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飛びかかる姉から逃れるように身を低くしゃがんだ。
「ふ、ふふっ、……」
不気味な姉の笑い声が上からしてきた。
「そんなしゃがみ込んでどうしたの、レナ?
私があんたを刺すとでも?」
ゆっくり顔を上げつつ見上げると姉が下を向き私を見ていた。
刺されると思っていた私は歯をカチカチと鳴らし、怯えていた。
「イヤだわぁ、明日ここにアルバート様がくるのよ。もしあんたの血でも落ちていたらどうするの?
そんなのを見たら絶対に引くわ」
「あっ…う……」
言葉にならない声を発し、私は震え立ち上がる事が出来なかった。
「ほらぁ、立ちなさい」
姉はしゃがみ込む私の腕を掴み、無理矢理立たせると左頬をぺちぺちと叩き出した。
目の前には殺人未遂を起こした姉がいる。
今までのような言動を遥かに超えた行動により一層、姉に対する恐怖心が芽生えた。
「そこで何をしてる」
大広間の片隅にいる私達に父が声をかけてきた。
手には大きめな白い紙袋を持ちながら。
「……なにも?」
姉はあっけらかんな声で父の対応をするが、どう見ても何かあったとしか思えない状況だった。
姉の手にはナイフ、そして怯える私は震えているのだから。
「何もないわけないだろう!その手に持ったナイフはどう説明する?」
「あぁ、これ?つい話していたら熱くなって握ってただけよ」
「……嘘もいいとこだな」
「嘘?どこが?」
「じゃあ何故そんな隅にいる?」
父と姉の押し問答を聞きつつも私はすぐ側にいる姉から感じる苛立ちを受け、身動きが取れずにいた。
「どうせお前がまたレナに言いがかりをつけたんだろう?言ったはずだ!いい加減にしろと」
父は持った紙袋をゆっくり握りしめつつ姉に言葉をかけていく。
だが、その中身を知る姉は両手を上げ、降参のポーズを取った。
「はいはい、私が悪かったわよ。……それより、それ、早く渡してくれない?せっかくのドレスがしわくちゃになってしまうじゃない」
朝出かけた時に買ったドレスのようだ。
父はテーブルに置くと、『持ってけ』とだけ告げた。
「そんな言い方ないんじゃない?明日、私の人生が大きく変わるかもしれないのに、いいのかしら。そんな態度を取って」
「何が人生が変わるだ!お前なんてアルバートに選ばれる訳ないだろう!」
父はテーブルをダンッと叩き文句を言うと、私を解放しろと迫った。
「しますわよ、言われなくてもね」
姉は私から少し下がると体の後ろで手を組み、もう何もしないと言ってきた。
解放した所を見ると、父は私を連れて大広間から去ろうとしていた。
「ちょっと待った」
「なんだ、もう用はないだろう」
「いいえ、レナに」
「いい加減に!?」
怒る父にテーブルの方を指差し、これはどうするのかと尋ねていた。
食べかけの皿がいくつも乗るテーブル。
それをこのまま置いておくのか、と。
「……片付けます」
「レナ……」
「大丈夫、片付けるだけだから」
父の心配をよそにテーブルに近づき私は残った食事を纏め始めた。
「…っ!いいな、もうレナにちょっかいを出すんじゃないぞ!?」
忠告を残し、父は大広間を後にした。
カチャカチャと皿を重ねる音だけがする大広間。
姉は私の片付けを見ているだけで何もしない。
そればかりか父が置いていった紙袋に近づき、ゆっくりと開き中身を確認していた。
「あぁ~……いい、いいわ」
酔いしれている姉の声を無視し、私は重ねた皿を持ち始めた。
「ほらぁ、見てみなさい」
私に向かって広げたのは純白の白いドレスだった。
灯りを受け、キラキラと光る所を見るとドレスにはなにか装飾が施されているのはすぐ分かった。
「どう、このドレスにはスワロフスキーの宝石がいくつも付いてる!おかげでこんなにキラキラと光ってる!早く着たいわ」
何度も私に対し、そのドレスの良さを語る姉。
「そ、そう。良かったね……」
「えぇ!」
言葉少なめに私は姉から避けるように皿を持ち厨房へといった。




