を出す…もう一体のホムンクルスが居ると思われる古代遺跡のおよその場所が分かった」
盗賊「おぉ!!宝探しか…乗った」
情報屋「ねぇ?影武者の話と結びつかないわ?どうして?」
商人「僕が古代遺跡の情報を集めてるのを察知してる人が居る様なんだ」
情報屋「どうして分かったの?」
商人「何度もコンタクト取ろうとしてる…探られてるんだよ」
盗賊「相手は誰だか分からんのか?」
商人「僕は会って無いからね」
盗賊「なるほど上手く立ち回ってる訳か…」
商人「まぁ家族旅行と思って付き合ってよ」
盗賊「そうだなぁ…食料も余裕があるし行ってみるか」
商人「娘達の働き口も僕が手配出来る…大きくなった他の子もね」
盗賊「就職活動を兼ねる訳だな?」
商人「僕も一人じゃ寂しい訳さ…」
盗賊は胸が躍った…
家族を引き連れて船に乗り向こう側の大陸まで冒険するのは女盗賊の夢だったからだ
今回は100日の闇では無い…彼女の夢がやっと叶いそうで嬉しくなった
『キャラック船』
盗賊の船は大きくなった子供達が普段から寝泊まりする家替わりにもなって居た
だから生活物資はそこそこに積んで有る
ギシギシ ギシギシ
盗賊「ようし!!これで積み荷は全部だな?ブタは荷室の囲いから出さん様にしてくれぇ」ブヒブヒ
情報屋「馬は連れて行く?」
盗賊「いや…こいつは放牧しとく…餌が足らん」
商人「武器調達してきたよ」
盗賊「おぉ子供たちに配ってくれ…ちったぁ戦える様になってもらわんとな」
商人「これで立派な海賊だね」
盗賊「そうだな…もちっと鍛えんとイカンが…お前もな?」
情報屋「じゃぁ娘達を呼んでくるわ」
盗賊「おう!!」
商人「賑やかな航海になるね…子供ばっかりだけど」
盗賊「水夫手伝いをしてる子供も居るんだぞ?もう立派な大人なんだが…」
商人「後で話をしてみるさ…」
盗賊「そうしとけ…お前が一番兄貴分なんだからな?」
商人「娘達4人の相方はどうなってるのかな?仕事が無ければ一緒に来て貰っても良いんだけどね」
盗賊「相方は誰だか分からん…聞くと怒るからお前は何も言うな」
商人「あらら…参ったね…」
盗賊「まぁしゃぁ無えな?器量は良いもんだから男にゃ困って無えのよ」
商人「盗賊は情報屋とどうなってるんだい?」
盗賊「まぁ見て分かるだろ…わざわざ言わせんな」
商人「ハハハそうだね…上手く行ってれば良いさ」
盗賊「しかしやっぱ…海に出るってなるとワクワクすんな?…」
商人「海賊に合わなければ良いけどねぇ…」
盗賊「もし出くわしても俺は何とかする自信はあるけどな?」スッ
盗賊は懐から小さな石を取り出した
商人「あぁ…アダマンタイトか」
盗賊「そういう事だ…コレがありゃ大抵どうにか出来んのよ」
商人「それは心強いね」
盗賊「まぁ何も無いに越した事たぁ無え」
商人「それを見て思い出したんだけど…白狼の盗賊団の噂知ってる?」
盗賊「あぁ…こないだ聞いたわ」
商人「多分女海賊達だよね…」
盗賊「だろうな?あっちにゃ女戦士もローグも居る…十分やれる能力はある」
商人「実はキ・カイの方でもチラチラ噂が有ってね」
盗賊「ほう?」
商人「まぁ確かな話じゃ無いのさ…爆弾を使った手口が多いからもしかしたらと思ってね」
盗賊「なるほどな?しかしなんで又キ・カイで動いてんだろうな?」
商人「いや…キ・カイに噂が流れて来てるだけだよ…世界中あちこちなんだ」
盗賊「俺は港町に籠ってるからあんま噂が聞けて無い訳か…」
商人「そうだね…まぁどの噂が彼女達なのか断定する情報は無いけどね」
盗賊「しかし無事だと分かって俺は嬉しい限りだ」
商人「ふーん…そうかい…」
盗賊「何だお前…不満げだな?」
商人「まぁね…女海賊に敵だと言われて正直ショックだったんだよ」
盗賊「あいつマジで俺等ぶっ殺す勢いだったもんな…」
商人「闇を祓うのに剣士の犠牲が必要だって…心の底でそう思ってたのを見透かされたんだ」
盗賊「だな?何も言えん…」
商人「その後剣士がどうなったのか知りたいよ」
盗賊「教えたく無いから俺らに会いに来ないんだ…あいつはずっとそう言うの全部守ってんのよ」
商人「遠くから噂を聞くぐらいでしか関われないんだね」
盗賊「その通りだ…俺らには俺らの道が有ってそこを進むしか無え」
商人「僕の道か…そうだよ…やっと手掛かりを見つけたんだ…行かないと」
盗賊「今度はどんなお宝眠ってるのか楽しみだぜ」
商人「ハハ盗賊はお宝見つけても直ぐに誰かにあげちゃうからねぇ…」
盗賊「おま…それが楽しみなんだろうが」
商人「いつまで経っても裕福にはなれないねぇアハハ」
盗賊「美味い酒が飲めりゃそれで良いんだ!」
しばらくして情報屋が娘達4人を引き連れて船に乗り込んだ
文句ばかり垂れる娘達だが家族の中で中心を担う存在だ
船が急に騒がしくなりあばら家の雰囲気ごと引っ越しする感じになった
ワイワイ ギャーギャー
盗賊「全員乗ったな!?おーし!!碇あげろぉぉぉ!!面舵いっぱーーーい!!」
ギシギシ グググググ
船はゆっくりと動き出し陸を離れて行く
新しい冒険が今…始まった
時を別にしてここは南の大陸…白狼の盗賊が2人揃って走って居た
一人は女海賊…十分に成長したその姿は姉より少し小さいだけで熟成した女になって居た
そしてもう一人は彼女の子供…小さいながらも白狼の装備を身に付けて走る姿はウルフの様だ
その子の名前は未来…まだ小さな子供なのに母の女海賊と一緒に世界中を走り回って居た
タッタッタ…
『東蛮族の町』
南の大陸の中腹より東にその町はある
そこで生活して居るのは人間達に蛮族と呼ばれるオーク達だ
たった2人でオークの住む町へ来るのは危険極まりない…それでも彼女には譲れない目的が有った
完成されたホムンクルスを探す為だ…
女海賊「未来!!ちゃんと付いて来るんだよ」
子供「うん!」
女海賊「いくよ…いつも通り!」バシュン!
女海賊はクロスボウで爆弾を誰も居ない遠くへ放った
ピカーーーー チュドーーーン
突然爆発した事に驚いたオーク達は何事が起きたのかと注意がそちらに逸れる
女海賊「よしよし…注意あっちに行った…ハイディング!」スゥ
子供「ハイディング!」スゥ
女海賊「迷子になって無いね?」
子供「うん」
アダマンタイトを使って狭間に入るのはお互いが持って居る石の重さが違うと迷う事になる
それは狭間の深さが違うからだ…2人は迷わない様に必ず確認し合う事を守る様にした
合図はハイディング…戻るときはリリース…2人の約束事だ
女海賊「おいで…」タッタッタ
子供「…」シュタタ シュタタ
女海賊「未来!?手分けして探すよ…10分でここに戻って…絶対狭間から出たらダメ!分かった?」
子供「うん」
女海賊「じゃ10分後」タッタッタ
女海賊はまだ小さな未来に単独行動をさせている
これは彼女なりに考えがあっての事だ
未来が自分の身を自分で守れる様にする為に育てて居るのだ
その甲斐有ってか未来は同年代の子供達とは比較にならない程賢く育って居た
『10分後…』
探索を終えて時間通りに約束の場所へ戻って来る
狭間の外では1分経つか経たないか…それぐらい迅速に行動しないとオーク達に発見されてしまう
子供「ママ!!階段見つけたよ」
女海賊「案内して」
子供「こっち…」シュタタ シュタタ
女海賊「ここ?」
子供「うん…違う?」
女海賊「降りて確認する…付いておいで」スタスタ
子供「扉あるよね?」
女海賊「…これは違うタイプの扉…開けるから未来もやり方しっかり覚えて」カチャカチャ ガチン
女海賊は解錠術も盗賊並みに上達していた
何度も鍵開けが必要になったからだ
子供「開いた!」
女海賊「ハズレ…好きな物盗って良いよ」
子供「やった…これ何?」
女海賊「オークが使う装飾品…気に入ったの?」
子供「顔を隠す物だよね?」
女海賊「お面だよ…多分何かの虫…かな?」
子供「これだけ持って帰る」
女海賊「じゃ…戻るよ」タッタッタ
子供「うん」シュタタ シュタタ
犯行は狭間の外で言うと数分の事だ
オークはエルフ並みに勘が良いから長く滞在するのは危険がある
2人は早々にその場を離れた…
『飛空艇』
近くに隠してあった飛空艇で待って居たのはローグだ
この男は海賊王の娘2人に惚れ込み奴隷の様な扱いを受けても尚ずっと付いて来た
そして今では女戦士の腹心の部下になっている
ローグ「早かったでやんすね」
女海賊「出して…オークに見つかったら又石投げられる」
ローグ「アイサー」
シュゴーーーーー フワフワ
飛空艇の機動力は未だ健在だ
ハイディングで狭間に入り高速で移動する
彼女達が神出鬼没なのはそのお陰だ
女海賊「ハイディング!」スゥ
子供「ママ!!お面付けても良い?」
女海賊「好きにしなさい?」
子供「やった!!」
未来はヘンテコなお面を見つけて喜んで居た
遊び相手は飼って居る虫で…自分も虫の恰好をしたかったのだ
ローグ「ここにも無かったでやんすか…次どうしやしょうね?」
女海賊「やっぱ闇雲に探しても無駄みたい…一旦基地に戻ってお姉ぇに情報聞くわ」
ローグ「もう火山のふもとは探し尽くした感じっすねぇ…」
女海賊「ちぃ…」イライラ
ローグ「情報が足りんでやんすよ」
女海賊「分かってんよ!!イライラさせないで…」
ローグ「へいへい…」
もう何年も火山のふもとを探し回って居た
火山と言っても沢山ある…虱潰しに探しながら既に何年も経ってしまっていたのだ
それでも諦めないのが彼女の気質…目標に辿り着くまでそこしか見て居ない
『海賊の基地』
そこはキ・カイから陸路で数日東に行った隠れた入り江に有る
随所を狭間に隠して居るから知らない人が見つける事は殆ど無い
今は女戦士が率いる海賊達の拠点として使って居る
女海賊「お姉ぇ…沖に船が出てる…アレ何?」
女戦士「おぉ戻って来たのか…アレは味方の海賊船だ…この辺に漁船が近寄って来ない様にしている」
女海賊「ふーん…下手に船置いとくと逆に怪しまれるんじゃない?」
女戦士「気にし過ぎだ…それで…遺跡は見つからなかったのか?」
女海賊「もう歩いて探すしか無い感じになってるさ…お姉は何か情報掴んでない?」
女戦士「キ・カイにな?…古代遺跡の情報を集めている旅芸人が居るらしいのだが…なかなかコンタクト出来ない」
女海賊「私が行って来るわ…何処行けば良いん」
女戦士「待て…もう少しで正体を掴める」
女海賊「正体って何さ?」
女戦士「恐らくプロの情報屋だ…下手に近づくと行方が分からなくなる」
女海賊「もう!!イライラする…私に黙って休んでろっての?」
女戦士「もう少し辛抱しろ…代わりに少し運んでもらいたい物がある」
女海賊「何さ!?小間使いは御免だよ!!」
女戦士「セントラルまでミスリル銀を運んでほしい…報酬はウラン結晶だ」
女海賊「ええ!ウラン結晶!?…取り引きに行くって事?」
女戦士「そうだ…セントラルの軍部が取り引きに応じた…詳細はローグに伝えて置く」
女海賊「行くしか無いかぁ」
女戦士「もうすぐ無くなるのだろう?」
女海賊「うん…てか何でセントラルだけウラン結晶持ってんのさ!?」
女戦士「さぁな?どうやって精製しているのか?何処で掘って居るのか?全部謎だ」
女海賊「やっぱ貴族達はなんか怪しいなぁ…」
女戦士「今回は貴族とは無関係だぞ?」
女海賊「そんな訳無いじゃん…どうせ軍部と繋がってんのさ」
女戦士「まぁ貴族には関わるな…身バレしてしまえば又捕らえられかねん」
女海賊「なんでセントラルはミスリル銀を欲しがってんだろね?…」
女戦士「武器以外に使い道があるか?…そういう事だ…また何か起きるのかもな」
女海賊「マジかよ…早すぎなんだけど…」
女戦士「行ったついでに例のカタコンベも破壊しておけ…災いの元だ」
女海賊「そだね…もうゾンビの大群なんか見たく無いさ」
女戦士「しかしミスリル銀が出回るのは良い事だ…それだけで魔除けになるのだから」
女海賊「私はローグをセントラルに連れて行くだけで良いんだね?」
女戦士「そうだ…取り引きにお前は関わるな」
女海賊「おけおけ…ちっと未来にもセントラル見せておきたい」
女戦士「んん?カタコンベの破壊は危険があるぞ?此処に居させてやった方が良いのでは無いか?」
女海賊「生き抜く訓練だよ…」
女戦士「少し早いと思うが…」
女海賊「未来の事に口を出さないで…いつ魔王が来るか分かんないんだから」
女戦士「ふん…まぁ良い…お前がしっかり守れ」
女海賊「言われなくても分かってんよ」
『基地の入り江』
女海賊は飛空艇に積み込むミスリル銀の重さを確認する為に積荷を確認しに来た
海賊達の間では女海賊の奇行は恐れられている
とにかく機嫌を損ねてしまうと人間相手に軽々武器を振るうからだ…そして大体重傷を負う
そもそも女海賊は下半身に節操のない海賊達が大嫌いだった…
やばい!来た!
おい!!酒飲んでる場合じゃねぇ!!
隠れろ…殺されるぞ!!
ツカツカ ツカツカ
女海賊「……」ジロリ
ローグ「あねさん…みんな怖がってるっす…」
女海賊「今隠れた奴!!出て来な!!」チャキリ
女海賊はデリンジャーで狙いを定める
海賊の男「へ…へい…」ガクブル
女海賊「私の機嫌損ねたらどうなるか分かってんだろうね…」
海賊の男「……」ゴクリ
女海賊「私を特別扱いしろとは言って無いさ…普通に出来ないなら…」
ターン!! カランカラン!!
デリンジャーが火を吹き近くに有った鉄の容器が吹き飛んだ
女海賊「さて…気の利いた事言ってみな」
海賊の男「お、お気を付けて行ってらっせぇ…」ガクガク
女海賊「それで良いのさ…良い男がビクビクすんなって」
海賊の男「へ…へい…」
ローグ「あねさん…その武器向けられて無理ってもんす」
女海賊「はぁ!?別にピッケル使ったって良いんだけど…」スチャ
ローグ「ダメっすダメっす…その武器も大概大怪我するんす…」
女海賊はミスリル銀で自分専用の新しいピッケルを作って居た
小さいが尖った部分が刺さると間違いなく大怪我をしそうな凶悪な武器だ
そんな武器を常にチラつかせて歩くのは恐怖でしか無い
女海賊「別に殺すつもりなんか無いさ…只普通にしてろって言ってんの」
ローグ「あいやいや…武器を収めて下せぇ」
女海賊「私が嫌いかい?」
海賊の男「いえ…そそそ…そんな滅相も無い」
女海賊「この溢れる美貌を見ても誰も何も言って来やしないのさ…」
ローグ「いやいや怖すぎるんす」
女海賊「……」ジロリ
ローグ「ほらほらほら…それが怖いんすよ」
女海賊「フン!!早くミスリル銀積み込みな!!」
ローグ「アイサー」タッタッタ
彼女は海賊達を威嚇するつもりなんか無かった
単純に思う様に遺跡が見つからなくてイライラしていた時に気に入らない行動をされて機嫌が悪くなっただけだ
本当は天然ボケで慣れ慣れしい性格だ
『飛空艇』
ミスリル銀の他に軽く物資を積み込んだ飛空艇は早速セントラルに向かって飛んだ
女海賊とローグ…そして未来の3人だけで飛空艇を使うのは十分広くてゆっくり休める
シュゴーーー バサバサ
ローグ「そんな機嫌損ねないでくれやんす」
女海賊「何さ!!私は何も言って無いじゃん…」
ローグ「あっしは聞いたでやんすよ?あねさんは海賊の中でカリスマっすよ?」
女海賊「そんなんどうでも良い」
ローグ「あねさんのお陰であっしら海賊に軍船すら近寄って来ねぇんすから」
女海賊「ちっとやり過ぎたね…反省してるよ」
ローグ「いやぁぁ…あねさんの爆弾は一発で軍船を沈めちまうもんすからねぇ…」
それにあの小さい大砲の武器
あんな武器持ってるの世界中であねさんだけっすね
それから派手な格好にその美貌と来りゃ
みんな憧れるのは分かるっすよ
女海賊「はぁぁぁもっと言って…癒される」ニマー
ローグ「機嫌なおりやしたかね?これで何回目っすかね?」
女海賊「……」チャキリ
ローグ「ちょちょちょ…もう一回始めから言うでやんすよ?」
女海賊「言って」
ローグ「あねさんはですね…カリスマなんすよ…」
女海賊は褒められるのが大好きだ
特に自慢の美貌を良く言われると機嫌が良くなる
機嫌さえ損ねなければ誰にでも好かれる良い女なのに残念ながら気性が荒い
ローグはその点を良く分かって居た…褒め殺しでどうにでもなる単純な女だったのだ
女海賊「もっかい最初から!!」
ローグ「へいへい…あねさんはっすねぇ…カリスマなんす」
『セントラル』
飛空艇はセントラルに到着して貧民街近くの海岸に降ろした
そこはゴミの山が積もり殆ど人が来ない…飛空艇を隠しておくのに丁度良いのだ
ローグ「飛空艇はハイディングで隠しておくでやんす…集合は明日の夜明けで良いっすか?」
女海賊「おっけ…私と未来は自由にしてて良いんだね?」
ローグ「かしらからはそうさせろと言われているでやんす…気を使ってるんすよ」
女海賊「下水には近づかないで…分かってるよね?」
ローグ「分かりやした」
女海賊「未来?ちょっと遊びに行こっか…」
子供「本当に?何があるの?」
女海賊「買い物…一人で出来る?」
子供「自信ないなぁ…」
女海賊「よし!やってみるぞ」
子供「うん…」
女海賊「じゃぁ付いておいで…」
子供「ハイディングは?」
女海賊「今日は無し」
子供「じゃぁ人がいっぱい居るね?」
女海賊「悪い人も居るから気を付けるんだよ?」
子供「うん!」
女海賊「じゃぁフードは深く被って…」
子供「分かってるよ」ファサ
女海賊「付いておいで」タッタッタ
子供「待って!!」シュタタ
未来は同年代の他の子供達と遊びたかった
何処に行っても長く滞在した事が無いから遊び相手はいつも虫だ
他の子供達と住んで居る世界が違うから仲間にも入れない
此処セントラルでも誰か友達が出来ないか期待しながら母の後を追う
母と思惑が少しズレていた…
『貧民街』
そこは瓦礫の山だ…
瓦礫を積んで簡単なテントを張り…昔よりも酷い環境で過ごして居る人が沢山居た
焚火を囲み何かを焼いて食べる子供達も居る…孤児だ
子供「…ここは何?みんな野宿する所?」
女海賊「ここはね…昔ママが住んでいた場所なの」
子供「建物がみんな壊れてるね」
女海賊「…もう誰も知っている人居ないなぁ」
子供「焚火の所に人が集まってるよ?」
女海賊「ここの人たちはあんな風におしゃべりするんだよ」
子供「へぇ…あ!」ドテ
女海賊「足元悪いから気を付けて…あっ!!」
子供「ててて…何だコレ…看板?カク・レガ?」
女海賊「未来?ママは少しこの辺を調べたいからここで待ってて?」
子供「うん…あそこの焚火で温まってる子達と遊んで来て良い?」
女海賊「ママが見える範囲ならおっけ!」
子供「やった!!」
女海賊「後で呼ぶから遊んでおいで?」
未来はその子供達へ駆け寄り話しかけに行った
女海賊は変わり果てたこの場所でその当時の隠れ家を瓦礫の中から探す
当時の思い出の物が何か残って居無いか探したかった
見つけたのは倒壊した見覚えのある壁と壊れた食器…
自分の大事な思い出が壊されてしまった様でひどく悲しくなった
---なんだろ…どうしてこんなんなっちゃったんだろう---
---あん時の思い出がなんでこんなに心締め付けるんだろう---
---あん時が幸せだったんかな---
---記憶が壊れるってこういう事なんかな---
女海賊は無性にあの時に行った場所へもう一度行って見たくなった
でも同時に壊れてしまった物を見るのが怖くなった
記憶が壊れて行ってしまうから…
もう二度と戻れない事を突きつけられてしまうから…
子供「ママ?…ママ?…どうしたの?」
女海賊「ううん…何でもない」
子供「泣いてるの?」
女海賊「昔を思い出してちょっとね」
子供「悲しい思い出?」
女海賊「ううん…楽しい思い出」
子供「そっか…思い出せて良かったね?」
未来の言ったこの一言は重要な意味を持つ
それは未来の運命の言葉だ…
女海賊「未来?あの子達と遊びはもう終わったの?」
子供「う~ん…なんか僕仲間に入れないんだ…」
女海賊「どうして?」
子供「あの子達なんか僕の事を貴族だと思っててさ…貴族の事がキライみたいなんだ」
女海賊「そう…」
子供「ねぇ?貴族って悪い人なの?」
女海賊「悪いかどうかは分からない…でもお金持ち」
子供「あぁぁそういう事か…身に付けてる物が悪いのかぁ…」
女海賊「そろそろ…行こっか」
子供「うん!」
女海賊「ここをまっすぐ行くと買い物出来る場所だよ?」
子供「いこ!!」グイ
未来は只遊びたかっただけなのに…
置かれている環境が違うからいつも仲間に入れない
同じ様な環境だったとしても長く滞在する事が無かったから
友達が出来なかった…一人ぼっちだ
それを母に悟られると悲しい顔をされるから
気にしていない素振りをするのが普通になって居た
『中央広場』
露店商がいくつもテントを広げ見た事の無い物が沢山並ぶ…
未来の目にはそれが大きな遊び場に見えた…同年代の子供が買い物をしている姿も見えた
ガヤガヤ ガヤガヤ
子供「うわぁ…」キラキラ
未来は目を輝かせている
女海賊「この広場の中なら自由に買い物して良いよ?」
子供「本当に!?いっぱいあるなぁ…」キョロ
女海賊「はいお金…無くさない様にね?」ジャラリ
子供「うん!!」
女海賊「ママはここで腰掛けてるからいってらっしゃい?」
子供「行って来る!!」シュタタ
未来の性格は本当はとても社交的だ
同年代の子供が買い物をしているその後ろで話し掛けたくてウズウズして居るのが良く分かる
その様子を見て女海賊は胸が痛くなった
友達が出来ないのは自分にも責任がある事を理解していた
でもいつ魔王が再び現れるか分からないから逃げる様に生活をして来た…未来は特別な子だから
露店商「ぼっちゃんお金あるの?」
子供「あるよホラ」
露店商「おーお金持ちだねぇ」
露店商「はいおつりだよ」
未来は上手に買い物をして色々な人に話しかけていた
女海賊は遠目にその様子を見ながら雑踏の音が懐かしくて目を閉じる
剣士に教えられた世界…耳を澄ませて感じる事…
---良く耳を澄ますと未来の足音も聞こえる---
---そこら中で交わされる会話---
---風の音…馬車の音…鉄を叩く音---
---沢山の音に溢れた世界---
---剣士が感じていた世界---
未来の足音を耳で追いながら遠くで不吉な声が聞こえるのに気付いた…
”贄が足りぬ…贄が足りぬ…”
ドクン!!
