第十五話 握りしめた拳から血がにじむ。
短かったので2話連続投稿です。
この話でとりあえず第一章の終りと、第二章の始まりって感じです。
「ハル君、身体の具合はどう?」
「時雨さんの看病のおかげでだいぶ良くなりましたよ。ありがとうございます。」
「これが仕事だからね。でもまだ全快じゃないんだから、無理しちゃだめだよ?」
「はい。わかってます。」
「ん。よろしい。」
時雨さんはニコッとかわいらしい笑顔を浮かべ、満足そうにうなずく。お団子にまとめられた黒髪からこぼれた一房がやわらかく揺れる。白衣の上からでもわかる見事なプロポーションと左の目尻の泣きぼくろ、大人っぽい魅力全開の美人ナースの時雨さんに微笑まれるとそれだけで少しドキドキしてしまう。
「そ、そういえば、調査の方はどうですか?」
少し赤くなってしまった顔を見られたくなくて、慌てて窓の方を向きながら話しかける。
「…相変わらずよ。まだ3人の行方はわかってないわ。」
「・・・そうですか。」
「・・・でも大丈夫!きっとすぐに3人とも見つかるわ。だからそれまでにきちんと身体を癒しておくこと!」
少し暗くなってしまった雰囲気を感じたのか、努めて明るく時雨さんが声をかけてくれる。
「・・・・そうですよね!」
俺のなるべく明るい声で返事をし、笑顔をむける。・・・うまく笑えているといいんだけど。
ここは、スタット村のスタット総合病院。1週間ほど前この街の入り口に血だらけでぶっ倒れていた俺を時雨さんが発見し、そのまま自分が勤務するこの病院へと搬送してくれたんだとか。時雨さんの的確な応急処置と病院での治療、親身な看護でこの1週間で俺の身体はだいぶ回復していた。
が、問題だったのは発見されたとき、俺が1人だったということだ。ナツと葵は一体どこへ行ってしまったのか。あの桜の魔法で俺だけじゃなくて2人も光に包まれていたのは一瞬見えたから、飛ばされたのは俺1人だけじゃないはずなんだけど・・・。飛ばされるその瞬間に気を失ってしまったのかそのへんの記憶が曖昧で、俺はとりあえず目を覚ましたら病院のベッドで寝かされているという始末だった。
まだ自由に動き回れるような状態ではないので、事情を話した時雨さんに桜も含めた3人の行方を捜索してもらっているんだけど・・・このスタット村は山の中にある小さな村らしく、近くの町までは馬車で2時間近くかかるんだとか。そんな状況では情報もなかなか集まってこないし、捜索は俺が目覚めてからのこの1週間、あまり進展していない。とはいえ、一文無しの俺を快く治療してくれているんだ。文句なんか言えない。
ベッドに寝転がると、頭上に吊るしてある魔力灯が目に入った。あのザ・ワールドって村と同じように魔力灯は電線のようなもので繋がっていて、外へと伸びていっている。地中海の方でみるような、カラフルなガラス細工で彩られた魔力灯は見ているだけでなかなか楽しい。そういや、葵の家にもベッドの真上に魔力灯が吊るされてたな・・・。
こんなとりとめのないことを考えても、思考はいつも同じところへ帰ってくる。
まずは身体を癒して、2人を、桜を、探しに行こう。
今度こそ、俺が、皆を守るんだ。
握りしめた拳から血がにじむ。涙が、止まらなかった。
誤字、脱字、アドバイスなどあったら一言宜しくお願い致します。
皆様の暇つぶしになっていれば幸いです。