第十三話 俺は守られたいんじゃない。守りたいんだ!!
葵が剣を振るいながら詠唱を行う。
「マナよ、我が剣に宿りて炎を纏え。炎剣!」
葵の剣に淡い光が走り、その刀身から炎が噴き出す。葵の周辺を明るく照らし、闇の中の黒騎士を鮮やかに照らし出す。そのまま葵が畳み掛けるようにして切り込んでいく。が、黒騎士も素早い剣さばきで見事に葵の攻撃を受け流す。
「葵!離れて!!」
桜が叫び、弓矢を構える。その声を聞きつけた葵は一度大きく剣を振るい、黒騎士を牽制しながら一歩後ろへと飛んだ。
「マナよ、我が矢に宿りて炎を纏え。火矢!」
詠唱とともに桜の手から放たれた矢が炎を噴き上がらせながら黒騎士へとまっすぐ飛んでいく。黒騎士が盾を構え矢の方向へ向き直ると、がら空きになった相手の右手側に葵が飛び込む。葵が振るった剣を持っていたレイピアで防ぎながら黒騎士が後退していく。
「マナよ、土に宿りて我が意思をこの大地へと伝え、その形状を壁へと変えよ。土壁!」
桜が再び詠唱し、地面につけた右手から淡い光の筋が黒騎士の背後へと奔っていき、黒騎士の逃げ道をふさぐようにして土の壁が地面からせりだした。葵が繰り返し剣を振るい、黒騎士を壁へと縫いつけるようにして逃がさない。
「桜!」
「わかってる!」
葵の叫びに答えながら桜が両手にマナを集中させていく。
「マナよ、この地に住まう精霊へと我が声を届け、敵を薙ぎ払う力を我へ授けよ。古より恐れられし神の槍。天を切り裂く裁きの雷・・・・っ!??」
「桜ちゃんっ!??」
ナツの叫び声。目の前で崩れ落ちていく桜。俺の右手に握られた剣から流れる鮮血が地面を、俺の身体を、朱色へと染めていった。
・・・俺が、桜を、切った・・・・・・??
「桜ちゃんっ!!ハル!?何してんのよ!!」
ナツが叫びながら地面に横たわる桜へと駆け寄る。そして、俺の右手はそのナツをも--------
ドガッ!!!!!
脳が揺れ、何が起こったかもわからないまま地面へと叩きつけられる。踏みつけられた頭の上から氷のように冷たい葵の声が降ってきた。
「・・・・・なんのつもりだ?」
そう問われても、俺にもなにがなんだかわからなかった。急に意識が遠くなって、気がついたら目の前で桜が・・・・。そう説明しようとしても口がうまく動かない。声もだせない。身体が勝手に氣を錬成し、葵を吹き飛ばすようにして立ち上がる。
「・・・・そうか。傀儡・・!」
葵がそう呟く。
「傀儡?ってことはハルは操られてるってこと!?元に戻るの?」
「・・・とにかくお前は桜の治療を。あいつの相手は俺がやる。」
葵が飛び込んでくる。俺の身体も勝手に反応し、剣を構える。
「葵さん!?ハル、なにやってるの!?止めて!!」
ナツがそう叫ぶのが聞こえてくるけど、俺の身体は全く言うことを聞いてくれなかった。
「悪いが、自由は奪わせてもらう。」
葵の鋭く重い剣撃を俺はふせぐのが精一杯で。勝負は一瞬だった。葵の振るった剣によって俺の右手から剣が吹き飛び、がら空きの身体へ斬撃を連続して叩き込まれ、とどめとばかりにかかと落としによって再び地面にたたきつけられる。意識はもうろうとしてるのに、痛みだけは鮮やかに感じる。・・・もう少し容赦してくれたっていいだろうに。
「マナよ、土に宿りて我が意思をこの大地へと伝え、その形状を壁へと変えよ。土壁!」
葵の呪文によって大地が盛り上がり、俺の周り、四方を土の壁が覆う。
「それだけ傷めつけておけばたとえ操られていたとしてもその壁は破れない。・・・大人しくしていろ・・・・っ!??」
ガキィィンッ!!!「ぐっ!!」「葵さんっ!!!」
剣と剣がぶつかり合う音。聞こえてくるのは苦しそうな葵の声と、ナツの悲鳴。
「マナよ、光に宿りて壁となって我らを守れ。光壁!」
ナツがそう叫んだのが聞こえ、俺を閉じ込めている土の壁の中にも光が走りぬけた。途端に身体に力が戻る。でも葵に散々傷めつけられた身体じゃ満足に動くこともできない。
「マナよ、我が矢に宿りて炎を纏え。火矢!」
桜がそう叫ぶのが聞こえ、爆発とともに俺を閉じ込めていた土の壁に穴が開く。
視界が開け、ボロボロになって地面に膝をついている葵と、その前に悠然と立つ黒騎士が見えた。2人の間にはナツが作りだしたオーロラのような光の壁がゆらゆらと浮かんでいる。
「ハル君!逃げて!!!」
俺の位置からだとオーロラのせいで姿は確認できなかったが、桜がそう叫ぶのが聞こえた。・・・逃げろ?そんなこと言われたって・・・。
「みんなを置いて逃げられるわけないだろ!?」
「・・・魔法も使えないお前は足手まといだ。また操られる前に早く行け。」
葵の一言に、返す言葉もなかった。でも・・・!!
「なめんなぁっ!!!!」
そう叫び、体中の氣を集中、錬成していく。剣を握り、土の壁でできた檻を飛び出す。
俺は守られたいんじゃない。守りたいんだ!!
「うわぁぁぁあああっ!!!」
無我夢中で黒騎士へと斬りかかる。空振り。そして黒騎士のレイピアが俺の右足を貫いた。なにが起こったのか把握する前に引き抜かれたレイピアが俺の頭へと迫っていた。
思わず、目を閉じた。
ザクッ!!!
振りかかる生温かい血液。そして何かが俺へと倒れ掛かってくるのを感じた。
目を開けると血だらけになった葵が俺に覆いかぶさるようにして倒れているのが見えた。その背中には血だらけになった黒騎士のレイピアが刺さっている。
「葵さんっ!!!!」
ナツがそう叫ぶのが聞こえた。