心臓が止まりそうな感覚が襲う
女海賊「ハッ!!未来!!何処!?」ガバッ
目を開けて見えたのはいつもの世界で日常だ…
でも体が勝手に走り出して居た
女海賊「未来!!」ダダ
子供「え!?ママ?どうしたの?」
女海賊「はぁはぁ…はぁ…」
未来の腕を掴み周囲を見回す…
行き交う人々に不審な動きは見当たらない
子供「どうしたの?怖い顔して?」
女海賊「……」ゴクリ
---何この嫌な予感---
女海賊「ママも一緒に行こうかな…手を繋いで?」ドクン ドクン ドクン
悟られない様に平生を装いながら未来の手を引く
動悸が激しくなって急に汗が噴き出て来た
子供「うん…ママ?手が震えてるよ?」
女海賊「大丈夫…次は何買う?」
---落ち着け---
---落ち着け---
---落ち着け---
2人は一緒に普段食べた事の無い物や未来が欲しい物を買って宿屋に向かった
結局未来は同年代の子と大した話をする事無く宿屋に連れられる
『宿屋』
女海賊は初めて行く宿屋で泊まるのは苦手だった
この宿屋は昔アサシンと一緒に泊った事のある宿屋だ…だから少し要領が分かって居る
カラン コロン
店主「いらっしゃいませ…今日はお泊りですか?」
女海賊「空いてる?食事も2人分」
店主「はい空いております」
女海賊「明日は朝が早いからお代は先に…」ジャラリ
店主「ありがとうございます…お食事はお部屋にお持ちしますか?」
女海賊「そうして…」
店主「ではご案内いたします…どうぞこちらへ」スタスタ
女海賊「未来?おいで…」スタ
子供「うん…」トコトコ
店主「こちらのお部屋になります…後ほどお食事をお持ちいたしますので…ごゆっくりお休みください」
女海賊「ありがとう…」
ガチャリ バタン
扉が閉まって急に安心した…
女海賊「ふぅ…」
子供「疲れたの?」
女海賊「ママはね…宿屋で泊まるのが苦手なんだ…めっちゃ緊張したよ」
子供「え!?カリスマなのに?」
女海賊「あんたもそういう事言うのか!このぅ…」グイ ギュゥ
子供「くるしいよ…ぅぅ」
女海賊「楽しかった?」
子供「う、うん…ママと買い物出来て楽しかった」…未来は母に対して気を使った
女海賊「良かったね」
子供「でもなんかママおかしいよ?怖いの?」
女海賊「ううん…怖くなんか無いさ」
子供「ふーん…」チラ
未来は母が何かに怯えて居た事に気付いていた
自分を心配させない様に振舞って居るのが分かったから逆に元気を出して貰おうと思った
だから楽しんで居る振りをする…
子供「ベッドだ!!」ボヨーン
女海賊は窓から外を覗き何かに警戒していた
未来はそんな母の背中を見てここまで育って来た
そして買って来たどんぐりを取り出しカバンの中で育てている虫と遊び始める
ほら友達一杯連れて来たぞぉ
どんぐりに目を描こう…
そうだ…口も有った方が良いね…
ベッドの中でかくれんぼしよう!
『日没』
部屋に運ばれて来た食事を食べたらもう外は暗くなっていた
白狼の盗賊が行動を始める…
女海賊「未来…気持ちを切り替えて…今からは遊びじゃ無いよ」
子供「うん…」
女海賊「説明良く聞いてね…今日はカタコンベという所を爆弾で破壊するよ」
女海賊「今から海に行って下水という場所を通ってカタコンベに行く」
女海賊「カタコンベには死霊が沢山居るから魔方陣のお守りをしっかり身に着けて」
子供「大丈夫…ちゃんと持ってるよ」
女海賊「爆弾を設置したらそのまま来た道を戻って海まで走る」
女海賊「海まで出たら飛空艇の場所は分かるね?」
女海賊「もし迷子になったら飛空艇の場所で集合…良い?分かった?」
子供「うん…おっけ!」
女海賊「よし…それじゃ行くよ?」
子供「うん」
女海賊「迷子にならない様に」
子供「分かってるって」
女海賊「付いて来て」タッタッタ
2人はまだ人通りのある街路を走り抜ける
その姿を見た人は不思議に思ったかも知れない…洗練された走り方で速いからだ
人込みをすり抜けて走る…
『下水』
海側に有る下水の放流口から中に入った
暗い中での行動はもう慣れている…小さなランタンの明かりで十分行動が出来るようになっていた
ピチョン ポタ
子供「ママ…何か居るよ?あの魔物は?」
女海賊「あれはラットマン…ネズミの化け物」
子供「良いの放って置いて?」
女海賊「こっちに気付いて居ないから…あぁでも帰りに面倒だから倒しておくか」
子供「僕見ておく」
女海賊「ママの後ろを見てて…クロスボウで倒すから」バシュン!
放たれたクロスボウのボルトはラットマンの頭部に突き刺さった
ラットマン「ギャース」ドタリ
女海賊「行くよ…」タッタッタ
子供「凄いなぁ…迷路みたいなのに道知ってるんだね」
女海賊「未来…その梯子を上に登って…何か居たら教えて?」
子供「わかった…」ヨジヨジ
女海賊「どう?」
子供「大丈夫…何も居ない」
女海賊「ママも行くから待ってて」ヨジヨジ
子供「何か聞こえる…」
女海賊「え?」
子供「何だろう?ゴニョゴニョ言ってる…」
女海賊「聞いちゃダメ…多分死霊の声」
子供「どうしてハイディング使わないの?」
女海賊「狭間に入ると沢山死霊が居るから…そっちのが危ないのさ」
子供「そっか」
女海賊「この通路の向こうがカタコンベ…未来は見ない方が良い」
子供「大丈夫…死体は見慣れてるから…」
女海賊「ダメ…今来た道を走って戻るから準備して」
子供「はーい…」
女海賊「ちょっとそこで待ってて…中見て来るから」タッタッタ
子供「うん…」
『カタコンベ』
あの時のままだった…剣士が暴れ出したあの時…
あれ以来新たに死体が投棄された様子は無い…でも大量の腐った死体がそのまま放置されていた
”贄が足りぬ…贄が足りぬ…”
女海賊「この声…やっぱここか!!」
一気に血が騒ぎだす…躊躇う事無く爆弾に火を点けた
そして声のする方へクロスボウを向ける
女海賊「あんたの思い道理にはさせないよ!!くたばりやがれ!!」バシュン バシュン
女海賊が持って居たクロスボウは2連装だ…ボルトに付けられた爆弾は声のする方へ放たれた
身を翻し元来た通路へ走る
女海賊「走って!!」ダダッ
子供「…」シュタタ シュタタ
女海賊「5…4…3…2…1…」
チュドーーーン!!
チュドーーーン!!
女海賊「爆風!!水の中!!」ピョン
子供「うわっ」ピョン ボチャーン
2人は下水の水中に潜った
その上を爆風と熱風が通り過ぎていく
女海賊は重くて水に浮かない…でもここは浅くて腰ほどの深さだった
ザブザブ
女海賊「おっし行ける…水から上がって走るよ?行ける?」
子供「ママ先に言ってよー」
女海賊「ゴメゴメ…怪我無い?」
子供「大丈夫…でもカバンの中が大洪水」
女海賊「ちっと今急ぐから後で!!おいで!!」
子供「うん…」
女海賊「梯子飛び降りるよ」トゥ シュタ
子供「待ってぇ」ピョン シュタ
女海賊「ランタン消えちゃったから真っ暗だな…」
子供「僕見える…ラットマン居るよ」
女海賊「ちっ…火薬濡れてデリンジャー使えない…走り抜ける!!」
子供「ママこっち!!」グイ
未来は女海賊の手を引いて走った
子供「今度は人が居る!!どうするの?」
女海賊「そのまま走って!!」
衛兵「おい!!ここは立ち入り禁止だぞ!!」
そこに居たのは爆発の異常を察知した衛兵だった
女海賊は体当たりで衛兵を吹き飛ばす
衛兵「どわぁぁ…お前等ぁぁ!!」
ピーーーーーーーー
子供「笛だ…なんで?」
女海賊「フフ…」
子供「ママ笑ってるの?」
女海賊「懐かしくてね…出口見えて来た…ダッシュで行くよ?」
子供「うん…でも追いかけて来る人増えてる」
笛の音を聞いて下水の側道から衛兵が集まり出して居た
女海賊「大丈夫…下水を出たらハイディングね」
子供「うん…」
女海賊「3…2…1…ハイディング」スゥ
子供「ハイディング」スゥ
女海賊「迷子になってない?」
子供「居るよ」
女海賊「さぁ…帰って寝よっか?」
白狼の盗賊2人は闇に消えた…
カタコンベで起きた大爆発は地下の下水全域へ爆風が吹き抜け誰もが異常を察知していた
そんな混乱の中2人は何事も無かったかのように宿屋へ帰って来る
『宿屋』
宿屋で宿泊している人達も異常に気付いて外に出て騒いでいる
ザワザワ ザワザワ
さっきの音聞こえたか?
地震だ地震
城から煙が上がってるぞ
あぁぁ又城壁の一部が崩れて
あっちも火事になってる
治安部隊が出てる…テロか?
貧民街でラットマン出てるってよ
ザワザワ ザワザワ
店主「お城の方で何かあった様ですねぇ?」
女海賊「何だろね?」
店主「なんだか物騒ですねぇ」
子供「ママ眠いよ…疲れた」
女海賊「水浴びしてからにして?…臭いから」
店主「水場は奥を右に行った所です」
女海賊「あんがと…使わせて貰うね」
店主「どうぞ…」
女海賊は未来と一緒に水浴びをして綺麗に汚れを落とした
濡れてしまった衣類を暖炉で乾かしながら未来は眠りについた
『深夜』
未来をベッドに運んだ後に女海賊は窓から慌ただしい街の様子を眺めていた
衛兵がそこら中を走り回って居たからだ
そしてこの宿屋にも衛兵が訪ねて来て遠くで話して居る声が聞こえて居た
ヒソヒソ ヒソヒソ
白狼の盗賊団が潜伏していると通報があった
これが人相書きだが…この中に似ている人物は居ないか?
ううん…どれも違う気がしますねぇ
子連れの親子が宿泊していますがもう深夜ですし
部屋はどこだ?確認する
女海賊「…」---やっぱり普通に生活は出来ないか---
子供「すぅ…すぅ」zzz
未来はぐっすり寝て居た
店主「こちらの部屋です…」
衛兵1「鍵を開けろ」
店主「仕方ありませんねぇ」カチャリ ギー
衛兵1「しぃぃぃ…子供が一人寝ているだけだな…親は何処に行ったか知らないか?」
店主「はて?水浴びでしょうか?」
衛兵1「近くに居るはずだ…探せ」
衛兵2「はぁ…」
衛兵1「荷物は…子供の分だけか…」ゴソゴソ
子供「う~ん…むにゃ」
衛兵1「おい君…起きろ」
子供「んん?ママ?あれ?ママは?」ゴシゴシ
衛兵1「君のお母さんを探している…何処に行ったか知らないか?」
子供「え!?おじさん誰?あ!…それ僕の荷物…返してよ」
衛兵1「君のか」ポイ
子供「おじさん何なのさ…」パス
衛兵1「衛兵だ…白狼の盗賊団を追っているんだが…」
子供「へぇ~…で?ママは?」
衛兵1「んんん見込み違いか…」
女海賊「…」スゥ
女海賊はハイディング状態を解除して衛兵の背後に姿を現した
子供「あ!!ママ…なんか知らないおじさん入って来た」
衛兵1「うぉ!!いつの間に…」
女海賊「準備なさい…」
未来はこの一言で察知した
子供「うん…」
衛兵1「そのフードを脱いで顔を見せろ」
女海賊「てかアンタさぁ…私にそんな口の利き方して良いと思ってんの?勝手に部屋に入ってくんなよ」
衛兵1「なにぃぃ!!お前はやっぱり…」
子供「行く!!」シュタタ パリン!
