前日②
部屋に入ってきた姉を見る。
「なによ、そんな顔して。自分の部屋に入ってきて悪いわけ?」
「いや、でも……」
予想通り戻ってきた。
「まだ時間……」
私は姉が提示した時間を引き出したが、姉は続けてくる。
「暇なのよ。
周りは読みたくもない本だらけ、それになにより寒いのよ!あんたの部屋は」
確かに姉の部屋に比べて私の部屋は寒い。
でもそれを引き出されたらどうしようもない。
いまさら場所を変えるなんて出来ないのだから…。
片付ける私をよそに姉は部屋を見渡すとおもむろに南側に面した窓へと向かっていった。
薄いレース状のカーテンが掛けられた窓に近づくとバッと開き、そこにある窓に右手の人差し指をスーッと横に走らせた後、それを見た。
「汚っ」
横に走らせた指の跡がクッキリと窓に残り、姉の指先は少し黒ずんでいた。
「あっ」
「汚いわね」
フッと息をかけ、その汚れを私に向かって落としてくる。
「その…」
そこまで気が回ってなかった私は何も言えなくなってしまった。
「掃除ってさ~、見える所だけしてればいいわけじゃないわよね~。
特に大事な人が来るなんて時はもっと気をつかうべきなんじゃな~い?」
部屋の天井を見つつ、更に粗がないか探しつつ私に投げかけてくる。
「あの、お姉様……」
「なぁに、レナぁ」
「もっと、綺麗に……」
「そうよねぇ~。だって明日はアルバート様が私に会いたくて会いたくて来てくれるのよ。
この部屋で将来の話もするかもしれないのに、汚いなんてねぇ~」
街で聞いた噂話が私の脳内で再生し始めた。
「……聞いてるの、レナぁ?」
手を止めた私は自然と姉に対し、頭を90°下げ謝っていた。
「なんだ、わかってるじゃない!全部綺麗にしときなさいね。終わったら呼びに来なさい。
あ~、でもあんたの部屋は寒いから大広間にいるわ、いいわね?」
「……はい」
下げた頭にポンポンと右手で数回叩くと姉は部屋を出ていった。
自分でも怖いくらいだった。
体が自然と姉に対し動いており、下げていた。
(私は……ずっとこうなんだ……)
自分の人生は姉に支配され続ける。
そのために私は生まれてきたんだと思うと涙が出てきた。
何滴も床に落ちる涙を止められずにいた。
すると、ノックをして入ってきた父がいた。
「レナ」
頬に涙を流し振り返る私を父は、すまないと謝り優しく抱きしめてくれた。
姉に支配されたのは私だけじゃない、父もだ。
「本当にすまない」
再度謝る父はよりギュッと私を抱きしめた。
嗚咽を漏らしつつ泣く私は、軽く横に首を振るしか出来なかった。
「……あいつの言う事など聞かなくていい」
「で、でもっ」
「明日、アルバートにはアイツのありのままを見せつければいい。そうすれば嫌でもアイツを分かるはずだ」
「そんな事したら!?」
「大丈夫だ、任せろ」
父に何か企みがあるようだった。
懲らしめたい、でも、後が怖い…。
父の提案を受けつつも私は複雑な気持ちが入り混じっていた。