第七話 よし、こい!光属性!
翌日。目が覚めたら見慣れない天井とそこからぶらさがってるお守り(?)が見えた。
ああ、そういえば異世界にとばされたんだっけなんてのんきに考えながらソファーから身体を起こすと、隣のソファーで寝ていたはずの葵の姿が見つからなかった。ん?どこいったんだ?あいつ。
とりあえずトイレに向かい、用を足すと耳にぶんっぶんっという音が外から聞こえてきた。葵のやつ、外にいるのかな?
外に出てみると、葵のやつが1人で剣を持って素振りしていた。ちくしょう。イケメンはなにをしてても恰好いいな。
「おはよ。」
と声をかけたが、葵はこちらをちらりと見てうなずいただけで返事はしなかった。小学校からの付き合いでこういう奴なのはわかっているので、こちらも特に気にしない。いつものように話しかける。
「あのさ、俺にも剣を教えてくれないかな。」
葵が手を止め、こちらをじっと見つめてきたので、さらに言葉を続ける。
「この村が結界に守られていて、安全なのは昨日聞いたけどさ。それでも万が一ってときに備えて準備しておきたいっていうか・・・。」
「昨日の海岸でのことを気にしてるのか?」
・・・・図星だった。
「・・・やっぱさ。守られてばっかってのは性に合わないんだよ。」
俺に力があったら、葵のように剣や魔法が使えたら、あの時ナツを危険な目に遭わせずにすんだんだ。そう思うと、どうしても力が欲しかった。
「・・・構えろ。」
「うわっ!ばか、投げんなっつの!」
葵は俺の方に一本剣をよこすと、もう一度持っていた剣を構えなおした。
「本気で斬りかかってこい。・・・殺す気でな。」
「ってお前、これ真剣だろ!?危ないじゃ・・・うわっ!!!」
ガキィン!!言葉の途中で切りかかってきた葵の剣を必死に自分の剣で受け止める。
「安心しろ。万が一怪我しても魔法で治せる。それに・・・お前に一太刀もいれさせる気は無い。」
「・・・!このやろっ!!」
調子に乗りやがって!と剣を頭上に構えて切りつけようとした瞬間、腹に熱が走った。
「がっ・・!!」
葵に剣の腹の部分で腹部を打たれたのだ、と気づいた時にはもう地面に倒れこんでいた。
刃をたてられてたら今頃まっぷたつだな。
喉元に剣が押しつけられ、葵が見下ろしてくる。
「・・・まずは一本だな。」
「お前、素人相手に容赦ねーのな。」
痛む腹部を手で押さえながら文句を言うと、葵は表情を変えずに答えた。
「・・・魔獣は、素人が相手でも手加減はしてくれないからな。」
その一言葵がこの世界に染まったんだなって思った。こいつは、こうやってこの世界でいきてきたんだ。
「もう一本だ!」
痛みをこらえてリベンジをはかる。2本目以降は木刀を使用した。魔法を使って怪我を治療できるのは光属性を持つサクラだけで、しかも大怪我になると完全回復は難しいんだとか。・・・葵のやつ、もし万が一俺が大怪我したらどうする気だったんだよって突っ込みたくなった。結局、この日は食事休憩をはさんで1日中葵と剣術の稽古をして過ごした。・・・・一本もとれなかったけど。
暗くなってくると魔力灯と呼ばれる明かりに光がともり始める。エメラルドグリーンの綺麗な光だ。なんでも魔力灯は空気中のマナを吸収して発光するんだとか。じゃあ張り巡らしてある電線みたいなのいれなくね?とか思うけど、よくわからん。魔力灯は各家と外の結界に電線みたいなので結ばれているのが見えるが、たぶんなんか意味があるんだろう。
とはいえ街灯として使われている魔力灯の光はそんなに強くないので、家の中に入って今度は魔法を教えてもらうことにした。身体はくたくただし、あちこち痛いけど、やっぱり魔法は使ってみたいし。
「ってわけで今度は魔法を教えてくれ。」
って頼んでみたら心底嫌そうな顔をした葵は、
「・・・魔法はサクラの方が得意だ。」
と言って剣の整備を始めてしまった。くそ、めんどうくさくなったな。こいつ。
仕方ないからサクラに頼んでみると、こちらは快く引き受けてくれた。せっかくの機会なのでナツも一緒にレクチャーを受けることにしたらしく、今は俺の横にちょこんと座っている。サクラはこほん、と軽く咳払いをすると早速授業を始めた。
「基本的にマナをどこにでもあるの。そのマナを詠唱をすることで自分の体内に取り入れ、自分の魔力と混ぜ合わせることで属性を付加させて、呪文を唱えて体内から魔力を取り出す技術が魔法と呼ばれているんだよ。」
「そのマナっていうのは具体的になんなの?私たちでも取り入れることができるのかな?」
とナツが質問すると、サクラは良い質問ですね、みたいな顔をした後に答えた。
どうでもいいけど、サクラが小学校の先生だったら男子生徒全員の初恋の相手が先生になりそうだ。
「マナはこの世界の魔力って言われてるの。私たちが1人1人自分の魔力を持っているように、この世界、ラ・セゾンも魔力を持っていて、それがマナなんじゃないかって話なんだけど、詳しくはまだよくわかってないみたいだよ。」
「この世界の人は皆魔法が使えるのか?」
と今度は俺が質問する。