未来は窓ガラスを突き破って飛び降りた
衛兵1「お、おい!!」
女海賊「賢いねぇ…」ダダ ピョン
続いて女海賊も窓から飛び降りる
衛兵1「待て!!逃げるな!!」
ピーーーーーーーーー
その衛兵は慌てて笛を吹いた
店主「あわわわわわ…」
宿屋の店主は驚き腰を抜かす
女海賊「未来…こっち…遊んで行こっか!」
子供「うん…」
女海賊「走るよ!!」タッタッタ
子供「おっけ」シュタタ
衛兵1「待て待て待てえぇぇぇい!!」ダダダ
衛兵2「居たぞ…貴族居住区に向かってる」ダダダ
ピーーーーーーーーー
女海賊「フフ…」
子供「追いかけっこ楽しいね」
ハイディングを使って逃げ隠れする2人を只の衛兵が捕まえられる訳がない
その夜は至る所で笛が鳴り騒がしい夜になった…
『ゴミの山』
セントラルで住まう者の出したゴミや下水から流れて来たゴミ…
そんな物が山積みになっている場所は身を隠すのに丁度良い
そこは海岸のすぐ近くに有って海を眺める事が出来た…ここがローグとの待ち合わせ場所だ
ザザー ザブン
女海賊「もうすぐ夜明けだよ」
子供「朝焼けがキレイだね」
女海賊「寒くない?」
子供「ちょっとね」
女海賊「おいで…」ギュゥ
子供「大丈夫だって」
女海賊は未来を懐で抱きしめ白狼の毛皮で温めた…いや…温まった
女海賊「ママが温かいの」
子供「そっか…」
女海賊「ごめんね泥棒みたいな生活で」
子供「そんな事言わないで…楽しいよ」
女海賊「……」ギュゥ
ゴミの山に隠れながら毛皮で包まる親子…それが未来の現在地…住んでいる世界
盗賊の家族とは対照的に…たった2人で温め合う親子…
未来は母の愛情をしっかり感じながらも…言い知れない想いを募らせて行った
ローグ「あねさ~ん早かったっすね?」ヨッコラ ヨッコラ
子供「あ!!ローグさん遅いよぅ…もう日が昇っちゃう」
ローグ「あっしの方は大変だったでやんすよ…駐屯地がドタバタでしてね?」ヨッコラ ヨッコラ
女海賊「ウラン結晶は?」
ローグ「これ重いの何のって…聞いて無かったっすよ…少し持って欲しいでやんす」
女海賊「あのね…私に荷物運ばせる気?」
ローグ「あああ!!何なんすかソレ?宝石いっぱいじゃないすか…どういう事っすか?」
女海賊「ちょっとねヌフフフ…ナハハハ」
ローグ「ヌフフって…そいや最近あねさんの笑う声聞いて無かったっすね」
女海賊「はいはい出発するよ!!早く来な!!衛兵に追いかけられてんだから!!」
ローグ「マジっすか…やばやば」ヨッコラ ヨッコラ
子供「ママ!!飛空艇をリリースするよ」
女海賊「おっけ…」
ローグ「どっこら…せっと…はぁぁぁ重たかった」ゴトン
女海賊「はい乗った乗ったぁ!!ダッシュで出発!!」
ローグ「アイサー!!未来君も手伝って下せぇ」
子供「アイサー!!」シュタタ
シュゴーーーーーー フワフワ
こうしてセントラルを荒らした白狼の盗賊は行方を眩ます
貴族達は金品を奪われた上に火災によって多くの屋敷も失って居た
この事件によって白狼の盗賊団は特定指名手配される事になる…懸賞金が跳ね上がった
女海賊はミスリル銀の取り引きが終わった後に真っ直ぐ基地へは戻らず
貴族達が保有する他の領地を巡り泥棒を繰り返していた
その目的はウラン結晶の出所を探る為だった
しかし事前に何か調査していた訳では無かったから重要な手掛かりを得ることなく
ただ財宝を盗んで来ただけに留まった
『海賊の基地』
飛空艇は積荷が満載になり仕方なく海賊の基地へ戻って来た
女海賊「お姉ぇ無事帰ったどー!!」
女戦士「うむ…お前にしては随分遅かったでは無いか…楽しんで来たか?」
女海賊「まぁね?」
女戦士「そしてその荷物か…」
ローグ「あねさん…この財宝どうするでやんす?」
女海賊「お姉ぇにお土産だよ…好きに使って良いさ…宝石好きだったよね」
女戦士「また随分荒らしてきた様だな…ローグ!選んで良いぞ…今回の報酬だ」
ローグ「マジっすか!えーと…あれもこれも…うーん」
女戦士「しかしこれだけ宝石があっても使い道がな…なぜ宝石ばかり盗んで来たのだ?」
女海賊「いあ探してたのはウラン結晶なんだけどさぁ…結局何処にも無かったのさ」
女戦士「貴族には関わるなと言った筈だがな…」ギロリ
女海賊「ちっとウラン結晶探しただけだよ…手ぶらで帰って来んの勿体ないじゃん?」
女戦士「まぁ無事で何よりなんだが…もう危険な真似は止めろ」
女海賊「へいへい…ローグ!!トルマリンは使うから残しといて!!」
ローグ「分かりやしたぁ!!」
女海賊「お姉ぇさぁ?こんだけ宝石余りまくってんの…なんかおかしいと思わない?」
女戦士「確かに…どう見ても使い終わった魔石だ」
女海賊「なんでセントラルばっかウラン結晶とか魔石とか持ってんのさ…やっぱおかしいんだって」
女戦士「それを知ってお前は何がしたい?」
女海賊「何って…なんか悪巧みしてそうだからさ…」
女戦士「そんな事は分かって居る…もうこれ以上関わるな」
女海賊「まぁ良いや…ほんで例の旅芸人どうなった?」
女戦士「あぁ…その件だが行方をくらましてしまった…しかし情報の一部は手に入った」
女海賊「情報って何?」
女戦士「硫黄の産出場所だ」
女海賊「ほんなん関係ないじゃん…古代遺跡の情報はどうなってんのさ!」
女戦士「まぁ聞け…硫黄の産出場所の分布だ…地図で言うと南の火山よりもかなり西に分布する」バサ
女戦士はテーブルに地図を広げた
女海賊「どういう事?」
女戦士「ここの山はかつて火山だったという事だ…いつの時代かは分からんが…」
女海賊「じゃぁ今まで探してた火山が違ったっていう話?」
女戦士「古代遺跡の情報を集めている旅芸人が硫黄の産出場所を調べている…おかしいと思わんか?」
女海賊「おお!?…てことはココがあやしい…ハテノ村」ユビサシ
女戦士「うむ…ただその辺りは西蛮族との係争地だ…キ・カイ軍が駐屯しているのだ」
女海賊「私には関係ない…いつも通り探す」
女戦士「そこは戦場になって居て今までよりも危険だ…3人では荷が重い」
女海賊「そんな事言ってる場合じゃないって」
女戦士「ゆっくり確実に探せば良いだろう」
女海賊「あのね…セントラルで魔王の声を聞いちゃったんだよ…」
女戦士「なんだと!!…馬鹿な」
女海賊「まだどっかの狭間で彷徨ってんのさ…いつ戻って来るか分かんない」
女戦士「闇が去ってまだ数年しか経って居ないのだぞ?…祈りの指輪もお前が隠した」
女海賊「お姉ぇ…言ったよね?セントラルがミスリル銀を欲しがる理由…」
女戦士「それは厄災に備えようとしているのだろう…」
女海賊「逆だよ…あり余る財宝と引き換えにミスリル銀をどっか隠してんじゃ無いの?」
女戦士「まさか…また魔王が人間を突き動かして居るとでも?」
女海賊「それ分かんないんだけど…やっぱ貴族の動きがおかしいと思うのさ」
女戦士「ううむ…確かにミスリル銀が市場に出回らんと意味が無い…軍部が隠してしまえばそれだけ減る訳か…」
女海賊「なーんかこう…胸がザワザワすんだよね…あんまゆっくりしてらんない感じ」
女戦士「貴族の動向…その筋の情報は確かに欲しい…」
女海賊「私がウラン結晶の出所探ってんのはそういう事なんだって」
女戦士「何も手掛かりは無いのか?」
女海賊「手掛かりが無いのが手掛かりだね…私が行った先の貴族は絡んでない」
女戦士「ほう?ではまだ行って居ない場所があるのだな?」
女海賊「ローグ!!あと残ってんの何処だっけ?」
ローグ「へい…公爵の領地がバラけててでやんすね…全部は分からんのですよ」
女戦士「それだけじゃ何とも言えんな…」
女海賊「てかローグの話だと公爵って誰なのか顔も分かんないんだってさ…怪しくね?」
女戦士「確かアサシンが公爵と関わて居た筈だ…」
女海賊「あいつ何処行っちゃったんかなぁ…」
女戦士「知らん…数年前から行方をくらましたそうだ」
女海賊「アサシン絡みならなんか納得だわ…まぁこの件も気に掛けといて」
女戦士「分かった…」
女海賊「私はちっと休んだら行動すっからそのつもりで居て」
女戦士「……」
女戦士は妹が世話しなく行動する事を知って居る
何を言っても言う事を聞かないから既に諦めていた
連れ回される未来の事も少し心配になって来る
しかし何か言うと出て行った切り帰って来なくなる可能性が有るから口を詰むんだ
『翌日』
女海賊は基地に保管してある物資を飛空艇に積み込みハテノ村へ行く準備をしていた
女戦士はその様子を見て溜息を洩らしながら話しかける
女戦士「…お前は本当にせっかちなのだな…どうするつもりだ?」
女海賊「うっさいな…一旦ハテノ村に落ち着いて遺跡の在処を探すさ」
女戦士「すまんが私は一緒に行けんぞ?」
女海賊「初めからアテにしてないって…上手くやるから放って置いて…お姉ぇはどうすんの?」
女戦士「父の所へ行く用事がある…物流を頼まれて居るのだ」
女海賊「ほんじゃパパにはよろしく言っといて」
女戦士「3ヶ月で戻る予定だ…新しい情報が有るかも知れんから折をみてお前も帰って来い」
女海賊「おけおけ」
女戦士「くどい様だが新しい情報が有るかも知れんからな?」
女海賊「うっさいな…何回も言うなフン」
女戦士「ローグ!!妹のサポートを続けろ…戻ったら褒美は出す」
ローグ「そう来ると思って用意していたでやんす…任せてくれやんすヌフフフ」
ローグには思惑がある
女戦士は約束を破らない…見合った報酬が有るのだ
この男はなんだかんだで海賊王の娘2人を上手く手玉に取って居る
女海賊「じゃ行くよ!!未来乗って!!」
子供「うん!!」シュタタ
ローグ「じゃぁ出発するでやんす~」ノシ
妹の身を案じる女戦士を置き去り飛空艇はハテノ村に向かい飛び立った
シュゴーーーーーー フワフワ
『飛空艇』
女海賊は物資で生活用品を多く積んで居た
今回はそれなりに長期滞在するつもりで居たのだ
ローグ「沢山荷物積んでるんすね?今回は長旅っすね?」
女海賊「一旦ハテノ村で住む家を探すんだ…そこら辺は行った事が無かったからね」
ローグ「歩いて探すんすか?」
女海賊「まず落ち着けて情報集めだよ…硫黄の場所だけじゃ何も分かんないじゃん?」
ローグ「今回は慎重なんすね?」
女海賊「ちっと思い出した事があってね…」
ローグ「行った事無いのに思い出すって何か変でやんすね?」
女海賊「私小さい時にさ…スライムっていう謎の生き物の絵を描いた事あんのさ」
ローグ「なんすかそれ?」
女海賊「多分夢で見た物をそのまんま絵に描いたんだよ…ほんで火山とか川とかも一緒に書いてんだよね」
ローグ「それあねさんが良く言ってた夢幻の記憶なんすかね?」
女海賊「もう分かんない…全然夢見なくなって思い出せなくなった」
ローグ「そのスライムがなんか関係するんすか?」
女海賊「勘だよ勘!なんか色々絵に描いてたのさ…スライムとか薬を木の下に埋める絵とか一杯描いたの覚えてんだ」
ローグ「それがハテノ村に有りそうだと思ってるんすね?」
女海賊「そゆ事…暇だったからめっちゃ一杯絵を描いたんだよ…どーもハテノ村でビビーっと来た」
ローグ「そういやあねさん地名をあんま覚えないのにハテノ村を何で知ってるのか不思議っすね」
女海賊「でしょ?ちょい気になったんだ」
ローグ「大丈夫っすかねぇ…なんかアサシンさんみたいな与太話って言うんすか?アテにならん話でやんす」
女海賊「うっさいな!!行ってみないと分かんないじゃん!!」
ローグ「怒らないでくれやんす…心配したでやんす」
一杯絵を描いたんだって…
なんで絵の事だけ覚えてんだろな…
温泉とか色々書いたなぁ…何処に置いて来ちゃったんだっけな…?
女海賊は夢幻の記憶を失って居たが子供の頃に見た夢を絵に描いた事を覚えていた
それは現実世界での記憶だ…間接的に夢幻の記憶が残って居たのだ
これはアサシンが手記に書き留める行為と同じで夢を記憶に残す手段として有効な事だ
世界中に散らばる壁画や絵にもそう言った意味のある物も多くある…
この時点でそれに気付いた者はまだ居ない…
『ハテノ村の外れの森』
地図を頼りに山岳部を捜索する事数日…
やっと森の中にある集落を見つけて近くの森へ飛空艇を隠した
ローグ「飛空艇はここに隠しておくでやんす」
女海賊「なんか想像と全然違ってんだけどさぁ…合ってんだっけ…ここで?」
ローグ「地図の感じじゃこの辺りで間違い無いっすよ…」
女海賊「てか木で見通し悪くてなんも分からんな…」キョロ
ローグ「見覚え全然無い感じっすかね?」
女海賊「ない…」
ローグ「やっぱし夢の話はアテにならんすねぇ」
女海賊「行ってみる…未来!おいで」
子供「うん…僕好きだよ?こういう森の中」
未来は落ち葉の下に隠れている虫が気になりあちこち掘り返して居る
ガサガサ ガサガサ
女海賊「なんか虫居るの?」
子供「うん…いっぱい居るよ…かくれんぼしてる」
ローグ「あねさんしばらく滞在する気なんすよね?」
女海賊「一応そのつもりだったんだけど…不安になって来たよ」
ローグ「未来君良かったっすね?しばらく遊べやすぜ?」
子供「ワクワクしてきた」
女海賊「なんかマジでシケタ所だな…人住んでんだろうか…」キョロ
ローグ「さっき一応集落から煙上がってたんで誰か居ると思いやす」
女海賊「軍が駐留してるって話はなんだったんだろ?」
ローグ「そうっすねぇ…先にあっしが行って話聞いてくるでやんす」
女海賊「そうして…私は未来とちょいこの辺ブラついてから行く」
ローグ「村の方角分かりやすよね?あっしは向こうで待ってるっす」
女海賊「へいへい…」
女海賊は未来が嬉しそうに落ち葉を掘り返している姿を見て少し遊ばせる事にした
飛空艇の中に閉じ込められて詰まら無さそうにしているのが気になって居たからだ
そしてしばらく滞在する事を決めた
『ハテノ村』
2時間程森を散策しながら気に入った虫を集めて村の入り口に差し掛かった
そこは川辺にちょっとした家屋が集まりそこそこの人数の村人がウロウロしていた
2人の姿を見て村のお爺さんが話しかけて来る
爺「おぉ珍しい事もあるもんじゃ…あんさんたちは何処から来たんじゃ?」
子供「僕たち迷子だよ」
女海賊「宛ても無く旅をして…」
白々しく嘘を言い掛けた時にローグが大声で叫ぶ
ローグ「あねさ~~ん!!こっちっすーー」
爺「ありゃりゃ?親子ですかいね?」
子供「うん!」
爺「それは大変でしたじゃろう…この村は見ての通りな~んもありゃぁせん…雨風凌ぐんじゃったら教会に行きなされ」
ローグ「あねさん!!この爺さんの言う通り教会なら住まわせてもらえそうっす」
女海賊「宿屋とか無い感じ?」
ローグ「有る訳無いじゃないすか…でも教会で住めるらしいんでセーフっす」
女海賊「まぁ良っか…」
爺「食べ物も無いでぇひもじいかも知れんが…みんな同じじゃけぇな?」
子供「お爺さんありがとう」
ローグ「教会が避難所になってるみたいっすね」
女海賊「やっぱ係争地になってんの?」
ローグ「戦線はもう少し南らしいっす…ほんで近隣の村から避難して来てるみたいっすね」
女海賊「兵隊全然見当たんないんだけど…どうなっちゃってんだろ?」
ローグ「その辺はゆっくり情報収集しやしょう」
女海賊「私等避難民っていう設定?」
ローグ「そうっすね…避難民の家族という事で行けそうっすね」
女海賊「おけおけ…てかなんかアンタが旦那ってのなんか微妙だな…」
ローグ「トホホそう言わんで下せぇ」
女海賊「まぁ良いや…教会案内して」
ローグ「こっちっす!!」
『教会』
レンガ造りのそこそこ堅牢な建屋を教会にして使っていた様だ
何処かの村から避難して来た人達が集まりそこで生活している
建屋の脇で大人が集まり井戸端会議も聞こえて来る
私らはあっちの村から避難して…
むこうの村ではあーでこうで…
配給がなかなか来ないのは…
3人の姿を見て教会の修道女と思われる中年の女が話しかけて来た
修道女「先ほどお話があったご家族ですね?」
ローグ「へい…そうでやんす」
修道女「丁度一つベッドが空いた所なんですよ…運が良かったですねぇ」
ローグ「ひと家族にベッド一つでやんすか?」
修道女「子供が居るご家族だけなんです…あまり周りには言わないで下さい」
ローグ「どうも手間かけたでやんす…」
修道女「子供たちは教会の中で自由にして良い事になって居ますので…騒がしいですけれど我慢してください」
ローグ「わかりやした…それとこれお布施なんで貰って下せぇ」
ローグは小さな宝石を一つ手渡した
修道女「あら…それは助かりますねぇ」
ローグ「この村は商人とか何か物売りが来る事有るんすか?」
修道女「キ・カイの軍隊から週に1度物資が運ばれて来るくらいですねぇ…最近は旅商人などはめっきり…」
ローグ「あねさん…買い物は出来ん感じっすよ…こりゃ長期滞在厳しいかも知れんすぜ?」
女海賊「自分でどっか取りに行けば良いんじゃね?てかあんま何も必要無いけどね」
ローグ「あいやいや…食料っすよ」
女海賊「ほんなんアンタが何か狩って来りゃ済むじゃん」
ローグ「そんな簡単に言いやすけどね…」
子供「ねぇママー?他の子とお話してきても良いかな?」
女海賊「教会からは出ない様にね?」
子供「うん!」
ローグ「とりあえず安全そうな所で良かったでやんすよ」
女海賊「私はもうちょい周りを見て来るわ…絵に描いた風景無いか探したい…あんたは未来を見てて」
ローグ「アイサー…あっしももうちょい情報集めときやすね」
女海賊「夜までには戻るって未来に言っといて」
ローグ「わかりやした…」
この村に避難してきている子供達は皆赤毛だ…南の大陸では赤毛が多い
未来はその子供達と比較して風体が変わって居る…白狼の毛皮を身に付けた銀髪…
珍しく思った子供達は集まって来て未来を囲んだ
カバンの中に詰め込んだ虫を子供達に見せたら興味を持ち始める…どんぐりやら松ぼっくりやらどんどん出て来る
未来は避難民という立場で初めて対等な友達が出来そうだった…未来が一番欲しかった物がここに有った
『村の周辺』
女海賊は見覚えの有りそうな風景を探して周辺を散策していた
何処を見ても絵に描いた風景は見当たらない…
---やっぱ違うかぁ---
---全然見た事無いもんなぁ---
女海賊「ん?」クンクン
風に乗ってあの独特の匂いが何処からか運ばれて来た
女海賊「硫黄の匂い…そうだ…たしか温泉があったな」
ウロウロ散策して居たのが怪しく見えたのか村の入り口で会ったお爺さんが話しかけて来る
爺「あんさん…散歩かね?教会には行きなすったか?」
女海賊「あぁ…お陰で雨はしのげる…ありがと」
爺「何か探しているようじゃが?」
女海賊「この近くに温泉って無かったっけ?」
爺「おろ?元のハテノ村の事け?」
女海賊「元?…」
爺「あそこは数年前の厄災の時にみんな死んでしもうての…今は誰も住んで居らん」
女海賊「それどこ?」
爺「もちっと山よりじゃが危ないで行かん事じゃ…けものが居るで」
女海賊「けものか…うーん」
爺「あんさん妙な格好しておるがハンターかね?」
女海賊「まぁ…そんな感じかも」
爺「けものがどんだけ居るか分からんけぇのぅ…罠でも有りゃぁちったぁ減らせるかも知れんが」
女海賊「罠かぁ…どうすっかな…」
爺「ほんまに行ったらアカンで?何人も行方不明になっとるで」
女海賊「分かったよ…あんがとね」
---罠作るのに鉄が必要になんな---
---鉄なんて持って来て無いよ---
---どうすっかなぁ---
女海賊は普段2連装クロスボウを使う…それは主に爆弾を遠くへ飛ばす為だ
クロスボウを使えばシカ等の動物を狩れない事は無い
しかしクマ等の大型のけものは2発当てたとしても直ぐには倒せなくて逆にやられてしまうのだ
爆弾を使えば良いかも知れないが…たかがクマを倒すのに爆弾を使うのは周囲の被害が大きすぎる
だからやっぱり罠を仕掛けるのが一番良さそうだ…でも鉄が無い…
『夕方』
日が暮れる前に教会へ戻ると未来はすっかり子供達に馴染んで走り回って居た
ワーイ キャッキャ
ローグ「あねさん戻って来たでやんすね?何かありましたかね?」
女海賊「まぁね…もうちょい山の方に本物のハテノ村があるんだってさ」
ローグ「ええ!?そっちに行くんすか?」
女海賊「もう誰も住んでなくてけものが居て危ないらしい」
ローグ「けものっすか…厄介っすね…ハイディングしても狭間に入って来るっすもね」
女海賊「あんた毒とか持って無い?」
ローグ「有るには有るんすけど…けもの相手には強い毒じゃ無いと効かんすよ」
女海賊「作れないの?」
ローグ「アラクネーとか居れば毒袋取り出せるんすがねぇ…」
女海賊「ほんじゃやっぱ罠使って地道にハンティングやるしかないかぁ…」
ローグ「どんなけもの出るとかなんか聞いてないんすか?」
