助け船?
平静を装う私に対し、姉はもう一度グッと力を入れ私を掴み出した。
「そんな嘘で私を騙そうとしても無駄よ。本当の事を言いなさい」
掴まれ逃げれない私は頭をフル回転させ、この場をやり過ごせる言い訳を考えた。
そして出た答えが…。
「お、お財布を忘れちゃって……」
「財布?」
「そう、買う時にお財布が無いから払えなくて、だから仕方なく今日は何も買ってこなかった」
「ふーん」
私の言葉を聞き、姉は掴んでいた左手を離してくれた。
(助かった…)
ホッとする私だったが、次の瞬間、姉は私の右ポケットに素早く手を突っ込んできた。
「えっ」
困惑するもすぐに姉はポケットから手を出し、何かを私に見せてきた。
「これは?」
「あっ」
姉の手には白い布を青い紐で縛った巾着袋だった。
「これは何かって聞いてるんだけど?」
「そ、それは……」
「コレ、お父様に買ってもらった財布よね?小さい時にお互いが分かりやすいように、と瞳と同じ紐を使った物。……あんた、さっきなんて言った?財布を忘れた、って?」
姉は財布を持つ手を少し上下させながら私に問い詰めてくる。
「ん?なんか言ったら?」
「いや、その……」
「良いものが無い、財布も無い。……嘘ばっかり。
いい加減白状しなさいよ!?」
姉は財布を床に思いっきり投げつけると、ガチャガチャとお金の音が響いた。
こんな時、父がいれば助けてくれるかもしれないが、悪い事に今は造船所におり不在だ。
「お、お姉……」
名を呼ぼうとするとキッと私を見てくる。
「言うまで離す気はないわよ」
今までの姉からは想像も出来ないくらい低く凄みがある声だった。
打ち明けるしかないのかと諦めた時、家の扉をノックする音に二人同時に気づいた。
「……誰か来たみたい」
「あっそ。どうせ他愛もない要件でしょ」
なかなか反応しない私達に外からもう一度ノックをしてくる。
「出た方が……」
「……あんたが対応しなさいよ」
「わ、わかった」
姉は両手を解放してくれ、私は扉へと急いだが、後ろには姉がついてきた。
「すみません、遅くなりました」
勢いよく開けた先には意外な人物が出迎えた。
「どうして……?」
扉の先にはカルロスさんが立っていた。
だが、ここで名を呼んでしまうと色々面倒が起こりそうなのですぐに私はカルロスさんと共に扉の外へと出た。
「なぜ追い出す?」
「すみません……色々と」
「……まぁいい」
「あの、手短に……」
「なんでそんな焦ってるか知らないが、コレが落ちていた」
カルロスさんはスッと私に一枚のハンカチを差し出した。
花が刺繍されており、ハンカチの右下には『R・I』とイニシャルが記されていた。
「あんたのだろ?屋敷にR・Iなんていないからな」
「あっ」
すぐに財布とは逆のポケットに手を入れると確かに何も入ってなかった。
「わ、私の、です」
「そうか、だと思った。……じゃあな」
カルロスさんは渡すとサッサと帰っていき、同時に姉が扉の外へとやってきた。
「なんで閉めるのよ!……誰?」
去っていくカルロスさんの後ろ姿をみながら私に問うので、つい『街の人』と言った。
「私がこれ、落としたから拾ったって」
私は姉にハンカチを見せ、納得させた。
「ふーん」
「あの、嘘ついたのはごめんなさい…もういい?」
「……ふん、どうでもいいわ。もう」
少し間が空いた事で姉も熱が下がったらしく、私が屋敷へ行った事はバレずに済んだ。