第三話 つまり、ここは異世界だった。
月明かりを背にたたずむ葵。180を超えるすらっとした長身に、
少し茶色がかった長めの髪と、涼しげな切れ長の瞳。
ジャOーズ事務所に所属してたら速攻でグループの中心になってただろうなってくらいのイケメン。
相変わらずむかつくくらいの美男子ぶりは健在だけど、ファッションはだいぶ変わっていた。
センスは良くて、恰好いいんだけど・・・、なんていうか、ファンタジー風?
よくゲームにでてくるRPGの主人公みたいな風貌だ。全身を真っ黒なロングコートで覆い、
足元にはこれまた黒いショートブーツをのぞかせている。
首元を覆っている真っ赤なスカーフが絶妙なコントラストを作っていて、
イケメンはたとえコスプレしててもイケメンなんだって思った。
「葵さん!どこに行ってたの!?心配したんだよ?!」
ナツが葵に駆け寄って、嬉しそうにその胸へと飛び込んでいく。
それを見てなんだか心臓のあたりがちくってしたけど、無視して目を閉じてその場に横になった。
なんだか急に肋骨が痛み始めた。
「話すと長くなる。まずは俺の家へ行こう。」
魔獣に襲われるのはもうごめんだろう?と葵はナツの質問には答えずにそれだけ言うと、
ナツを連れて砂浜を歩き始めた。
ざくっざくっざくっ・・・と二人分の足音が遠ざかっていくのが聞こえる。
・・・・っておい。怪我人の俺を置いていくんかい。
「ほら、ハル!置いてっちゃうよー!」
ちょっと涙目になっていじけていたら、遠くからナツが声を掛けてきた。
痛みをこらえて立ち上がると、少し離れた方でナツがこちらに向かって手を振っているのが見えた。
その後ろでは葵もこっちを見ながら面倒くさそうに俺を待っている。
女の子にしては身長が高めのナツと、長身の葵が並ぶとなんだか妙に絵になって悔しかった。
163㎝しかない俺は、ナツがヒールを履くと完全に背は負けてしまうし、
童顔なのもあって、二人で歩いているとよく
「きれいなお姉さんですね。」
とか声をかけられることが多い。肩より少し長いサラサラの黒髪で、
目がぱっちりとした超絶美人のナツは「3組のマドンナ(笑)」の名に恥じず、
容姿端麗、成績優秀とまさに眉目秀麗を地でいく女の子だ。皆からの人望も厚いしね。
まぁ要するになにがいいたいかっていうと、今の状況を端的に表すと 眉目秀麗×2+凡人 ってこと。
しばらく歩いているとようやく村っぽいところへ着いたけど、すれ違う男は皆ナツに見とれてるし、
女は皆葵をうっとりとした目で見つめている。
まぁ、物珍しそうに俺のことををうかがってる女の子たちは結構少なからずいたけどさ。
それにしても外人が多いな。なんていうか、日本どころかテレビでみた外国にもいない感じの外人さんだ。意味がよくわかんないけど。
「え?あれが葵の家なの?可愛い!!」
とナツが声をあげたのでナツが指差している方を向いてみると、そこには小さな家があった。
ログハウスっていうか、山小屋っていうか。スイスとかにありそうだ。ハイジー!クララー!ってか。
中に入ってみるとさすがに葵の家って感じでセンスが良くまとめられていた。
・・にしても、葵が行方不明になったのは3日前だぞ?
百歩譲って家は借りたにしても、調度品がここまでそろってるのは不自然じゃないか?
ここまで生活感があるのが逆におかしい。
葵のたたずまいもまるでこの家に何年間も住んでいるかのようだし。
「もうこの家に3年住んでるからな。」
その事を葵に尋ねてみると、衝撃の返事が返ってきた。……はい?
つまり、ここは異世界だった。