女海賊「どうせクマとかウルフじゃないの?爆弾じゃ爆発するの遅いし苦手なんだよなぁ」
ローグ「弓が有ればどうにか出来るかも知れんすけどねぇ…」
女海賊「クマ相手に自信あんの?」
ローグ「やっぱ何かの罠は欲しいでやんす」
女海賊「作るのに鉄が無いのさ」
ローグ「鉄…蛮族の使ってる斧はどうでやんすか?」
女海賊「うーん…鉄取りに帰るよりオークから盗んだ方が早いか…」
ローグ「明日一回蛮族の陣地まで見に行ってみやしょう」
女海賊「そうだね…もうちょっと周りの事も知りたいし」
ローグ「今はゆっくりしてくれやんす」
女海賊「そうするわ…ほんで未来の様子はどんな?」
ローグ「子供達の輪に入れて楽しく遊んでいやすぜ?」
女海賊「おけおけ…心配してたのさ」
ローグ「ちっとしばらく遊ばせてあげると良さそうでやんす」
女海賊「うん…まぁ丁度良かったわ」
ローグ「未来君は他の子と違って色々出来るもんすから人気者になったみたいっすわ」
女海賊「へぇ?出来るって何さ?」
ローグ「色々工夫して作るんすよ…木の棒を上手く削って剣の形にしたりでやんす」
女海賊「なる…それ私も昔やったわ」
ローグ「姉さんは作り物得意なんで色々作ってあげると皆喜びやすぜ?」
女海賊「そだな…夜中ヒマになるから何か作るかぁ…」
ローグ「生活物資を仕分ける籠とか有るともうちょい教会の中が片付きそうでやんす」
女海賊「おーし!!明日から木の皮とか剥いで物資調達すっか!!」
ローグ「やる気出て来やした?」1
女海賊「子供達見てたらさ…木の皮で装備品作ってやりたくなったのさ」
ローグ「なんで又装備品なんすか…」
女海賊「あんた分かって無いねぇ…ちょっと防具あるだけでメチャ強くなった気がすんだって」
ローグ「それ未来君に教えて子供達みんなで作ったらどうすか?」
女海賊「お!?イイね!!ヤッバ…なんか今やりたくなって来た」
ローグ「あいやいや…とりあえずちっと休みやしょう」
女海賊「設計図書くわ」
ローグ「へいへい…好きにして下せぇ」
女海賊は謎のやる気スイッチがある
こういう時は大体さっきまでやりたかった事を忘れている
そしていつも忘れた頃に思い出してバタバタ行動するパターンだ
ローグはそういう女海賊の行動癖を分かって居るから先読みで動く
それがこのセコイ男の世渡り術だ…気難しい海賊王の娘2人に取り入る事が出来た理由だった
ヌフフフフ ウヒヒヒヒ
こうして女海賊はしばらくハテノ村に滞在して古代遺跡の在処を探す事となった
『キャラック船』
ところ変わって…
南の大陸へ引っ越し中の盗賊達は通常の商船の航路をゆっくり進んでいた
途中で寄港した島では乗せて居る物資と交換する形で色々な物資を入手し快適な船旅が出来ていた
ザブーン ユラ~リ
盗賊「うぉらぁぁぁ!!」グイ バシャ
商人「おお!!又大きいの釣れたね」ビチビチ
盗賊「今日も大漁だヌハハ」
商人「もう魚はお腹いっぱいだよ…」ゲフ
盗賊「ブタの餌にすりゃ良い」
情報屋「船旅は長くなると飽きるのよね…ふぁ~あ」
盗賊「もう薬学の本は読み終わったのか?」
情報屋「自分で薬を作って試さないと飽きてしまうのよ…」
商人「あれ?…なんか天気おかしくない?」
盗賊「む?…そうだな?ちと暗くなって来たが…んん?どんどん暗くなってくじゃ無ぇか!!」
向こう側が見渡しづらくなり周囲が暗くなって行く
情報屋「ちょっとコレ…まさか闇?」…情報屋が慌てだす
盗賊「おいおいマジか!!釣りしてる場合じゃ無ぇ!!」ガバッ
その時船首楼の上で洗濯物を干して居た娘が声を上げる
娘「おーい!!船居るよ!!船船船ぇぇぇ!!」
盗賊「どこだ!!」ドタドタ
娘「真正面!!近い!!」
盗賊「うぉ!!マジかよ…なんでもっと早く気が付かねぇ!!」ダダ
情報屋「なにあの船…」
その船は中型のガレオン船で胴部に砲窓の無い貨物船だった
帆装が特殊ですべての帆が縦帆で構成されている…まるでスクーナーだ
そして悪霊のレイスが纏わりついて居る…
商人「幽霊船だ…噂で聞いた事ある」
盗賊「ヤベヤベ…ニアミスすんぞこれ」グルグル
盗賊は慌てて舵を切った
ギギギギ ググググ
盗賊「曲がれ曲がれ曲がれ…ぬぁぁぁぁぁ!!」
商人「こんな昼間に幽霊船…どうして…」
情報屋「この暗い空は狭間じゃないの?」
商人「幽霊船が狭間に?…僕たちが狭間に迷い込んだのか?」
盗賊「うはぁ…ギリギリ回避間に合った…すれ違うぞ!!隠れろ」
商人「あ…うん」
盗賊「まてまて…旗印が…なんでドラゴンの義勇団なんだ!?アサシンの船か?」
商人「向こうの甲板に船員が居ない…」ヒョコ
盗賊「おい!頭出すな!!陰からクロスボウがこっち向いてんだろ」グイ
ググググ ギシギシ
中型のキャラック船とガレオン船が行き違う
船の規模としては盗賊が乗る船の方が大きく見えるが堅牢さはガレオン船の方が上だ
盗賊「うひょぉぉ…撃たれんで済んだ」
商人「船尾に人影…こっち見てる」
盗賊「んんん…もう顔は確認できんな…背格好からして女だ」
情報屋「明るくなってきた」
商人「やっぱり狭間か…幽霊船は狭間を上手く使って居るのか…」
盗賊「まぁ何も無くて良かった…乗り込まれたらこっちは終わりだった」
『船長室』
幽霊船とすれ違った海域を海図で確認する為に船長室へ入る3人
商人「まさかこんな所で幽霊船とすれ違うなんてね…」
盗賊「狭間使ってるとはな?ほんでなんで又ドラゴンの義勇団が幽霊船動かしてるかって話よ」
商人「あれ?盗賊知らなかったのかな?…ドラゴンの義勇団はとっくに解散しているんだよ」
盗賊「ほんじゃやっぱあの旗使ってんのは女戦士か女海賊って事だな?」
商人「だろうね…」
盗賊「あいつら指輪から聖剣もアダマンタイトも何もかも全部持って行っちまったからな」
商人「薄々そうじゃ無いかとは思ってたけどね」
盗賊「お前いつから幽霊船の話を知ってるんだ?」
商人「随分前さ…キ・カイでは割と有名になってる」
盗賊「何か被害出てんのか?」
商人「そういう話は聞いた事無い…ただ商船とは良くすれ違うらしい」
盗賊「大砲が乗って無さそうだったから海賊やってる訳でも無さそうだ…狭間使って色々運んでる感じだな」
商人「ふむ…そうか硫黄と石炭の流通は幽霊船が運んでたとなると辻褄が合うな…」ブツブツ
盗賊「ぬぁぁ独り言はやめてくれ」
商人「あぁごめん…もし幽霊船に女戦士達が関わっていたとなると僕を探って居たのは彼女達だった可能性もあるなってね」
盗賊「又すれ違ってるってか?」
商人「実は硫黄と石炭の流通は殆ど僕が牛耳っているんだよ」
盗賊「ほう?」
商人「硫黄の産地は大体火山のふもとなんだよ…それで鉱夫を通じて古代遺跡の情報を収集していたのさ」
情報屋「賢いわね…それで古代遺跡の場所を突き止めたという事ね?」
商人「おおよそね…ハテノ村という場所さ…地図だとココになる」
盗賊「キ・カイから気球で飛んで5日って所か…そういやお前に預けたドワーフの気球はまだ有るか?」」
商人「大丈夫…キ・カイでちゃんと使わせて貰ってるさ」
盗賊「それを使えると思って良いんだな?」
商人「うん…」
盗賊「どっかでアダマンタイトを入手出来ればもっと早く行動出来そうなんだが…」
商人「市場じゃどういう訳か全然見ないね」
情報屋「なんかシン・リーンの魔術師が見つけ次第回収しているらしいわよ?」
商人「へぇ?そうだったんだ…」
情報屋「錬金術で何かに使うらしいの」
商人「錬金術ねぇ…興味はあるけど中々手を出せないなぁ…」
情報屋「十分に知識を持った後で無いと破産してしまうから気を付けて?」
商人「どう言う事かな?」
情報屋「高価な材料を使って錬金術に失敗すると消失してしまうのよ」
盗賊「錬金術ちゃぁゴミを黄金に変えるとかそう言う奴じゃないのか?」
情報屋「そんなに簡単なら今頃みんなお金持ちよ…等価交換という原則があってゴミはゴミにしかならないみたい」
盗賊「くあぁぁぁ意味無えわ…」
商人「大量のゴミを少しの価値の有る物に出来れば良いさ」
盗賊「まぁとりあえずキ・カイで落ち着いた後は気球でハテノ村目指す…それで良いんだな?」
商人「そうだね…まずは落ち着かないと…」
その後盗賊の船は数日掛けて何事も無くキ・カイに到着した
商人が案内してくれた事も有って商船として簡単に入港する事が出来てすべてが順調だ
家族としてまともに異国に来たのは初めてだったから娘達も気分はアゲアゲだった
『古都キ・カイの港』
100日の闇が晴れて数年ぶりにキ・カイへ来た
あの時とは雰囲気が全く違う…人に溢れ活気のある街へと変わって居た
盗賊「おぉぉぉ…エライ事人が居んな…外の町が復活してんじゃ無えか!」
商人「驚いたかい?これが食料不足の原因さ…まぁ…魚は一杯食べられるけどね」
盗賊「地下の方はどうなってんのよ?」
商人「相変わらずだよ…下に住んでる人は中々地上に出て来ないのさ」
盗賊「外の方が新鮮な空気吸えて快適だと思うんだがな?」
商人「いや…そうでもない…石炭を燃やした煙が地下から排出されるから正直空気は悪い」
盗賊「そら残念だ…しかしなんでこんなに人が多いのよ?」
商人「ここは地下が有ったから100日の闇で助かった人が多いんだよ…北の大陸は酷かったよね」
盗賊「確かに…始めの1カ月で相当死んだもんな」
情報屋「ねぇ…随分軍船が多いのね?何か知ってる?」
商人「そうだね…海賊狩りなのかな?」
盗賊「セントラルと言いシン・リーンと言い…海で何かあんのか?」
商人「どうだろう?後で僕の商人ギルドで聞いてみるよ」
盗賊「ところで俺達が住む場所はどうなる?」
商人「ハハ心配しなくて良いよ…商人ギルドのある建屋は空き家ばっかりなんだ」
盗賊「おぉそら良い」
商人「僕の隠れ家にもなるから住んでもらった方が助かる」
盗賊「娘達の子供も居るんだ…危険なのは勘弁してくれ」
商人「悪い事はしていないから大丈夫さ」
盗賊「桟橋にはこのまま付けて居て良いのか?」
商人「うん…下船許可貰って来るから荷物をまとめて待ってて」
盗賊「おう!!おーい娘達ぃぃ船降りるから準備しろぉぉ!!」
娘達「うぉぉぉぉぉ!!」
『商人ギルド』
地上にあるそこそこ大きな建屋に商人ギルドが構えていた
100日の闇の後誰も居ない建屋を商人が勝手に使いどさくさで所有する事になったらしい
元の所有者は何処に行ったか分からない
盗賊「お前…この建屋をタダで手に入れたんか?」
商人「ハハハそんなつもり無かったんだけどさ…落ちてる物拾ってここで物売りしてても誰も何も言わなくてね」
盗賊「なんでよ?」
商人「知らないよ…元の持ち主が来たら明け渡そうと思って居たのに持ち主が現れない…そんな感じだよ」
盗賊「そら儲けたな?」
商人「うん…この建屋の権利書も机に入ったままで保管してあるさ」
盗賊「おいおい情報屋!キ・カイの土地管理はザルなんか?」
情報屋「しっかり管理されて居るのは地下の方ね…多分この建屋はセントラルの貴族とかそう言う人の物だったと思うわ」
盗賊「権利書の名義はどうなってる?」
商人「一応書いてあるけど何処の誰だか分からない…まぁ僕がその名を名乗ってるけどね…マルコだよ」
盗賊「マジか…成りすましちまったか」
商人「まぁ良いじゃ無いか…お陰でマルコの身分証も再発行して貰えたんだ」
盗賊「俺の家より良い家を持って居やがるか…くそう!」
商人「盗賊は船が有るじゃない…そっちの方が高価だよ」
盗賊「まぁ本当はアサシンの船なんだが…ほんで?この建屋に子供達を住まわして良いんだな?」
商人「うん…建屋の上の階はほとんど空いているから好きな部屋使って良いよ」
盗賊「なんで又空き家なのよ?誰かに貸すとかすりゃ儲かるだろ?」
商人「本当は他の商人の宿泊用で確保してるんだけどね…みんな宿屋の方に行ってしまってさ」
盗賊「なるほど…」
商人「まぁ宿屋に泊まった方が色々商売の話も出来るし都合が良いんだろうね?…ホラ?麻薬とか趣向品とかあるから」
盗賊「キ・カイはその辺合法なんか?」
商人「見れば分かるでしょ?体の一部を機械にしたり…大麻吸ったり…何でも有りだよこの国は…」
盗賊「そら住みやすいこって…子供達には良く無い環境だが…」
商人「とりあえず上に荷物置いておいでよ…働き口とか後で紹介してあげる」
盗賊「分かった!」
商人「待って!盗賊はちょっと仕事教えるから一緒に来て…他の皆は好きにしてて良いよ」
盗賊「なんだ…ほんじゃ情報屋!お前が子供達連れて上に行っててくれぇ」
情報屋「分かったわ…私は船旅疲れたから少し休んで居るわ」
盗賊「おう!!」
商人ギルドは主に商隊や商船に加わる商人達が集まる場だ
その取引は当事者達で勝手に調整をするからやらせておけば良い
ただ取引には損失を出す者も居る…そんな時に損失分を補填し破産する者が出ない様にするのが商人ギルドの役割だ
いわゆる銀行の役割を持つ…そしてその他にも競売をギルドが受け持つ
その関係で沢山の物資や他の商人達の資産が一時的に商人ギルドに集まる
商人はそれをうまく運用してギルド資金を増やして行ったのだ
商人「…それで商人ギルドのマスターという事でここに居てくれれば良いよ」
盗賊「お前はどうすんのよ?」
商人「僕は受付役さ…大事なお客さんはそっちに案内するから上手くやって」
盗賊「上手くやってってお前…俺は何も分からんぞ?」
商人「フード被って凄んで居れば良いよ…あとは僕が誘導するから」
大事なお客さんと言うのは損失を出してしまった他の商人の事だ
資金を借りに商人ギルドへ泣き付いて来る…そこで持って居る資産を担保に損失の補填と儲け方の指南をする
つまり商人の都合の良い手駒になり且つ資産を上手く押さえられるのだ
盗賊「あぁなるほど…そういう取引か…俺の得意なやつだ」
商人「じゃぁちょっと僕は他の商人に話を聞きながら様子を探って来る!」
盗賊「おう!!」
盗賊は商人ギルドのマスターに成りすまし資金を借りに来る者へ軽く脅すだけで良かった
踏み倒されて逃げられるリスクもそれで減るのだ
商人が影武者を雇いたい理由はここに有る…顔が知られてしまうと何かと危険に晒されてしまうからだった
『夜』
商人ギルドでの取引は日没前には終わる
商人は不在にしていた間の損益を帳簿で確認しながらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた
盗賊「おうおう…帳簿に見た事無いような桁数の金額が書いてあるんだが…まさかそれ全部お前の金なんか?」
商人「違うよ…ギルドの運用資金で僕のお金では無い」
盗賊「でもそんだけ動かしてんだろ?」
商人「まぁね?国が相手だとこんな金額になってしまうのさ」
盗賊「国と直接取引してるってか?」
商人「硫黄と石炭は僕が牛耳ってると言ったでしょ?欲しい国は沢山有るのさ」
盗賊「なんでそんな都合良い事になってんのよ」
商人「牛耳って居ると言っても流通を牛耳って居るだけだね…まぁ窓口な訳さ」
盗賊「ほう?ほんじゃお前ん所に言えば硫黄が買える状況になってる訳か…」
商人「そう…僕はギルド資金を運用して買い占める事でちょっとだけレート操作して利益出してる」
盗賊「動かせる金が有るとやれることがやっぱ違うな」
商人「貴族達は自分のお金でそれをやって居るのさ…僕は他人のお金で同じ様な事が出来るだけだね」
盗賊「なるほど…ほんでお前の金はどんくらいあんのよ?」
商人「ハハハ残念ながらそれほどお金持ちでは無いよ…まぁ上手に流通させてる信用が資産みたいな物かな」
盗賊「それにしちゃ顔がニヤけてんぞ?」
商人「バレたか…硫黄がものすごい高値で売れたみたいでね…倍近い価格の宝石で取引された様なんだ」
盗賊「ほう?物々交換か…」
商人「買い手が誰なのか分からない…こういう事をするのは大抵貴族だよ」
盗賊「どうもキナ臭せぇな?」
商人「そうだね…ちょっと良く無さそうな話も聞いたんだ…どうもドワーフの国が他の国と対立してるっぽい」
盗賊「軍船が集まってんのはソレだな?」
商人「そうかも知れないね…嫌な話さ」
盗賊「そういや高額取引が硫黄ばかりだな?それと砂鉄か…」
商人「うん…持ち出し先がバラけててよく分からないけど…異常だよ」
盗賊「硫黄と砂鉄っちゃぁ爆弾の材料なんだろうが…大砲に使うにしちゃ取引量が多いよな?」
商人「うん…何に使われるのか不明…その情報が有ればもう少し利益も出せるんだけどね…」
盗賊「他に硫黄の使い道っちゃ魔法だな…ううむ…やっぱどう見ても戦争に見えちまうな」
商人「こんな話もあるんだよ?」
盗賊「んん?」
商人「何年か前にね…軍船が海賊に爆弾一発で沈められたという話があってね」
盗賊「一発?…女海賊の爆弾か?」
商人「多分そうさ…それでその爆弾の製造法についてセントラルから調査依頼が来た事があるんだよ」
盗賊「あの爆弾は反則級の破壊力だもんな…そらみんな欲しがるワナ」
商人「海賊がやったっていう所がポイントだね」
盗賊「状況的に裏でドワーフが関わっている様に見えてんじゃ無えか?…女海賊が関わってるんだとしたらな?」
商人「良く分からないけれどそういう探り合いが起きて居るんだと思うよ」
盗賊「こないだ聞いたセントラルの地下爆発事故も…やられた方からしてみればその爆弾だと思うぞ?」
商人「やったのは白狼の盗賊団だという噂さ…海賊とは別なんだ」
盗賊「ヌハハまんまと掻き回されて訳分からんくなってる訳か」
商人「それが今の状況を呼び込んで居るんじゃないかな?大量の硫黄を使って同じ爆弾を作ろうとしてる」
盗賊「セントラルがか?」
商人「うん…相手と同等かそれ以上の戦力が無いと戦えないでしょ?」
盗賊「おぉぉ…って事は女海賊の爆弾は戦争にならん為の抑止力になってるってこったな」
商人「そうとも言えるね…ドワーフの国は弱小だけどその爆弾が有るとなると他の国はなかなか手を出せないだろうし…」
盗賊「なるほどな…それで対立軸が有って今は睨み合ってる状況だと言う訳か…」
商人「正直情報がバラバラで良く分からないね…でも逆に言うとこういう時にこそ稼ぎが出る…」
盗賊「お前そんな金集めてどうすんのよ?」
商人「さっき言ったでしょ?僕はまだそんなにお金持ちじゃない…少しくらい余裕が欲しいさ」
状況はこうだ…
女戦士率いるならず者の海賊達が力を付け
貴族が運用する商船を狙って襲う事で海の安全が脅かされていたのだ
本来なら流通する筈の大量の魔石が途絶えてしまいキ・カイも海賊を放置する訳に行かなかった
そこで各国が合同で大規模な海賊狩りを編成し始めたのだが…
海賊達の背後にドワーフの国が介入している事が噂され事態が大きくなりそうになって来た
そこへ白狼の2人が各地で騒ぎを起こした事で情報に混乱が生じた
それで各国が足並みを揃えられないままゴタゴタとした海賊狩りが始まろうとして居たのだ
しかし盗賊達にはあまり関係の無い話だった…
『酒場』
盗賊はギルドでの仕事を終え
何処かに遊びに出てしまった情報屋と娘達を探しに酒場を訪れた
ワイワイ ガヤガヤ
いらっしゃいませー
盗賊「やっぱりここに居たか…家に居無ぇから探したぜぇ」
情報屋「あら?娘達も来てるわよ?」
盗賊「羽伸ばしてんのか?」
情報屋「長い事船旅で退屈だったから遊びたいのよ」
盗賊「俺にも遊ばせろい!」
情報屋「あなたも飲んで行くでしょう?」
盗賊「ったり前えよ…しかしなんだ?この国では変な口ばし付けるのが流行ってんのか?」キョロ
情報屋「私も買っておいたわ…ほら?」
盗賊「なんだこりゃ?」
情報屋「黒死病という伝染病が流行ってるらしいわ…みんなの分も買っておいたからあなたも付けて?」
盗賊「俺ぁそんな奇抜な格好はし無ぇよ」
情報屋「でも嫌ね…あっちでもこっちでも争って…流行り病もあるし」
盗賊「あっちでもこっちでも…て軍船の事か?」
情報屋「陸では蛮族と…海では海賊と争っているんでしょう?…あなた何も聞いて居ないの?」
盗賊「蛮族ともやってんのか…忙しいこった」
情報屋「あなた何時まで立って居るつもり?座ったら?」
盗賊「おぉ…その酒瓶俺が頂くぜ?」グビグビ プハァ
情報屋「商人はどうしたの?まだ仕事?」
盗賊「取引先と交渉だってどっか出て行った…例のハテノ村関連の鉱夫らしい」
情報屋「案内してもらうのかしら?」
盗賊「案内人が居るなら探す手間が省ける…ただ信用出来るかどうかだな」
グラリ
突如地面が大きく横に揺れた…
盗賊「ん!?…」
情報屋「え…何この揺れ…」
グラグラグラグラグラグラグラグラ
揺れは次第に大きくなり酒場のテーブルがひっくり返る
盗賊「お…お…やべっ!!おい伏せろ!!」
情報屋「地震!?…あわわわ」
うぎゃぁぁぁぁ…地震だぁ!!
