第十話 ・・・できればもうちょっと違う形の好意が欲しいです。
その夜は、村全体で壮行会が開かれた。村中の人が広場で焚かれたキャンプファイアーの周りに集まって、踊ったり、お酒を飲んだり、食べ物を食べたりしている。葵と桜が皆にあいさつして回っている間、暇だったのでナツと一緒に炎から少し離れたところに陣取って腰を下ろした。
「……葵たち、明日出発しちゃうんだな。」
「……日向先輩、でしょ。」
「おまえだって葵さんって呼んでるじゃんか。」
「……小学校の頃からの付き合いだし、ちゃんとさん付けはしてるもん。」
それを言ったら俺だって小学校の頃からの付き合いだっつの。今さら日向先輩とか呼んだら気色悪がれるのがオチだ。
……いや、きっと心底心配そうな顔で「……拾い食いはやめておけ。」とか言いながら胃薬でも渡してきそうだ。
「やっぱさ、皆帰りたいのかな?」
楽しそうに踊ってたりしゃべったりしている皆をぼーっと眺めていたナツが、独り言のようにつぶやいた。
「……そりゃそうなんじゃないか?皆、家族とか恋人とかいたんだろうし…。それに、残された人達も心配してるだろうしさ。葵と桜がいなくなったとき、俺たちもすごい心配したろ?」
「お母さんたち、心配してるかな…?」
「心配してるだろ。…いや、こっちの世界と向こうの世界で同じ時間が流れてるとは限らないのか。」
葵がもしかしたらこっちの世界での1年が向こうの世界での1日に相当してるんじゃないかって言ってたな。そのことを葵に伝えると、
「じゃあまだ私たちがいなくなったこと誰も気付いてないのかな?」
「いや、冬真と秋奈くらいは気付いてるんじゃないか?あいつらもまさか行方不明の葵たちを一緒に探してた俺たちが今度は行方不明になっちゃうなんて思ってなかったろうにな。」
「そうだよね。ちょっと申し訳ない気がするな。帰ったら秋奈にしっかりお説教されそうだよ。」
ナツがちょっと困った顔をする。秋奈は俺たちと同じクラス、170近い長身でモデルみたいなスタイルの持ち主だ。ナツと桜とはまた違ったタイプの美人なんだけど、その豪快な性格のせいで通称は「3組の姉御」だ。冬真は反対に身長は155くらいしかない小柄な男子で、葵が格好良い路線のイケメンだとしたら、冬真は可愛い路線のイケメンだ。上級生から圧倒的な人気を誇り、「ペットにしたい男子」の栄えあるNo.1に選ばれた。もちろん通称は「3組のペット」。みんなからの愛を一身に受け取る、人気者である。
「あ~、秋奈のお説教ってなんか怖いんだよな。できれば勘弁願いたいもんなんだが。」
「全部ハルのせいにして良い?」
「だめに決まってんだろ。」
自分だけ逃れようたってそうはさせんぞ。
「遠慮しなくて良いってば。せっかくの私からの好意なんだから、取っときなよ。」
・・・できればもうちょっと違う形の好意が欲しいです。
「魔獣がでたぞ!」
そんな声が聞こえ、ナツと2人で顔を見合わせる。同時に立ち上がると、俺たちの目の前をさっきまでみんなに挨拶して回っていた葵と桜駆け抜けていった。葵は俺との最初の剣術の稽古のときにも使っていた剣を手にしていたし、桜も弓を右手に持ち、矢の入った筒を背負っていた。氣功の効果か、2人とも風のように広場を突き進んでいく。
「葵さん!!」
ナツもそう叫ぶと葵の後を追って走り出した。慌てて俺も後を追う。体内の魔力を身体の中心に集中させ、練りこんでいく。その練りこんだ氣を今度は強化したい部位、今回は両脚、へと送り込み、完全に覆う。この数日間の練習でだいぶ慣れてきたのか、最初の頃よりはだいぶスムーズにできるようになってきた。
村の入り口に到着して、愕然とした。