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自分が指定までしておいて何も買ってこない。

そればかりか私のお金を使い、自身をよりアップデートさせる物を買ってくる。

自分勝手にも程がある…。


渡されたシュシュを投げつけたくなったが、グッと我慢しポケットに仕舞い込んだ。

すると、私が少しだけ作っていた料理の匂いを感じ取ったのか姉がまたやってきた。


「なんだ、出来てるじゃない。それでいいわ。

街を歩いてペコペコなの。早く用意して頂戴」

「あの……」

「なに?」

「その、噂話なんだけど」

「あぁ~、そっか、あんたも聞いていたのね。街中その話題ばっかだったから仕方ないわね。聞きたいのね。

良いわ、とことん話してあげるわよ」

「いや、その……」


もう姉の中でアルバート様は自分が好き、と確信めいており自信しか無かった。

先日まで話していた妄想が嘘じゃ無かったと私に分からせるように勝ち誇った顔を見せながら。


「それより、渡した物どうしたのよ?

人がせっかく買ってあげたのにつけないなんて空気の読めない子ね」

「……」


ポケットに仕舞ったシュシュをもう一度姉の前に出すと付けるまで私の事をみていた。

『んっ?』と声を出し、早く付けなさいと催促までしてくる。

私は髪を後ろで一つに纏め、シュシュをつけ左胸のほうへと髪を流し下ろした。


「ふーん、……まぁまぁね。それがあれば料理だってしやすいでしょ。良かったわね」

「……ありがとう」

「買ってあげたんだから付け続けなさいよ」

「……わ、わかった」


機嫌を損ねないよう私はその状態で姉に料理を運び出した。




ーーーーーー




その日の夜、父は家にはいなかった。

人知れず出て行ったみたいで、もしかしたら…という気持ちになった。

大広間には私と姉。

二人きりの空間は冷たい空気が纏っているみたいで寒さを感じた。


「はぁ~明日はアルバート様かぁ。どんな話をしよう。もしプロポーズなんてされたらどうしよう!?」


天井を見上げ、明日への妄想が酷いようだ。

前回久しぶりに会った後で明日が二回目。

プロポーズなんてあり得ないと私は思い、お花畑状態の姉の独り言を聞き流していた。


「ねぇ、私がプロポーズされたらあんたもこの国で偉くなれるのよ!もっとワクワクしなさいよ!?」

「そんな……まだされてもないのに……」

「いいえ!聞いたでしょ、街の噂話を!?私に決まってる」


もう完全に姉は酔いしれていた。

アルバート様の隣に立つのは自分。

それは間違いない、と。


「でも、ブロンズの髪とエメラルドの瞳って他にもいるんじゃ……」

「はぁぁ!?」

「そ、それに、アルバート様って王子なんだから、釣り合うような位の高い家柄の……」


私の言葉が気に入らないようで、姉は持っていたフォークを私に向かって投げつけてきた。

真正面から向かってくるフォークは凄い速さで飛んできた。


「きゃっ!」


私は体を左に傾け、なんとかそれを避けた。

避けたフォークは私の後ろの壁に当たり、キンッと音を鳴らした後、床に落ちた。


「位の高い家柄ですって!」

「……」

「私達だって高いじゃない!?じゃなきゃ要職の人を招いて会食なんてする!?」


私の言葉を否定し、そんな人は居ない。

噂の人物は私で決まり!と強引に押し付けてくる。

そればかりか私の言葉を訂正させようと向かい側から姉がこちらへとやってきた。

しかも手にはナイフを持ったまま…。


「ちょ、ちょっと、お姉様?」


堪らず私は椅子を離れ、姉との距離を取り出した。


「レナぁ!」


頭に血が上り、ナイフを持つ手はギュッっと強く握りしめている。

何かをきっかけに刺されてしまう危険が一気に増した。


「ご、ごめんなさい!訂正する。お姉様、そう、お姉様に決まってる!」

「そうよ!私よ!?アルバート様は私の事が好きで好きで仕方ないの!?」


なんとかこっちに来るのを止めようと姉の言葉を肯定し続けたが、徐々に追い詰められ、大広間の角に私は背を預けると姉はすぐ目の前までやってきた。


「お、お姉様、やめて……」


フーフーと息遣いを荒くして私の前に来るとナイフを顔の前に差し出してきた。


「私は、アルバート様の、隣に、決まってる!」


目が殺めることさえも厭わないと思わせるくらい真剣だ。

刺される。

もう私はそう感じた。

そして…。


「レナぁ!?」


姉が叫ぶと同時に飛びかかってきた。



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