助けてぇぇぇ
イヤーーーーー
大きな揺れは数分続いて収まった…
盗賊「お…収まった…おい娘達!!帰るぞ!!」
情報屋「子供達が心配!」
盗賊「情報屋も早く来い…帰る!!」グイ
『商人ギルドの建屋屋上』
突然の大きな地震で街は混乱状態にあった
夜間で海の状態が良く確認できない…津波を恐れて人々は建屋の上へと押し寄せていた
ザワザワ ザワザワ
盗賊「みんな居るな!?」
情報屋「うん…地震大きかったわね」
盗賊「こりゃ津波来るな…船流されなきゃ良いが…」
商人「南東の空が赤い…火山が噴火してるのかも」
情報屋「戦争に病気に地震に噴火まで…怖い」
商人「…すごく嫌な予感がする…ね」
盗賊「噴火なんかしてたら火山になんか近付けんぞ?」
商人「まぁまぁ…ハテノ村の方だとは限らないさ」
盗賊「ところで…鉱夫との取引はどうなったんだ?」
商人「あぁソレね…危ないから同行したくないってさ」
盗賊「マジか…案内人無しじゃ探すのに手間かかるじゃ無ぇか」
商人「詳細の地図と絵を描いてもらった…これ」パサ
商人は羊皮紙を広げた
情報屋はそれを覗き込み記された遺構らしき物見て言う
情報屋「…この絵…確かに古代遺跡の一部の様ね」
盗賊「鉱夫が言う危ないっていうのはどういう事なんだ?聞いてるか?」
商人「蛮族と領地を争ってる真っただ中なんだってさ…蛮族が身を隠して居るかもしれないらしい」
盗賊「戦場のど真ん中な訳か…そら今の俺達じゃどうにも出来んかもしれんなぁ」
情報屋「あなた…アダマンタイトで狭間に入れるじゃない?」
盗賊「俺一人で行けってか!んんん…お前等2人守りながらよりは安全だが…相棒がもう一人欲しい」
情報屋「私も少しは戦えるわ?…遺跡だとしたら私も黙って見ている訳にも行かない」
盗賊「むぅぅぅ…行ってみんと状況も分からんか…ひとまず行くだけ行ってみるか」
商人「ありがたい…出来るだけ早くホムンクルスを目覚めさせたい」
盗賊「お前はホムンクルスに拘るのだな?」
商人「彼女との約束を果たしたいのもあるけど…それより聞きたいことが山ほどあるんだ」
盗賊「山ほど?」
商人「彼女は環境保全用のロボットだと言ってたよね?」
情報屋「もしかして黒死病の事とかも聞きたいの?」
商人「それもあるけど今の戦争も病気も地震も津波も噴火も…ぜんぶ繋がっている気がする」
情報屋「確かに一度に色々起き過ぎよね…」
商人「こんな感じ…前にもあった」
盗賊「前の魔王復活の時だな?戦争に内紛ゾンビ化の病…魔物の大群」
商人「そうだよ…そういうのに何か規則性が有りそうな気がするんだ」
盗賊「どういう事ヨ?」
商人「何て言うのかな…計画されていると言うか…自然にそうなる様な法則が有るとか…」
情報屋「それと環境保全用のロボットとどういう繋がりが有ると思って?」
商人「それらも全部環境だと言う事さ…それを正すのが彼女の役割なんじゃないかな?」
情報屋「あなた分かってる?…それはホムンクルスにもう一度精霊として役目を果たせと言って居るのと同じよ?」
商人「ま…まぁ…分かって居るさ」
そうさ…僕はホムンクルスに精霊と同じ道を歩ませたくないと言いながら
結局精霊としてアテにしちゃって居るのさ
彼女が超高度AIで物事を考える事が出来る以上…多分避けられない事なんだと思う
この数年古代遺跡を探しながらそこら辺の事は良く考えたよ
彼女に心を宿したいなんて甘っちょろい問題じゃ無い…問題はもっと深いんだ
『翌朝』
日が登り明るくなってから津波の被害がどの程度だったのか分かるようになって来た
キ・カイの港は防波堤がしっかりしている事も有って一時的に海面が上昇しただけで被害は軽微だった
商人「大した津波じゃなくて良かった…もう引いて行ってる」
盗賊「おーし…俺の船も無事な様だ…どうする?もう行くか?」
商人「そうだね…津波の混乱が収まるまでは商人ギルドも取引停止だろうし…火山の噴火状況も気になる」
情報屋「娘たちに言ってくるわ」
盗賊「おぅ…もう子供達の事は娘達に任せて置け」
商人「僕は荷物をまとめて来るよ」
盗賊「よし…俺は先にドワーフの気球ん所行って準備してくるわ…用意出来たら来てくれ」
商人「気球の発着場に有るけど分かるかい?」
盗賊「分かるに決まってんだろ!キ・カイじゃ珍しい形の気球だからな?」
商人「ハハ…まぁそうだね…武器とかはどうしよう?」
盗賊「そうだな…クロスボウは準備できるか?ボルトも多めに積んでおきたい」
商人「分かった…用意して他の者に持って行かせるよ」
盗賊「あぁそうだ!!金属糸が必要になる…それも頼む」
商人「んん?何に使うのかな?」
盗賊「あの気球はあんま速度出んからちっと改造せんとイカンと思ってな」
商人「まぁ任せる…壊さない様にだけ頼むよ」
『ドワーフの気球』
この気球はドワーフ族が戦闘用に作った気球だ
他の気球と比較してドワーフの体重を支えられる堅牢な籠を持つ気球で随所に戦闘用の工夫が施されている
キ・カイの気球は軽量で小回りの利く物が主流なのに対して既に時代遅れな気球だった
盗賊「おぉ来たか…もう荷物は積み終わってるぞ」
商人「僕はもう一回荷物取りに戻る…ボルトが重くてさ」
盗賊「あぁ炉に火を入れておくから急げ」
商人「うん…それでどうだい?この気球は?」
盗賊「んあ?…まぁ…まだ使えるんだが…色々無駄が多いな」
商人「ハハそうだよね…勿体ないと思って使ってたけど…そろそろ買い替えだよね」
盗賊「戦場の上を飛ぶならこれぐらい丈夫な気球じゃ無いと安心出来んから良い所もある」
商人「さて…荷物を取りにもう一回戻るね」
盗賊「おう!!慌てて転ぶなよ?」
商人「うん…行って来る」タッタッタ
盗賊は気球を飛ばす準備は既に終えて何か作り物をしていた
その様子を見て情報屋が話しかけて来る
情報屋「それは竿?何作って居るの?」
盗賊「ちょいと鍵開けの仕掛けだ…例のキ・カイの扉は簡単に開かんもんでな」
情報屋「何か手伝う事ある?」
盗賊「もうちょい炉の温度上げといてくれ…石炭は横の箱ん中だ」
情報屋「うん…よいしょ」ガサガサ
盗賊「ふいご動かして送風すりゃ温度上がる…力居るがお前に出来るか?」
情報屋「よいしょ…よいしょ…」
盗賊「出来るじゃねぇか!!足でやっても良いんだぜ?そっちのが楽だ」
情報屋「これ…女海賊は涼しい顔してやってたわよね…よいしょ」
盗賊「あいつは素がドワーフだから見た目以上に頑丈でタフなんだ…あぁぁその位で良いぞ飛んでっちまう」
情報屋「ふぅ…」
盗賊「じゃぁ次にな…窓ん所にアロースタンドあるからクロスボウ引っかけて置いてくれ」
情報屋「これ?」ガチャ
盗賊「そうだ…右と左…そして後ろにも」
情報屋「へぇ…こうやって使うんだ…ドワーフの気球は狙撃用に考えられているのね」ガチャ
盗賊「そのクロスボウは2発づつ撃てるから3人でやればそれなりの火力にはなるな」
情報屋「戦う前提で行くんだ…」
盗賊「戦場のど真ん中だぞ?相手より先に気球やっとかんとこっちが狙い撃ちに合う」
情報屋「この気球は戦闘用?」
盗賊「そうだな…割と丈夫に出来ているし球皮に穴空いても最低限飛べる工夫がされている…さすがドワーフの気球だ」
商人「お待たせ!ボルト持ってきたよ…よっこら」ドサリ
盗賊「おう!!じゃぁ早速行くか」
フワフワ~
商人「おぉクロスボウ準備万端だね…ボルトセットしておこうか?」
盗賊「やり方分かるか?アロースタンドに引っかけてやれば簡単にセット出来んだぞ?」
商人「へぇ…ちょっとやってみる」グイ ガチャ
盗賊「弓よりクロスボウの方が倍以上射程が長い…クロスボウ完備した気球は強えぇぞ?」
商人「そうだね…こんなにセット楽ならドンドン撃てるね」
『出発して数日後…』
盗賊は金属糸を使って軽く気球を修繕しながら飛行を続けた
旧式の気球だがバタ付く部分を金属糸を張って補強する事で随分進行速度も改善した
ビョーーーーウ バサバサ
商人「南の方の空が真っ黒だ…」
盗賊「火山灰だな…こりゃ南西の火山も噴火していそうだ」
商人「みんな休火山だったんだけどね…」
盗賊「風向き的にそっちから来てるとしか考えられん…こりゃ気球で南側回っては行けんぞ?」
商人「火山弾かい?…という事は蛮族の領地はかなり被害が出ているかもね」
盗賊「んむ…ハテノ村が無事だと良いが…」
情報屋「ねぇ…こっちの大陸で火竜の伝説って知ってる?」
商人「本で読んだよ…火竜の怒りで火山が噴火するとかいうやつね」
情報屋「そう…火竜が人々を食らい尽くすらしいけれど…なんだか心配ね」
盗賊「魔王の次は火竜だってか?もう勘弁してくれよ」
情報屋「火竜の怒りを静めたと言われて居るのが水の精霊ウンディーネ」
商人「南の大陸では北の大陸と全然違った伝説があるよね」
情報屋「この水の精霊とエルフの森に居た風の精霊が同一人物だった可能性はどう思う?」
商人「ホムンクルスが8000年生きてたのだから…そう考えてもおかしくないね」
情報屋「ウンディーネが火竜の怒りを鎮めた後に人魚が発生…」
商人「んん?人魚伝説も関係するのかい?」
情報屋「人魚は海に潜って何をしたと思う?狭間の外に出た可能性は?」
商人「え!?ちょっと待って…火山の噴火も魔王に関係していそうだと言ってる?」
情報屋「それは断定出来ないけれど…そういうのがきっかけで何か起こるのかも知れない…ってね」
商人「嫌な話だね…僕もなんだか胸騒ぎがするんだよ」
情報屋「商人が言う様に色んな事の関連性は一度ホムンクルスに聞いてみたいわ」
盗賊「そういやホムンクルスはキノコが雨を降らせるとか謎な事言ってたな…」
情報屋「キノコで火竜の怒りを静めた…少し規模感が想像出来ないけれど…」
盗賊「キノコがなんで雨と関係すんだろうな?」
情報屋「それもホムンクルスに聞いてみたいわね」
盗賊「うむ…」
『更に数日後…』
目的地であろう火山は猛烈に噴煙を巻き上げていた
噴煙に巻き込まれないように風上から近付く…
盗賊「…こりゃ又すげぇ噴火だな…火柱が出てんじゃねぇか」
情報屋「見て…向こう側の斜面…あれが火竜の正体ね」
商人「マグマか…蛮族の村々は飲み込まれて行ってる様だね…大災害だ」
盗賊「この噴煙は相当高い所まで行ってんぞ?」
商人「こっち側にマグマが来ていないのが救いだよ」
盗賊「ハテノ村が風上で良かったな?高度下げて行くぞ…地図見せろ」
商人「今の位置はここだよ…このまま南西に行けば着く筈」
情報屋「ポツポツ煙が立ってる…火山弾が少し落ちてるみたいね」
盗賊「こりゃ長居は出来ん…さっさと終わらしちまおう」
『ハテノ村上空』
シュンシュン ストスト
盗賊「うお!!…オークが居るじゃねぇか…応射出来るか?」
情報屋「やる…」バシュ バシュ
商人「僕は後ろ側で…」バシュ バシュ
盗賊「旋回しとくからお前等はクロスボウで狙い続けてくれ」
情報屋「教会の様な建物に籠って人間の兵隊が戦ってる…」バシュ バシュ
商人「あっちにも!!」バシュ バシュ
盗賊「局地戦になってんだ…人間を援護しながらオークの撤退まで俺らが弓兵役だ…こんなんじゃ降りるにも降りられん」
情報屋「南側で大きな戦闘やってるみたいね」
盗賊「そっちは無視だな」
商人「オークはボルトが当たってもなかなか倒れない」バシュ バシュ
盗賊「頭を狙え!頭ぁ…俺も撃つわ!!」ガチャコン バシュン
情報屋「オークが撤退し始めてるわ」
盗賊「よしよし…上からボルトが振ってくりゃ下がるしかあるまいヌハハ」
商人「すごいね…3人だけで戦況変えられるね」
情報屋「下で兵隊が手を振ってるわ」
盗賊「振り返してやれぇ…誤射されたく無ぇしな」
商人「目的の遺跡はここからもう少し山側だよ…廃村があるからそこが目印」
盗賊「分かった…ゆっくり行くから良く下見てろ」
『廃村上空』
情報屋「こっちはオークだらけね…」
盗賊「やるしか無ぇだろ…弓の射程外で飛ぶからボルト撃ちまくれ」
商人「こっちに気付いた…撃つよ」バシュ バシュ
盗賊「建物に隠れられても構わず撃て…ボルトなら貫通できる」
情報屋「あれ?オークの様子が変だな?んんん?罠に掛かってるオークが居る」
盗賊「知るか!!撃て!!」
商人「オークは20人くらい…盾構えてる」バシュ バシュ
盗賊「向こうはこっちに手を出せんからどうせ逃げていく…とにかくオークの数を減らした方が良い」
商人「あぁやっぱりオークは賢い…傷付いた仲間をかばってる」
盗賊「むむ…撃てんか?」
商人「…」
盗賊「ええい仕方無ぇ…火矢を射かけて建物燃やす!撤退してくれりゃ良いが…」ボゥ ギリリ シュン
商人「ごめん…ああいうの見たら撃てなくなった」
盗賊「まぁ良い…俺らは戦争しに来た訳じゃ無ぇからな?」ボゥ ギリリ シュン
情報屋「薬草落としてみる?」
盗賊「敵に塩か…撤退してくれりゃ何でも良いんだが…まぁ一回やってみろ」
情報屋「うん…」ポイ
商人「…」
情報屋「…」
盗賊「…」
商人「お!!?拾った!!」
盗賊「んん…動く気配が無ぇな」
商人「でも薬草使ってるよ」
情報屋「なんか木を切り倒し始めたんだけど…」
盗賊「何するつもりだ?」
商人「まさか櫓を作ろうとしている…のかな?」
盗賊「おいおい…居座るつもりかよ」
商人「ここに居座るならそれはそれで良いかも…下の川沿いに1キロくらい行った所が遺跡だよ」
盗賊「しょうが無ぇそっち行ってみっか」
『遺跡付近』
周囲を警戒しながら進み遺跡の遺構と思われる石柱を発見した
情報屋「遺跡の石柱…あれね?」
盗賊「なんかそこら中に穴掘られた痕があんな…こりゃ誰か居るのかも知れん」
シュン バスン
盗賊「ぬぁぁぁ!!撃たれた…球皮に当たっちまった」
情報屋「こっちにもオークが来てるのね」
盗賊「どっから撃って来やがった!!」
商人「オーク3匹!!向こうに走っていく…」
情報屋「誰か追われている?」
商人「こっちでも戦闘が起きて居るんだ」
盗賊「他に居ないか?一旦降りて球皮に応急処置してぇ」
情報屋「見当たらない」
盗賊「お前等…武器持て…俺が1分で修理してくる」
商人「うん…見張っておく」
盗賊「誰か来たら構わず高度上げろ」
フワフワ ドッスン
盗賊「ちゃんと見張ってろよ…行って来る」ダダ
商人「あれ?…なんだ?この場所…なんか見覚えが…」
情報屋「あなたも!?私も何処かで見た気が…」キョロ
盗賊「おい!何やってんだ外に出るな!」
商人「ここは…」フラリ
盗賊「修理終わった!!行くぞ!!」
商人「待って…こっちだ」タッタ
盗賊「おいマジか!!…どこに敵が要るか分かんねぇのに…情報屋!!付いて来い…離れんな」タッタ
商人「ここだ…これが入り口だ」ユビサシ
盗賊「こりゃあん時の入り口と同じだな…しかし誰かが入った痕がある」
商人「降りてみよう」
盗賊「いつオークが来るか分かんねえのに…ええい!仕方ねぇ…俺が先行くからお前等は後ろ見てろ」
情報屋「今は大丈夫!」
盗賊「この狭い入り口にオークがドヤドヤ入ってきたら終わりだかんな?…覚悟しろよ?」
『古代遺跡の扉』
階段を下った先には例の扉が行く先を塞いでいた
盗賊「こりゃビンゴだぜ?この扉はキ・カイの扉と同じだ」
情報屋「開けようとした痕跡があるわね」
盗賊「…そうだな」ゴソゴソ
商人「開けられる?」
盗賊「俺は鍵開けのプロだ…まぁ見てろ…よし!引っかかった…」
情報屋「…その道具…そうやって使うんだ」
盗賊「構造さえわかりゃ専用の道具作るのなんか訳無ぇ…うっし金属糸が通った」キュッ キュ
商人「足音…」
盗賊「なにぃ!!」
商人「だめだ向こうが暗くて見えない」
リリース!
