お茶会
注がれた紅茶を一口、口に運ぶ。
「美味しい…」
ホッと軽く息を吐きつつ言う私にリックさんは軽く微笑みを浮かべていた。
「お姉さんはアルバート様を口説こうとしてるんですね」
「……無理なのに」
「分かりませんよ」
「えっ!どうしてですか?」
「人の気持ちほど他人にはわかりませんからね」
「そうだとしても今の姉は偽りです、本当は……」
私はリックさんにいま下にいる姉は嘘の塊、自分の願望のため本心を見せず偽りの姿を見せている事を伝えた。
「レナさんはお姉さんが幸せになって欲しくないんですか?」
「し、幸せ?」
「えぇ。ロイド様も娘が幸せになって欲しいと願っているのではないですか?」
リックさんの言葉が響いた。
今の私は姉の嘘がバレて恥をかけばいいと思っていた。
自身で作りもせず、都合の良い言葉を並べて気に入られてもいつか分かってしまう。
いっそ今バレてしまえば少しは心を入れ替えるはずだと…。
だけどリックさんの言葉は真逆だった。
「わ、私は…」
予想外の言葉に私は手に持ったティーカップをテーブルに置き、中に浮かぶレモンに目を落とした。
下では姉が幾つも質問をしていたが、私の耳はそれを聞こうとしなかった。
そんな私を見た後、リックさんはスーツの胸ポケットに手を入れ、銀色の懐中時計を取り出し時間を確認し、言う。
「そろそろ時間になります」
「そう、ですか……」
「ロイド様から頼まれましたが、アルバート様をご覧になりませんか?もちろん無理に、とは言いませんよ」
先程のパーテションの向こう側には姉…。
もしこちらに私がいる事が知れたら何を言われるかたまったものじゃないのでリックさんの気遣いをすぐには受けれなかった。
「大丈夫です。見ると言ってもほんの少しだけです。それに帰りに鉢合わせになると余計マズくなるのでは?」
「それは…確かに……」
「じゃあ、行きましょう」
リックさんは私が飲み終えたティーカップとポットを持ちクルリと向きを変えた。
「あっ、私が……」
「いいえ、こう言うことは私の役目です」
申し訳なさもあったが、そう言われては返す言葉もなく、その後を私はついて行った。
階段を降り、白いパーテションの前で立ち止まると肩を使い、少しだけ移動させた。
「どうぞ、奥にいるのがアルバート様です」
出来た隙間から私はゆっくり姉に見つからないように目線を送ると姉の向かい側に座る男性が見えた。
身振り手振りを繰り出す姉の前で、それを嫌な顔をせずまっすぐ見ている男性。
赤髪をし、髪と同じ赤色のマントで体を覆う。
距離が少しあり顔の全貌は今の時点では私には分からなかった。
「赤い……」
つい見たまんまの感想が口に出てしまい、リックさんにクスッと笑われた。
「赤が好きなんですよね、アルバート様は。自身が赤髪をしているからか、身の回りも赤い物があったりしますよ」
「そうですか」
「……っと。そろそろ出ましょう、長居してるとバレますよ」
先程時間を確認していたからか、見るのもそこそこにし私達はその場を去った。
ーーーーーー
「それでは」
リックさんに送ってもらい私は姉が帰ってくるより前に家に着いた。
「ありがとうございます」
「いえ。……っと、そういえばレナさんは確か職を探しているとお耳にしましたが、そうですか?」
「あ、はい」
どうやら街の人を通じて耳に入ったみたいだ。
「もし心が決まっているならこちらを」
リックさんはまた胸ポケットに手を入れると白い紙を一枚私に渡してきた。
「これは?」
「採用するかの試験の概要となります、目を通してもらいその日に記載している場所まできて下さいね。それではこれで」
紙を私に渡すとリックさんは馬車に戻り、そしてすぐにこの場を後にしていった。
「……試験」
渡された紙を見ようとした時、一台の馬車が家の方へと向かってきた。
姉だ。
こんな紙を見たらしつこく責められると思い、急いで紙をポケットにしまい何事もなかったかのように装い、待ち構えた。
「あら、こんな家の前で何を?掃除かしら、ご苦労なことね」
「お、おかえりなさい」
「えぇ、あぁー、コレ。片付けておいて」
姉は白い箱を私に渡し、鼻歌交じりにさっさと家に戻ろうとしていた。
どうやら上手く行ったと思ってるのだろう。
「そうそう、私、アルバート様を落としたから」
「えっ」
「私に興味があるみたい。目が輝いていたし、もうこれで私の将来は安泰だわ!」
「そんなことわからない……」
「はぁ?私が実際に会ってそう感じたんだからあんたに言われる筋合い無いんだけど。
それとも何?私とアルバート様が話してる所でも見たわけ??」
姉は私がいるなんて思ってないから出た言葉だが、私はそれを言葉に出すのをグッと抑えた。
「……」
「なに?いるわけないでしょ、あんたなんか!ほんとイライラするわ、あんたと話すと。
さっさとご飯でも用意したら??」
さっきまでの上機嫌から一転、苛立ちの顔を見せフンっと鼻息を荒くして家の中へと入っていった。