変化
目の前にいる姉ともう居たくなく私は黙って大広間を出ていった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
姉はすぐに私を追い、すぐ後ろに付いてきた。
「もう話すことなんてない、どっか行って!」
「何よその言い草!」
私の言葉にカチンときた姉は後ろから肩を引き、振り返そうとしてきた。
「話すことなんてないってよく言えるわね。私がアルバート様と結婚したらあんたなんかコキ使ってやるんだから!」
「出来る訳ない!もしそんな事になったら一生それでも構わない!」
「……言ったわね。その言葉必ず覚えておきなさいよ」
「好きにすればいい」
私は姉の尋問から逃れるように厨房へと行った。
だけど、姉はそれ以上追ってくる事はなく部屋へといったようだ。
自室に戻り、私は濡れた髪を乾かしすぐにベットに飛び込んだ。
大広間にはまだ大量の片付けなければならない物があったが、今はそれをしたいとは思わず放棄した。
「……勝手にすればいい」
結婚したらコキに使う。
姉の言葉が脳裏に浮かび、出た言葉を何度も口に出した。
ほとんど会ってなかった人と会い、その人と結婚を決めつける姉なんて異常者だ、と私は思った。
むしろ早く期待外れな言葉を浴び、ショックを受ければいい、とさえ思った。
「早く離れたい……」
姉のいるこの家が嫌になり、顔を埋めジッとしていると、不意にリックさんからもらった紙を思い出し、体を起こした。
紙には3日後の昼、屋敷の門番にこの紙を見せ、入ってくるようにと書かれていた。
それだけだった。
詳しい試験内容とかは一切なく、ただ日と時間のみだけだった。
だけど、私はそれを記憶しそこに賭けることにした。
ーーーーーー
それから3日が経ち、私はどこかソワソワした気分でその日の朝を迎えた。
大広間には二人がいて、すこし険悪な空気が流れている。
無理もない、あれだけの喧嘩をしておいて謝る事が無かったのだから…。
聞こえるナイフとフォークの音だけが虚しく響き、父はさっさと食べ終え部屋に帰っていった。
「……」
「……」
私と姉は一言も喋らず食べ続け、私が先に終え席を立っても何も言ってこない。
むしろ感謝するくらいだった。
でも……。
「ちょっと」
不意に姉が声を掛けてきた。
「……なに?」
黙ったまま行こうとしたけれど、今ここで何か起こって屋敷に行くのがバレるのが嫌だったから対応する事にした。
「……その、なんていうか」
姉が今までに見せた事がない態度を見せてきた。
目は泳ぎ、右に左へと動かし、目を合わそうとしてこない。
そればかりか両手をしきりに触り落ち着かない様子だ。
「用がないなら片づけたいんだけど」
なるほど、謝りたいんだなとすぐに分かったけど下手に出て、いつもの感じに戻られても困るので薄い反応を私は示した。
「この前は、その、ごめん……」
「もういい、終わった事だから」
「……そう」
私の言葉に少しホッとした表情を見せた姉だったが、謝るなんて思わなかった。
もしかしたら父に何か言われたのかもしれない。
だから大広間に入ってきた私に少しビクついた感じがあったから。
「……ね、ねぇ」
「なに?」
「私の服あげようか?」
「なんで?」
「いや、だって私ばかり買ってもらってるし、それに一度も着てない服だって沢山あるし」
「……要らない」
「どうして?」
「私とお姉様とでは好みが違うから。貰ってもどうせ着ないと思う」
とにかく突き放すように続け、そう言い終えた後、大広間を出て、片付けを済ますとさっさと自室に戻り篭った。