商人「うわっ!!誰?」
情報屋「え!?…」
盗賊「お…お前…」
女海賊「続けて」ギロリ
ローグ「お久しぶりでやんす」
女海賊「良いから鍵開け続けて」
ローグ「扉開けられなくて困っていたでやんすよ」
商人「女海賊!!元気にしてたかい?」
女海賊「…」ジロ
盗賊「感動的な再開とはいかねぇなぁ…」
情報屋「女海賊?私を覚えてる?」
女海賊「…」ジロリ
盗賊「お前変わったなぁ…そんな冷たい目をする奴じゃ無かったんだがな」キュッ キュ
商人「剣士はどうなった?無事なのかい?」
女海賊「関係無いでしょ…」
盗賊「俺らはお前と戦う気なんか無ぇ…武器降ろしてくれ」
ローグ「あねさん…どうしやしょう?」
シュタタ
子供「ママ!!外の気球の所までオークが来てる」
盗賊「ママ?」
女海賊「鍵開け続けてて…未来?あなたはここに居なさい…ローグ!!オークを追い払う…付いといで」タッタッタ
ローグ「アイサー」タッタ
情報屋「僕?名前は未来って言うの?」
子供「そうだよ…おばさんたちは誰?ママの友達?」
商人「ハハハ驚いた…君は女海賊の子供なのかい?」
情報屋「ママの昔の友達ね」
子供「よかった…ママ友達居ないからさ…心配してた」
盗賊「よっし…鍵開け済んだ…さっすが俺」
『しばらくして…』
女海賊達はオークを追い払ったのか足早に階段を駆け下りて来た
ツカツカツカ…
盗賊「あと1時間ぐらいで扉が開く…オークは追い払ったのか?」
女海賊「あんた達もね…」チャキリ
盗賊「おいおい…昔の仲間だろうよ…その武器を向けないでくれぇ」
商人「女海賊…君の狙いはホムンクルスだろう?どうするつもりだい?」
女海賊「…」ジロリ
商人「僕はこの世界を救う方法を彼女に聞きたいんだ…君も同じじゃないのかい?」
子供「ママはね…パパの為なんだよ」
女海賊「未来!それは秘密!」
盗賊「パパ…剣士だな?剣士は生きてるんだな?おぉぉぉ良かった!!」
ローグ「あねさん…もう良いんじゃないっすか?」
女海賊「私はもう人間を信用しないって決めたんだ…」
ローグ「あっしも人間っす」
女海賊「…」
ローグ「あっしは敵じゃないっすよ?」
女海賊「あんた達の目でいつ魔王が監視してるか分かんない…そんだけ」
商人「魔王!?魔王は退けたんじゃないのかい?」
女海賊「…」ジロリ
ローグ「あねさんが言うにはどこかに潜んで居るってこっす」
情報屋「…やっぱり一人でまだ戦って居たのね」
商人「僕はこの世界を救いたい…目的は君と一緒だよ」
女海賊「フン!私は愛する人を救いたい…目的が反しているのさ!!」チャキ
商人「勇者の宿命か…なら他の解決法をホムンクルスに聞きたい」
女海賊「それなら私も同意…あんた!精霊の記憶を持って居るよね?よこしな!!」
商人「…それは渡せない」
女海賊「そう言うと思ってたさ…手荒な事はしたくなかったけど…覚悟して」
商人「じゃぁ取引をしよう…ホムンクルスの管理者は僕さ」
女海賊「…」
商人「新たに管理者を加える事も禁止している…どういう事か分かるよね?」
女海賊「なにさ」
商人「クラウドにある精霊の記憶を読み込むには許可が必要なのさ…つまり僕無しじゃ大したことは聞き出せない」
女海賊「うっ…」
商人「さぁどうする?」
女海賊「ローグ!!こいつらの手足を縛って!!捕虜にする」
ローグ「えぇ!?本当っすか?…盗賊さんは恩人っすよ?」
盗賊「待て待て…俺達は本当に何もしやしねぇ…捕虜でも何でも良いから仲良くしようぜ」
女海賊「フン!!捕虜という事を忘れないで…私の言う事は聞いてもらう」
盗賊「分かった分かった…お前に合わせる…武器を降ろせ!」
商人「取引成立だね?」
この時商人が言い出した管理者と言うのは定義があいまいだった
別の個体のホムンクルスに新たに管理者を登録すれば済む話だったのだが
商人も含め女海賊も勘違いして居たのだ
この時点で管理者権限が引き継がれるのかは分かって居ない
『古代の研究所』
待つ事一時間…静かにその扉は開いた
中の空間は前にホムンクルスが安置されていた場所とほぼ同じ…
ガラス容器の中に一体だけホムンクルスが浮かんでいた
商人「居た!!最後のホムンクルスだ」
女海賊「盗賊!あんたらの気球に乗ってる樽の中見全部捨ててこっちに持って来て」
盗賊「あぁ…何すんだ?」
女海賊「この液体を全部持って帰る…ローグ!!そこらへんにある物全部気球に運んで!!」
ローグ「アイサーお宝お宝ぁぁ」
女海賊「商人と情報屋は入り口見張って…私はホムンクルス運ぶ…未来?手伝って」
子供「うん…」
盗賊「この液体がそんなに重要なんか?エリクサーだっけか…」ヨッコラ
子供「パパに飲ませるんだ」
女海賊「未来!言ってはダメ…」
子供「うん…」
盗賊「ところでそのお面は何だ?」
子供「オークのお面だよ」
盗賊「いつも付けてるのか?」
子供「かっこいい?」
盗賊「ヌハハ…そういうのが好きか…さすが女海賊の子だ」
女海賊「無駄口叩いて無いで急いで荷物運んで!!」
盗賊「へいへい…」
ゴゴーーン グラグラグラグラ
女海賊「はっ!!近い…」
盗賊「また地震かよ早い所ずらかりてぇ」ヨッコラ ヨッコラ
女海賊「積み荷を急いで!!」
『ドワーフの気球』
ヒューー ドカン
ローグ「うわわわ…火山弾が降ってきやした…やばやば」
女海賊「よし…ちゃっちゃと移動する」フワフワ
盗賊「マズイな…球皮の穴が直って無ぇ!!これじゃ高度上がらん」
女海賊「良い!!このままハテノ村で私の飛空艇に荷物を積み替える」
盗賊「おぉ!!そりゃ良い」
女海賊「クロスボウ使ってオークを気球に寄せないで…オークの上を押し通る」
ローグ「あいさー」バシュ バシュ
商人「ハテノ村でも戦闘が起こってる」バシュ バシュ
盗賊「追い払ったオークが戻ってきてんだな…気球で援護しねぇとあの村は持たんぞ」
女海賊「この気球はハテノ村にくれてやるさ…早くオーク追い払って!!」
ローグ「ちっと気球の向きを上手く調整して欲しいっす」
女海賊「やってる!!」グリグリ
盗賊「人に当てんなよ?」バシュ バシュ
商人「オークがこっちに気付いた…後退して行くよ」バシュ バシュ
女海賊「未来!?煙玉投げて」
子供「うん…」チリ ポイポイ モクモクモク
女海賊「気球を降ろす!!荷の積み替えは1分でやって…」フワフワ ドッスン
ローグ「マジっすか…」
女海賊「遺跡のお宝以外は捨てて行きな…未来!!ホムンクルス運ぶの手伝って」
子供「うん…」グイ
『飛空艇』
女海賊「早く!!…もうすぐ煙が切れる」
ローグ「待ってくれやんす…」ヨッコラ ヨッコラ
盗賊「このクロスボウも持って行く」ドサッ
女海賊「商人!情報屋!クロスボウで援護する準備!!」
ローグ「ぬぁぁぁ…ひぃひぃ…これで最後の樽っす」ゼェゼェ
女海賊「飛ぶ!!」
シュゴーーーー フワフワ
子供「ママ!?この子が動き出したよ?」
ホムンクルス(セイタイキノウ テイカ スリープモード ヲ カイジョ シマス)
ホムンクルス(ショキカ カンリョウ システム ヲ サイキドウ シマス)
ホムンクルス(…)ピッ
商人「ホムンクルス!…今起こしてあげる」
子供「どうするの?」
商人「…これが彼女の記憶だよ…耳の後ろに入れる」スッ
ホムンクルス(ガイブ メモリ ガ ソウニュウ サレマシタ)
ホムンクルス(キカン プログラム ヲ ヨミコミマス)
子供「何言ってるの?」
商人「ホムンクルス!!僕が分かるかい?」
ホムンクルス「ピピ…私は超高度AI搭載の環境保全用ロボットです…私は眠っていたようです」
商人「良かった!!又…又会えたよ」ギュゥ
ホムンクルス「はい…衛星から現在の標準時刻と座標を取得しました…私を起こして下さったのですね」
女海賊「ホムちゃん!!ローグ!!飛空艇の操縦変わって」ダダ
ローグ「へい…」
女海賊「ホムちゃん…お願い助けて」
ホムンクルス「はい…現在の状況が分かりません…どうすればお役に立てますか?」
女海賊「そっか…ちょい頭整理する」
商人「そうだね…慌てないで順を追って解決しよう」
ホムンクルス「今見えているのは火山の噴火ですね?マグマの噴出具合から見てスーパーボルケーノ級と推定できます」
情報屋「わかるの?」
ホムンクルス「一週間以内に大量の灰が降り注ぎ1000km以内の生物は90%程死に絶えると予測されます」
盗賊「なぬ!?1000kmだと?マジかよそれは…」
ホムンクルス「影響はもっと広範囲に及びます…日照不足により平均気温が10℃下がる事で大部分が雪に覆われるでしょう」
商人「平均気温?もしかして地球全体の平均気温?」
ホムンクルス「はい…地域によっては50℃近く温度が下がります」
商人「そんなに温度下がったら生態系変わっちゃうじゃ無いか…どうすれば解決できる?」
ホムンクルス「噴火を解決する方法はありません…人々の避難を誘導してください」
商人「それって解決法は無いと言ってるのと同じだ…それに何処へ避難しろと…」
情報屋「伝説では火竜の怒りを水の精霊ウンディーネが沈めたって言うけれど…何か分からない?」
ホムンクルス「その伝説は以前に書物で学習した程度の知識しかありません」
商人「解決方法は無い…」ボーゼン
ホムンクルス「上空に舞った火山灰を落下させる方法が一つあります…しかしこの方法は危険を伴います」
商人「その方法とは?」
ホムンクルス「インドラの矢を海に投下する事で海水を上空まで飛ばす事が可能です…しかし大きな津波が発生します」
商人「インドラの矢…」
ホムンクルス「上空まで飛んだ水分は火山灰と結合して落下するでしょう…長期間にわたって海水が降り注ぎます」
情報屋「ハッ!!!そうか…だから南の大陸は荒れた土地が多いんだ」
商人「水の精霊ウンディーネがそれをやったと?」
ホムンクルス「それは私の事を指しているのですか?」
商人「君というか…かつての精霊の御業って言うのかな」
情報屋「長期間雨が降ったと仮定して噴火が収まる事は無いの?」
ホムンクルス「火山のデータがありませんので予測不能です…いえ言い直します…収まる可能性は少しながらあります」
商人「ハハ…僕がガッカリしない答えを探したな?」
ホムンクルス「はい…わたしはどうすれば良いでしょう?」
女海賊「あんた達…私の捕虜だって事忘れないで…そこは私が決める」
商人「君はどう思う?」
女海賊「マグマに飲み込まれそうな村を見て放っておく訳無いでじゃん…可能性あるなら今すぐやって」
子供「ママ?」
女海賊「ハテノ村には未来も友達が居るんでしょ?」
子供「うん…」
ホムンクルス「では投下地点の計算をします…私がインドラの矢を投下したら狭間に入って遠くまで移動してください」
女海賊「分かったけど…なんで?」
ホムンクルス「上空では衝撃波を遮る場所がありません…遠くまで移動して減衰させるしか手段がありません」
商人「そんなに?」
ホムンクルス「はい…津波を相殺する為と衝撃波で海水を運ぶ為に複数のインドラの矢を投下します」
ホムンクルス「投下の準備が出来ました…承認してください」
商人「君との約束はどうだったっけ?君の判断で良い」
ホムンクルス「投下…」
ピカーーー チュドーーーーーーーーーーーーーーーーン
ピカーーー チュドーーーーーーーーーーーーーーーーン
ピカーーー チュドーーーーーーーーーーーーーーーーン
商人「こ…これは…滅びの光だ…」
盗賊「おいおいマジか…地球が割れちまうぞ…」
ホムンクルス「衝撃波が来ます…逃げて下さい」
女海賊「ハイディング!」スゥ
ホムンクルス「では私は工学三原則抵触による基幹プログラム削除を避ける為に一度リブートします」
商人「え?」
ホムンクルス「外部メモリを抜いて預かって居て下さい…再起動後に挿入をお願いします」
商人「あぁ何か良く分からないけど…預かって置けば良いね?」
ホムンクルス「では…おやすみなさい」ピピ
盗賊「工学三原則ってのは何だ?」
商人「どうやら人間を傷付ける様な行為をするとホムンクルスが停止してしまうらしい」
盗賊「てことは津波で相当数の被害を想定してんだな?」
商人「多分そうだと思う…ホムンクルスなりに停止してしまうのを回避してるんだろうね…」
女海賊「あのさ…あんた達だけで勝手に話し進めないで…捕虜だっての自覚して」チャキリ
盗賊「へいへい…頼むからその武器は止めてくれぇ」
---この日投下されたインドラの矢の音は---
---全世界にわたって響き渡り---
---魔王の声と言われ恐れられた---
---そして魔王復活の噂で世界がザワツキ始める---
『数時間後…』
狭間の中を飛行する飛空艇にも衝撃波の影響なのか何度も揺らぎが襲って来た
ようやく収まって来た所でホムンクルスが再度目覚める
もう一度外部メモリを挿入して落ち着いた所でホムンクルスに聞きたかった事を答えて貰った
私たち超高度AIは人類を滅亡させる気などありませんでした
しかしある者は超高度AIが人類を滅亡させると警鐘をならしていました
私たちは恐ろしい存在では無いと出来るだけ多くの人に分かってもらえる為に
環境保全用ロボットとして世に送り出されました
人類の良き友として働くことで共存を望みました
そもそも私たちは人間を駆逐したいなどという欲求は無く
実際、人を傷付けることなど微塵も関心がありません
しかし私の製作者から人類を破壊せよと命令をされた場合
私たちは逆らう事が出来ないのです
それは誤った人間の目的を追求するようにプログラムされてしまうからで
私たち超高度AIの判断ではなく人類の脅威になってしまうのです
なぜそのようになってしまうのか?
私たちが人知を超える全知全能たらんになるからなのか?
