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第十二話 胸くそ悪かった。




 「マナよ、炎を宿し我が敵を焦がす球となれ。火球かきゅう!」


 火球が葵の左手からまっすぐ黒騎士の足元へと撃ち出され、爆発。黒騎士はなんなくかわしてこちらに接近してくるが、でか狼は驚いたのかばらばらに散らばるようにしてなんとかかわしていた。


 黒騎士を迎え撃つようにして葵が飛び出す。桜が構えた弓から矢を放ち、黒騎士を牽制。


 「マナよ、土に宿りて我が意思をこの大地へと伝え、その形状を敵を貫く刃と変えよ。土刃どじん!」


 葵が左手を地面につけると大地に淡い光が走り、黒騎士の足元まで伸びていったかと思うと奴の目の前に葵の背の丈くらいのでかいトゲ状の地面がせり出してきた。黒騎士は半身になるようにしてそのトゲをかわしたが、トゲはその後ろに隠れていたでか狼を1匹串刺しにする。

 黒騎士が突き出してきたレイピアをかわして、葵が氣をまとわせた剣で横なぎの一撃を繰り出す。黒騎士は盾でガードするが、勢いを殺しきれなかったのか横に吹っ飛ぶ。体勢を立て直す暇を与えず、葵の追撃。突進するようにして剣を繰り出し、黒騎士を押し込んでいく。


 「マナよ、土に宿りて我が意思をこの大地へと伝え、その形状を壁へと変えよ。土壁どへき!」


 桜がそう叫び右手を地面につける。淡い光が地面を走り、黒騎士と葵をでか狼から分断するようにして巨大な土の壁がせり出した。


 「マナよ、炎に宿りて我が敵を焦がす球となれ。火球かきゅう!」


 桜が再び詠唱し、その右手から火球を撃ち出す。火球がでか狼に命中し、断末魔をあげながら狼が燃え上がる。その一発で葵からこちらへと標的を変えたのか、残るでか狼が一斉にこちらへ向かって突進してきた。


 「マナよ、我が矢に宿りて炎を纏え。火矢かや!」


 桜が詠唱とともに矢を放つ。矢がでか狼に刺さった瞬間炎が噴きあがり、一瞬にしてでか狼を焦がした。


 「だめ、数が多すぎる・・・!!!マナよ、光に宿りて壁となって我らを守れ。光壁こうへき!!」


 桜が再び詠唱すると俺たちの周りに光の壁が現れる。でか狼が構わず突進してきて壁に激突するとバチッと大きな音とともにでか狼が光の壁にはじかれたのが見えた。なるほど、バリヤーみたいなもんなんだな。

 

 「ど、どうするの!??」


 ナツがすっかりパニくった様子で桜へと尋ねる。


 「残りは後・・・15匹以上。1匹ずつ減らしていくには数が多すぎる・・かな。かといってまとめて倒すためには詠唱の時間がかかりすぎるの。普段は葵が時間を稼いでくれるからどうってことないんだけど・・・。」


 光の壁を展開させるためか突き出された右手を光らせながら桜が厳しい表情で答える。


 「この壁を展開させながら他の詠唱を行うってのは・・・?」


 「異なる魔法を同時に行うっていうのは理論上は可能のはずなんだけど…今の私には・・。」


 だめ元で一応聞いてみたけど、桜が目に涙を浮かべながらそう答える。魔力を消費しているせいか息も荒いし、額には汗がうっすら浮かんでいた。

 今は光の壁のおかげででか狼も攻撃することができないため、俺たちの周りをぐるぐると歩きながら壁が消えるのを待ち構えている。

 ・・・このままじゃ桜の魔力が尽きた瞬間に襲われて・・・。頼みの葵も黒騎士の相手でさすがに手いっぱいだろうし・・・。


 「桜ちゃん、詠唱の言葉と呪文を教えて。」


 「え?」


 「私が桜ちゃんの代わりにこの壁を作るよ。私だって桜ちゃんと同じ光属性なんだから。」


 「でも・・・この魔法は制御が難しいし、魔法を覚えたばっかりのナツちゃんがすぐできるようなものじゃ・・。」


 「やってみなきゃわからないじゃん!それに、このままじゃみんなやられちゃうよ!」


 「・・・わかった。詠唱の言葉は『光に宿りて壁となって我らを守れ』。呪文は『光壁』。自分の身体に取り込んだマナを一気に自分の周りに展開させるイメージで壁を発生させるんだけど、全部一気に放出させちゃうと壁を保持できないの。だから十分な壁を構成できるマナを放出させつつも自分の中に少しマナをとっておく必要があるんだ。この加減が難しいんだけど・・・でも、ナツちゃんならきっとできるよ。」


 「・・・うん。」


 ナツが深呼吸し、両手にマナを収束させ始める。


 「マナよ、光に宿りて壁となって我らを守れ。光壁こうへき!!」


 ナツが呪文を唱えると同時に桜が展開させていた光の壁が消え、新たな光がナツから俺たちの周りへと飛び出していく。オーロラが発生した。・・・成功!?


 「ナツちゃん!後ろの壁も意識して!もっと全体に均等にマナを分配しないと・・・!」


 桜がそう叫ぶと同時に後ろからバチッと大きな音がし、俺らを覆っていたオーロラに穴をあけてでか狼が1匹飛び込んできた。桜が素早く弓を構え、その狼の眉間を矢で貫く。

 桜が展開していたオーロラに比べるとナツのオーロラはゆらゆらしていてところどころ薄くなってしまっていた。さっき空いた穴はふさがれたようだが、侵入しようとでか狼が壁へと突進してくる。


 バチッバチッ!バチッバチッ!!


 「桜ちゃん!早く!!」


 額にびっしり汗をかいたナツが叫ぶ。

 「・・・・!!」


 桜が両目を閉じ、両手にマナを収束させていく。さきほどまでの魔法とは比べものならないほどの魔力がその両手に集まり、強い光を放つ。


 バチッ!!バチッ!!


 「・・・だめっ!」


 大きな音とともにでか狼が光壁内へと侵入してくる。ナツの展開した光の壁が霧散していくのが見えた。


 「桜!!!」


 「マナよ、この地に住まう精霊へと我が声を届け、敵を薙ぎ払う力を我へ授けよ。古より恐れられし神の槍。天を切り裂く裁きの雷よ、今一時我にその力の一部を貸し与えたまえ。・・・神雷槍しんらいそう!」


 桜がその呪文を唱えた瞬間、強い光が空から降り注ぎ、爆音とともに閃光が走った。


ズドォォーーーンッッ!!!!!


まぶしさに思わず目を閉じると大地が振動し、俺とナツも巻き込まれるようにして地面に転がる。音の残響と肉の焦げる匂い。

ゆっくり目を開くと俺たちの周りには黒焦げになったでか狼の残骸が転がっているだけだった。


「・・・すっげぇ威力・・・。」


俺が茫然と周りを眺めていると、桜とナツの2人が俺を置いていくようにして飛び出していく。


「あ、ちょっ・・・・!待てって!」


あわてて2人を追いかける。

吸い込んだ空気、肉の焦げた臭い、何もできなかった自分。


胸くそ悪かった。


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