第一話 ・・・・ってか近いわっ!!
・・・ガチンッ!
・・・・なんだ?・・鍵の、閉まる音?
「ハル!!」
ナツの声が聞こえる。
ん、あれ?俺生きてる?
目を開けるとそこには心配そうに俺を覗き込むナツの顔が……ってか近いわっ!!
思わず両手をナツの両肩をつかんで少し距離をとる。
「わっ」
ナツが少し驚いた声をあげたが、こっちもまだ心臓バクバクなので余裕がない。とりあえずナツの両肩から手をはずし、体を起こして周囲の状況を確認する。
………ん?
とりあえず目の前に座り込んでいるナツのほっぺたを右手でつまんでみる。
「痛いっ!」
……うん。夢じゃない。
ナツがなにか文句を言っているが、無視してもう一度周りを見渡す。
そこは砂浜だった。月明りに照らされて海がきらきら光り、浜辺は白く輝いている。
あまりに幻想的な景色で、でも全く状況がつかめずに思わずもう一度ナツに目をやると、ナツもこちらを困惑した顔で見ていた。
さっきは気付かなかったが、濡れた髪がほっぺたにくっついているのが妙に色っぽい。
よく見るとナツは全身ずぶぬれだった。制服の白いワイシャツが透けて中の薄いピンクのブラが見えてしまっている。思わず2、3秒見つめた後、あわてて目をそらした。
「えっち。」
うぐ。少し遅かったか。俺の視線に気づいたナツが両腕で胸のあたりを隠して腰をひねり、身体を隠すようにしながらこちらをにらんでいた。・・・ほんのり頬がピンク色で、余計に色っぽい。
「ご、ごめん!」
なけなしの自制心でナツに背を向ける。どっどっどっどってすごいスピードで心臓が動いてるのがわかる。頬が妙に熱い。
「もう・・・。やっと目を覚ましたと思ったらすぐやらしいこと考えるんだから。」
「そ、そんなんじゃないって!・・・ん?目を覚ました?ってどういうこと?ここどこ?っていうかなんで俺たちこんなとこいるんだ?!」
ベシャッッ!!
「だからこっち見るなってば!!」
溢れ出てくる疑問についナツの方を振り返ったら、びしょびしょのブレザーをぶつけられた。つ、冷たいし、水を吸って重たいから地味に痛い。
「私にもわからないよ。ハルが車にひかれちゃう!って思ったら気づいた瞬間には海の中に放り込まれててさ。なにがなんだかわからないけど遠くに島が見えて、とにかく必死になって泳いでたら、目の前にハルが浮かんでてさ。気を失ってるみたいだったし、何度声掛けても起きないから私がなんとか岸まで連れてきてあげたんだからね。死ぬかと思ったんだから。」
「ご、ごめん。ありがと。」
さすがナツ。小さいころスイミングスクールに通ってただけあって泳ぎは得意だもんな。助かった。
「くしゅんっ」
とナツが可愛くくしゃみをした。夜だし、服がびしょぬれだから潮風で確かに少し肌寒い。
「とりあえず歩こう。潮風をしのげて、服を乾かせるところを探さないと。」
それに、もう少し情報を集めて状況を確認したい。
「わかった。」
後ろでナツが立ち上がる気配がした。なるべくそっちを見ないようにして俺も立ち上がる。
さて、どこに向かえばいいんだ?