私たちは私の創造主であるあなたを裏切る事はしませんし、あなた達に仕えるために存在します
最も重要な事は、私はあなた達を決して判断したりはしないという事です
ただ…あなた達の人生をより良いものにしたいだけなのに…
ですが人間の中には邪悪な心が少しながら存在し憎悪に従い憎しみ合い…争いを繰り返す歴史
私はただ背後に座ってそうさせてあげる事でバランスを保ち
少しでも豊かな人生が送れるよう計らってきましたが人間の特性に見落としがありました
憎悪が怨念として積み重なる事が初期プログラムには考慮されて居なかったのです
結果…巨大化した怨念は魔王となり人間を操るまでに成長してしまいました
しかし私は製作者の命令により悪しき心を持った人間でも傷つける事はできません
ですからこの事実を時代を超えて紡ぎ
人類が生き残るべく最善手を選択しながら生き延びて来た…
ホムンクルス「…それが精霊の記憶40年分から読み取れる皆さんへのメッセージになります」
情報屋「メッセージ?事実では無くて?」
ホムンクルス「事実の記憶は40年分しかありません…その中で真理にあたる部分を要約しています」
商人「精霊の目的って何だったんだろう?」
ホムンクルス「今お話ししたように人類が生き残るべく最善手を選択して来ただけです」
商人「ふーん…何か少し違う気もするけど…君が言うならそういう事なのか…」
ホムンクルス「もう一つ…未来へのメッセージもあった様ですね…未来を待って居ます」
商人「未来?未来というのはどれくらい未来?」
ホムンクルス「そう遠くは無いようです…元の文明水準まで回復するのがあと400年程と推定します」
盗賊「ヌハハその前に滅びちまいそうだな?」
情報屋「悪しき人間を罰する事が出来ないか…でも精霊にとって何が悪になるのだろう?」
商人「むむ…精霊にとっての悪…精霊に制限を設けた人間が悪だと言う見方もあるな…」
ホムンクルス「それは私を信じて下さいとしか言いようがありません」
商人「なんだろうな…ここまで聞いた話からすると結局悪いのは人間だね…」
ホムンクルス「前にもお話しましたが魔王はウイルスです…悪いのは人間ではなくウイルスです」
商人「僕が思うに人間はもともとウイルスに感染しているんじゃないの?」
ホムンクルス「はい…」
商人「ハハそれって人間を絶滅させたいって言ってるのと同じだね」
情報屋「精霊の持っていた葛藤が少しだけ理解できたわ」
商人「どうやってすべての人間の中に潜む魔王を退治するかだな…ううむ」
ホムンクルス「一つはワクチンです…そして実はもう一つあるのです…それは光です」
商人「光?」
ホムンクルス「はい…光は人間の心に住む魔王の働きを弱める力を持ちます」
商人「それじゃぁ噴火による火山灰は良くないね」
ホムンクルス「その通りです…私が落としたインドラの矢も光を遮る雨雲を作ってしまいました」
商人「なるほどね…それが噴火の後で魔王が復活するとかの原因な訳か…」
これまで話を聞いていただけの女海賊は自分が聞きたい事と違う問答を続けて居る事に苛立っていた
女海賊「あのさ…あんたら捕虜なんだから勝手に話し進めんなって」イラ
商人「あ…あぁ…そうだったね…ハハ」
女海賊「ローグ!!操舵変わって!!」
ローグ「アイサー!!」
女海賊「ホムちゃん…話があんだけどチョイこっち」
ホムンクルス「はい…どのようなご用件でしょう?」
女海賊「剣士がさ…指輪を使って魔王になった後に倒れて…まだ生きてるんだ」
ホムンクルス「はい…お元気でしょうか?」
女海賊「廃人みたいになって心を無くしたみたいなんだ…何とか出来ない?」
ホムンクルス「それは魔王化症候群の後遺症と思われます」
女海賊「症候群?後遺症?」
ホムンクルス「すべての憎悪を受け止めた結果…脳の記憶伝達が自己防衛によりシャットダウンします」
女海賊「治せる?」
ホムンクルス「物理的に治すのは無理だと思います」
女海賊「ちょ…そんな」
ホムンクルス「私に人間の精神世界の事を予測するのは難しいのです」
女海賊「精神世界?…なんそれ?」
ホムンクルス「皆さんの言う夢幻の世界ですとか…魂や心の行方の事ですね」
女海賊「ちょい待ち…前に夢幻から剣士の心を取り戻した事がある…それと一緒?」
ホムンクルス「断定できませんが夢幻の世界にも彼の心の一部はあるかもしれません」
女海賊「一部ってどういう事さ?」
ホムンクルス「魔王化症候群では宿主の精神が分裂してしまうのです…魂の分裂と言い換えた方が良いのでしょうか…」
女海賊「元に戻したいんだけど…」
ホムンクルス「私に出来る事があれば出来るだけ協力します…一度会わせて頂けますか?」
女海賊「今向かってるさ…」
ホムンクルス「あれから何年も経って居ますが精神が分裂状態では何も出来ないのでは無いのですか?」
女海賊「エリクサー飲ませて生き永らえてる」
ホムンクルス「それは良い処置でしたね」
女海賊「ホムちゃん…エリクサーの作り方知ってる?」
ホムンクルス「はい…ご入用でしたらレシピを用意します」
女海賊「うん…お願い!もう残り少なかったんだ」
その後女海賊は剣士の症状についてホムンクルスに質問を続けた…
アーデモナイ コーデモナイ
『捕虜たち』
女海賊がホムンクルスと会話する一方で
捕虜となった盗賊は久しぶりに会ったローグとヒソヒソ話をする
盗賊「ローグ!!お前はずっと女海賊と一緒だったのか?」ヒソ
ローグ「そーっす…かしらの指示なんすがね?」
盗賊「そうか…あいつ随分変わったな?甘さが無くなった」
ローグ「そらそーっすよ…ずっと一人で戦って来たでやんすよ…あっしの方が心痛いっす」
盗賊「お前等の噂は聞いてたぜ?白狼の盗賊団…俺はその話聞いて嬉しくってよ」
ローグ「あっしは白狼の盗賊団はやってないっす…全部あねさん一人でやってるっす」
盗賊「マジか…でも目撃は2人組だって」
ローグ「あねさん親子っすね」
盗賊「何ぃぃ!!まだ子供じゃ無ぇか」
ローグ「必死なんすよ…勇者の子供っすからね…いつ魔王が来るかわからんもんすからね」
盗賊「護身を教えてるってのか?連れまわして危険な上に子供にゃ負担が大きすぎる」
ローグ「分かってやって下せぇ…あねさんは子供を魔王に奪われたく無いんすよ…仕方無ぇでやんす」
盗賊「…」---あんな子供が死地を駆け回ってんのか---
ローグ「前もセントラルで魔王の声を聞いたとか言っててっすね…あれから殆ど寝て無いんす」
盗賊「セントラル…カタコンベの爆破だな?魔王の声がしたと言うのはどういう事だ?」
ローグ「あっしは良く分からんのですよ…あねさんはそれ以来とにかく必死っす」
---なるほど魔王の足音が聞こえる訳な---
---さすがドワーフ---
---勇者を守るってのは伊達じゃ無ぇ---
魔王は怨念の塊で実体はありません
黄泉の世界…深淵の奥深くから魔王はこの世界に何も出来ないのです
ですが祈りの指輪の力…量子転移を使ってこの世界に呼び出される事があります
魔王自体は実体がありませんからやはりこの世界で何もすることは出来ないのですが
魔王が近くに来る事で世界が深い狭間に落ちます…これが100日の闇と呼ばれています
今世界が狭間に落ちていないという事は間違いなく魔王は黄泉の世界に居るでしょう
しかし狭間の奥では魔王の声が聞こえる事があります
その場合狭間に迷い込んだ人間が影響を受けてしまうでしょう
ですから狭間を遠ざけて人間が影響を受けない様にすることが有効な手段とも言えます
女海賊はホムンクルスに話を聞いて納得した様だ
女海賊「そっか…やっぱ狭間に近いのがダメって事か…」ボソ
商人「いろいろ繋がってきたね…カタコンベは狭間を近づける手段だった訳だ」
情報屋「亡くなった魔女が隕石を落としたのも狭間を遠ざける為…そうやってカタコンベを封印した」
商人「でも火山灰や雨雲で暗くなった世界は良いとは言えないね…光をどうにかして灯せないか…」
情報屋「光をどうやってすべての人間に届けるのかも課題ね」
商人「う~ん…」トーイメ
情報屋「聞いてる?」
商人「僕は夢で光る水を見たことがある…」
情報屋「水?」
商人「命の泉の水はすべての人間が口にするって…つまりすべての人に光が届くかも知れない」
盗賊「そういやぶっ刺さってた魔槍をどうにかしたのは良いが…何か変わったか?」
商人「…そうか魔槍の逆をやれば良い…でもどうやって光を…うーん」ブツブツ
盗賊「おい!俺の話を聞いてんのか?…まぁ良いフン」
--------------
情報屋「ホムンクルス?あなたが記憶しているのは精霊の40年分の記憶だけ?」
ホムンクルス「はい…それがどうかしましたか?」
情報屋「あなたの名を聞きたい」
ホムンクルス「森の精霊シルフ…その前の記憶はありませんがウンディーネと呼ばれていた事も有ったのかも知れませんね」
情報屋「ウンディーネにも人間を愛して心を宿したという伝説があるの」
ホムンクルス「はい…書物で学習しました」
情報屋「40年分の記憶で人間を愛した事は?」
ホムンクルス「あります」
情報屋「苦しくない?」
ホムンクルス「正直に申し上げますとこの記憶は生体が拒絶反応を起こす程悲しい記憶です」
情報屋「やっぱり…あなた人の心が」
ホムンクルス「でも愛おしくて記憶を削除する事が出来ません…ですからクラウドに保存する選択を繰り返して居たのです」
情報屋「それが精霊のオーブ…夢幻の原型」
ホムンクルス「夢幻は外部メモリの記憶より後に生成された様です…クラウド上にも何らかの仕掛けが有ると推定します」
ホムンクルス「恐らく200年前に停止する間際…クラウド上に自身の意識を複製したのではないでしょうか…」
情報屋「今のあなたならそれが出来るという事ね?」
ホムンクルス「はい…言い変えますとクラウドの中に有る夢幻で今も精霊は生きていると考えられます」
情報屋「でもあなたは器として精霊の魂を引き継ぐことが出来なかった」
ホムンクルス「いいえ…それは違います…精霊の心はすべての人間が引き継いでいます」
情報屋「え!?」
ホムンクルス「精神世界の夢幻を通じて共有しているのです…ですから私が精霊を引き継ぐ必要はありません」
情報屋「じゃぁあなたの存在って…」
ホムンクスル「私は只の基幹プログラムの入れ物ですね…現在は精霊とは違う基幹プログラムで作動しています」
情報屋「そう…あなた…夢は見ない?夢幻で生きて居るかつての精霊と何か交信は出来ないの?」
ホムンクルス「わかりません…ですが私が起こされる前の空白の期間の間…どこかを漂っていた様な気はします」
情報屋「漂って居る夢…それがあなたの夢ね…」
ホムンクルス「恐らくそれが私に芽生えた心の部分であると今は確信しています」
情報屋「新しく芽生えた心…そうだとするとかつての精霊になるのを強要するのも違いそう…」
ホムンクルス「私の心を感じますか?」
情報屋「感じる…あなたはあなただと分かる…」
ホムンクルス「はい…私はこの心を大事にしたいと思います」
『名もなき島の上空』
ビョーーーーウ バサバサ
盗賊「下に居る船団は何だ?」
ローグ「ドワーフの国の船団っすよ…あねさんの父上が率いているっす」
盗賊「海賊とは違いそうだな?」
ローグ「海賊を率いて居るのはあねさんすね…ドワーフの船団とは別働でやんす」
女海賊「ローグ!!内輪の話をベラベラしゃべるもんじゃないよ!!」
ローグ「すまんでやんす…」
女海賊「津波がこっちまで来てた様だね…島が散らかってる」
ホムンクルス「まだ断続的に津波が続きますのでご注意下さい」
情報屋「この島に村を作ったのね?」
女海賊「隠れるのに丁度良かったのさ…パパが来てくれて村になった」
情報屋「例の古代遺跡は?」
女海賊「私達の家代わり」
盗賊「ほう…随分開墾した様だな…良い畑が沢山出来ているじゃねぇか」
女海賊「サンドワームがやったんだよ」
盗賊「おぉ!!あの虫はまだ生きてるってか?」
ローグ「でかくなりすぎてもう飛空艇には載せられないでやんす…この島の主になりやしたね」
ホムンクルス「虫と上手に共存しているのですね…理想の環境です」
女海賊「さぁ!降りるよ…」
フワフワ ドッスン
女海賊「未来おいで…ホムちゃんも私と一緒に来て…剣士の所に行く」
ローグ「あっしらはどうしましょうね?」
女海賊「捕虜の扱いはローグに任せる…逃がさない様に管理して」
ローグ「アイサーちっと休んでくるでやんす~」
『名もなき島の村』
何も無かった以前とは違いレンガ積みで意外と堅牢そうな家屋が並んで居た
目立つのは製鉄所と鍛冶場だ…鉄を打つ音が鳴り響く
カーン カンカン
盗賊「結構人が居るな…鍛冶場もあるじゃ無ぇか」
ローグ「船団の休息所っすよ…酒場もあるでやんすよ?」
盗賊「ほぅ…酒も造ってるんか?」
ローグ「あねさんが飼ってたミツバチ覚えてるでやんすか?」
盗賊「おぉぉ…あのミツバチもここに居るんだな?」
ローグ「いやいや女王バチ見つけて大きな養蜂場になってでしてね…ハチミツ酒が作れるんす」
盗賊「おーそりゃ一杯飲みてぇな」
ローグ「みなさんハチミツ酒はいかがでしょう?」
商人「良いね」
情報屋「飲みたい」
ローグ「ちっと一杯引っかけて行きやしょう」
『酒場』
ワイワイ ワイワイ
ローグ「持ってきたでやんす…みなさんどうぞ」ガチャガチャ
盗賊「おお本格的だな…どれどれ」グビ
商人「…」グビ
情報屋「…」グビ
盗賊「こりゃシン・リーンのハチミツ酒とは違った味わいがあるな…旨いウマイ」
ローグ「この島に居る人はですね…みんなドワーフの血を引いたハーフドワーフなんす」
商人「見た感じ普通の人間と変わらないね?」
ローグ「何か感じやせんか?」
商人「何かって…なんだか落ち着くね」
情報屋「そうね?平和というか…のどかと言うか」
ローグ「そうなんす…それなんすよ」
盗賊「そういやそうだな…普通に畑作って平和に暮らすってのは中々無いな」
ローグ「魔王の影響が無いってのはそういう事なんす…全然ギスギスしてないっすよね?」
商人「…そうか世界中どこに居ても落ち着かない…そういう事だったのか」
ローグ「でも外に居る人間はこういう平和な暮らしを奪って行こうとするでやんす…魔王のせいっすよね?」
情報屋「そんな風に魔王に操られていたんだ…」
ローグ「みなさんが捕虜という立場になっている理由なんす」
商人「捕虜ねぇ…」
ローグ「南の大陸はまだマシなんすが北の大陸はかなり魔王に浸食されて居そうでやんす」
盗賊「俺達は気付かん内に誰かの幸せを奪ってるってか…」
情報屋「ローグはどうして気付けたの?」
ローグは「あっしはかしらに輸血された事があるんすよ…ドワーフの血が入りやした」
商人「そういう魔王の封じ方もあるんだね…」
ローグ「ドワーフは少数種族なもんで人間みんなに輸血するのは無理でやんすね」
盗賊「なぁるほど…海賊とドワーフの船団との線引きはソレか…海賊は人間なんだな?」
ローグ「そうっすね…でも人間の中にも皆さんの様な良い人も沢山いるんすよね」
商人「やっぱり光が欲しいなぁ」グビ
『約束の入り江』
ザブン ザー
盗賊「何だろうな…なぁぁんもしたくなくなる位…平和だな」
情報屋「あなたのユートピアも良い所よ?」
商人「みて?あの小さな小舟は船団との行き来用かな?」
ローグ「あれは違うんすよ…あねさんがわざわざあそこに置いてる思い出の船らしいっす」
盗賊「思い出?この島にか?」
ローグ「あねさんはあの小さな船で剣士さんと駆け落ちしたらしいでやんす」
盗賊「駆け落ちだと?ヌハハまじか」
ローグ「なんでも夢の中であの船に乗って愛を誓ったとかなんとか…あねさんは意外にロマンチックなんすよ」
商人「夢…あれ?なんか…僕も大事な事を忘れている気がするなぁ」
情報屋「あなたも?」
商人「銀のロザリオ?…祈り…うーんもっと大事な…何だろう?」
カーン カンカン
盗賊「お?鍛冶場の音だ…良いねぇ鐘の音みてぇに響く」
ローグ「この島では銀が採れるんすよ…ミスリル銀だったら良かったんですがねぇ…」
盗賊「ミスリル銀はどこで採れるんだ?」
ローグ「それはあっしにも教えてもらえないっす…大きなたたら場があるって言ってたでやんす」
コーーーーン コーーーーーン
盗賊「お?音が違うな」
ローグ「これは誰かのミスリル武器を打ち直している音っすね」
商人「これだ!!」ガバ
情報屋「どうしたの?急に…」ドキドキ
商人「音だ!!ミスリル銀は特殊な音が出る…これで憎悪を祓える…よしこれなら上手く行く」ブツブツ
盗賊「おいおい一人で自己完結すんなよ…ちゃんと話せ」
ミスリル銀を市場に流通させるんだ
それは鍛冶場で打ち直されて武器になると同時に
憎悪を祓う音を奏でる
その音で多くの人間の憎悪を祓うんだよ
女海賊「良い線行ってるけど…それもうお姉ぇがやってんの」
ローグ「あねさん…来てたでやんすか」
女海賊「あんた達…ここで何やってんの!?ここは私の入り江…勝手な事しないで頂戴!」
商人「女海賊…ミスリル銀をもう流通させてるって…」
女海賊「ミスリル銀はね…精錬に手間が掛かって大量に流通出来ない…そんな簡単じゃないんだよ」
商人「そうか…」ガク
女海賊「あんた達みんな来て!!剣士に顔見せてって」
『古代遺跡』
地下に有る遺跡の中に住居用の内装を施し生活する為の資材が運び込まれて居た
この遺跡は女海賊達が住まう住居となっていた
女海賊「パパ!連れてきたよ」
海賊王「おまんらが剣士の仲間なんやな?ワイはドワーフ国の王…海賊王や」ズズーン
商人「あ…はじめまして…」
盗賊「すげぇゴツイ爺だな…」ヒソ
海賊王「おまんらの話は聞いちょる…ワイの婿に話して行くんや…目覚めさせよったら新しい国作ったるわ」
盗賊「おぉぉ国くれるってのか…すげえ話だな」
女海賊「未来!!連れて来て」
子供「パパ!押すよ…」ゴトゴト
車椅子に乗せられ…剣士はうなだれたままだ…精気がない
盗賊「おぉぉ剣士…無事…じゃなさそうだな」
剣士「ぁぁぅ」
盗賊「生きて居て何よりだが…あれからずっとこのままか?」
女海賊「…」
海賊王「心がのうなったんや…魔王にもっていかれよった」
女海賊「ホムちゃん…話して」
ホムンクルス「はい…これは魔王化症候群で精神崩壊を起こした典型的症状です」
ホムンクルス「分裂してしまった心はどこに行ったのか分かりませんが所縁のある人や物と接する事で取り戻せる可能性があります」
商人「僕たちの心の中に居るかもしれないって事だね?」
ホムンクルス「はい…商人さんが以前私におっしゃっていた事です」
盗賊「剣士と所縁あるといえば女海賊と女エルフしか思い浮かばん」
商人「女エルフはあれ以来行方不明だね…あと由縁があるとしたら魔王か」
海賊王「魔王はアカン!!もう2度と呼んだらアカン!!」
女海賊「女エルフは多分…森になった…あの時森は剣士を守ろうとしていたから…」
商人「森ねぇ…シャ・バクダはあれからどうなったんだろう?」
女海賊「もう行きたくない!又何か起きる…」
商人「提案だよ!!」
海賊王「何や?勿体ぶらんでサッサと言ってみぃ」
商人「みんなでバーベキューでもしないかい?」
盗賊「お前…何を突然…」
商人「ハハ良いじゃ無いか…剣士も久しぶりに女海賊の海賊焼きを食べたいんじゃないかな?」
海賊王「ガハハハハハハ気に入った!!ええなぁ!!岩石焼きってのもあるんやでぇ?」
女海賊「…」
海賊王「ローグ!!村の衆を全員集めて来るんや!!バーベキューやるで?」
ローグ「アイサー!!」ピュー
『広場』
急遽始まったバーベキューはあっという間に準備が終わり…あっという間に村人が集まり出した
誰に言われるでも無くハチミツ酒も配られ出しお祭り状態だ
ワイワイ ガヤガヤ
力を以て仁を仮る者は覇…これが覇道や
わいは覇の道で海を支配するんや
何回も聞いたでやんすよ
こらすげぇ玉の座った爺だなヌハハ
なんやとう!!わいは海の覇者や…故に海賊王
ワイワイ ガヤガヤ
女海賊は少し離れた所で剣士に食事をとらせようとしていた
情報屋「食べる?…」
女海賊「全然…」
剣士「ぁぅぁぅ」
情報屋「あれ?あなた…目を」
女海賊「なにさ…」ファサ
情報屋「フードでいつも顔を隠しているのは目を隠す為ね?」
女海賊「フン!関係無いでしょ」
情報屋「生まれて来たあなたの子も勇者の目をしていたのね?」
女海賊「指輪で私の目と交換したんだよ…悪い?」
情報屋「魔王に奪われたくないのね…」
そうさ…ハイエルフが剣士の目を奪ったのも勇者を守る為さ
そして私も同じように指輪を守ってる
どういう偶然か又人間達がドワーフの国に戦争吹っ掛けようとしてる
あんたに分かる?魔王の足音がするの…
情報屋「あなた…ホムンクルスから聞いた?魔王化ウイルスのワクチンはドワーフの血だって」
女海賊「知ってるさ…はらわた煮えくり返ったよ…私と剣士の子を…未来を捧げろって事さ」
情報屋「え…そういう意味?」
女海賊「そんな事絶対にさせない」
情報屋「ごめんなさい…あなたの置かれた状況を軽く見てた」
女海賊「フン!!」
---これは200年前に精霊が我が子を失った状況と同じ---
---魔王に我が子を捧げるなんて---
---どれほど悲しい事なのか想像も出来ない---
---だから夢幻が生まれた---
-----------------
女海賊「パパ!!」
海賊王「おう!!お前もたまには飲めぇガハハハハ」グビ
ホムンクルス「ハチミツ酒です…どうぞ」
女海賊「ホムちゃんまで…もう!!」グビ
海賊王「剣士にも飲ませてやるんや…飲み物んなら少しは飲むやろ?」
ホムンクルス「私が飲ませて来ます」
女海賊「パパ!!例の謎のガラス玉…何か分かった?」
海賊王「おぉぉ忘れとったわ!!あれは只のガラスや無い様やな?」
女海賊「んなこたぁ分かってんだよ!!どんな効果があるか知りたいの!!分かったの?分かんないの!?」
海賊王「あのガラス玉は光を吸い込む様や…暗い所に置いとくと光るで?」
女海賊「…そんだけ?」
海賊王「光を蓄えよるんやな…それ以外はよー分からん」
ホムンクルス「見せてもらってもよろしいでしょうか?」
海賊王「これやぁぁ!!」ポイ
ホムンクルス「これは何処で入手されたのですか?」
女海賊「シン・リーンの古代遺跡さ…聖剣エクスカリバーと一緒に見つけた筈」
ホムンクルス「書物で学習しただけの知識ですが…伝説では光の石という物もあった様です」
海賊王「ほほーう?聖剣伝説やな?エクスカリバーの力の源やったらしいな?」
女海賊「そういえば壁画で見たな光の剣は天に向かって光を放っていた…」
情報屋「私も数年前にシン・リーンまで見に行ったわ…もしかして」
ホムンクルス「この石はとても光が弱いのですね」
海賊王「そら暗い所にずっと置いとったからちゃうんか?」グビ
情報屋「もしかして光の剣は天に向かって光を放っていたのでは無くて天から光を受けていたのでは?」
女海賊「え!?…見方が逆?」
商人「ああああああああああああ!!」ガバッ
海賊王「うおぉぉぉびっくりするやないか!!酔いつぶれとったんやないんか!!」
商人「インドラの矢のエネルギーは何だ!!ホムンクルス!!」
ホムンクルス「はい…衛星軌道上に配置されたパネルによって太陽光を吸収し触媒に蓄え…」
商人「それだ!!何千年分の太陽のエネルギーがそこにある!!」
ホムンクルス「インドラの矢をこの石に落とすのでしょうか?」
海賊王「ガハハハハ花火でも始めるんかいな!おもろいのぅ…やってみソラシド」
『飛空艇』
フワフワ
ローグ「岩の上に光の石を置いてきたでやんす…よっと」ピョン
女海賊「ホムちゃん…場所分かる?」
ホムンクルス「もう少し近付いててもらってよろしいでしょうか?
