第八話 3年間、ずっとハル君に会いたかったんだよ・・・。
その夜、ナツは光属性についてサクラにレクチャーしてもらったり、葵に召喚されてからの3年間の話を聞いたりして、楽しそうに過ごしていた。魔法の話を聞くと、正直劣等感を感じてしまってちょっと辛かったけど、それを表にはださないようにするにはかなりの努力が必要だった。
「じゃ、俺今日はちょっと疲れたから先に休むわ。」
1時間ほど談笑に付き合った後、頃合いを見計らって3人にそう告げると、俺はベッドへと移動した。サクラが少し心配そうにしていたけど、俺が大丈夫というように軽くうなずいてやると、安心したのか葵とサクラとの談笑に戻って行った。
あの夜は、なんだか嫌な夢を見たような気がする。
翌日も、葵に剣術の稽古に付き合ってもらった。魔法に比べるとこっちは才能があったのか、昨日よりも驚くほど上達していて自分でもびっくりした。もしかして主人公補正ってやつ?とか思って調子に乗ってたら葵に強烈な一撃を入れられ、初めてのサクラによる光魔法での治療の世話になってしまった。ナツが俺の心配をするより先に「葵さんって強いんだね!」と嬉しそうに葵に話しかけていたのが地味にショックだった。はぁ。
筋肉痛も激しかったので夕方には剣術稽古はやめて、家の中に入るとテーブルの上に昨日から出しっぱなしになっていたのか魔力灯が置いてあった。
一応周りを確認する。ナツとサクラはキッチンで料理をしているのだろう。良いにおいとともに楽しそうな声が響いてくる。葵は・・・風呂にでも入ってるのかな?とにかく、周りに一応誰もいないことを確認してからもう一度魔力灯に魔力を流し込んでみた。
もし俺に属性があるなら、魔力灯の上にふってある砂が動いたり、ガラスケースに水滴がついたりするはずだった。昨日は調子が悪かっただけで、本当は俺にも魔法の才能があるんじゃないかって未練にも似た思いがあった。
5分くらい試してみたけど、やっぱり反応はなかった。落ち込んでいると、いきなり後ろから声を掛けられた。
「属性が無くても、使える魔法はある。」
「うわっ!!おま、いつからそこにいたんだよ!!」
気がつくと後ろにあった椅子に葵が腰かけていた。くそぅ。見られてたのか。
いや、それよりも、え?
「俺にも使える魔法があるのか!?」
そういうおいしい話は昨日のうちにしてくれよ!とか思ったけど、まぁしょうがない。葵だし。
「・・・・厳密に言うと魔法ではない。氣功と呼ばれる技術だが、自分固有の魔力を扱う点では魔法と同じだ。」
「なるほど!で、どうやってやるんだ!?その魔法は!?」
「・・・・・お前、絶対わかってないだろ・・。」
氣功っていうのは自分の魔力を体内で錬成し、濃度を高めた状態で放出して身体を覆うことで身体能力を増強させる技術のことらしい。大気中のマナを取り込んで錬成することはできないらしく、また、扱いが魔法よりも難しい。筋力強化、皮膚の硬化、対魔法耐性の向上など用途は多岐にわたるが、反面筋線維を傷めてしまったりと、反動も激しいからだそうだ。
ついでに、このたった4行の説明を理解するのに俺は2時間弱かかった。
口下手な葵は、教師には向かない。まぁ、俺ができの悪い生徒だったってことかもしれないけどさ。
ナツとサクラが作ってくれた夕飯を食べた後、ナツと一緒に氣功の練習を始めた。なぜか葵がナツに、サクラが俺に教えてくれる事になり、なんていうか・・・こんな可愛い子に教えてもらえるのは正直うれしいけど、それ以上にナツが妙にうれしそうなのが気になった。・・・ほっぺたちょっと赤いし。
魔力灯が全く反応しなかったから、もしかして俺には全く自分の魔力がないのかと思ったけど、そんなことはなかった。コツをつかむとなんとか体内で魔力を錬成することができて、正直ちょっとほっとした。サクラは葵に比べると何倍もわかりやすい良い先生だった。
その日の夜、葵が夜の見回りに出ると聞いたナツが一緒に行きたがり、結局ナツと葵は2人で見回りに出かけて行った。残された形の俺とサクラはソファーに座って談笑していたけど、2人は出かけてから2時間たっても帰ってこなかった。
「あの2人ずいぶん遅いな。俺、ちょっと様子見に行ってくるよ。」
「あ、待って!」
立ち上がると、急にサクラに袖をつかまれた。
「ん?どうした?」
「あ、や、その、ごめん・・。」
不思議に思ってサクラの方を振り返ると、なんでかサクラはあわてたように手を離した。こころなしか、ちょっと頬が赤い気がする。なんだか、すごく可愛く見えた。
「そ、その・・、葵と一緒なんだし、大丈夫だよ、きっと。それよりも、その、もう少しお話してよ?ほら、せ、せっかく、ふ、2人っきりなんだし。」
最後の方なんかほとんど声になっていなかった。サクラはもうはっきりと顔を赤くして、うつむいてしまっている。
「へ?」
・・・・え?え?まさか、え?も、も、もしかしてそういうこと????いや、まさか、っていうかそういうことってどういうことだよって感じだけどでもほんと・・・
「ご、ごめん!!俺、やっぱりちょっとその辺まわってみるわ!」
なんだかあわててしまって、勢いで家を飛び出してしまった。なにやってんだ、俺。
「3年間、ずっとハル君に会いたかったんだよ・・・。」
寂しそうに1人つぶやいたサクラの声は、ハルに届くことは無かった。