「うん。基本的には皆が使えるよ。私たちみたいに現世から召喚された人達もコツさえつかめば簡単に使えるしね。」
実際にやってみせるね、と言うとサクラは立ち上がり、呪文を唱えた。
「小さな炎をともせ、カイ!」
その瞬間上を向けたサクラの手のひらの上に一瞬小さな火の玉が浮かぶ。
「おぉっ!!」
「わぁ~!サクラちゃんすごい!!」
と俺とナツが歓声を上げると、サクラは照れくさそうにしていた。
「それほどでもないんだよ。この呪文は一番簡単な呪文の一つで、属性さえあれば本当に誰でもできるんだ。」
「俺にもできるのか?」
「う~ん。まずは属性を調べてみる必要があるよね。ちょっと待って。」
そう言うとサクラは戸棚から何かガラスケースのような物を持ってきて、テーブルの上に置いた。
それは外では街灯として活躍していた、魔力灯だった。魔力灯は中心に電球のようなものがあり、その周りを正方形ガラスのケースが囲んでいる。その魔力灯の上に砂をパラパラとふってから、サクラはこっちを見て言った。
「この魔力灯に両手をかざしながら魔力を流し込んで、反応を見るの。」
「魔力を流しこむったって…。」
こちとら魔力に関してはど素人だぞ。
「大丈夫。やってみれば簡単だよ。」
サクラはにこっと可愛らしく微笑む。
思わずどきっとして慌ててナツの方をちらっと見た。
が、ナツはそんな俺の様子など全くのアウト・オヴ・眼中らしく(とほほ)、早速両手を魔力灯にかざしていた。
うん、まぁわかってたけどさぁ…。
気を取り直して、ナツの様子を観察する。
両手を魔力灯にかざし、目を閉じたナツに、サクラが声をかける。
「そのままリラックスして。魔力灯からマナが流れ込んでくるのを感じるはずだよ。」
なんてサクラは言ってるけど、ホントかよ。魔法ってそんな簡単に出来ちゃうもんなのか?
「……あ、わかったかも。」
あ、出来ちゃうもんなんですね。
「そしたらそのままその状態をキープ。魔力灯はマナを吸収する性質があるから、任せてあげればそのまま魔力が循環するはずだよ。」
魔力灯に溜まっていたマナを1度体内に取り込むことで自分の魔力と混ぜ合わせて、それをもう1度魔力灯に吸収させる。
それによって魔力灯に現れる変化で属性がわかるんだとか。
ナツの魔力灯は・・・淡い黄緑色の光を放ち始めた。
「ナツは私と同じ光属性だね!!私以外に光属性の人見るのは初めて!」
と、サクラは少し嬉しそうだ。
ちらっと葵の方を見ると、別段驚いた様子も無い。なんとなく予想してたのかな?
……まぁ感情表現に乏しいやつだから、もしかしたら驚きを表現できてないだけかもしんないけど。
「よし!じゃあ今度は俺だな。」
楽しそうに光属性について話し合ってる女子2人はこっちに全く注意を向けてないし、葵も興味がないことだけはしっかり伝わってくるけど、めげずに俺も自分の両手を魔力灯にかざす。・・・・ちょっと緊張するな。
「ちなみにさ、葵は何属性くらいでたの?」
と、一応近くにいるサクラに聞いてみた。いや、ほら、複数属性持ってるとは聞いたけど、どれくらいなんだろうと思ってさ。参考までに聞いておきたい。
「でね、光属性は怪我の治療とかもできるんだよ!」
「へー!すごい!!超便利じゃん!」
・・・・話に夢中になっているサクラとナツには全く俺の声なんか聞こえていないようだった。
「・・・・・・・」
思わず涙目になりながら葵の方を向くと、
「・・・・・・火、土、水の3属性だ。」
うんざりした顔をしながらも葵は一応答えてくれた。
「3属性か・・・・。」
できれば3属性以上欲しいな。光属性でも良いけど。一応召喚されたんだし、複数属性の可能性は高いはずだ。
・・・正直、葵のやつにこれ以上負けたくない。よし、こい!光属性!
目を閉じて、リラックスする。手のひらに何か温かいものが触れているのが感じる。
これがマナ・・・かな?なんだか不思議な感覚だ。なにかが指先から、手のひらを通って腕の方に流れ込んでくるのがわかる。うん、たしかに簡単だな。
しばらくその状態をキープしていると、魔力灯と俺の間に魔力の通り道ができたのを感じた。
・・・後々わかったことだけど、この魔力の通り道のことを「魔力回路」と呼んだりするのだとか。
魔力回路を通して、俺の中からさっき取り込んだマナが魔力灯へと流れ込んでいく。
いつのまにかナツとサクラもおしゃべりをやめて、こちらに注目していた。
・・・・のも束の間だった。5分ほど経過したけど魔力灯には全く変化が起こらず、この時点でナツは少し離れたソファーに座っていた葵の隣へと移動し、談笑し始めた。
さらに10分が経過し、俺のそばで椅子に座って待っていたサクラも難しい顔をして何度も魔力灯を確認しては首をひねっている。
さらに15分経過したところで、それまでわれ関せずを貫いていた葵がテーブルまでやってきて、魔力灯を検査し始めた。・・・が、結果は同じだった。
全部で1時間ほど粘ってみたけど、魔力灯はウンともスンとも言わなかった。
俺には、魔法の才能そのものがなかったのである。