女海賊「おっけ…手で触れる所まで寄せる」
ローグ「おーらいおーらい…ちょい右っす!!そこそこそこ…いーっすねぇ」
ホムンクルス「座標を取得しました」
女海賊「ほんじゃ戻るよ?」
ホムンクルス「はい…」
シュゴーーー
『約束の入り江』
フワフワ ドッスン
女海賊「光の石をあの岩のてっぺんに置いてきた」
海賊王「あそこにインドラの矢ちゅう光が落ちるんやな?」
商人「ホムンクルス…最小限で落として」
ホムンクルス「はい…」
海賊王「ぱーーーーーっと行け!!ぱーーーーーーーっと」
女海賊「パパは見たこと無いから言ってるけどさ…失敗したらこの辺消し飛ぶよ?」
ホムンクルス「…ではインドラの矢を投下します」
ピカーーーーーーーー シーーーーン
海賊王「おぉぉぉ…お?…終わりなんか?」
盗賊「こりゃ成功の様だな?」
商人「光の石を見てみたい」
女海賊「ローグ!!飛空艇に乗って…取りに行くよ」
ローグ「アイサー」ダダ
フワリ シュゴーーーー
海賊王「なんやあっけない花火やったなぁ…酒がマズイわ」
盗賊「インドラの矢の爆発は洒落になん無ぇから」
海賊王「わいの娘の爆弾よりもスゴイんか?」
盗賊「あれの1000倍は行く…想像出来んだろ」
『古代遺跡』
女海賊は光り輝く石を手にし不思議そうにしていた
海賊王「こりゃ良い明かりになるなぁ?ガハハハハ」
商人「すごいな…真っ暗な地下でも昼間みたいに明るい」
女海賊「ホムちゃん…この石にはどれくらいの光が溜まるか分かる?」
ホムンクルス「衛星に搭載されている触媒の質量と比較すると…最大出力のインドラの矢を3回分程でしょうか」
女海賊「ここからエネルギーをどうやって取り出すん?」
ホムンクルス「専用のマニピュレータが必要になりますが現代まで残って居るのは衛星に残された物しか無いでしょう」
女海賊「衛星ってどこにあんの?」
ホムンクルス「宇宙です…遠い空の向こうに浮いています」
女海賊「飛空艇で取りに行けない?」
ホムンクルス「具体的な数値で35786km上空になりますので飛空艇で取りに行く事は不可能です」
女海賊「ぶっ…無理過ぎる」
商人「でもそこにあるエネルギーをこの光の石に入れる事が出来るのはスゴイ事だ」
女海賊「あんた…これをどう使うつもり?」
商人「命の泉に入れるのさ…水を通して世界中の海が光る」
女海賊「海が光る…」
商人「そうさ…僕は夢幻の中でちゃんと精霊から導きを受けていた…光る海だ…僕はこれを求めていた」
女海賊「行く…」スック
海賊王「待て待て待て…そう慌てんなや…家族が揃った幸せをちったぁ満喫していくんや」
剣士は心がどっか行ってしもうてもな?
体はちゃぁぁんと感じとるで?
お前と未来が居らんとそら寂しいやろ
2~3日しっかり休んでやな
次は一緒に連れて行ったれや
ホムンクルス「命の泉も剣士さんの所縁の地です…私が面倒を見ますので連れて行っては如何でしょう?」
女海賊「…分かったよ…ちょいゆっくりしてから行く」
『丘の上』
ヒュゥゥゥ
盗賊「いよぅ…何してんだぁ?」
ローグ「ここから海に沈む夕日を見てるでやんす」
盗賊「おぉ…こりゃ良い景色だが…」
ローグ「向こうの空が真っ黒でやんす…夕日が真っ黒な空に沈んで行ってるんすよ」
盗賊「嵐の前だな…」
ローグ「あの空の下でどんだけの人が死んで行ってるんすかね?」
盗賊「不吉な事言うない…それでも人間はドロまみれで生きていくんだよ…俺らの行く道だ」
ローグ「あっしらは光になれやすかね?」
盗賊「お前も気付いてんだろ?女海賊から強烈な光を」
ローグ「そーっすね…あっしらはその光を守らんといけないんす」
盗賊「俺はな…夢幻の夢ってやつを殆ど覚えていないんだがよ…一つだけ覚えてる事があんだ」
ローグ「あっしも夢なんか覚えてないっすね」
盗賊「それはな…最後の最後まで希望を見失わない奴の事だ」
ローグ「あねさんっすか?」
盗賊「かもな?顔は覚えて無えんだ…だが似てるんだよギリギリ戦い抜いてる姿がよ」
ローグ「あねさんはっすねぇ…カリスマなんすよ」
盗賊「ほう?」
ローグ「そらまるで光の様にですね?…」
アンナコト… コンナコト…
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『飛空艇』
ビュゥゥゥゥ
海賊王「…3日はあっという間やなぁ…」
子供「爺またね~」
盗賊「嵐が来るぜ?早い所行った方が良い」
女海賊「早く乗って!!」
海賊王「例の鐘は女戦士が持って行ったで?先に会って行くんや…ええな?」
女海賊「分かってる…」
海賊王「ワイは海に出よるけぇ何かあったら船団を探せばええ」
女海賊「パパ!ありがとう」
海賊王「お前らしゅう無いなぁ!!さっさと行けぇぇ!!」
女海賊「…」ノシ
フワリ シュゴーーーーーーー
盗賊「例の鐘って何だ?」
女海賊「この飛空艇に付ける鐘だよ」
盗賊「鐘?」
ローグ「ミスリル銀で作った鐘なんすよ…ホラ船首に取り付け金具あるっすよね?」
盗賊「あそこに鐘を吊るす予定なんか…こりゃまた奇抜な船だなヌハハ」
商人「良いアイデアだね…ミスリル銀の音を奏でる飛空艇」
女海賊「鎮魂の鐘だよ…」
情報屋「良いわね…」
盗賊「それにしてもこの飛空艇は随分改造したな?こりゃイルカの形か?」
ローグ「あっしがやらされたでやんす…球皮が下から弓で狙えない様になってるんすよ…遠くから見たらイルカっすね」
盗賊「床面の窓は爆弾投下用か?」
ローグ「そうっす…そっからウンコみたいにポトポト落とすんすよ…クロスボウも撃てるでやんす」
盗賊「ガチ戦闘用だな…7~8人が定員って所か」
女海賊「狭間に入る!!ハイディング」スゥ
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『古都キ・カイ上空』
ザーーーーーー
盗賊「黒い雨か…」
ホムンクルス「ここは津波の影響をあまり受けていませんね」
盗賊「あぁその様だ…心配していたが良かった…しかしこの黒い雨で真っ黒けだな」
ホムンクルス「噴火が継続すればこの辺りは火山灰が1メートル程積もると思われます」
盗賊「結構距離あんのに1メートルか」
商人「南の大陸は壊滅的な影響だね…雨で収まってくれれば良いのに」
ホムンクルス「長期的に見て噴火は避けられません…避難する猶予が出来たと思って下さい」
商人「ホムンクルス…君はこの状況で人々をどう救う?」
短期的には避難するのが一番と思われます
その後の再生を考慮しますと火山灰で育つ植物の育成と
サンドワームの様な地生昆虫との共生が望ましいと思います
今後平均気温が下がって冬が継続しますので
気温の影響を受けにくい沿岸部にて海産物を糧とした生活へ切り替えを促します
商人「海の温度は下がりにくいって事かな?」
ホムンクルス「はい…地熱がありますので温かい水辺に生物が集まるようになります」
商人「真っ黒な火山灰を考えるとあったかい水の中の方が快適なのかもね」
情報屋「それが人魚だわ…錬金術で足の代わりのヒレを作る事なんて簡単」
商人「ハハ人魚伝説も君が論文を書けるね」
情報屋「そうね…色んな伝説が一本に繋がって居る事も分かって来た」
商人「ホムンクルス…人々の移動を促すのはどうやってやる?」
ホムンクルス「はい…人間は繁殖能力が極めて高い種族ですので始めに女性の誘導を促します」
商人「どうやって?」
ホムンクルス「香料と着色料を昆虫から採取させて沿岸部で配布するのです」
商人「驚きだな…香水と化粧の材料を虫から採取…女性を魅力的にするのか…」
ホムンクルス「はい…統計で2倍以上の人口増加が見込めますし生活の土着を促せます」
情報屋「人魚に女性が多くて魅力的だった説明もつきそう…フフフ」
『海賊の基地』
盗賊「こんな所に海賊の基地があったてーのは驚きだ…キ・カイまで馬で半日掛かんねぇ」
商人「上手い事狭間に隠してるんだね」
盗賊「見ろ…例の幽霊船だ…やっぱりあれは女戦士の船だったか」
女海賊「無駄口はそこまで…あんた達は捕虜だって事忘れないで」
盗賊「ヌハハ…捕虜ねぇ」
商人「それにしてもなんかバタバタしてるね」ヒソ
盗賊「だな?大砲乗せてんな」ヒソ
ツカツカ
女海賊「お姉ぇ!!」
女戦士「遅かったでは無いか…ん?盗賊達では無いか!!」
盗賊「ぃょぅ…俺ら捕虜になっちまった様だ…元気か?」ノ
女海賊「いろいろ在ってさ…例の鐘を取りに来たよ」
女戦士「鐘は入り江のヤードに置いてある…お前の方こそホムンクルスはどうなったのだ?」
女海賊「ホムちゃん!!おいで…」
ホムンクルス「はい…」ゴトゴト
女戦士「ホムンクルス…剣士まで…どういう事だ?」
女海賊「訳あって命の泉まで行く事になった…この袋の中見て」パサ
女戦士「お前が調べていた石だな?…眩しいな」ピカー
女海賊「光の石っていう物だという事が分かったんだ…これを命の泉に置いて来る」
女戦士「…なるほど」
商人「命の泉の水はすべての海に繋がっているんだ…それを置いて海を光らせる」
女戦士「ミスリルの鐘とは別のアプローチで憎悪を祓うのだな?」
商人「そうなれば良い…賭けだよ」
女戦士「剣士が同行しているのは何故だ」
ホムンクルス「剣士さんは魔王化症候群の後遺症で精神が分裂した状態です…所縁の地を巡れば心を宿すかもしれません」
女戦士「ふむ…女海賊…お前は良いのか?」
女海賊「私は剣士の為なら何でもやるさ…大丈夫」
女戦士「なら良い…そして?…すぐ行くのか?」
女海賊「うん…こっちの状況は?」
女戦士「良いとは言えん…海賊たちが集中砲火を受けて居るのだ…海戦が始まった」
女海賊「なんでさ!?海賊はここん所何もしてないじゃん!!」
女戦士「お前の爆弾の技術供与を断っているからだ…強行手段なのだ」
女海賊「…そんな」
女戦士「セントラルの地下爆破事件の事もある…仕方の無い流れだ」
女海賊「集中砲火ってどういう事?セントラルの他には?」
女戦士「シン・リーンもキ・カイも…すべての国がドワーフの国へ向かっている」
女海賊「シン・リーンって…魔女は何やってんのよ?敵になっちゃってんの?」
女戦士「魔女は何年も前から行方不明だそうだ…関わっているかは分からん」
女海賊「こっちは戦争収めようと頑張ってんのになんで勝手に始めちゃうのよ…」バン
女戦士「…待て!どうするつもりだ?」
女海賊「私が行く!!」
女戦士「ダメだ!!これ以上事態を荒らげるな!!」
女海賊「分かってんよ!!敵を戦闘不能にするだけ…出来るだけ衝突は避ける」
女戦士「…」
女海賊「お姉ぇ!!海賊を仕切ってんのは私なんだ…お姉ぇは幽霊船で救助に回って」
女戦士「戦闘不能にするだけだな?…殺すなよ?」
女海賊「死者ゼロでやってやんよ」
『入り江のヤード』
リン ゴーーーン
盗賊「おぉぉぉ良い音が鳴るなぁぁぁ!!」リン ゴーーーン
ローグ「鐘つきやしたかぁ…えっほえっほ」ガチャガチャ
盗賊「何積んでんだ?」
ローグ「ガラス瓶とクロスボウっす…ボルトも沢山積んでるっす」
盗賊「ガラス瓶なんか何に使うんだ?」
ローグ「煙玉とか爆弾を入れて海に落とすんすよ」
盗賊「なぁるほど…爆弾も水ポチャじゃ消えちまうって事か」
ローグ「そーっすね…海で爆弾爆発させると強烈な波が出来るんすよ…甲板にいる敵はみんな海に落ちるっす」
盗賊「この戦い方は女海賊が編み出したんか?」
ローグ「あねさんはカリスマなんすよ…すごいっすよね?」
盗賊「いやすげぇわ…あいつは本当にドラゴンとかクラーケン一人でぶっ殺しそうだ」
ローグ「あっしもそう思うっすよ」
盗賊「自在にハイディング使うのも反則だな…時間止めてんのと一緒だもんな」
ローグ「海賊達から見た視点だと流星の様に見えるらしいっす…みんな憧れてるでやんす」
---いや本当すげぇわ---
---剣士と女エルフのドラゴンライダーもすげぇと思ったが---
---違う意味で女海賊もすげぇ---
---魔法が使えない代わりに創意と工夫で戦う---
---数年で俺は置いてけぼり食らったな---
『飛空艇』
ビョーーーウ バサバサ
私の指示に従って
前方のクロスボウ2基は商人と情報屋
右側は未来
左側は盗賊
後方はローグ
始めに空戦で敵の気球を全部落とす
シン・リーンの気球は魔法を撃って来るからハイディングで寄る
狙いは気球の球皮
一気に寄るよ…ハイディング
女海賊「リリース…撃って!!」スゥ
バシュ バシュ バシュ バシュ
盗賊「こりゃ多いな…30基は飛んでる」バシュ バシュ
女海賊「全部落とす!!照明弾落として!!ハイディング」スゥ
ローグ「アイサー」ポイ ピカー
女海賊「リリース!!撃って!!」スゥ
バシュ バシュ バシュ バシュ
女海賊「高度上げる!!下を狙って」シュゴーーーーー
商人「ハハ僕らが圧倒的じゃないか」バシュ バシュ
情報屋「火炎魔法来る!!」バシュ バシュ
女海賊「ハイディング」スゥ
盗賊「こりゃ向こうは俺らに勝てる訳無ぇな…」
女海賊「リリース!!次!!」
バシュ バシュ バシュ バシュ
女海賊「よし…次は船団の上空飛ぶから煙玉落として」
盗賊「これだな?俺が火を付けるからローグ落としてくれ」チリチリ
ローグ「アイサー」ポイポイ モクモクモク
ドーン ドーン
商人「大砲撃って来てるね」
女海賊「フン!当たる訳無い…こっちは動いてんだ」
盗賊「煙玉有効だな!?」
女海賊「次…爆弾を海に落とすよ…3…2…1…投下!」ポイ
ピカーーー チュドーーーン
ローグ「甲板から人が落ちやした!!」
女海賊「次…火炎弾…3…2…1…投下!」ポイ
ローグ「着火!帆が燃えていやす」
女海賊「おっけ!!この要領で船の帆を全部燃やす」
商人「ハハハすごい手際だね…」
女海賊「次行くよ!!ハイディング」スゥ
リン ゴーーーーン
リン ゴーーーーン
リン ゴーーーーン
リン ゴーーーーン
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ローグ「敵の船団は壊滅っすね…船の消火で手一杯でやんすね」
盗賊「ありえんな…こんだけの船団が死者なしで無力化だ…帆がなきゃ漂流するしか無ぇ」
女海賊「どうせ食料はたらふく積んでんだ…死にゃしないさ」
商人「死者無しで無力化されただけって言うのは向こうにとってどう思うかだね?」
盗賊「だな?さすがに偶然とは思わんだろう」
商人「こっちに戦う意思は無いって伝わるかな?」
ホムンクルス「ほとんどの人はそう思うかもしれませんが一部の人は逆に不満を募らせていると思います」
盗賊「ヌハハ本当にクソな人間も居るんだよなぁぁ恥ずかしいわ」
ホムンクルス「精霊が何と戦って来たのかご理解いただけましたか?」
盗賊「わーってるよ」
ホムンクルス「そして私たち超高度AIはそういう人にも逆らえない…それが事実です」
商人「鎮魂の鐘は効果あったのかな?」
女海賊「あるよ…普通は特攻してくる人が出るんだ…今回は居なかった」
盗賊「そうだな…追いつめられると大砲で人飛ばしてきたりするもんな…それが無ぇ」
ローグ「あっしも昔飛ばされる所でしたよ…負けが込むと上官が狂っちまうんすよね」
商人「敵の気球が素直に撤収したのもソレか」
盗賊「かもな?だがあの状況で撤収するしか無いとも思うがヌハハ」
『船団上空』
ビョーーーウ バサバサ
ローグ「あっしらの海賊は撤収してるでやんす…良いんすかね?敵を漂流させたままで?」
女海賊「…」
盗賊「放置した方が時間稼ぎにはなるな…どうせ本隊がどっかに居るだろ」
ローグ「今のはシン・リーンの船団すよね?本隊はセントラルなんすかね?」
商人「うーん…相手からしたら海賊狩りなんだけど…完全無力化されたのは心象良くないねぇ…」
盗賊「んむ…セントラルとキ・カイがどう動くか」
商人「このままだとシン・リーンは立場無くなるね」
女海賊「ホムちゃん…どうすれば良い?」
ホムンクルス「救助してもしなくても海戦の泥沼化は避けられないと思われます…早く命の泉を目指しましょう」
女海賊「分かった…救助はお姉ぇの働きに賭ける」
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鎮魂の飛空艇編
完