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白井 貴代④

『ねぇ師匠、聞いてよ』


あの日から

白井貴代は1日の

出来事を

宇都宮に報告するのが

日課となっている。


貴代の友達作りの

アドバイスや

人間関係の指導を

彼が始めたのが

師匠と呼ばれる理由である。


彼女の専攻は外国語学部

クラスの8割は女性であった。


『貴代以外にも

1人で講義を聞いている

女の子に話しかけてみろ?』


そう言われた彼女は

『そんなの無理だよ』と

慌て拒否を示したが


『だったら男子生徒に

話し掛けてみるか?』と

宇都宮に言われて


『もっとムリ〜』と

泣き真似をした。


宇都宮の話は、こうだった。


貴代のように

大学に馴染めていない

1人でいる子は


自分から積極的になれず

1人になっている可能性が高い


生活スタイルや考え方は

貴代に近い筈だ。


そんな子、5人に

声を掛けてみろ?


1人、自分と考え方が

同じ人が見つかれば

ラッキーと思って

試していく


『こんにちは、同じ講義を

聞いている白井と言います』


『前回の講義のノ-トが

取れなかったので』

『もし良かったら

コピーを取らせてくれませんか?』


そんな感じで色々な授業で

1人でいる女子に

声を掛けていき


お礼に缶コ-ヒ-を

奢る事を10人に試してみた。


すると貴代のように

地方から出て来て

友達が作れなかった人が

3人ほどいた。


『だったら、その3人を

重点的に接点を持て』

『お昼を一緒に食べるように

ランチで学食に誘って』


万引きをしてしまうほどの

金欠の彼女に

金は無いので

宇都宮が資金を

カンパしている。


『1人、1人、別のタイミングで

貴代と2人きりで

ランチをしてごらん?』


宇都宮に言われた通り

学食でランチをしながら

話してみると


1人ぽっちだった

クラスの女子は

どの子も大人しくて

積極的に友人を作れずに

いるだけの

良い子たちであった。


中学、高校と

クラスに馴染めずに

誰とも喋れなかった彼女も


毎日、友人達と

講義の間に

キャンパスで

談笑する生活が始まっていくと


すると色々な情報が

彼女に集まってくる。


引っ込み思案だった

大学の友人は

コンビニの接客はムリだと思い

本屋でアルバイトを

していると言う。


もう1人の子は

ケ-キ屋さんで

バイトをしていた。


2人に共通していたのは

イケイケのヤンキー風が

来ない店舗である。


田舎育ちだった貴代は

バイト イコ-ル

コンビニと言う

固定観念があったが


客層が落ち着いている店や

女性が多い店なら

自分にも出来ると思い

バイト探しにも

チカラを入れる事を

考え始めたのである。


そうすれば

金欠からも開放されて


ここまで色々と

助けてくれた

宇都宮に恩返しができる。


そう思い

電話越しに

『バイト代が入ったら

師匠にご飯を奢りますから』


『何を食べに行くか?

決めておいてください?』

そう話す。


世話になった

宇都宮の恩返し

そのお題目であるが

別の目的もある。


友人関係が円滑に回り始めて

心に余裕が出来た時に

いつも近くで

優しくしてくれる

宇都宮に恋心を

持ち始めていたのだ。


好きな人を食事に誘う


対人恐怖症であった

数ヶ月前からは

考えられない

彼女の進歩である。


だが宇都宮は

『一緒にご飯には

いけないよ』

『俺が貴代を助けたのは

前にも言ったけど』


『万引きして

捕まる人を目の前で

見たくないだけなんだ』


そう言われた彼女は


ショックな気持ちが大きく

『その話を詳しく

教えてください』と

宇都宮に聞いていた。


『そうだな、貴代になら

話しても良いかな?』

『重い話だけど聞くかい?』


そう聞かれた彼女は

『お願いします』と

即答する。


『あれは3年前くらいの事だと思う』

そう言って

宇都宮は記憶を

思い出すように

語り始めていた。


仕事帰りに

郊外にある駐車場完備の

ゲ-ムセンタ-で

遊ぶ事が

宇都宮の息抜きであった。


ゲ-センだが

宇都宮はUFOキャッチャーや

プリクラで遊ぶのではなく


メダルゲ-ムで

競馬やスロットマシ-ンを

プレイしている。


勝てばメダルが増える。

金品には交換出来ないが


余ったメダルは店が

一カ月期限で

預かってくれるので


次回からは

一銭も使わずに

遊べたのだ。


そして、その日も

スロットマシンで

宇都宮が遊んでいると


『うわぁ〜揃った』と

女の子の声が

後ろから聞こえた。


振り返ると

小学校高学年くらいの

女の子がニコニコした顔で

宇都宮のプレイを観戦している。


時間は夜8時

親と一緒に来ているのか?


宇都宮は特に気にする事なく

プレイを続けるが

その子は、続けて

宇都宮がスロットマシンで

遊ぶのを見続けて


勝つ度に歓声を

送ってくる。


10分ほど、それが続くと

宇都宮も無視する訳にもいかず


『ココにいて親は心配しない?』と

彼女に尋ねると


『大丈夫です、

1人で来てますから』と

笑顔で答えてきた。


その時、宇都宮は

やばいのに

ロックオンされたと思った。


ゲ-ムセンタ-では

近所の子が

金は無いが遊びたくて


落ちているメダルを

拾い集める子が

たまにいるのだが


彼女も、その類いと

思ったのだ。


仕事のストレスを癒しに

1人になる為に

ココに来ているのに


見ず知らずの子供に

付きまとわれたら

台無しだ。


『少しメダルをあげるから』

『あっちで遊んできたら?』

そう言って20枚ほどの

メダルを彼女に渡した。


すると彼女は一瞬

驚いた顔になったが

すぐに笑顔になり


何処かに走って行ってしまった。


1人の時間を取り戻した

宇都宮は安堵して

またプレイを再開する。


そして次の日に

同じ店に行くと

その子は既に

スロットマシンの椅子に

座って待機していた。


野良猫にエサをあげると

なついてくる


その話を思い出し

失敗したと思ったが

後の祭りであった。


今日もメダルをあげて

帰って貰おう

そう思って渡すが

今日は、なかなか

帰ってくれずに


色々と宇都宮に話し掛けてきて

質問攻めしてくる。


いくつ?

仕事は?

何処に住んでいる?


競馬ゲ-ムのレ-スの合間に

質問をしてきて

勝つと宇都宮を、

祝福してくれる。


勝った時は

1人で喜ぶより

隣に一緒に喜んでくれる人が

いる方が楽しい


そんな事が

1週間近く続くと

彼女は自分の事も

話し始めた。


マリちゃん

12才

中学1年生


学校には行っていない


家の事と学校の事を聞くと

黙ってしまう


聞かれたくないのだろう


そう思って宇都宮も聞かず

小さな観戦者と

メダルゲ-ムをしていた。


そして2週間が過ぎた頃

『お兄さん、コッチに来て?』と

マリちゃんが

手招きして

宇都宮を

店の奥にある

トイレの方に

呼び出した。


何があるのか分からない

彼は12才の彼女に

言われるまま

トイレの前に行くと


マリちゃんは

キョロキョロと

周りを見渡した後


笑顔になり

宇都宮を見ながら

『お兄さんは、いつも優しいから』


『3000円でエッチを

してあげるよ』と

言ってきたのであった。





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